Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』第二十七章

前回「掲載ペースをアップさせる」と言った割には、あんまりスピードアップしてませんね(^-^;。すいません、先週は珍しく忙しかったもので。

んで、今週も実はあまり暇とは言えないのですが、この『バルG』も、原作既プレイ者はご存知かと思われますが、残りあと僅か。チャンスを逃さず、一話一話確実に進めていきたいと思います。

では、いつも通り「READ MORE」にて本文へ。








バルドフォース エグゼ
バルドフォース エグゼ
PlayStation2
アルケミスト









HG UNIVERSAL CENTURY 1/144 ゼータガンダム MSZ-006
HG UNIVERSAL CENTURY 1/144 ゼータガンダム MSZ-006
バンダイ

※今回出てくるMS“デスサイズ・ヘル”は、テレビ版『ガンダムW』に登場するものではなく、劇場作品『エンドレスワルツ』に登場するバージョンをモデルにしています。


バルG第二十七章  『崩壊』


 



 V・S・S制移動式没入スペース用コンテナの横で、橘玲佳は、スラムのくすんだ街を見上げながら、感慨に浸っていた。
 周囲には、同じV・S・Sの没入スペース用トレーラー、軍用のジープ、VTOL機が大きく展開し、そしてV・S・Sのパイロットや軍人たちまでもが、まるで一つの意思の元に動く働き蟻の用に、せわしなく包囲網を展開している。
玲佳:「これで飛刀、いや、クーウォンも終わりね・・・・」
 玲佳はその言葉と共に、冷たい薔薇色のため息を吐き出すと、背後にいる“人物”を振り返る。
玲佳:「あなたのおかげよ。あなたのおかげで、ようやく、終わらせることができる・・・」
 背後の人物は、野卑た笑みを浮かべながらその呟きに応えた。
??:「なぁに。俺サマも、前からあのヤロウが気に食わなかったんだ。あんたからあの話を持ちかけられたのは、渡りに船、ってやつだ」
玲佳:「そう・・・。まあ、あなたの考えていることはどうでもいいのだけれど。こちらとしても、あなたのような人間がいてくれなければ、儲からないしね・・」
??:「へへ。俺サマは、ただ死ぬまでメイッパイ暴れてぇ。あんたは、荒くれ者によって治安が荒れねぇと商売にならねぇ。いい利害の一致だねぇ」
玲佳:「そうね・・・」
 すると、人物は急に表情を変えて、言った。
??:「嘘だな」
玲佳:「!!?」
 玲佳は虚を突かれた。
??:「あんた、要するに、『あの男』が憎いだけなんだろ。あの男が、あんたから何もかも・・・、『研究成果』も、『子供たち』も、そしてそれ以上にあんたにとって一番大切なモンも奪い去って行っちまったから・・・だから、許せねぇだけなんだろ?復讐したいだけなんだろ?」
玲佳:「ぐ・・・。あなた如きに、何がわかると・・!!」
??:「わかるさ。あんたは俺の、『母親』だからな・・・」
玲佳:「――!!」
 “彼”にそう言われた瞬間、玲佳の顔から刹那の間、毒気が抜けた。玲佳には一瞬、“彼”がこの上なく慈悲に満ちた、母親想いの子供の顔をしているかのように見えた。
しかし、次の瞬間には、“彼”は元の野蛮な狂人の顔に戻っていた。
??:「んなことよりよぉ、報酬の話、よろしく頼むぜぇ」
玲佳:「そうね・・・。新しい武装組織を作るだけの資金と人員、そしてあなたを満足させる数の玩具、つまり女、だったかしら?」
 玲佳もまた、もとの『冷酷な悪女』の顔に戻っていた。
??:「ああよ!あと、俺サマの新しい機体も、忘れんなや」
玲佳:「それは、もう完成しているわ。なんなら今から、それに乗って暴れてみる?」
??:「いいねぇ・・。そんじゃ、いっちょ行ってくるとすっか!!」
 そう言って“彼”は、いや、元飛刀の主要人物、ゲンハ・ヴァンガードは、湧き上がる暴力の予感に表情を醜悪に綻ばせながら、没入スペースへと消えていく。
ゲンハ:「ゲンハ・ヴァンガード、“デスサイズ・ヘル”、いっくぜぇぇ!!!」
 玲佳は、その様子を見ながら、妙に穏やかな気分に浸っていた。
数年前、クーウォンによってバラバラにされた心の欠片が、少しだけ元のところに埋まってゆくのを感じながら・・・。
玲佳:「いってらっしゃい、私の可愛い子よ・・・」
 そして、もう一度、玲佳はくすんだ摩天楼を見上げた。
玲佳:「さあ、クーウォン、何もかも、全てを私に返してもらうわ。もちろん・・・あなたの命もね!!」



