Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』第二十六章
昨日の予告通り、今日はお久しぶり、『バルG』の第二十六章です。
思えば一年前くらいからダラダラと連載してきたこの物語も、いよいよ終盤戦突入!第一章からお付き合いいただいている方、もうすぐですよ。
今後はできるだけ早いスペースで掲載していきたいです・・・って何度も言ってますねこれ(^-^;。でも、本当にもうちょっとなので、ラストスパートをかけて、何とか11月中には終わらせたいと思っています。

では、いつも通り、「READ MORE」から本文へどうぞ~。








バルドフォース エグゼ
バルドフォース エグゼ
PlayStation2
アルケミスト

 


バルG第二十六章 『平穏』




透:「うおぉぉぉぉぉ!!!」
アシュラン:「はあぁぁぁぁぁ!!!」
 フリーダムとジャスティスが、それぞれのビームサーベルを振り下ろしながら、激しくぶつかり合った。
透:「く、くそ、こいつ!!!」
アシュラン:「このぉ!!!」
 激しくビームの刃をぶつけ合う二機だが、鍔迫り合いではジャスティスに、アシュランに一日の長がある。透は、次第に受け太刀になっていく。
透:「くっ!!」
アシュラン:「もらった!!」
 透が大きく姿勢を崩したその隙を逃さず、アシュランはビームサーベルを大きく振りかぶり、必殺の一太刀を浴びせようと振り下ろした。
しかし、常人ならば完全に回避不能なタイミングで放たれたこの一撃を、透は、十二枚羽のスラスターによる機動力を駆使した空中バック転で、紙一重で避けた!
アシュラン:「何!!?」
透:「こっちこそ、もらった!!」
 透はそのまま、スラスターを全開にして突撃。ビームサーベルでアシュランのコックピットを薙ぎ払う。その凄まじいスピードでの突撃は、回避など全くの夢物語だ。
アシュラン:「くそっ!させるか!!」
 しかし、斬撃がジャスティスのコックピットに到達する刹那、アシュランは反射的にフリーダムを蹴り上げ、危ういところで難を逃れる。
透:「ちぃっ!!」
 体制を立て直そうとした透に、そうはさせまいとするアシュランが、ビームブーメランで、リフターのフォルティスビーム砲からのビームで、立て続けに襲い掛かる。
透:「うおぉ!」
 透は、立て続けに襲いかかるブーメランを、ビームを辛うじてかわし、戻ってきたビームブーメランをビームサーベルで斬り裂いた。
 だがその隙に、アシュランはリフターをパージし、それを独立飛行体として透にぶつけた。ビームや機関砲を放ちながら突撃してくるファトゥム-00に透が対応しようとした、その時。
アシュラン:「トドメだ!!!」
 ジャスティスが、ファトゥム-00を踏み台にして更に跳躍、フリーダムに必殺の斬撃を浴びせた。透は、ジャスティスの姿がファトゥム-00の影に重なっていたため、僅かに発見・反応が遅れた。
ファトゥム-00を避けてもジャスティスの斬撃の餌食。しかし、ジャスティスに対応すれば、今度はファトゥム-00から放たれるフォルティスビーム砲にやられる!
透:「なにくそぉ!!」
 透は、フォルティスビーム砲をシールドで防ぎながら、突撃してくるファトゥム-00に合わせてビームサーベルを一閃!ファトゥム-00を真っ二つに斬り裂いて破壊する。しかしそれによって、ジャスティスの斬撃に対して、透は完全に無防備になってしまった!
アシュラン:「くらえっ!!」
 だが、アシュランの斬撃が届く寸前、透は空中できりもみするかのように機体を捻りアシュランの斬撃を回避!必殺の斬撃をかわされたジャスティスは、完全に無防備だ!
透:「今だぁ!!!!」
アシュラン:「させるかぁぁ!!!!」
 透はそのまま回転し、その勢いを乗せた必殺の斬撃を繰り出す!アシュランも、素早くビームサーベルを持ち替えて、もう一度必殺の斬撃を見舞おうとするが・・・。
 ザシュゥゥ!!
 一瞬早く、透のビーム刃が、ジャスティスのコックピットを真っ二つに斬り裂いた。ジャスティスは、激しい閃光を発しながら、跡形も無く消滅した。
透:「ふぅ・・・・」
?:「おつかれさん。透、あんたの勝ちだ。さあ、ログアウトしといで」
 回線から、少女の声が聞こえてくる。
透:「わかったよ、リャン。それじゃ、ログアウトする」
 目の前には、対戦相手を倒したことによって、【離脱】のアイコンが表示されていた。透はそれを機体の指で押し、この仮想の模擬戦闘場から離脱した。


『離脱(ログアウト)』 


 現実(リアル)の世界に戻ると、丁度クーウォンが、透にタオルを差し出そうとしたところだった。
クーウォン:「お疲れ様だな、透君、アシュラン君。非常によい戦いを見せてもらったよ。二人とも、凄まじい速度で強くなっている」
アシュラン:「いえ、俺はまだまだです。ですが、透は本当に強くなった。今回も、透に一太刀も浴びせられなかった・・・」
 見れば、一足先に離脱したアシュランが、リャンから手渡されたタオルで、びっしょりとこびりついた汗を拭っているところだった。
透:「いや、俺も何度も危ない場面はあった。それに、アシュランの攻撃は一撃必殺だ。くらったら、それでおしまいさ」
 透も、クーウォンからもらったタオルで、乱暴に汗を拭った。全身に水を浴びたような冷や汗が、透の苦戦の程を物語っていた。
アシュラン:「それでも・・・これで、また俺と透の勝ち負けの比率は4:6か。はは、透には、本当、敵わないよな・・・」
透:「いや・・まあな」
 心から認めるライバルであるアシュランに認められて、透は照れくさいながらも、心底嬉しかった。
透:「それにしても、月菜とバチェラの戦いは、まだ終わらないのか?」
 透がさりげなく聞くと、リャンとクーウォン、そしてアシュランまでもが、少しニヤついた表情でこちらを見た。
透:「な、なんだよ、お前ら・・」
アシュラン:「いや。早く月菜とデートにでも行きたいのかな、と思ってさ」
透:「あ、あのなぁ!!」
 しれっとした顔でからかうアシュランに、透はつい真っ赤になって反応してしまった。月菜とは、ここに来たその夜にようやく結ばれ、今ではれっきとした恋人同士なのだから、いい加減、こういうからかいにも慣れなければいけないとは思うのだが。
 その時、月菜が、汗まみれの首筋に刺さったニューロジャックを外した。
月菜:「もう!バチェラ、強すぎ!!」
バチェラ:「そんなこと無いさ。月菜、キミは本当に強くなったね。今回だって、何度もヒヤリとした場面があった。ボクをここまで追い詰めるのは、透とアシュラン以外にはキミくらいなものさ・・」
 バチェラの細い首筋もまた、冷や汗まみれの状態だった。おまけに、顔色はわずかに青い。これは、言葉通り、相当苦戦したのだろう。
月菜:「それでも、あたしのバチェラ戦での勝率って、三割いかないじゃん。透やアシュランが相手だと、もっと悪いし・・・」
バチェラ:「でも、キミは確実に強くなってきているよ。本当、信じられないくらい飲み込みがいい。オマケに、ボクのドラグーンをかわせるレベルの『直観力』も持ってる。『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』にいた頃、何でキミがシュミクラムに乗ってなかったのか、不思議なくらいだ・・」
月菜:「それは、どっかの誰かさんが、このあたしに『お前はシュミクラムの才能無い!』とか言って、全然乗せてくれなかったからなんだけどぉ・・・」
 そう言って、月菜は恨みがましい目で透を見た。
透:「な、何だよ!あの頃の酷いシュミクラムの操縦見てりゃ、誰だってそう思うじゃないか!!」
 透は、慌てて弁解すした。その時、バチェラが意地の悪い声で言った。
バチェラ:「まあ、そこら辺は、透の『月菜に危険な目に遭わせたくない』っていう、非常に微笑ましい気遣いもあったんだろうけどね」
透:「そ、そんなことあるか!!」
 透は、またしても真っ赤になってしまう。どうにも、この手の話題でからかわれるのは苦手だ。
 すると、月菜が余計険しい視線で、こちらを睨んだ。
月菜:「ひどいよねぇ、透。『そんなこと』だってさ」
 不覚にも、そのちょっと拗ねた月菜の表情までも、可愛い、と思ってしまった。これは相当、月菜にイカレてしまったらしい。透の心臓の音は、もはや外にも漏れかねないほど大きくなっていた。おかげで、また変なことを口走ってしまう。
透:「つ、月菜!そ、そうだ、お詫びに、今からデートにでもいかないか!!?」
 すると、月菜の表情から不機嫌が消え、次に戸惑ったような表情になる。
月菜:「デ、デートって・・・ま、まあ透がそう言うんならいいけど。でも・・・ここ、デートする場所あんの?」
透:「・・・無いよな」
 そうだ。
ここは、飛刀のアジト、地下の核シェルターを改造して作られた秘密都市『レベル7』。V・S・Sの洗脳から逃れた直後、二人を保護しにやってきたクーウォンに連れられてきたこの場所に、そんな洒落たものがあるはずは無かった。
月菜:「もう、透、少しは物を考えてから言いなさいよね。それより、アシュランに聞いたわよ。透の部屋、また散らかってきてるって。だから、あたしが片付け、手伝ってあげる」
透:「い、いや、それは結構だ。っていうか、アシュラン、またお前、こいつに余計なこと吹き込んだな!」
アシュラン:「いや・・。透、あれは俺から見ても、あまりにも酷過ぎるからさ・・・・。俺が言っても、散らかる一方だし・・・」
月菜:「そうだよ!『余計なこと』なんて、とんでもない!!もう、こういうことができないから、透にはあたしが付いてなくちゃ駄目なんだなって、ホント、つくづく思うよ・・・」
透:「くそっ、やっぱりこいつは、お節介を焼くのかよ!」
 結局透は、僅か数日でカオスとなった仮住いの片付けをする羽目になった。