 ブラウン管の画面に映し出された仮想の戦場の様子は、既に『凄惨』の一言を極めていた。
 パニックの最中、何もわからぬまま没入した少年兵の乗るダガーが、軍のジンに、V・S・Sのアストレイに、次々と撃たれ、消えてゆく。それは、最早『戦争』とも呼べぬ、一方的な殺戮劇だった。
飛刀の幹部:「頑張れ、何とか持ち堪えろ!!構造体のセキュリティ・コアを抑えられたら、外の実動部隊がこちらに押し寄せてくるぞ!!そうなったら終わりだ!何としても、守り抜くんだ!!!」
飛刀の少年兵:「無理です!!数が、多過ぎ・・うわぁぁぁ!!!」
 まだ声変わりも前の断末魔と共に、一人の少年の命がこの世から消え去った。
クーウォン:「おのれぇ、橘玲佳!!!」
 クーウォンの形相は、怒りと憎悪に歪んでいた。つまりそれだけ、クーウォンは、このレベル7は追い詰められているのだ。
リャン:「ダメだ、クーウォン!!第三ブロックも突破された。コアが落ちるのは、もう時間の問題だよ!!」
 早くもサポートの任に就いたリャンが、悲痛な声を上げる。
 その声を聞き、透の横にいたアシュランが、拳を固めた。
アシュラン:「リャン・・、俺も出る!!」
リャン:「何だって!!?」
 リャンが驚きの声を上げ、クーウォンがアシュランの肩をつかんだ。
クーウォン:「ダメだ!!アシュラン君、君たちには、橘玲佳と戦うという、重要な使命がある。今ここで出て行って、犬死にさせるわけにはいかない!」
 しかし、アシュランは碧色の瞳を強い意志に染めて、しっかりとした口調で応えた。
アシュラン:「それなら、リャンも脱出させるべきです。彼女がそうしないことはわかっていますけど。ならば、俺も戦います!リャンが、ここにいる人たちが、今は好きだから」
クーウォン:「・・・・・」
リャン:「アシュラン・・・・」
アシュラン:「それに、クーウォン、あなたは言いましたね。『自分の意思で決め、自分の意思で戦うのが、同志だ』って。だから、俺はここで戦います。俺は、俺の仲間達を守ると決めました。だから・・・これも、俺の戦いです!!」
 年以上に大人びた、精悍な顔つき。その時、透はアシュランに、ハッキリと優哉の面影を見た。
クーウォン:「そうか・・・、だったら、何も言うまい」
 クーウォンはそれだけ言うと、再び司令官の仕事へと戻っていった。
バチェラ:「それなら・・・ボクだって、戦うよ」
 バチェラも、幼さの残る顔を懸命に引き締めて言った。
アシュラン:「バチェラ・・」
バチェラ:「アシュランが残るなら、ボクだって戦う。ボクだって、仲間を助けるためなら、どんな敵とだって戦える!!」
月菜:「透、どうする・・・?」
 月菜が、ぎゅっと透の腕を握り締める。透の答えは、決まっていた。
透:「だったら、俺だって戦うさ!!」
リャン:「透、あんたまで・・・・。」
 透は、皆の目をしっかりと見つめて言った。
透:「俺だって、ここには洗脳から助けてもらったり、匿ってもらった恩もあるしな・・。受けた恩は絶対に返すのが、ハッカーの流儀だ!!」
アシュラン:「透・・・。」
 すると、月菜も透の腕をつかみながら、震える声をしっかりと押し殺して言った。
月菜:「だったら・・・あたしも戦う!!」
透:「月菜・・・・」
月菜:「透も、もう止めないよね?あたしは、透と共に生きていくことを決めた。だから、透の戦いは、あたしの戦いでもあるんだ。もちろん、ここのみんなが好きだから守る、っていうのもあるしね!」
透:「でも、月菜はサポートをした方が・・・」
月菜:「ありがとう、透。気遣ってくれるのは嬉しいよ。でも、あたしだって、もう一端のシュミクラムパイロットなんだよ」
 月菜の目は、もはや決意に固まっていた。その決意を変えることは、おそらく透でも不可能だろう。
 透は月菜を見つめ、そして次に皆を見つめて、言った。
透:「みんな!戦うのもいいが、クーウォンの言う通り、俺たちにはまだやらなければいけない事があるんだ。だから、絶対に死ぬなよ!!!」
皆:「ああ!!」
 皆は強く頷いて、それぞれニューロジャックを手に取った。
アシュラン:「アシュラン・ザラ、“ジャスティス”、出る!!」
バチェラ:「朝倉ひかる、“プロヴィデンス”、いっくよぉ!!」
 その時、月菜が、ニューロジャックを差し込む直前に、透を見つめて言った。
月菜:「大丈夫、あたしは絶対死なない。透と一緒に『生きる』って、約束したからね!」
 そして、月菜もニューロジャックを差し込む。
月菜:「笹桐月菜、“ゼータ”、出るわよ!!」
 次々と没入していく仲間を見ながら、透も決意を新たに、ニューロジャックを差し込んだ!
透:「俺も、戦う!!復讐や命令じゃなく、憐や、月菜や、俺の大切な人たちを守るために!!相馬透、“フリーダム”、行きます!!!


『没入(ダイブ)』


 そして、四人は同時に、仮想の戦場に降り立った。
バチェラ:「それで、降り立ったはいいけど、どうする?」
アシュラン:「そうだな・・・、リャン、俺のシュミクラムに、現在のここの様子を転送してくれ!」
リャン:「あいよ!!」
 それから数秒間の沈黙の後、アシュランが口を開いた。
アシュラン:「・・よし!!ここから、コアへ向かうルートは二種類だ。そこに二手に分かれて向かう。これなら、挟み撃ちの形にもなるしな。俺と透は西のルート。バチェラは月菜と東のルートを行ってくれ! 月菜は、バチェラと離れるなよ!!」
バチェラ:「オーケー!透、月菜のお守は任せて!」
月菜:「あー、ひかるちゃん、ひどーい!!アシュラン、ひかるちゃんはしっかり守るからねー。」
 二人は楽しげに言い合いをしつつ、東のルートへと全速力で移動していった。
透:「・・・あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?」
 女には、やっぱり不思議が一杯だった。
透:「にしても、アシュラン。戦力を均等に分布するなら、あの二人の組み合わせはちょっと違うだろ?」
 しかし、アシュランはハッキリと淀みない口調で答える。
アシュラン:「東のルートは、合流地点までは一本道だ。けど、西のルートは、途中道が二股に分かれている所がある。挟み撃ちの危険性を考えるなら、その時は分断し、一人で戦わなければならない。だから、俺と透がそっちを担当した方がいいと、思ったんだ」
 つまり、こちらのルートは一時的に一人で戦わなければならないが、あちらのルートなら常に二人で戦うことができる、ということだ。
透:「なるほど。流石は、元軍の精鋭部隊の隊長様だ。判断が早いな」
アシュラン:「褒めても何も出ないぞ。さあ、俺たちも早く行こう!!」
透:「ああ!!」
 そして、透とアシュランも、構造体内を全速力で進んでいった。


 暫らく構造体内を進むと、前方に、軍とV・S・Sの部隊によって押されているダガー部隊の姿が見えた。
透:「やらせるか!!」
 一機のダガーを仕留めようとしたアストレイのビームライフルを、発射される寸前で撃ち抜いた。
アシュラン:「君は早く離脱するんだ。ここは俺たちに任せろ!」
 アシュランの言葉を受けて、少年兵たちは構造体内から次々と離脱した。
 その時、一機のジンが、アシュランに銃口を向けた。
兵士:「・・・ただちに除装してください。さもなければ撃ちます」
 その感情の全く篭ってない、人の生きている感じのしないその口調。間違い無い。
アシュラン:「まさか、軍までにも、洗脳の魔手が伸びているのか!!!?」
透:「・・・どうやら、そのようだな」
 元軍人のアシュランの悲痛な叫びに、透は心を痛めた。
その時、ジンの大群がアストレイと同時に、透たちに向けて無数のビームを浴びせかけた。
透:「アシュラン、考えるのは後だ!!まずはここを突破するぞ!!」
アシュラン:「そう、だな!」
 二人は散開し、透は目の前の複数の敵機を一度にロックオン、一斉射撃で周囲の敵全てを瞬時に戦闘不能に追い込む。
アシュラン:「くそぉ、正気に戻るんだ!!」
 アシュランの叫びも虚しく次々と襲い掛かる敵機を、アシュランも正確な射撃で武装のみを撃ち抜いていく。
 アシュランはファトゥム-00を分離、独立飛行させて、自身もその上に乗ると、高速で動き回るファトゥムを足場に、次々と敵機の武装を撃ち抜いていった。
 透も、フリーダムのマルチロックオンシステムと恐るべき機動力を活かし、操られた哀れな尖兵たちの戦闘能力を次々と奪い去ってゆく。
 僅か一分足らずの間に、二十機以上いた軍とV・S・Sの複合部隊のMSの中で、戦闘が未だ続行可能な者は皆無となっていた。
透:「よし!ここは片付いたな。先へ行くぞ、アシュラン!!」
アシュラン:「あ、ああ!!」
 アシュランは努めて平静を装って返事をしたが、その内心の動揺は隠せなかった。
アシュラン:「イザーク、ニコル・・・。無事でいるといいが・・・・」


 一方、東ブロック。
月菜:「収束!拡散!え~い!!」
 月菜もまた、愛機“ゼータ”を巧みに操り、迫り来る敵シュミクラムを次々と撃退していった。
バチェラ:「放出!!」
 バチェラもドラグーンで、ジンの、アストレイの武装を次々と破壊してゆく。
月菜:「さっすがひかるちゃん!強い強い!!」
バチェラ:「月菜の方こそ、凄いよ、見違えた。もう立派に腕利き(ホットドガー)だよ!!」
月菜:「ひかるちゃんとの特訓が効いたんだよ」
バチェラ:「そう言ってもらえると、光栄だよ!!」
 今や、二人が軽口を叩き合えるほどに、この部屋の敵シュミクラムはほぼ壊滅状態だった。
バチェラ:「これならボクら、合流地点までアシュランたちより先に着けるかもよ!?」
月菜:「よ~し、さっさと一番乗りして、まだ今一あたしの実力を認めてない透にも思い知らせてやるんだから!」
 その時だった!
バチェラ:「!!危ない!!!」
 突然、思わぬ方向から放たれたビームが、月菜に届くその刹那、寸前でそれを察知したバチェラが割り込み、シールドで防ぐ。
月菜:「きゃぁ!?あ、ひかるちゃん、ありがと・・・。でも、どこから撃ってきたの!?敵機の気配なんて、こっちの方にはどこにも・・・」
バチェラ:「いや!これはファンネルだよ!ってことは・・・。」
 バチェラが向けた視線の先には、色は違うがタイプは全く同一のMSが二機、全く同じ速度と動きでこちらに向かっているのが見えた。
月菜:「あれは、キュベレイ・・・って確か、V・S・Sに盗られたんだよね?」
バチェラ:「ああ。あれはα-ユニットだ!」
 次の瞬間、進藤姉妹が乗ったキュベレイは、無警告でいきなりファンネルを射出してきた。
おそらく彼女たちは、『敵を見つけ次第、即射殺』の命令で動いているのだろう。
月菜:「わっ、たっ、ちょっ、きゃ、きゃあ!!?」
 ファンネルは猛スピードで飛び回りながら、四方八方からビームを浴びせてくる。月菜は何とか反応してそれらをかわすが、完全にはかわし切れず、一発が胸部の装甲を少し掠る。
バチェラ:「月菜!!チッ、月菜もよくかわしてはいるけど・・・このファンネル、ボクが使ってた時より、威力も速度も上がっている!!」
 バチェラは全ての射線を的確に先読みしてかわしながら、自らもドラグーンを射出する。しかし、現在のファンネルをも上回る速度と威力を誇るドラグーンの砲撃を、二機のキュベレイは人工物じみた動作で、易々とかわす。明らかに、キュベレイ自体の動きの良さも上がっていた。
月菜:「あの子達・・・、もしかして、『あの特訓』で更に強化させられたのかも・・・」
 月菜の脳裏に、おぞましい記憶が蘇る。確かにあの、非人道的な『特訓』なら、短期間でパイロットの能力を信じられないくらいに向上させることも不可能ではない。実際、AI無しで脳内チップのコードが組めるほどのバチェラの超絶的な能力を以て初めて使用可能なはずのファンネルが、元は常人であるはずの進藤姉妹に使えることも、その一例だ。
 二機のキュベレイは、更に数基のファンネルを飛ばす。月菜とバチェラは機体を捻ってそれらを懸命にかわすが、やはり月菜の方は、既に『かわすだけで精一杯』だった。
月菜:「きゃぁ!?ちょ、ちょっとこれ、速過ぎ!!」
 その様子を見ながら、バチェラは接近してきたファンネルの一基をビームライフルで的確に撃ち落し、そして言った。
バチェラ:「月菜!ここはボクに任せて、さっさと先へ行くんだ!!」
月菜:「な!?だって、ひかるちゃ・・・」
バチェラ:「ボクは一人で大丈夫だ!むしろ、今のキミがいた方がやりにくい!大丈夫。キミの実力は見せてもらったけど、キミならもう十分、一人で行ける!!」
 バチェラはそう言いながら、巧みにファンネルの射線をかわし、同時に、盾の二連装ビーム砲でファンネルを一基ずつ確実に撃ち抜いてゆく。
バチェラ:「アシュランがボクらを二手に分けたのは、合流ポイントに着いた時に挟み撃ちされないためにだ!ここで止まってるわけにはいかない!さあ、早く!!」
 ファンネルだけではバチェラを倒せないということに気付いたのか、二機のキュベレイはそれぞれビームサーベルを引き抜くと、バチェラに向かって斬り掛かった。バチェラは二人の斬撃を、シールドとそこから射出したビーム刃で受け止めながら、叫ぶ。
バチェラ:「さあ、行け、早く!!!」
月菜:「・・・うん、わかった!!」
 月菜も、この場はバチェラに任せるしかないことを悟った。月菜はバチェラに斬り掛かる二機にビームを撃ってバチェラから引き剥がすと、同時に機体をウェブライダー形態に変形させ、二機がターゲットを自分に変更する前に、超高速でそのエリアを離脱した。