 透が月菜に引っ張られて没入スペースから去っていった後、バチェラは深いため息をついた。
バチェラ:「ホント、あの二人って相変わらずだよね。もう思い切り所帯じみてるし」
アシュラン:「いや。あの二人は、あれでいいんじないか?俺が最初に会った時からあんな感じだったけれど、あの時、俺は本当に、二人はいいカップルだな、って思ったよ」
 アシュランが素直な感想を言うと、何故かバチェラとリャンが、ちらりとアシュランの方を見た。
アシュラン:「?」
 リャンが、少し顔を赤らめながら言った。
リャン:「ア、アシュランもさ、彼女とは、あんな感じだったのか?」
 それを聞くのに何故緊張しなきゃいけないのかさっぱりわからないまま、アシュランは答えた。
アシュラン:「ああ、まあ、あんな感じだったかな。俺の部屋も、結構汚かったから、よく掃除させられたよ」
リャン:「そ、それじゃあさ、アタシがあんたの部屋、片付け手伝ってやるよ」
アシュラン:「え・・・」
 アシュランは、一瞬、完全に面食らった。
リャン:「あ・・やっぱり、迷惑だよな?」
アシュラン:「いや・・そんなことはないよ。ありがとう、リャン。それじゃあ、今度、お願いしようかな」
 正直、物凄く嬉しかった。きっと、リャンと一緒に部屋を片付ければ、あの頃の、楽しかった毎日が、少しでも甦るかもしれなかったから・・。
リャン:「本当!?」
 そして、心底嬉しそうに微笑むリャンを見ながら、アシュランは、あの幸せだった時間が少しだけ形を変えながらもまだ続いているような、そんな錯覚に捕らわれるのだった。
 その様子を、バチェラがとても寂しそうな目で見ていたことには、アシュランは全く気が付かなかった。



月菜:「にしても、ホント、よくこんなに散らかせるなぁって、毎度毎度思っちゃうよ」
 月菜が、透に居住地として与えられたバラックの整理をしながら、ポツリと呟いた。
透:「悪かったな!!俺は、こういう作業に向いてないんだよ!」
月菜:「『向いてない』んじゃないの、やろうとしないだけ!アシュランだって、確かに片付けるの得意な方じゃないみたいだけど、透の部屋に比べたら大分片付いてるじゃん。あれ、本人がそれなりに心がけしてるからなんだよ」
透:「ああ、もう!お前って本当、いちいちうるさいよな!!」
 透はそう言った瞬間、しかし、なんだか非常に心地いい気分に包まれた。
透:「・・・」
月菜:「ん、どしたの、透?突然黙っちゃって・・」
透:「いや・・なんか、こういうの、やっぱりいいなって、そう思って」
 すると、月菜は一瞬驚いて、次に、とても穏やかな、この上なく綺麗な笑顔を浮かべた。
月菜:「不思議・・。あたしも今、そう思ってた・・・」
 月菜のその一言に、二人の心が本当に通じ合っているのを実感し、透の心は満たされてゆく・・。
透:「こんな日々がまた戻ってくるなんて・・・本当、夢のようだよな・・・」
月菜:「夢じゃないよ。透が、あたしを助けてくれたから、この現実はあるんだよ・・」
 月菜が、熱っぽい瞳で見つめている。透は、もういてもたってもいられない気持ちになる。
透:「月菜・・・」
 透は、月菜に唇を近づける。
月菜:「夢じゃないって・・実感させて・・・」
 そして、二人の唇が触れ合おうとした、その時・・・。
月菜:「きゃぁ!?」
 透に口付けしようとして半歩乗り出した月菜が、山済みにされた専門雑誌に躓き、そのままバランスを崩す。月菜は危うく転ぶところを透に支えられたが、なんだかもう、キスという雰囲気では無くなっていた。
月菜:「もう!透、こんな所にこんなもの、無造作に置かないでよね!」
透:「いや・・これは、俺じゃないぞ」
月菜:「じゃあ、誰なのよ!?」
透:「これは・・・。」
アシュラン:「済まないな。これを置いたのは、俺だよ」
 二人はビクッとして突然声の聞こえてきた方を向いた。そこには、恐る恐るといった感じで中を覗き込んでいる、アシュランがいた。
月菜:「アアア、アシュラン!!?」
透:「おお、お前、何でここに!!?」
 ついさっきまでキスをしようとしていたのだ。それを見られたかもしれないという気恥ずかしさのあまり、つい二人の声は裏返ってしまう。
アシュラン:「そ、それ、ここに置きっ放しだったことに気付いて、取りに来たんだけど・・・、やっぱり俺、邪魔だったよな・・・」
透:「ちょ、ちょっと待て!なあ、お前もちょっと、手伝ってくれないか!?」
月菜:「そそ、そうよ。これ、あたしだけじゃ、ちょっと手に追えないみたいだし・・・」
 気まずそうに去ろうとするアシュランを、二人同時に引き止めた。もしここで去られたりしたら、それは更に気まずいことこの上ない。
アシュラン:「そ、そうだよな・・わかった。俺も手伝うよ・・」
 そこら辺の事情をようやく察したアシュランも、透の部屋の片付けに参加することになった。
月菜:「それにしても・・この雑誌、シュミクラムの雑誌だよね。へー、アシュランも、こんな雑誌持ってたんだ・・・」
透:「アシュランのシュミクラムの知識は、本当、大したもんだよ。語り合い始めたら、いつの間にか貫徹してたからな」
アシュラン:「あれは本当、楽しかったな。そうだ、透。さっきのお前との戦いで、またちょっとカスタマイズの発想を思いついたんだけど、聞いてくれないか?」
透:「ああ!今夜も一晩中、語り明かそうぜ!!」
 そんな二人を、月菜がうんざりとした目で見ていた。どうにも、この手の『メカをいじくる浪漫』は、女にはわからないものらしい(バチェラ、という例外はいるが)。
月菜:「ホント、仲いいわよね、あんたたち・・・。っていうか、アシュランも、片付け手伝ってよぉ!」
アシュラン:「え!? あ、ああ、済まない、つい・・・」
透:「おい、月菜、邪魔すんなよ!折角の、男の熱い語らいを!!」
月菜:「語らうのはいいけど、まず片付けが先!・・・っていうか、ホント、ここに来たばっかだっていうのに、どうしてこんなに物が多くなるやら・・・」
透:「そりゃ、あきらの私物もほとんど全部持ち込んであるからな・・・・」
月菜:「あ・・・・」
 途端に、月菜が少し暗い表情になる。透も、その名を言葉にした瞬間、悲しみが内に広がってゆくのを感じた。
 あきら。その最期を看取ることすら叶わなかった、大切な仲間の一人。
アシュラン:「・・・済まない」
 アシュランが、血を吐くようにして、謝罪の言葉を搾り出す。そう言えば、アシュランもあきらとの友情を築いていたと、リャンから聞いた。
アシュラン:「俺が付いていながら・・あいつを、結局死なせてしまった・・・・」
 アシュランは、うなだれながら言葉を続けた。
アシュラン:「本当、透と月菜には、謝っても許されないようなことばかりしてるな、俺。優哉だって、俺が殺した・・・・」
透:「違う!!」
 アシュランの自虐的な独白に、気が付いたら透は叫んでいた。
透:「あきらの死はアシュランのせいじゃない。それに、優哉を殺したのは、俺だ!アシュランは、ただ軍人の使命に従って、戦っていただけだ!俺こそ、アシュランの仲間を殺した!俺こそそいつに、アシュランに、謝っても許されないようなことをした・・・」
 優哉の死の責任を、見苦しくもアシュランに転嫁し、その上何の関係も無いはずのアシュランの友人さえ見当違いな復讐劇に巻き込んでしまった・・・。謝っても、許されることじゃない。アシュランに殺されても、文句は言えないほどの重い罪だ。
 しかし、アシュランは言った。
アシュラン:「いや・・・、優哉を殺した時の俺は、ただ私怨のために戦ってた。人を憎み、殺す事ばかりを考えていた。それは軍人としても、人としても、決して褒められた行いじゃない。優哉は、それに巻き込んでしまった・・。ミゲルだって、そのとばっちりを食らわせてしまったって、俺は今でも思ってるよ・・・」
透:「それなら、俺だって同じだ。俺は今、これっぽっちもアシュランを恨んでない。優哉は、俺のバカのせいで死んだって、そう思ってる・・・」
アシュラン:「そうか・・。俺も、今では透のこと、全然恨んでないよ・・・」
 その時、月菜が明るい声で言った。
月菜:「そうだね・・・。復讐手伝ったあたしが言えることじゃないかもしれないけど・・・、二人とも、今ではお互いを恨んでないなら、それでいいんじゃない?それに、透もさ、アシュランもさ、お互い、もう親友なんでしょ?だったら、今はそれでいいじゃん。お互い許し合って、笑い合って・・・その方が、優哉も、そのミゲルって人も、喜ぶと思うよ。二人とも、透やアシュランのと、大切に思ってたんだからさ・・・」
 月菜の言葉は、救いに溢れていた。
透:「そう・・・なのかな?」
月菜:「そうだよ!だから、透もアシュランも、お互い、もう気にしちゃダメだよ」
アシュラン:「ありがとう、月菜。君は本当に、透にお似合いだな」
 アシュランが、そんなことを眩しい笑顔で言うものだから、透も月菜も、大いに赤面してしまった。
月菜:「も、もう、アシュランったら、イキナリなんてこと言うかな!」
透:「お、大きなお世話だ!それより、アシュランだって、あのリャンとはどうなってるんだよ!?」
 苦し紛れに振った話題だったが、今度はアシュランが思い切り赤面する。
アシュラン:「え、い、いや、それは・・・・」
透:「へへ、そこら辺も、今度きっちり、聞かせてもらおうじゃないか」
月菜:「その話なら、あたしも入っていいかな?」
アシュラン:「お、おい、あのなあ!!」
 そうして、透と月菜は、片付けのことも忘れ、結局二人でアシュランを質問攻めにして楽しんだのだった。



 その日の深夜、作戦室にて。
クーウォン:「・・まだやってくれているのかね。そんなに根を詰めすぎては、身体に毒だと思うがね・・・」
 クーウォンの気遣わしげな言葉に、古きよきブラウン管画面に向かっているバチェラは、顔も上げずに答えた。
バチェラ:「もう少しで一段落するんだ。それに、この手の作業は、昔から大好きだったんだ。何時間やっても、全然苦にならないね」
 これは、バチェラの本音だった。昔から、難しいパズルが目の前にあると、寝食を忘れてまでもそれに取り組もうとしてしまう、バチェラの、言わば『癖』だった。
 そして、バチェラはふと思い出す。昔、もうほとんど覚えていないような遠い記憶の中で、一心不乱にパズルに取り組んでいた時、同じように、大人の男の人に、暖かい声で、同じようなことを言われなかったか、と。
 そのバチェラの表情を見取ったのか、クーウォンは、懐かしそうに呟いた。
クーウォン:「そうだな・・・。君は、“昔から”こういう作業が大好きだったな・・・」
バチェラ:「・・・やっぱりね」
 バチェラがカマをかけてみると、やはり、クーウォンはにわかに表情を動かした。どういう類の反応なのかまでは読み取れなかったが、このことは、バチェラが薄々ながら感付いていたことを、肯定するようなものだった。
バチェラ:「ボク・・薄ぼんやりとだけど、わかってきてるんだ。クーウォン、あなたがボクらをここに呼んだのは、ただボクらを保護するためだけじゃないってね」
クーウォン:「・・・なるほど。君は本当に、頭がいいな・・・」
 クーウォンは、否定しなかった。その代わり、はっきりと肯定もしない。バチェラは、このクーウォンの中途半端な誠実さが、たまに気に障った。
バチェラ:「ねえオジサン、もういい加減、話してくれないかな!!ボク、そんなに気が長い方じゃないんだけど!!」
 バチェラがそのイライラをぶつけると、クーウォンは少し、困った表情になった。
クーウォン:「これは、済まないな。・・私としても、隠しているつもりはない。ただ・・・あの子らは、これらを忘れている。できれば、忘れたままにしておきたいと思ったときもあったが・・・・、どうやら、そうもいかないのか・・・」
バチェラ:「・・・・」
クーウォン:「そう睨むな。私とて、既に覚悟は決めた。近いうちに、期がきたら、全てを包み隠さず話そう。そして、その『期』は、おそらく、君が今の作業を終わらせるのと、ほぼ同時だよ・・」
 つまり、今バチェラがやっている『作業』を終わらせたら、クーウォンは全てを話してくれるというのだ。
 まあ、クーウォンが『真実』を話すよりもこの『作業』を終わらせることを優先する気持ちは、バチェラにもわからないではない。それは、クーウォンの『親心』というやつなのだろうから。
バチェラ:「でも・・・その時は、話してもらうよ。ボクと、いま修正しているリャンの補助チップ、そして、アシュランと透、更には憐に埋め込まれた補助チップの規格が、全て同じだという理由もね!」
クーウォン:「・・・・・」
バチェラ:「そして、最初に月菜の脳内チップを修正させたことについてもだ。あの時、オジサンは異様に月菜の脳内チップのデータを欲しがっていた。そして、月菜のチップには、ほとんど修正する余地もなかったけど、オジサンはそれを予想してたみたいだったよね。あれ、ボクも本当にわからないんだ。あの状態の洗脳補助チップの機能を、自らの意思で完全に破壊するなんて、普通は不可能なことなんだよ。その上、そんな力技をやっても脳内チップの機能に全くダメージが無いなんて、それこそ普通じゃあり得ない。そう、『普通』はね・・・。そして、月菜のデータを受け取った時、言ったよね。『これで私の仮説が証明された』って・・。あれはどういうことなんだい?」
 バチェラの質問攻めに、クーウォンは少しの間考えて、そして言った。
クーウォン:「それも、その時になってから言おう。絶対に説明する。約束しよう」
バチェラ:「・・・わかった」
 程無くして、クーウォンは出て行った。バチェラは、相変わらず難解なC言語のパズルと格闘しながら、わずかに不満のため息を漏らした。



透:「おい、アシュラン」
 透はアシュランに呼びかけるが、先ほどから一向に返事が無い。それどころか、なんか「スー、スー」という寝息さえ聞こえる。
透:「まさか、携帯端末見ながら寝るとはな・・・」
 まあ、現在は地上の時間で言えば深夜であり、アシュランは昨日もシュミクラム談義のせいで完全に徹夜なので、こういう風に寝落ちしてしまうのも当たり前といえば当たり前だが。
透:「・・っていうか、俺もマジ眠い・・・」
 そう思った瞬間、透を不意に強烈な眠気が襲った。
透:「しかし・・・」
 隣で、蹲ったような姿勢のまま気持ち良さそうに眠るアシュランを見ていると、つい先ほどまでの非常に心地よかった時間が思い出される。
透:「親友って・・いいもんだな・・・・」
 そんなことを考えながら、透もまた、夢に落ちていった・・・・。
 
・・・・。
 透は夢を見ていた。遠い遠い、記憶の夢。
 そこは、山奥の森の中にある、一軒の山荘だった。その中で、子供の透は、何人かの子供たちと、そして背の高い男の人と暮していた。
 ある天気のいい日、透は背の高い男の子と釣りに出かけた。
男の子:『へへ、今日も何匹釣れるか競争だ!』
透:『ああ、望むところだ!』
 二人は、山荘の近くを流れる小川を辿り、地元の子達が愛用する『穴場』へと、駆けて行った。
 そして、二人がそこで釣りを始めてから数分後・・。
男の子:『よし、五匹目いったぜ!!おいおい、なんだよ、透、お前はまだ三匹しか釣れてねえのかよぉ!?』
透:『くっ。だけど、まだまだ逆転するかもよ!』
男の子:『へへ、そうこなくっちゃな!それじゃあ、もっと突き放してやるぜぇ!!・・・ん?』
 気が付くと、透たちを、明らかに年上の子供たちが取り囲んでいた。彼らは地元の中学生たちで、余所者の透たちを、明らかによく思っていなかった。
背の高い男の子:『なんだよぉ?俺たちゃ、釣りしてんだぜ』
中学生1:『そこをどけよ、余所者!』
 中学生の一人はいきなり、釣り上げた魚の入ったバケツを乱暴に蹴り倒した。折角釣った魚たちが、川にこぼれ落ちてゆく。
透:『なにすんだよ!!』
 透がそう言った瞬間、いきなり別の中学生に腹を蹴り上げられた。
透:『ぐあっ!?』
 一瞬、呼吸が困難になり、透は腹を抱えてその場に蹲った。
中学生2:『ここは、俺達の釣り場だって言っただろ。余所者のクセに、お前らジャマなんだよ!』
 中学生が、透を更に蹴ろうとした、その時。
男の子:『テメェら、何しやがる!!』
 男の子が物凄い形相で、その中学生を殴り飛ばした。
 男の子は、背丈も既に大人の男の人くらいあり、力も物凄く強かった。中学生は思い切り吹っ飛ばされ、歯は一本欠けていた。
中学生3:『んな!?テメェ、何しやがんだ!!』
 仲間をやられて怒った中学生達は、男の子を数人掛りで囲むと、一斉に殴りかかった。
男の子:『へっ、いい度胸だ、コラァ!!』
 男の子も、目を血走らせて応戦する。その様子は、まるで喧嘩を本気で楽しんでいるかのようだった。
 その様子を見て、透は言った。
透:『やめろっ!リー先生に、暴力は絶対振っちゃだめだ、って言われてるだろ!!』
 その言葉を聞いて、男の子の動きが一瞬、ピタリと止まった。
しかし、中学生の一人が、透にも殴りかかってきた。
ゴッ!
透:『がっ!!』
 その様子を見た男の子が、完全に逆上する。
男の子:『テメェら、もうゆるさねぇ!!!』
 男の子は、中学生に何発も殴られたり蹴られたりしながらも、遂には中学生全員を、ボコボコに叩きのめしてしまったのだ。
 帰ると、男の子はリー先生にこっぴどく叱られた。
リー先生:『ゲンハ!!あれほど暴力はいけないと、何度も何度も言ったはずだ!!』
 リー先生はいつもは優しかったが、本気で怒った時だけは、本当に怖かった。しかし、男の子は、そんなリー先生を、真正面から睨み返して言った。
男の子:『透がやられてたんだ!だったら、守るのは当然だろ!!』
リー先生:『だとしても・・・君の暴力は、いつか君のコントロールを飛び越え、周りの人間や君自身を、必ず不幸にする!!』
 確かに、透も男の子が『普通じゃない』ことはリー先生から聞いていたし、さっきの、喧嘩をしていた男の子の表情を思い出すと、透でも少し怖くなった。
 でも、透は思った。それは、リー先生の取り越し苦労だと。
 だって、男の子は、誰よりも優しく、人の痛みを知る子だったから。今回の喧嘩だって、男の子も自分もとても痛い思いをしながら、それでも透を守ってくれたのだから。
 だから、男の子はこの先、どんな事があっても、暴力が「自分のコントロールを超える」ことなどあり得ないと、透は思った。
 透にとって、男の子は、お互い認める最高のライバルであると同時に、最高の親友だったのだ。