月菜は、ウェブライダー形態のまま構造体を突き進んで行った。
そして立ちはだかるアストレイやジンを、その高機動力を活かして撹乱、隙を見て変形時にそのまま機体に取り付けたビームライフルで、的確に武装を撃ち抜いていく。
月菜:「よし、イケる!!何とかこのまま透たちと合流してコアを守って、それからひかるちゃんも助けに行かないと・・・。」
 その時、目の前に『警戒(ワーニング)』のアイコンが灯り、次いで二条のビームが月菜を狙って放たれる。
月菜:「今度は何!?」
 二条のビームを月菜は難なくかわすが、それを放った機体を見て、月菜は驚く。
 白を基調とし、腰部後方に天使の翼を思わせる大型スラスターを持つ、ガンダムタイプの機体。月菜はそれに、大いに見覚えがあった。
月菜:「“ステイメン”!?憐ちゃんなの!!?」
 すると、回線が開き、憐とは似ても似つかぬ無表情の女性が、無機質に言い放った。
α-Ⅰ:「α-Ⅵ、すぐに除装し、投降してください。さもないと、貴女の命は保障しません。繰り返します・・・」
月菜:「・・そりゃそうよね。憐ちゃんなはず、ないか。そうか、憐ちゃんが捕まったんなら、シュミクラム盗られるのも当たり前だよね」
α-Ⅰ:「繰り返します、α-Ⅵ、すぐに除装し・・・」
月菜:「あたしはα-Ⅵじゃない!!笹桐月菜よ!!」
 月菜は警告に従わない意を示すための威嚇のビームを放つと、ステイメンはそれをかわし、サポートAIによって両手に転送されてきたプラズマバズーカとパルスビームライフルを、新たに取り付けられたのだろう背中の二連装ビーム砲と同時に、一斉に撃ってきた。
 月菜はウェブライダーの機動力でそれらを余裕で回避、プラズマバズーカをビームライフルで撃ち抜き、急接近すると同時に変形を解除、瞬時にシュミクラムを人型に戻し、ビームライフルからビームを収束させ銃剣状のビーム刃と化し、ステイメンの右腕に斬り下ろす。ステイメンも素早く装備をビームサーベルに持ち替え、月菜の斬撃を受け止める。
月菜:「くっ!だけど、まだまだぁ!!」
 そのまま強引に押し切ろうとした月菜の視界の片隅に、ふと、妙なものが映る。
月菜:「!!?」
 月菜は、反射的に身をかわした。次の瞬間、今まで月菜がいた空間を、妙な方向から放たれた一条のビームが薙ぐ。
 ビームを発したのは、ステイメンの右腕の肘裏から伸びた、奇妙なマニピュレーター状の物体の内部に装備されているビーム砲だった。そのマニピュレーターが、奇妙な角度に折れ曲がり、ステイメンと鍔迫り合っていた月菜の視界の死角からビームを浴びせ掛けたのだ!
月菜:「もう、何なのよ、これ!!」
 怯んだ月菜に、ステイメンが左手のフィンガーバルカンを撃ってきた。月菜はそれをかわしつつイーゲルシュテルンとハンドグレネードで応戦、なんとか引き剥がされまいとするが、ステイメンは更に、再び特殊なマニピュレーター、多目的特殊サブアーム・通称『フォールディング・アーム』を左腕からも展開し、更に背部の二連装ビーム砲も交え、月菜に執拗な砲撃を浴びせる。月菜はそれを、あるものはかわし、あるものは巧みにシールドで捌くが、フレキシブルに動くアームによって様々な角度から放たれるフォールディング・アームのビームが、遂にビームライフルに被弾してしまう。
月菜:「わあうぅ!?・・・それなら、え~い!!」
 長期戦は不利だと悟った月菜は、ビームサーベルを引き抜くと、思い切ってステイメンに突撃する。
 多角から浴びせられるビームを、月菜は巧みにかわしつつステイメンに斬り込む。が、いつの間にかステイメンはビームサーベルを、それもフォールディング・アームのマニピュレーター部で引き抜いて月菜の斬撃を受け止め、もう片方の腕のフォールディング・アームのビーム砲で、無防備になった月菜を狙った。
月菜:「うわっ!? こいつ、強い・・・・」
 死角から放たれたビームを寸前のところでかわしながら、月菜は汗腺の無いMSの額に、汗が伝ったかのように感じていた。


 一方、透は二股に分かれた通路も順調に超え、合流地点に到達していた。そして全く同時に、アシュランも合流地点に到達する。
透:「はは、流石はアシュラン。かなり急いで来たと思ったのに、完全に同着だもんな」
アシュラン:「そう簡単には負けないさ。それに、もうすぐ月菜たちとの合流地点だ。飛ばすぞ!!」
 その時、見覚えのあるシュミクラムが二機、二人に向けてビームを放った。
透:「あれは、“シグー”か!」
 元乗っていたあの双子の姉妹は別の機体に乗り換えたので、今乗っているのは、もう一つのコンビユニット、若い男女ペアのα-Ⅱとα-Ⅲだろう(今思えば、おそらく二人は元は恋人同士だったのだろう。それを洗脳で引き離すような真似をするとは、酷い話だ)。
透:「だが、ヤツらなら楽勝だ!どけぇ!!」
 透は素早く一機のシグーの四肢と頭部をマルチロックオン、火器をフルバーストで放った。しかし、必勝のフルバーストは、なんとあっさり回避されてしまった。
透:「何だって!!?」
 更に、二機のシグーは明らかに以前の倍近いスピードで動き回り、透たちに執拗な攻撃を加える。
アシュラン:「機体のスピードが明らかに上がっている!強くなったのは、俺たちだけじゃないってことか・・」
透:「強化されたのは機体だけじゃなさそうだ!パイロットたちも、おそらく、更なる強化措置を施されてやがるぜ!!」
 透は月菜に施された異様な『特訓』を思い出し、吐き捨てるように言った。
 透はビームライフルと同時に腰部レール砲を発射、それを盾で受け止めて一瞬動きの止まったα-Ⅲのシグーに、アシュランが双刃の長剣モードに連結させたビームサーベルで斬りかかる。しかし、斬撃が届く寸前、シグーのシールドから高圧の仮想電流が放出しアシュランに襲い掛かった!
アシュラン:「くあっ!?」
 新たな装備、高圧電流『スタンボルト』をモロに浴びて一瞬動きを止められたアシュランに、シールドのガトリング砲が火を吹く。しかも、ガトリング砲は今までの実弾のものから、粒状のショートビームを素早く連続で射出するビームガトリング砲に換装されており、至近距離なら充分必殺の威力を持つショートビームの大群がアシュランに容赦無く襲い掛かる。
アシュラン:「く・・くそぉ!!」
 アシュランは痺れた身体を強引に捻り、辛うじてそれをかわす。
 更にアシュランに追い討ちをかけようとしたシグーを、透はビームライフルの連射で二機とも引き剥がす。
透:「大丈夫か、アシュラン!!」
アシュラン:「ああ、痺れも消えた。だが、これは・・・」
透:「思ったより、手強いな・・・」
 二機のシグーは、尚も執拗に透たちに襲い掛かった。


 その頃、レベル7・作戦室。
 リャンは、透たちの意外な苦戦に、固唾を飲むような思いで画面を食い入るように見ていた。
リャン:「ヤバイぞ、クーウォン。透たちも、強敵に出くわしたみたいだ。すぐにはコアまで、行けそうにない」
クーウォン:「リャン、透君たちを信じよう。彼らは、おそらくこの世で唯一、橘玲佳に対抗でき得る存在だ。いや、彼らこそ、『人類の新たなる可能性』を指し示す存在でもある」
リャン:「人類の新たなる可能性・・・?」
 その時、突如切羽詰った声で、隣のサポート員の一人が叫んだ。
サポート1:「大変です!第8地区に展開していた小隊が、全滅です!!」
サポート2:「ああ、第5地区の小隊も全滅しました!!」
サポート3:「11地区の部隊も壊滅状態です!!」
 サポートたちが次々と告げてゆく惨状を、リャンは瞬時には理解できなかった。
リャン:「何だって!!?どれも、ついさっきまで大した損害も受けていなかった部隊じゃないか!!やったのは、どこのどいつだ!!」
サポート1:「それが、レーダーには機影らしい機影が影も形も・・・」
 確かに、部隊が全滅させられた地区を追ってみても、レーダーにはシュミクラムの影も形も映っていない。
リャン:「これは・・ステルスの機体?軍の“ブリッツ”とかいうやつと似たようなもんか・・・。でも、コイツの動きは妙だ。コアに近づこうともせず、メチャクチャに転戦してやがる」
 その時、サポートの一人が叫んだ。
サポート4:「第15地区のダガー達が、次々と正体不明のシュミクラムに撃破されています!!こ、これは・・・?」
リャン:「そいつはレーダーには映らない!そこの映像を見せろ!!」
 そして、送られてきた映像を観て、リャンは息を飲んだ。
 ダガー部隊が、何も無い空間に必死にビームを浴びせかける。しかし、それらのビームは、いきなり空間の途中で弾かれてしまう。
リャン:「これは・・ミラージュコロイド!?でも、確かそれの使用中は、防御力ががた落ちするんじゃなかったのか!?」
 リャンがそう呟いたその時、まるでリャンに見せ付けるかのように、ソレは姿を現した。そこには、漆黒のシュミクラムが一機、黒いマントのようなものにくるまって、ダガー部隊の突進するさまがあった。
少年兵:「ひ、ひぃ!!」
 少年兵の駆るダガーは必死に漆黒のMSにビームを浴びせるが、黒いマントのようなものが全てのビームを弾いてしまう。
 そして、漆黒のシュミクラムは、ダガー達に猛スピードで突進すると、激突する寸前で突如上空に舞い上がり、そしてまるでダガー達に見せ付けるかのようにマントを払い、その異様な姿を曝した。
 全身から角が突き出たかのような鋭角的なフォルム。右手に握った、まるで死神のそれのような形をした、黒色のビーム刃を発する処刑鎌。今までマントだと思ったものは、背中に広げられた、左右両端に鉤爪のようなものが付いた、まるで悪魔の翼のような形をした姿勢制御機能を兼ねたスラスターだ。
 明らかに異様な風貌をした、ガンダムタイプのシュミクラム。V・S・Sの新型機“デスサイズ・ヘル”は、その容姿だけで見る者全てを完全に圧倒した。
??:「ひゃっははーはぁぁーー!!!」
 デスサイズ・ヘルは、明らかに聞き覚えのある耳障りな嬌声を発しながら、物凄いスピードで急降下、眼下で萎縮しきっていた三機のダガーを、黒色のビーム処刑鎌(デスサイズ)『デスペナルティー』の一振りで、一撃の下に殲滅した。
テロリスト:「くっ、ひ、怯むな!撃てぇ!!」
 部隊の中では比較的老練なパイロットの号令により、辛うじて我に返った周囲のダガーがデスサイズ・ヘルにビームを浴びせるが、デスサイズ・ヘルは背中の大型翼型スラスターによって恐るべき機動性を発揮し、ダガーのビームは掠めることさえできない。
??:「へへ、どうしたよぉ。当たんねぇなぁ!!!」
 デスサイズ・ヘルは瞬時に指揮官機に接近、デスペナルティの一撃の下に、それを斬り伏せた。
少年兵:「く、くそぉ!!」
残された若者達はビームサーベルを引き抜き、破れかぶれになってデスサイズ・ヘルに突撃する。しかし、デスサイズ・ヘルは一切回避行動をとろうとしない。
少年兵:「もらった!!」
 少年兵たちのビーム刃が、デスサイズ・ヘルを貫こうとした、その刹那!
??:「甘いぜぇぇ!!!」
 デスサイズ・ヘルのパイロットがそう叫ぶと同時に、デスサイズ・ヘルの膝部やつま先から突き出た角、そして翼の左右両端の鉤爪から、一斉にビーム刃が伸びる。そして次の瞬間、デスサイズ・ヘルは、人間業とは思えないアクロバティックな動きで素早く空中回転、飛び掛ろうとしていたダガーは、何が起きたかもわからないまま、複数のビーム刃に切り刻まれ、破壊された。
??:「まだまだぁ!!」
 更に、デスサイズ・ヘルは翼のクローを横に向け、そこから伸びたビーム刃で、まだ何が起きたのかわからず呆然としているダガーを、すれ違い様に斬り裂いた。
少年兵:「ひ、ひぃぃ!!」
少年兵:「あ、悪魔ぁぁ!!」
 残った兵の中に、最早戦おうとするものは皆無だった。完全に戦う意思を捨て、無防備に背後を曝して生き延びるために逃走しようとした少年兵たちだが・・。
??:「おいおい、逃げんじゃねぇよ!!」
 デスサイズ・ヘルの両肩にある砲口から、無数の球状の物体がばら撒かれる。ソレは、少年兵達を囲むようにして空中で停滞した。
少年兵:「ひっ!!?」
 正体不明の物体に、少年兵達が思わず足を止めた、その時だった。
 ヒュッヒュッ!!
 球状の物体から、突然一斉にワイヤーのようなものが伸びて次々と少年兵達を絡み取り、物凄い勢いで球体に激突させた。
少年兵:「!!!?」
 その球体、誘導式ワイヤーマインは、少年兵とぶつかった瞬間に零距離で炸裂!圧倒的な爆力で、声を上げる暇さえも与えず、少年兵たちを一人残らず砕け散らせた。
リャン:「な・・・・」
 まるで殺戮を楽しんでいるようなデスサイズ・ヘルのパイロットの戦い方に、リャンは激しい嫌悪、いや、憎悪といってもいい感情を覚えた。その瞬間。
??:「いよぉ、リャン、観てんだろぉ!見ての通り、『飛刀』はもうダメだ」
 デスサイズ・ヘルのパイロットが、リャンのよく知った声で喋り、リャンは我が耳を疑う。
??:「だから、今のうちに、テメェだけはとっとと脱出しろ。でないと、こいつらみてぇにぶっ殺されちまうぞ。愛する我が妹、リャンへ。フロム、ゲンハお兄ちゃん。なんちゃってなぁ、ギャハハハハ!!」
リャン:「ゲンハ!!?」
 間違い無い。デスサイズ・ヘルのパイロットは、ゲンハだったのだ!
リャン:「ゲンハが、そんな、どうして・・・・」
 リャンは、受け入れたくない現実を振り払うように、頭をぶんぶんと横に振るう。
確かに、ゲンハはクーウォンとはよく対立した。でも、だからって、家族同然に育ってきたクーウォンや自分を裏切るようなマネをするなんて、リャンには考えたくなかった。
リャン:「嘘だ、嘘だろ!?なあ、嘘だと言ってくれ、ゲンハぁぁ!!」
 最後は、ほとんど絶叫になっていた。
 しかし、ゲンハは冷徹に言った。
ゲンハ:「嘘じゃねぇよ。テメェの目と耳をおっぴろげて、よぉく俺サマを見ろよぉ。なあ、わかるだろ?間違い無く俺サマだろう?わかんねぇハズはねぇよなぁ。だって、子供の頃はおめぇ、よく俺サマの布団に潜り込んで、一緒に寝たもんなぁ!そんな俺サマを、見間違えるハズはねぇよなぁ!!」
リャン:「やめてぇ!!やめて、やめて、お願い、やめてぇ!!!」
 リャンは、自分の中の何か大切なものが引き千切られていく感覚に耐え切れず、ただ力無く喚き散らすことしかできなかった。
 リャンにもわかっていた。デスサイズ・ヘルのパイロットは、紛れも無く、リャンが今でもまだ密かに、兄として愛していた男、ゲンハだった。リャンの大切な想い出が、度重なる記憶操作の中でも忘れたくなくて心にしっかりと抱きしめていた大切な想い出が、今、最悪の形で裏切られたのだ!!
リャン:「そんな・・・どうして・・・ゲンハ・・・・」
 余りの現実に、リャンはその場に、力無くへたり込んだ。心の根っこの部分をズタズタにされたリャンには、立ち上がってサポートを続ける気力は、もう沸いてこなかった。
ゲンハ:「おい、どうした、リャン!いいから、さっさと脱出しろよぉ!!それとも、そんなにこの俺サマの、華麗なる『飛刀皆殺しショー』が観てぇのかよぉ!!そうか、だったらお望み通り・・・ごあぁ!!?
 突然、ゲンハの機体の顔面に、巨大なシュミクラムの拳が炸裂した!
ゲンハはそのまま、数仮想メートルも向こうに吹っ飛ばされる。
リャン:「あ・・あ・・・・。」
 リャンは、その光景に、強烈なデジャビュを感じた。そうだ。これは、確か子供の頃、ゲンハが他人に暴力を振った後と同じ・・・。
 そこには、巨大な重シュミクラム“ゼクアイン”が、静かなる怒りと共に立っていた!
リャン:「クーウォン!!!」
 