 また、こんな事があった。
 目の前で、女の子がパズルを組んでいる。女の子は、綺麗な栗色の髪をした、年下の少女だ。でも、大人で頭のいいリー先生さえ解けないようなパズルを、物凄いスピードで組み上げていった。
 その時、男の子が、透を遊びに誘いに来た。
男の子:『おい、透!近くの空き地で、キャッチボールしようぜ!』
 そして、男の子はふと、女の子に目を留める。
男の子:『おい、お前も一緒に遊びに行かないか?』
 しかし、女の子は返事どころか、視線を男の子に向けることすらしない。
 透は、女の子が、パズルに向かっている間は物凄く集中しており、外部の声が一切耳に入らないことを知っていた。男の子もそれは知っているはずなのだが、男の子は、残念ながら少々気が短かった。
男の子:『なんだよ、無視するなよ・・・』
女の子:『・・・・・』
 女の子の態度に、すぐに男の子のイライラが、頂点に達した。
男の子:『何だよ、こんなパズル!!』
 男の子は、女の子が組み上げていたパズルを、乱暴に蹴飛ばした。ピースがバラバラに散らばり、完成間際のパズルは、跡形も無くなってしまった。
女の子:『・・・・・』
 女の子は悲しげな瞳で、バラバラになったパズルを眺めていた。そして、そんな女の子の表情に、男の子の顔が罪悪感でいっぱいになる。
男の子:『な・・なんだよ。お前が無視するからいけないんだぞ・・・・』
 そして、男の子は居た堪れなくなって、逃げるように部屋を出て行ってしまった。
 男の子のした事に、何故か強い責任を感じた透は、迷わずに女の子に駆け寄った。
透:『・・手伝うよ、パズル直すの』
女の子:『いい。これは、ボク以外にしか直せないから・・・・』
 透の申し出に対し、女の子は悲しげに首を振った。
確かに、リー先生でさえできないようなパズルを、透が直せるはずは無かった。そして、何もできないことを悟った透は、最後に、女の子に対して遠慮がちに言った。
透:『あのさ・・あいつのこと、嫌わないでほしいんだ。あいつだって、君がいっつも一人で遊んでいるのを見て、心配してるだけなんだ』
女の子:『わかってる・・。でも、ボク、人と付き合うのが苦手なんだ・・・』
 確かに女の子は、例え友達ができても、全然長続きしなかった。相手の方が、「あの子ってわけがわからない」と、逃げていってしまうからだ。だから、女の子は、きっと丁度、自信を失いかけていたんだと思う。
 だから、透は力強く言った。
透:『大丈夫。僕はいつでも、君の友達だから』
女の子:『・・・・』
 その時、女の子が少し、微笑んでくれたような気がした。
・・・・。



 翌朝。
 今まで見ていた夢は、目覚めと同時に濃い霧に包まれ、透の記憶からは消えていった。
 アシュランは、透より先に起きて自分のバラックに帰ったのか、姿は見当たらなかった。
 透は、ここに来てから今まで毎朝そうしてきたように、携帯端末を開き、『ある区域』のステータスを見た。
 結果は、『AIの破損により再現に致命的な欠陥発生。よって、侵入不可』だった。
透:「やれやれ・・・。そういや、そろそろ朝飯だな。他にやることも無いし、先に行ってるか・・・・」
 クーウォンに、『特別な客人』としてアジトに招かれていた透たちの食事場所は、クーウォンら『飛刀』の最重要幹部と同じ、指令室のある建物の食堂だ。透は、そこまでの道程を、辺りを見回しながらぶらぶらと歩く。
透:「しっかし・・・まさか、これがあの『飛刀』の正体だとはな・・・・」
 透たちがレベル7に来てその日、クーウォンやリャン、そしてアシュランやバチェラから、今までの経緯を説明された。そこで大体の出来事は把握したつもりだが、実際にこうして『飛刀』の内部を見てみると、やはり今までの自分の『飛刀』に対してのイメージとのギャップに、驚くばかりだ。
透:「住民の多くが非戦闘員、戦闘員も大半が少年パイロット、か・・・。まあ、ここの正体が、あの橘玲佳から逃れてきた者たちの避難場所、と聞けば、それも納得、といったところだが・・・・」
 そう呟いて、拍子にあのV・S・Sのシット・ヘルを思い出してしまい、透は少し身震いをした。
アシュランたちがあそこから助け出してくれたから幸いだったが、もしあのままあそこにいれば、透は、愛する人と、そして自分自身を、永久に喪ってしまうところだった。
透:「橘玲佳・・・・。憐のこともそうだが、まだあそこに囚われている人たちのためにも、必ず倒さないとな」
 透は決意を新たにして、作戦塔の扉を潜った。


 食堂に着いてみると、まだ誰の姿も無かった。まあ、透が早く来すぎたのだから、それは当然のことだが。
 透は、何の気無しに、近くの作戦室を覗いた。
 そこでは、バチェラがコンソールに座り、画面を見ながら一心不乱に脳内チップの修正作業に打ち込んでいた。
透:「あいつ・・・夜も遅くまでやってるんだろ?なのに、こんなに朝早くから、よくやるなあ・・・・」
 飛刀のアジトに着いてすぐ、合流したアシュランからバチェラの正体が女の子だと聞かされた時は少なからず驚いたものだが、今こうやって見ると、それも違和感無く納得できるくらいに、彼女は愛らしい少女だった。
 その時透は、作戦室の中に、バチェラだけではなく、もう一人の人影が見えることに気が付いた。
ゲンハ:「いよう、バチェラ。こんなに朝早くから、精が出るねぇ」
 そこにいたのは、ゲンハだった。
バチェラ:「・・・・・」
 バチェラは、ゲンハが目に入らない様子で、無反応なままC言語のパズルに集中している。
ゲンハ:「・・・おいおい、無視すんなよ!テメェ、クーウォンの客人だからって、調子こいてんじゃねぇぞ!!」
バチェラ:「・・・・」
透:「え・・・・?」
 作戦室内の様子を覗き見ていた透を、不意に強烈なデジャビュが襲う。
透:「なんだ・・?こんな事が、確か前にも、あったような・・・・・」
 しかし、透がそれを思い出す前に、作戦室内の空気が、にわかに不穏なものになった。
ゲンハ:「へへへ・・、そういや俺、まだ朝勃ちが治まんねぇんだよなぁ」
バチェラ:「・・・・・」
ゲンハ:「無反応かい。だったら、どこまで無反応でいられるか、ちょっとイタズラしてみちゃおうかなぁ・・・」
バチェラ:「ひ!?」
 そう言って、ゲンハがバチェラに手を伸ばし、それに気付いたバチェラが小さな悲鳴を上げたところで、そろそろマズイと判断し、透は作戦室内に踏み込んだ。
透:「おい、ゲンハ、止めろ!!」
 その時、ゲンハが透を睨んだ瞳を、透は忘れない。それは『殺気』などとは全く違う、『狂気』とも言うべき禍々しい色に彩られた、人間とは思えないような凄惨な瞳だった。
透:「くっ・・・、そ、そんな目で睨んだって、キサマなんて怖く無いぞ!!」
 透は、内心冷や汗が伝うのを実感しながら、精一杯ゲンハを睨み返す。バチェラのためにもこの場で引くわけにはいかないし、何より、アシュランの恋人を無残に殺したこの男に、ここで負けるわけにはいかない。
ゲンハ:「テメェ・・確か、クーウォンの客人で、『草原の狼』とかいうフザけた名前のハッカーだったよなぁ。そういや、この俺サマに挑んできたこともあったけか・・・」
 ゲンハの視線が、次第に、バチェラから透へと標的を変えてゆく。
ゲンハ:「それによぉ・・、なんだろうなぁ、テメェの目ぇ見てるとよぉ、なんか無性にイラつくんだよなぁ。この機会だ、二度と俺サマに、そのクソ生意気な目ぇできないように、両目をくりぬいてやろうかなぁ・・」
透:「くっ!!」
 ゲンハが、今にも透に飛び掛らんとした、その時だった。
アシュラン:「透!!」
クーウォン:「一体、何事かね!!?」
 アシュランとクーウォンが、大慌てで作戦室に駆け込んできた。
クーウォン:「ゲンハ!!これは何事だ!!彼らは私の客人なんだ!今までの諍いはわからんでもないが、それでも絶対に手を出すなと、言った筈だ!!」
ゲンハ:「・・・ちっ!わかってるよ。ちょっとからかっただけだ!」
 ゲンハの視線から、『狂気』がすうっと抜けてゆく。どうやら、矛を収めたようだ。透は、内心、一気に弛緩した。もしあのまま取っ組み合いになれば、絶対に敵わないのは目に見えていた。
アシュラン:「バチェラ、大丈夫だったか」
 アシュランがバチェラにかけよると、バチェラは少し青ざめた顔で、力無く笑って言った。
バチェラ:「うん・・。透が、庇ってくれたからね」
アシュラン:「ならよかった。ありがとう、透」
透:「あ、ああ・・・」
 透は心ここにあらずといった面持ちで頷きながら、横目で、不愉快そうに作戦室から立ち去ってゆくゲンハを見ていた。
何故だろうか?あの狂人に、透は幾ばくかの懐かしさを感じていた。
バチェラ:「それより、オジサン。今さっき、ようやくリャンの補助チップの修正パッチが組みあがったんだ。とは言っても、主要な部分が完成した、って意味だけど、あとは機械にまかせても大丈夫。今から自動で組み上げるから、早ければ今日の夜、遅くとも明日の今くらいには、完成するんじゃないかな?」
クーウォン:「そうか・・・」
アシュラン:「よかった・・・」
 クーウォンが嬉しそうに目を細め、そしてアシュランも心底安堵した表情になった。
 それを見て、バチェラが少し、複雑な表情になる。
バチェラ:「ともかく・・・オジサン、これで、『本当のこと』を話してもらうからね」
透:「バチェラ、『本当のこと』って?」
 バチェラが透の疑問に答える前に、クーウォンは言った。
クーウォン:「わかった・・。では、明日、全てを話そう。今日一日は、ゆっくりと休むがいい。平穏な日々は、ひとまず今日で終わりだ。明日からは、また、新たな戦いが始まるのだからな」
透:「・・・・」
 それは、V・S・Sとの、橘玲佳との最終決戦の幕開けを意味していた・・・。