ゲンハは機体を飛び上がらせて素早く起き上がると、デスペナルティを構え、クーウォンと対峙した。フェイスウィンドウに映るゲンハの顔は、狂気に醜く歪んでいる。
ゲンハ:「いよぉ、クーウォン。まさか、テメェ自ら来てくれるとはよぉ・・」
 対してクーウォンは、静かな表情でゲンハを見つめていた。しかし、その表情には、なまじの怒り顔などとは比べ物にならないほどの怒りが、凝縮されていた。
クーウォン:「・・・我が子の不始末は、親がつけねば、と思ってな」
ゲンハ:「何だよ、今更親父きどりかぁ!?俺は知ってんだぜぇ!!全て思い出したんだ。テメェが俺サマ達に、リャンにだって、何をしたかなぁ!!
 ゲンハの表情が、純粋な『怒り』に歪んだ。それを見て、一瞬クーウォンの表情に、悲痛なものがよぎる。
クーウォン:「・・・玲佳に、聞いたのか?」
ゲンハ:「まぁな!まさか、「それはあの雌狐のまやかしだ!」とかは言わねぇだろうなぁ?」
クーウォン:「いや。おそらく、彼女の言ったことは真実なのだろう・・・」
 クーウォンは、大きく息を吸い、大きなため息を吐いた。
クーウォン:「確かに、私は、君達にはとても許されないようなことを数多くし過ぎた。今更父親のような顔をすることも、君に許しを請うことも、もうできないのだろうな・・。だから君は、玲佳に付いた」
ゲンハ:「よ~くわかってんじゃねぇか、オヤジさんよぉ。だったら、大人しく・・・・」
 ゲンハが、舌なめずりをする。
ゲンハ:「逝っとけや、このヤロオ!!!」
 ゲンハが飛び上がり、デスペナルティを一気に振り下ろす。クーウォンはそれを、構えを崩さぬまま、僅かに背後に引いてかわす。
 ゲンハはすぐに飛びずさり、両者は再び間合いを空けた。
クーウォン:「確かに、君が私を殺そうとするのは当然だ。だが、私はまだ死ぬわけにはいかない!!ゲンハ、君のような者を産み出してしまった責任を取るその日まで、私は君に、殺されるわけにはいかないのだよ!!」
 クーウォンが、拳法の『震脚』のような動作で、大きく踏み込んだ。その瞬間、クーウォンの殺気が、仮想の大地を大きく揺らす!
クーウォン:「ハァッ!!」
 重シュミクラムとは思えないスピードで、クーウォンはゲンハとの間合いを詰め、凄まじい蹴りをデスサイズ・ヘルの腹に見舞う。レールガン並の破壊力を持つその蹴りをくらい、ゲンハは溜まらず弾き飛ばされた。しかし。
ゲンハ:「けっ!その程度かよぉ!!逝ねやぁ!!」
 まともにくらったと見せかけて、その実後方に飛び退いて威力を完全に殺していたゲンハは、デスペナルティを掴み直すと、猛スピードでクーウォンに突進した。
ゲンハ:「うらぁ!!」
 ゲンハの斬撃を、クーウォンはビームサーベルを引き抜き、受け止める。
クーウォン:「甘い!!」
ゲンハ:「どっちがよぉ!!」
 ゲンハはつま先からビーム刃を射出、勢いよく振り上げた。
クーウォン:「クッ!!」
 クーウォンは素早くかわすが、完全に回避することはできず、右肩のシールド部を持っていかれる。
ゲンハ:「まだまだだぁ!!」
 ゲンハは残りのクローからもビーム刃を射出、クーウォンに飛び掛った。
クーウォン:「おのれ!!」
 ゲンハの人間を超越した凄まじい動きによって、四方八方から変則的に襲い掛かるビーム刃を、クーウォンは必死に捌くが、余りの人間離れした動きに、いよいよ捌ききれなくなる。
クーウォンは全身のバーニアの火炎放射から炎を噴出した。凄まじい勢いの炎に、ゲンハも堪らず後退する。
ゲンハ:「うぉっと!」
 クーウォンは、改めてゲンハの新しい機体を眺める。全身から無数の刃を生やした、まるで悪魔そのもののような異容。それは、ゲンハ自身が、もはや人である事を捨ててしまったと言っているかのようだった。
クーウォン:「ゲンハ・・・、お前は、本当に悪魔になってしまったのか!?」
ゲンハ:「はぁ!?何言ってんだよ、テメェ!!!」
 ゲンハが、ワイヤーマインを無数に射出する。それがワイヤーを射出する前に、クーウォンも連射式超高火力ナパーム砲を構え、連射式ナパーム弾でワイヤーマインを次々と撃ち落す。
 しかし、その爆煙が晴れぬうちに、ゲンハは肩部のビームブーメランを引き抜いて投擲した。ビームブーメランは猛スピードで飛来し、クーウォンに直撃。重装甲によって大したダメージにはならなかったものの、クーウォンの体制を大きく崩す。
 その隙に、ゲンハはミラージュコロイドで姿を消して急接近、クーウォンの頭上で再び姿をあらわした!
クーウォン:「うおっ!?」
ゲンハ:「らぁぁ!!」
 デスペナルティによる斬撃を、クーウォンは辛うじて反応しかわすが、ナパーム砲の砲身が切断され、閃光を発して消滅する。
ゲンハ:「俺が悪魔になっちまった、だってぇ!!?」
クーウォン:「!!」
ゲンハ:「テメェがそうしたんだろうがぁぁ!!」
クーウォン:「ぐうっ!!!」
 ゲンハの言葉が、クーウォンの心の痛みを痛烈に抉る。更に追い討ちとばかりに飛び掛ったゲンハの斬撃が、クーウォンを容赦無く切り刻んだ。だが、クーウォンは、それに対し一歩も退かなかった。
クーウォン:「確かに、私は取り返しのつかない過ちを犯した・・・」
ゲンハ:「!!?」
クーウォン:「だが・・いや、だからこそ!もう二度と人が過ちを犯さぬよう、私は生きて、戦わねばならないのだよ!!奥義!!!!
 ゲンハの斬撃の隙を突いた必殺の正拳が、カウンターの形でデスサイズ・ヘルのボディ目掛けて放たれた!
しかし・・・。
ゲンハ:「甘めぇな!!」
 必殺のタイミングで放たれたそれを、ゲンハは鎌の柄で、あっさりと叩き落してしまった。
 更に、日頃の鍛錬によってパターンが意思に刻み込まれ、それ故の最高速度で放たれたクーウォンの追撃連撃(コンボ)を、ゲンハはそれを上回る圧倒的な速度の体捌きで、全て受けきってしまった!
クーウォン:「ば、馬鹿な!!?」
 弾き飛ばされて膝を付いたクーウォンを、ゲンハは悠々と、しかしありったけの憎悪が篭った視線で見下ろしながら言った。
ゲンハ:「何もバカなことはねぇよ。今の、テメェお特異の『意志の速さがネットでの動きの速度を云々』って話だろぉ。だったらよ、テメェも知ってるだろぉ。この俺サマの直観力、つまり『意思のスピード』はよぉ、誰よりも速えぇ。なにしろよぉ・・・」
 そして、ゲンハはクーウォンを、悪鬼のような目で睨み付けた!!
ゲンハ:「テメェがそう、『作った』んだからよぉ!!!」
 ゲンハの絶叫と共に、デスサイズ・ヘルの全身からビーム刃が射出、ゲンハは人を超えた速度で、人を超えた動きでクーウォンに突進、クーウォンの腕を、脚を、次々に斬り飛ばしていった!!!
クーウォン:「があぁぁ!!」
 そして、クーウォンは気が付いたときには胴体だけのダルマにされて、無様に地面に転がされていた。
ゲンハ:「へへ、ザマぁねぇな、クーウォン!」
クーウォン:「くぅっ!」
 デスサイズ・ヘルの両腕に装備された小型のシールドの右腕のもののエッジ部分が、一秒間に数十回の超振動を始める。
ゲンハ:「テメェの育てた闇に食われて、死にやがれぇぇぇ!!!」
 全てを切り裂く刃を化した右腕を、ゲンハがゼクアインのコックピットに突き立てようとした、その時だった!
??:「クーウォン!!!」
 ゲンハに向かって、一条のビームが放たれ、ゲンハはそれをかわし、クーウォンとの間合いは開いた。
ゲンハ:「おい、おい、何やってんだよ!!なんでここに出て来るんだよぉ!!ええ、リャン!!
 完全に取り乱して叫ぶゲンハを見据えた、クーウォンを救ったシュミクラム。それは“ナタク”。リャンのシュミクラムだった。


 一方その頃。
 透たちは、二機のシグーと戦いながら、不意に異様な胸騒ぎを覚えた。
透:「!!?」
 大切な何かが崩壊していくような、言い知れぬ不安な衝動。透は思わず叫んだ。
透:「アシュラン!!」
アシュラン:「ああ・・・。早く、決めなければ!!!」
 どうやら同様の不安を覚えたらしいアシュランが、突進してくる一機のシグーに向かって、ビームブーメランを投擲する。そして、シグーがそれを防いで無防備になった瞬間を狙って、透はビームサーベルを引き抜いて突進した。シグーは突進してくる透に対応して盾のスタンボルトを発射しようとするが、その前に、戻ってきたビームブーメランが背後から、シグーの盾が装備された左腕を切り裂く。同時に間合いに入り込んだ透が、一瞬でシグーの右腕と頭部を切断、シグーは完全に無力化された。
透:「よし、あと一機!!」
 アシュランはファトゥム-00を垂直に倒して肩に装着、突進力を高めると、ビームサーベルを抜いて残る一機のシグーに突進した。そして、ファトゥムの機関砲やフォルティスビーム砲を放ってシグーにスタンボルトを使う隙を与えずに接近、左腕を斬り飛ばす。同時に逆方向からスピード全開で突進してきた透が、右腕を斬り裂いた。
透:「よし、一丁上がりだ!!俺たちのコンビも、いい感じになってきたな」
アシュラン:「ああ。しかし、この胸騒ぎは・・・・・」
 そして、アシュランが周囲の状況を映し出したレーダーを見て、叫んだ。
アシュラン:「このシュミクラムの反応は、“ナタク”!!?どうして、リャンが戦場に・・・・?」
 そう言われて透もレーダーを覗き込む。
透:「リャンだけじゃない、近くにゼクアイン、クーウォンもいる!!・・・これは、かなりいやな予感がするぜ!!」
アシュラン:「コアへの通り道でもあるな・・。よし、急ごう!!!」
透:「ああ!!」
 そして二人は、纏わり付く嫌な予感を振り払うように、構造体を全速力で突き進んでいった。