 それから数分後、リャンや月菜も食堂にやってきて、そこで朝食となった。ゲンハは、結局戻ってこなかった。
 クーウォンから補助チップの修正パッチがもうすぐ完成するという話を聞いて、リャンはいつに無く上機嫌で、透たちの食事の配膳を進めていった。
アシュラン:「リャン。嬉しそうだな」
リャン:「当たり前だろ!だって、これでもう、何も忘れなくて済むんだ。ここのみんなのことや、それに、アシュランのことも・・・・」
バチェラ:「・・・・・」
クーウォン:「にしても、よくこの短期間で、リャンのチップのバグを修理できるほどのパッチを組むことができたものだ。流石だ、バチェラ」
バチェラ:「そんなことはないよ。探ってみたら、案外簡単なバグだった。AI任せでコードを組むから、こんな簡単なバグも気付かないんだよ」
クーウォン:「補助チップとはいえ、脳内チップのコードをAI無しの手動で解析できるのなんて、君くらいなものだよ、バチェラ」
 そんな様子を横目で見ながら、透は隣に座っている月菜を見て、物思いに耽っていた。
月菜:「?透、どうしたの?」
透:「いや・・・。月菜、お前は・・・」
月菜:「『もうすぐ戦いが始まるから、お前はここに残れ』って?もう!透、あたしと何約束したのよ!」
 何も言わないうちに考えてることを的確に当てられ、その上非難がましい口調で怒られてしまった。そう言えば、月菜に隠し事できた試しは、透には一度も無かった。
月菜:「透が何考えてるのかなんて、あたしにはとっくのとうに、お見通しなんですからね。それに、あたし、透に置いていかれるのは、もう嫌なんだから・・・」
 確かに、透はあの時、月菜と『共に生きていくこと』を誓い合った。それは、これからの厳しい戦いの時も共にいるという約束に、他ならなかった。
透:「そうだ・・な」
 透は、何とか自分を納得させるために、そう呟いた。無論、それで愛する人を危険な戦場に出すことに対して気持ちの整理がついたわけでは全然無かったが。
 その時、リャンが言った。
リャン:「ほら、クーウォン、飯の時に新聞なんて読んでないでさ。行儀悪いよ」
クーウォン:「あ、ああ、済まない」
透:「・・・・・」
 その光景を見た途端、透の脳裏に、覚えてもいない記憶の断片が甦った。


あの山奥の山荘で、お団子頭の中華風の少女が、みんなの分の朝食を配膳している。
中華風の少女:『ほら、クーウォン。ご飯の時に新聞読むなんて、行儀悪いぞ』
 少女に注意されて、新聞を読んでいたリー先生が、困ったように頭を掻いた。
リー先生:『いや、だがね、見たまえ。ここに興味深い記事があるんだ。なんでも、脳内チップを使った、人の深層無意識についての新しいアプローチの理論が・・・』
中華風の少女:『そんな難しいこと言われたって、アタシにはさっぱりだよ。そんなことより、スープが冷めちゃうぞ』
 
月菜:「透?」
 月菜の声で、透は自分がスープに手も付けずにぼうっとしていたことに気が付いた。
月菜:「どうしたの?」
透:「い、いや。ちょっとな・・」
 そして、ちらりと月菜に盛られた食事を見て、透はため息をつく。ご飯が大盛りにされており、そして明らかに二杯目だった。
透:「それより、月菜。あんまり食べ過ぎると、お前、太るぞ」
 途端に、月菜は一気に頬を膨らませる。
月菜:「ふんっ!どうせあたしなんて、ダイエットもしないようなオデブちゃんですよ~だ!」
透:「いや、それはイヤミにしか聞こえないが・・・・」
 もし月菜がオデブちゃんならば、世の女性の八割以上はオデブちゃんに分類されてしまうだろう。
アシュラン:「いや、ほらさ、月菜は最近、暇があればシュミクラムの訓練してるし、よく動いてもいるからさ、きっと食べてもエネルギーに効率よく変換されてるんだよ・・」
 アシュランが慌ててフォローしようとした、その時だった。
 BGM代わりに付けていたラジオニュースから、看過できないニュースが流れてきた。
ニュースキャスター:「昨日、ネット世界の第48ブロックで起きた、大規模なDOS事件による死者の数は、世界中でも千人以上に達する模様。これを受けて、軍は全国民への、ネットへの没入を禁止する声明を発表しました。軍当局は、この事件を悪質なテロリストの仕業と見ており、現在調査中です」
 場の空気が、にわかに緊張感を帯びたものとなった。
バチェラ:「アシュラン、これって・・・」
アシュラン:「そうだな。多分、間違い無い」
クーウォン:「V・S・Sが鹵獲した、あの謎の『電子兵器』の仕業だろう。ニュースを聞く限りでは、まだV・S・Sはあのコントロールを完全に得ているわけでは無いようだがな」
リャン:「アタシがヤツらの通信を傍受した限りでは、あの物体は『セラフィム』というコードネームで呼ばれてるらしい。もっとも、民間にはまだセラフィムの情報は一切伝わってないみたいだけどね」
バチェラ:「きっと、報道管制が敷かれてるんだね。まあ、V・S・Sとしても、「自分たちの電子兵器が暴走してDOSをやってます」なんて言えるはずがないだろうけどさ」
 口々に各々の意見や情報を交換し合う皆を見ながら、透は、あの『セラフィム』と間違い無く深い関係を持つだろう、一人の少女のことを考えていた。
月菜:「透・・・」
 透の考えが手に取るようにわかるのだろう。月菜が、透に気遣わしげな瞳を向けた。
透:「わかってる、大丈夫だ」
 透は月菜を安心させるために強く頷き、そして、呟いた。
透:「憐・・・・・」
 確かに、ここに来てからのつかの間の平穏な日々は、そろそろ終わろうとしていた・・・・。



 その数時間後。
 透はねぐらのバラックに引かれた回線に自らの携帯端末を接続し、ニューロジャックを首筋にあてがった。
透:「まだ流石に不安は拭えないが・・・、もう一刻の猶予も無いな。犠牲者が増える前に、あの『セラフィム』とやらの正体を突き止めないと」
 そして、透はニューロジャックを、首筋に突き立てた。


『没入(ダイブ)』


 透はシュミクラム体となり、憐の囚われている場所、V・S・Sの謎の多重ロックに降り立った。事前に自走探査装置を走らせているので既にわかっていたことだが、周囲にV・S・Sの警備員はいない。何故なら・・。
※:「現在、この区域はAIによるシミュレートに不都合(バグ)が生じているため、危険です。至急引き返してください。繰り返します・・・」
 透が一歩足を踏み出した途端、セキュリティの警告音声が流れる。AIによるシミュレートにバグ。それは即ち、これ以上先に進んだら、DOSの余波をくらったのと同じ状態になるということだ。無論、そうなれば命は無い。V・S・Sの警備員など、いるはずもなかった。
透:「へっ、上等!!」
 透は、そんなことで憐の救出を諦めるつもりはなかった。それに、自走探査装置に積まれたバチェラのプログラムが、この区域の復旧は丁度今くらいの時間に終わるとの計算結果も出している。
 透は、慎重に、一つ目のロックを空けて中に侵入していった。
透:「はは、なんだよ、やっぱり何ともないじゃないか。まったく、脅かしやがって。」
 おそらく、V・S・Sの石頭(AI)に統制された連中は、ここの復旧を知る由もないだろう。それに、セキュリティに限らず、機械とはこういう場合、人間に過保護に出来ているものだ。もう暫らくして、『安全が完全に確かめられるまで』は、この区域には進入禁止警報が解除されないはずだ。機械頭脳に統率された連中は、誰も入ることは出来ないだろう。
 透は次々と扉を開け、遂に最深部へと辿り着いた。
 そこには、今まで異常に分厚く、頑強な扉が、まるでこちらを威圧するように聳え立っていた。
透:「憐、俺だ!!透だ!!そこにいるんだろう?」
 透が大声で呼びかけると、中からか細い少女の声が聞こえた。
憐:「お兄ちゃん・・・・」
透:「憐・・・」
 透は、声を聞いただけでもすぐに、憐がやつれているとわかった。きっと、閉じ込められた寂しさ、不安、孤独が、憐の精神を衰弱させているのだろう。
 憐は、この扉から出てこなかった。きっと、あの特殊な網のように、ネットロジックを捻じ曲げる能力を持つらしい憐でも通り抜けられないような措置が、この扉には施されているのだろう。
透:「くそっ!憐、今すぐそこから出してやるからな!!」
 透は、すぐにハッキングツールを取り出す。
憐:「!?ダメだよ、お兄ちゃん!!そんなムチャなことしたら、すぐまたあのこわいおばさんに見つかっちゃうよ!!」
透:「だとしても・・憐をこのままになんて、やっぱりしておけるか!!」
 その時、一機のMSが、透の肩を叩く。
?:「やめろ、透!その子の言う通りだ。それにこの扉は、君が何とかできるものじゃない」
 そのシュミクラムはジャスティス、アシュランのものだった。
透:「アシュラン・・・・」
アシュラン:「朝の様子から、君がこの子の事について思いつめているのは、何となく想像できたからな。ちょっと後をつけさせてもらったんだ」
透:「何だよ。優哉も月菜も、おまけにアシュランにまで、俺のことは全てお見通し、ってか。そういや、憐にも隠し事がバレた時あったな。俺って、そんなにわかりやすいのか?」
アシュラン:「まあ、俺と同じ位には、ね」
 そう言うと、アシュランは一歩、扉の前に踏み出しだ。
アシュラン:「君が、憐ちゃんだね?俺は、アシュラン・ザラ。君のお兄さんのお友達だ」
憐:「おとも・・だち?」
 憐は、少し警戒した口調で言った。元々人見知りが激しい性格の上に、こんな事が続いてはそれも仕方が無いか。だから、透は努めて憐を安心させようと、穏やかに言った。
透:「そうだ。アシュランは、俺の仲間だ。心配しなくていい」
憐:「うん・・」
 透が助け舟を出し、憐はようやく、アシュランへの警戒を解いた。
アシュラン:「それで、君に少し、聞きたいことがあるんだけど・・・」
 ここでアシュランは少し言葉を切り、慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
アシュラン:「あの、今では『セラフィム』と呼ばれている謎の電子物体、君に何らかの関係があるのかい?」
憐:「-!!」
 扉の向こうで、憐が少し息を飲むのがわかる。どうやら、これはあまり答えたくない事項らしい。
アシュラン:「大丈夫。俺は、あの事で君を責めようとか、そういうことを考えてるんじゃないんだ」
 しかし、アシュランが穏やかに言っても、憐の答えはこうだった。
憐:「・・・知らないよぉ」
 憐は、怯えるような、蚊の鳴くような声で言った。
 まあ、よく考えてみれば、憐が怯えるのは当然かもしれない。何しろ、あれは既に何千人もの人間を無差別に殺しているのだ。憐があれに関係があった場合、憐が、自分を『彼らを間接的に殺した殺人者』だと思ってしまいかねない。この精神状態で答えるのは、いささか厳しいものもあるだろう。
 しかし、あれに母を殺されたというアシュランがどうしても真実を知りたがる気持ちも透にはわかるし、何より、あれが憐に関係があるというなら、尚更あれを一刻も早く止めるため、あれの正体を知らなくてはならないのだ。
透:「大丈夫だ。もし憐があれに関わりがあったとして。俺たちは憐への接し方を変えたりはしない。俺は、憐の『お兄ちゃん』だからな。いつだって、憐の味方だ」
憐:「ほんとう・・・?」
 憐は、透に縋るような、弱々しい声で言った。
透:「ああ、本当だ。約束する!」
アシュラン:「俺も、君の兄の友人として、透が味方をするというのなら、俺も君の味方になる。だから、憐ちゃん、話してくれないか」
憐:「・・・うん」
 憐は弱々しく、だがはっきりと頷いた。
憐:「あの子はね・・・、憐が寂しかったり悲しかったりすると、悪さを始めるの」
 『あの子』とは、セラフィムのことだろう。
アシュラン:「セラフィムは、君の感情に呼応しているということなのか?」
憐:「『こおう』って・・?」
透:「・・悪い、アシュラン、憐にあまり難しい言葉を使わないでくれ。・・・つまり、憐の感情とセラフィムの行動は繋がっているのか、ということだ」
憐:「・・・わかんないけど、多分そう」
アシュラン:「だとすると、あいつと憐ちゃんは、何で繋がっているんだ?」
憐:「それは・・・憐も、わからない」
 憐の口ぶりに、嘘や隠し事の様子は見当たらない(もしあったとしても、憐も透に負けずと劣らずわかりやすいので、すぐわかる)。だとすると、憐にもあの化物の正体はわからない、ということだろう。
アシュラン:「だとしても・・・セラフィムの動向が、憐ちゃんの感情に左右されるのは事実なんだな?」
 確かに、橘玲佳が憐を狙った理由を考えると、そう考えるのが自然だ。玲佳が憐を狙い出したタイミング、そして今の憐に取られた措置を考えると、玲佳は憐にセラフィムのコントロールをさせたがっていたのだと見て、まず間違いは無いだろう。
 しかし、憐は分厚い隔壁の向こうで、小さくため息をついた。
憐:「たしかに、あの子は憐が悲しいと悪さをするけど・・・、あの子が一度あばれると、憐の言うことなんて、ほとんど聞いてくれないの」
 つまり、ヤツのDOSは、憐には制御不能ということだ。透は密かに安堵した。これなら、憐には罪は無い。ヤツはただ憐が『悲しい』という人間として当然の感情を示しただけで現れ、そして憐の意思なんてそっちのけで暴れまわる。その上、憐にはヤツとどういうリンクが存在するかもわからない。ならば、アシュランの母親をはじめ、多くの人を手にかけたのは少なくとも憐の意思ではないわけだ。
 しかし、それは同時に、唯一の手掛かりが見当外れであったことも意味していた。
憐:「それにね・・・今までは、あの子が暫らく暴れまわったあと、憐がいっしょうけんめい、おとなしくなるようにってお願いしたら聞いてくれたんだけど・・・・今は、あの子、どんなにお願いしても、ちっとも聞いてくれない・・・」
透:「どうして?」
憐:「それは・・・・。」
 ここで、憐は俯いたようだ。これなら、いくら透でも、憐が何か隠し事をしていることは、はっきりとわかる。
透:「頼む、憐、どんな些細なことでもいいんだ、俺に、お兄ちゃんに、教えてくれ!」
 透が『お兄ちゃん』と言った時、憐はわずかに息を飲んだ。
透:「憐・・・?」
憐:「えっと・・・、きっと、憐が、だんだん自分のきもちを、おさえられなくなってきたからだと思う・・・」
 憐は、一言一言、言葉を選びながら喋り始めた。
憐:「きっと・・憐は、お兄ちゃんに会っちゃ、いけなかったんだよ・・・」
透:「それは、どういう意味だ?」
憐:「最初は、見てるだけでよかった。でも、ぐうぜんお兄ちゃんと会って、それでなかよくなれて、それでしばらくは憐、とってもうれしかったんだよ。だけど、だけど・・・・」
 憐は透の言葉も聞こえていないように堰を切ったような独白を続ける。
憐:「憐、それだけじゃガマンできなくなってきちゃった・・・うっ、うっ・・・憐、お兄ちゃんに会いたい。ネットでだけじゃなく、現実(あっち)の世界で、お兄ちゃんに会いたい!いっしょにお外でピクニックとかして、ゆうえんちにも行って、そんな風に、お兄ちゃんと遊びたい!!!」
 最後は、ほとんど慟哭になっていた。
透:「だとすると、やっぱり憐は・・・」
憐:「うん、ずっとずっと、何年もあっちの方にはもどってない。もどれないの」
アシュラン:「そんなバカな・・・・」
 隣で、アシュランが息を飲んだ。当然だ。通常、実体と電子体が切り離されれば、人は一週間と持たずに発狂し、そして一ヶ月もすれば確実に、実体、電子体双方が死に至る。何しろ、電子体でいるということは、魂が剥き出しの状態であるということに他ならないのだ。ダイブして暫らくは開放感のみだが、それが余りに長く続き過ぎると、無防備な感覚による強烈な不安感に取って代わられ、結局は発狂する。これは、今の時代に生きる者の、完全な常識だ。
 憐の証言は、その常識を完全に覆すものだった。こんなか弱そうな少女が、電子体だけで何年も生きられるなんて、にわかには信じられないのも無理はない。
 もっとも、透は、それほど驚かなかった。いつも仮想世界にいて、寝る時さえ草原のチャットルームを使う憐。透も心のどこかで、「もしや」とは思っていたことだ。それがあまりに常識離れしていたために「もしや」で止まっていたが、こうして憐の方から告白されると、不思議なくらいに素直に信じられてしまう。だから、自分でも信じられないくらい冷静に、透それを受け入れた上で憐に質問していた。
透:「どうして、憐は戻れなくなったんだ?」
憐:「それは・・憐にもよくわからないんだけど、憐の体が、どっかいっちゃったの。だから、憐はどうしても、あっちの世界にもどれないの・・・」
透:「・・・・・」
憐:「お願い、お兄ちゃん。憐の体をさがして。そうすれば、憐のさびしさもおさまって、きっとあの子も言うこと聞いてくれるようになると思う・・・」
 憐の『お願い』は余りにも悲痛な声で、憐がこの数年間、どれほど不安な想いをして生きてきたかが、透には痛いほどわかった。
透:「ああ、俺は憐の実体を探す。約束する、きっと見つけ出す!!」
 どの道、あの桁違いの力を持った化物である『セラフィム』の対策には目下のところこれしか方法が無いのなら、憐の実体を探すことに専念することもできるだろう。
それに、透としては、そんなことが無くても、憐の実体を見つけてやりたかった。透だって、憐とは現実(リアル)で会いたいと心から思っていたし、何年も電子の檻に閉じ込められている憐を見ていられなかった。透は、いつの間にか、自分は立派な『憐の兄』になっていたのだと、改めて気付かされた。
 そして、その決意を見て取ったのだろう、アシュランも強く頷いた。
アシュラン:「にわかに信じ難い話ではあるが・・・、わかった、俺も、それに全力で協力することを誓うよ」
憐:「ありがとう、お兄ちゃん、アシュランさん。さあ、もう行って。憐にはわかる。もうすぐ、あの子がこっちに来る・・・」
 どうやら、これ以上憐と話している時間は、無いようだった。
アシュラン:「透、確かにヤツの反応がある。まだ遠いみたいだが、構造体の壁面をすり抜けて、一直線にこっちに向かってきている」
透:「そうか・・・。憐、安心しろ。必ずお兄ちゃんたちが、助けてやるからな!!」
憐:「うん・・・・」
 寂しそうに呟く憐を背中に、透は強く後ろ髪引かれる思いで、アシュランと共に構造体を後にした。


『離脱(ログアウト)』



 地下都市を照らす人工照明の明かりが、少しずつ暗くなっていっているのがわかる。つまり、今は外の世界では、夕方に相当する時間という事だろう。
 レベル7にも、外の世界とは違いその大半が物々交換ではあるが、食料や衣料などを売っている場所はある。そんな所には、やはり若い女性が溜まるものだ。
 月菜は、最近根詰めていたバチェラを気分転換という名目で誘って、中古の服や外の世界で手に入れてきた衣料が並ぶ、言わばフリーマーケットへと繰り出していた。
月菜:「へー、バチェラ、それ可愛いよ。バチェラって、意外と色んな服似合うんだね。羨ましいな~」
バチェラ:「・・・・月菜こそ、それ、本当によく似合うよ。ボクは月菜の方が、羨ましい」
月菜:「そんなことないよ。でも、知らなかったな~、バチェラがこんなに可愛い女の子だったなんて」
 その、何の気なく放った一言に、バチェラは一瞬、何とも微妙な表情になる。
月菜:「・・バチェラ?」
バチェラ:「ボクは、可愛くなんかないよ。生意気で、ガキで、その上引篭もりで、ネットでも友達もできないような、根暗女さ・・・」
月菜:「バチェラ・・・・」
 月菜は、何となく察した。今、バチェラは、きっと溜め込んでいた何かをぶつけるチャンスをうかがっているのだ。そして、バチェラはその相手に月菜を、同じ『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』の元メンバーであり、そして同じ女である自分を選んでくれたのだ。
だから、月菜は言った。
月菜:「ねえ、バチェラ。服選びは中断して、ちょっと飲み物買って、あっちの人いない所に行こうか。二人で、ちょっと話そ」
バチェラ:「・・・・」
 バチェラは、拒否しなかった。月菜はそれを『了解』の意と受け取り、近くに売っていた飲み物を二人分オーダーし、そのうち一つをバチェラに渡して、近くの空き地へと歩いていった。バチェラも、無言でついて来た。
月菜:「・・・それで、バチェラ。話したいことって、何かな?」
 すると、バチェラは少し警戒するような目線で、月菜を探るように見た。
バチェラ:「月菜こそ、ボクに何か、話したいことがあるんじゃないの?」
月菜:「えっと・・・、特に、あたしからは無いんだけど・・・、って言うか、こっち来てから、バチェラ、訓練の時以外はあたしにあんまり話しかけてくれないから・・・」
 確かに、バチェラは訓練時以外、月菜を今のような視線で眺めるだけで、積極的に話しかけてこようとはしなかった。だから、月菜も、ようやくその意外な正体を知ったバチェラに、話しかけることが何となくできなかったのだ。
 すると、バチェラは突然、月菜の思ってもみなかったことを口に出した。
バチェラ:「だって・・・キミはボクのこと、嫌っているだろ?」
月菜:「え??あたしが、バチェラのこと・・?」
バチェラ:「うん、そうだよ。月菜は、ボクのことが嫌いだったんじゃないのかい?」
 そう言われてみて、初めて思い当たる。確かに、月菜は『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』時代、バチェラの事を嫌っていた。
月菜:「えっと、それは・・・・」
バチェラ:「今更気を遣わなくていいよ。ボクも、気付いていたから。キミだけじゃない。あきらも、透や優哉も内心では、ボクのことを嫌っていた。胡散臭い、信用ならない奴だって、そう思っていた。だから、最後のハックの時、ボクを仲間外れにしたんだ」
 月菜の脳裏に、あの時の様子が蘇る。確かにそうだ。月菜も、他のメンバーも、内心ではバチェラの事を嫌っていた。心のどこかで、完全に仲間外れにしていた。だから、最後のハックには、最初からバチェラを誘わなかったのだ。
 バチェラは、月菜のことを寂しそうな目で見ていた。小さく、か弱く、孤独な少女。月菜の心に、急に罪悪感が膨らんでいく。でも、この少女に、誤魔化しの答えをすることは、許されない気がした。
月菜:「そうだね・・。あたしは、バチェラのことを嫌っていた。でもね、あたし、知らなかったんだよ。バチェラが、こんな可愛い女の子だったなんて。あたし、てっきりバチェラのこと、透を変質的につけねらう同性愛者のオタク男だとばかり思ってたから・・・」
バチェラ:「関係無いね!!月菜は、恋敵が出来るのが怖かったんだろ!!だから、明らかに透に個人的関心のあるボクを嫌っていた!!!」
 月菜の心に、バチェラの言葉が矢のように刺さる。確かに、あの時の月菜は、汚かった。透に自分の想いを打ち明ける勇気も無いくせに、透に近寄ってくる女が、例えあの憐でさえ、少なからず疎ましいと思っていたのだ。
バチェラ:「それに・・・、もしボクが正体を打ち明けたとして、キミらはボクを受け入れてくれたのかい!!?本当に、優哉やあきらたちと同じ『仲間』として、ボクを向かい入れてくれたのかい!!!?」
 それもまた、真理を突いていた。おそらく、あの時バチェラが正直に素性を明かしたとしても、他のメンバーも、月菜もきっと、彼女を一段下に見ていたかもしれない。いや、きっとそうだろう。
 月菜は、急に自分の矮小さを思い知らされた。
月菜:「あはは・・・そうだね。バチェラの言う通りだ・・。バチェラが仲間外れにされたのって、なんだかんだ言って、あたし自身が悪かったんだよね・・・。でもね・・」
 バチェラの正体を初めて知った時、月菜が感じたことも、決して偽りではないから。
月菜:「それでも、バチェラの素顔を知った時、思ったんだよ。『これなら、もっと早く、バチェラの素顔を知りたかった』って」
バチェラ:「え・・・・・?」
月菜:「こんな事、今更言うのもズルいかもしれないけど・・・。あたしね、正直、もう一人くらいは、女の子のメンバー欲しかったんだ。バチェラみたいに年下でもいい。ハックの能力が少しくらい劣ってても構わない。女の子のメンバーが欲しいって、純粋に思ってた」
バチェラ:「・・・どうしてだい?」
 バチェラの口調からは、さっきの刺々しさが、少し抜けていた。
月菜:「あたし、実はちょっと、寂しかったんだ・・。あたし、ずっと透を追いかけてきたからさ・・・女の子の友達、あんまいなくて。それに、やっぱり男の子って、どうしても男の子だけで固まっちゃうでしょ。だから、あたし、自業自得だってわかってても、どうしても寂しくて・・・・」
 「月菜は関係ないだろ」と、たまに透やあきらは言って、『男同士の遊び』から月菜を遠ざけた。だから、月菜はいつも、ある種の微かな、でも確かな疎外感を覚えていたのだ。
月菜:「だから、バチェラが女の子だってわかった時、本当に嬉しかったんだよ・・・。確かに、あの時のあたしは、さっきバチェラが言ったような気持ちもあったけど・・・でも、でもね。あたしは、バチェラが女の子で、本当に嬉しかったんだよ・・・」
 月菜の目には、本人にも気付かぬうちに、いつの間にか涙が薄っすらと浮かんでいた。
 そして、バチェラも、ポツリ、ポツリと話し始めた。
バチェラ:「それ、ボクも同じ事考えてたよ・・・」
月菜:「バチェラ?」
 その口調からは、そしてそれを喋る表情からは、もはやさっきの剥き出しの刺々しさは、感じられなかった。
バチェラ:「ほら、あの時、透とあきらが菱友財閥の入社式に、ポルノムービー流しこととか、『エイプリルフール企画』とか言って、変態向け遊園地にダイブさせたことあっただろ。あの時本当は、ボクも月菜と一緒に泣いて怒りたかったんだ・・・」
そう言えば、そんなこともあった。あの時は、見た目の上ではバチェラもノリノリになって参加していたように見えたが、確かに『年上の男』を演出するためには、そうするしかなかったのだろう。
バチェラ:「ボク、月菜にだけは自分が女であることを打ち明けようかって、何度も何度も悩んだんだ。結局、できなかったんだけどね・・・」
月菜:「バチェラ・・・・」
バチェラ:「はは、さっきはキミのこと一方的に責めたけど、これじゃボクも人のことは言えないな。結局、ボクも、勇気が無かったんだから。最後まで、『でも拒絶されたらどうしよう』っていう思いに、打ち勝てなかった臆病者なんだから・・・」
 そう言って、バチェラは自虐的に笑った。そんなバチェラを見ていて、月菜の心は痛んだ。だから月菜は、考えるより先に思ったことを口に出した。
月菜:「ねえ、バチェラ。バチェラの本名って、なんだっけ」
バチェラ:「え?」
 一瞬バチェラはきょとんとし、それから少し照れくさそうに、でも少し嬉しそうに、言った。
バチェラ:「ひかるだよ。ボクの名前は、朝倉ひかる、っていうんだ・・・」
月菜:「ひかるちゃんか・・・。ひかる、ひかる・・、うん、とってもいい響きだね」
 バチェラの本名を一回呼ぶたび、自然と、今まで『ワケのわからない胡散臭い奴』だったはずのバチェラが、心底親しみを持って感じられるようになる。それは、とても暖かい気持ちだった。
月菜:「それじゃあ、ひかるちゃん。改めて自己紹介。あたしは、笹桐月菜。よろしくね」
 そう言って、月菜は手を差し出した。バチェラは少し躊躇った後、それをしっかりと握った。
バチェラ:「・・・ボクは、朝倉ひかる。よろしく・・・」
 バチェラと手を握り合った瞬間、月菜は、今までバチェラとの間にあった何かモヤモヤしたものが、すうっと抜けていくような気がした。
月菜:「これで、あたしたちは、本当に出会ったんだね。だから、あの頃にできなかった事、二人で仲良く色々やる事・・きっと、今度はできるよね」
 バチェラの顔が、みるみる笑顔になってゆく。少しはにかんだ笑顔。それを月菜は、心底可愛いと思ったのだ。
バチェラ:「うん。きっとボクらは、いい友達になれるよ」
 二人はこの瞬間、やっと本当に『出会う』ことができたのだった・・・。


 それから、適当に何着かを見繕って帰る時、月菜は前から気になっていたことを、バチェラに聞いてみることにした。
月菜:「それで、ひかるちゃん。ひかるちゃんって、あの頃、やっぱり透が好きだったの?」
 バチェラは少し顔を赤らめて、でも素直に言った。
バチェラ:「うん。確かに、あの頃はボク、きっと透が好きだったんだと思う。でも・・・」
月菜:「でも?」
バチェラ:「今考えてみれば、ボクの“好き”は、月菜が透に対する“好き”とはちょっと違ったのかもしれないね。ボクさ、初めて透を見たとき、思ったんだ。「ボクが男の子だったら、きっとボクはああなってた」ってね。だから、ボクは透に『理想の男の子としての自分』を見ていたのかもしれない・・・・」
月菜:「そうなんだ・・・」
バチェラ:「うん。それに今のキミたちは、文句無くお似合いカップルだよ。本当、羨ましいくらいだ・・・・」
 面と向かってそれを言われると、やはり月菜としても、とても恥ずかしいものがあった。でも、月菜は同時に、今の台詞の中にあるバチェラの隠された遣る瀬無さを感じ取っていた。
 バチェラが透を、ここに来てからは恋愛対象から外していたこと、そして、バチェラが他の男性に、とても切なげな視線を向けていることを、月菜は薄々だが感付いていた。
月菜:「ひかるちゃんも・・・辛いよね。アシュラン、今はリャンさんに夢中だものね・・・」
バチェラ:「月菜!?気付いてたのかい?」
月菜:「あら、バカにしちゃダメよ。だって、あたしだって『同じ女の子』なのよ」
バチェラ:「・・・そうだね。『同じ女の子』だしね」
 そう言って、バチェラは少し笑った。月菜は、そんなバチェラの幼い恋心を、心から応援するのだった。



 ・・・・。
 その夜、透は夢を見ていた。幼い頃の、遠い遠い、記憶の夢を・・・。
 山奥の別荘で、透は他の子供たちと一緒に、ベッドに横たわっていた。首筋にはニューロジャック。そして、コンソールではリー先生が、何かの作業をしていた。
リー先生:『これから、君達にちょっとした“治療”を行う。なあに、これから外の世界で生きていくために、君達には欠かせない治療だ。君達の脳内には、ちょっと普通とは違った補助チップが埋められているのは知ってるだろう。だから、その特殊性を弱めるための措置だと思ってもらって構わない』
 普段無口なくせに、今日に限っていつに無く喋喋なリー先生の様子が、かえって透の不安を煽る。
 それは、他の皆も同じだった。リー先生から、皆は予め「今日を限りに、皆は離れ離れになる」とは聞いていたが、皆、何か『それだけでは済まされない、決定的な別れの予感』を覚え、それに恐れおののいていたのだった。だから皆、不安な顔でリー先生を見ていた。
男の子:『なあに、透、そんな不安そうな顔するなよ』
 透の一番の親友だった背の高い男の子が、努めて明るい声を出して言った。
男の子:『お前らもよぉ、揃いも揃って、しみったれた顔すんなよな。何も、これで今生の別れ、ってわけじゃねえんだ。いつかまた、絶対に会える。会ってやる!』
 その言葉に、残りの二人の女の子も、少しだけ明るさを取り戻す。
ショートヘアの女の子:『うん、そうだね。きっといつか、必ず会える』
中華風の少女:『ああ、絶対に、また会おうな』
 女の子たちは、それぞれ、自分を納得させるように言った。だから、透も言った。その中に、心の底からの願いを込めて。
透:『きっとまた会おうな、リャン、ひかる、そして・・・・』
 透が最後に、親友の男の子の名前を呼んだ時、透の意識は、覚醒によって一気に現実へと引き戻されていった・・・・。


透:「う・・・」
 どうやら、またおかしな夢を見たようだ。そして、その夢が何なのか、今はもう思い出せない。
 とりあえず、朝が来たようだった。
 バラックの入り口に、アシュランが立っていた。
アシュラン:「透、寝起きのところすまないが、クーウォンが呼んでいるみたいだ。大至急、来てくれってさ」
透:「クーウォンが・・。わかった、すぐ行く」
 覚悟は出来ていた。透は、すぐに身支度を整えると、アシュランに伴われ、作戦室へと急いだ。


 作戦室には、透とアシュランの他に、クーウォンとリャン、そしてバチェラと月菜の姿があった。しかし、それ以外には誰の姿も無い。飛刀の他の幹部の姿も、見当たらなかった。
透:「なあ、クーウォン。これって一体、どういう集まりなんだ?」
 すると、クーウォンは透たちをゆっくりと見回し、そして神妙な表情で言った。
クーウォン:「これから、V・S・Sとの最後の戦いが始まるのは、君達も先刻承知のことだと思う。だから、その前に、君達に話しておかねばならぬことがあるのだ。・・・リャン、脳内チップのバグの修正は、もう少し待ってもらえるか?」
リャン:「・・・ああ、いいよ」
 リャンも、神妙な顔で頷く。
 クーウォンが父性愛に溢れる人物であり、そしてリャンを娘同然に大切に想っていることは、この短い期間でも十分にわかった。そのクーウォンが、リャンの重大な病気の治療さえも後回しにするということは、これから始まる『話』とやらが、いか重要なものであるかを、暗に示していた。
 透以外の皆もそれを感じ取ったのだろう、場の雰囲気に、一様に緊張感が伝播する。
クーウォン:「それで、ゲンハはまだ来ないのか?」
 『ゲンハ』の名前を聞き、アシュランの表情がにわかに曇る。それを見て取ったクーウォンは言った。
クーウォン:「アシュラン君、君の心境もわかるが・・、今回の『話』は、ゲンハにも深く関係していることなのだよ」
アシュラン:「わかっています。・・・もう大丈夫です」
 アシュランは気丈にも、しっかりとクーウォンを見つめて言った。透は、そんな友の様子に、心底関心する。
クーウォン:「しかし、ゲンハは遅いな。彼にも、きちんと伝えていたはずなのだが・・・」
リャン:「そういや、なんか今朝はアジトにやけに人の気配が少ないなと思ったら、ゲンハの手下を全然見てないな・・・・」
 その時だった。
突然、作戦室内に警告音(アラート)が鳴り響いた!!
 ヴィーッ、ヴィーッ!!
クーウォン:「何だ!!?」
リャン:「これは・・・この作戦室だけじゃない、この地下都市全体に鳴ってる!?」
 その直後、透がこの事態を把握しようと考える前に、飛刀の重要幹部の一人が、作戦室に慌てて駆け込んできた! 作戦室にはおそらくクーウォンが「話が終わるまで誰も入るな」と厳命していただろうから、この幹部の慌て様振りは、尋常じゃなかった!
幹部:「クーウォンさん、大変です!!このアジトが、レベル7が攻撃を受けています!!それも、ネットと現実世界の両方から!!!
クーウォン:「何だと!!!?」
 同時に、どこか遠くで、不穏な感じの振動が起こった。作戦室にいる者たち、特にリャンとクーウォンの顔が蒼ざめる。
クーウォン:「それで、こちらを攻撃している部隊は、どこでどれくらいだ!!?」
幹部:「それが・・・、軍とV・S・Sが、物凄い数でスラムを包囲しています!!回線はいつの間にか、既に完全に外と寸断され、ここのセキュリティの構造体以外には没入できないようにまでされてます!!」
クーウォン:「バカな・・・・・」
 つまり、このアジトの場所が、軍やV・S・Sに完全にバレたということだった。
リャン:「そんな・・・。透やアシュランたちを助け出した時にも、追跡に細心の注意を払っていたはずだ!」
バチェラ:「うん、それはボクも確かめた!一度追跡装置(トレーサー)を仕掛けられたことがあったから、今度は万が一にも見落としがないように、念入りに調べたはずだ!!」
リャン:「それが、どうして・・・」
 その時、異常事態を聞きつけた少年兵たちが、慌てて作戦室へとなだれ込んで来た。彼らのどれも、応戦しようという心構えだけはできているものの、一体何がどうなっているのか、パニックは拭えない様子だ。
 クーウォンはそれを見て、反射的に、レベル7中に通達するために使うマイクを掴み、そして有らん限りの声を出して叫んだ。
クーウォン:「この都市の全住民に告ぐ!現在ここは、敵の襲撃を受けている!!繰り返す、現在ここは、敵の襲撃を受けている!!ネットと現実世界の、双方からの総攻撃だ!! よって戦闘員は、総力戦用の各々の戦闘配備に至急、付いてくれ!!そして、非戦闘員は、至急、予め儲けられた脱出用通路から非難するように!!」
 クーウォンの声にも、完全に余裕が感じられない。これは、完全に想定外の攻撃だったのだ。
 透たちの平穏は、予想もしない形で、完全に崩れ去ったのだった・・・。


 


 


第二十六章『平穏』完

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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
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