 クーウォンの危機に、居ても立ってもいられずシュミクラムで出撃したリャンは、禍々しい悪鬼の如きシュミクラムに乗るゲンハと対峙した。
ゲンハ:「な、なあ、リャン、頼むから止めてくれ。俺はオメェとは戦いたくねぇ。」
 一緒に戦ってきた仲間たちだけではすまず、育ての親のクーウォンにまで刃を向けておきながら、自分を目の前にした途端に引け腰になったゲンハのその態度に、リャンの怒りは余計に煽られていった。
リャン:「だったら、アンタがその機体を引くんだね、ゲンハ!!」
 リャンは、ツインビームトライデントを出力させて構える。裏切られた怒りに煮えくり返っていたリャンは、この男をただで許すつもりはなかった。
リャン:「もちろん、その前にアタシがしっかりと、アンタが今したこと後悔させてやるけどね!!・・・クーウォンまでこんなにしやがって!!アンタ、クーウォンに育てられた恩を、忘れたのか!!!」
 そうだ。ゲンハは、自分と共に、クーウォンの下でまるで兄妹のように育ってきたのではなかったか!?あの日々は、辛いことも少なくなかったが、それでも、絶対に忘れたくないくらい、掛け替えの無い想い出たちだったのに・・・!!
ゲンハ:「い、いいか、リャン、落ち着け!!お前は知らないんだ、クーウォンが、俺たちに何をしたか。俺たちがこんなに苦しんでいるのも、元はと言やぁその男のせいなんだぜ!!」
 ゲンハの言うことはこれっぽっちも理解できなかったが、リャンは、クーウォンが自分たちに何らかの『引け目』を負っているのを、以前から感じていた。だから、今ゲンハの言っていることは遠からず真実なのだろう。だが、そうだとしても、それを上回る愛情と誠意をクーウォンから受けた自分たちがクーウォンを恨む道理は無いと、リャンは考えた。
リャン:「それでも・・クーウォンは、アタシのオヤジだ!!それを殺そうとするなら、例えアンタでも許さない!!
クーウォン:「リャン・・・・」
リャン:「ハァ!!」
 リャンの掛け声と共に、ナタクの腕裏部から『ドラゴンファング』を放つ!有線ケーブルでコントロールされ、自由自在に動き回る双頭の竜が、口部のビームガンをゲンハに向けて放った。
ゲンハ:「止めろ、リャン!!俺サマにこれ以上構うんじゃねぇ!!!」
 多角から撃ち掛けられるビームをかわしながら、ゲンハは叫ぶ。
リャン:「うるさいっ!!・・・くそっ、本当は信じてたのに!!本当は、今でも大好きだったのに!! 本当はずっと、兄貴だって、そう思ってたのに!!!
 リャンがまだ子供の頃、一人の夜が不安になると、必ずゲンハの布団に潜り込んだ。ゲンハは、少し乱暴で独善的なところがあったが、寂しい時、苦しい時は誰よりも頼りになる、いい兄だった。
そして、あれはもっと子供の頃、あの施設に入るより前の、本当に微かな記憶の残滓。両親を亡くして泣き崩れるリャンを、優しく、強く抱きしめてくれたのは、同時に自分も両親を亡くしたゲンハだった。あの時、この世の全てに絶望していたリャンに、生きる気力を与えてくれたのは、まだ自分より少ししか大きくなかったゲンハの、力強い温もりだったのだ。
リャン:「ちくしょぉぉぉ!!!」
 リャンはその全てを振り払うように、トライデントをゲンハに向かって振り下ろす。ゲンハはそれをデスペナルティで受け止めながら、尚も叫ぶ。
ゲンハ:「リャン、俺に殺気を向けるなぁ!!!殺し合いが始まれば、俺はもう、止まらなくなっちまう!!!」
 しかし、どうしようもない悲しみと、行き場の無い怒りに駆られたリャンには、ゲンハの言葉は耳に入ってこなかった。
リャン「どうして裏切ったんだ!!?どうして雌狐なんかに付いたんだよぉぉ!!!」
 リャンは、尚もビームトライデントで、ドラゴンファングで、ゲンハに打ち掛かる。
ゲンハ:「止めろ・・、攻撃すんな、そんなことしたら、俺の頭ん中の『悪魔』がまた目覚めちまう!!今でも『お前を食い尽くせ』ってしつこく命令してるそいつに、俺は負けちまう!!」
リャン:「今更言い訳すんな!!何が『悪魔』だ!!!」
クーウォン:「!!リャン、それは・・・」 
ゲンハ:「リャン、お前と同じだ。俺のこの頭ん中の『悪魔』の命令には、どうやったって逆らえねぇ。お前がたまに、成す術無く記憶を失っちまうのと同じにな。今は、お前が無くしたくない記憶を忘れないみたいに、何とか抑えているが、それももう限界だ!ヤツは、戦いのせいで強くなってやがる。だから、だから早く逃げろぉぉ!!!」
リャン:「うるさい!!さっさと黙って殴られろ!!!」
 リャンが放ったドラゴンファングは、大きな牙を広げ、両側からゲンハを狙った。リャンの斬撃を受け止めるため、前方にのみ注視していたゲンハは反応が遅れ、気付いた時にはかわせないタイミングとなっていた。
ゲンハ:「くっ!!!」
 ゲンハは、咄嗟に翼の両端のビームクローを射出、両脇のドラゴンファングを同時に斬り裂いた。
 そして、それが崩壊の始まりだった。
ゲンハ:「!!?ひ・・ひひひ・・リャンに攻撃しちまった。俺の大事な大事な、愛するリャンに、遂に刃を向けちまったぁ・・・・。ぎゃは・・あはは・・・・ぎゃーっはっはっはっはっは!!!!
リャン:「!!!?」
 突然、ゲンハの雰囲気が変わった!!!
 狂ったように笑うゲンハからは、『人』としての理性は完全に失われ、残ったのは、ただ血を吐くように笑う、凶悪な餓鬼の気配だけだった!!!!
ゲンハ:「・・もうダメだぁ!!もう止まらなねぇ!!!ああ、殺してぇ!!! 殺してぇよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
リャン:「なっ!?」
クーウォン:「逃げろ、リャン!!!!」
 クーウォンは叫んだ。しかし、クーウォンの声がリャンに届くより更に早く、ゲンハは人とは思えないような殺気を振り撒きながら、凄まじいスピードで大鎌を振り上げ、リャンに斬りかかった。
その様は、正に、『恐怖』そのものだった!!
リャン:「ひぃっ!!!?」
 リャンの全身から、完全に血の気が抜ける。
 怖かった。信じられないくらい、怖かった。あの時、ゲンハにレイプされかけたときよりも、もっともっと、比べ物にならないくらい、怖かった!
 ゲンハは、既に『ゲンハ』では無かった。あの、自分にのしかかってきたときよりも、もっと、別のモノだった!いつも自分を守ってくれた優しい兄だったゲンハが、今やただ純粋な、得体の知れぬ『殺気そのモノ』に変貌して、今、一直線に自分に向かってきたのだ!!
 リャンは咄嗟に、ビームトライデントで自分を庇った。それは、もう『防御』とも考えていないような、ただ純粋に本能的な危機回避行動だった。
 しかし、ゲンハは異常なまでに鋭い太刀筋で、瞬時にトライデントを斬り裂いた!
ゲンハ:「あぁ、この感触!!キッッモチイイぜぇぇ!!!もっと、もっと斬らせろ!!もっと、もっと壊させろ!!もっと、もっと殺させろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
リャン:「ゲ、ゲンハ、止めて・・・」
 衝動に駆られるままリャンの全身を斬り刻むゲンハには、最早、リャンの言葉も完全に届かなかった。いや、それを『言葉』として認識することすら、今のゲンハには不可能だっただろう。
 『殺意』という名の情動の塊となったゲンハは、そのまま大鎌を振り上げ・・・。
リャン:「お兄ちゃん、助けて・・・」
 リャンの脳裏に、昔の記憶が蘇る。怖い『実験』に連れていかれそうになるリャンを、大人たちに殴られながらも、必死になって守ろうとしたゲンハの姿が・・・。
 そして次の瞬間、ナタクのコックピットを、リャンを、ゲンハの大鎌が貫いた。
クーウォン:「リャンーーーっ!!!!」


 透と共に全速力で飛んできたアシュランは、『その光景』を見てしまった。
 明らかにゲンハのものとわかる、死神のようなフォルムのシュミクラムと、その手に持った処刑鎌に貫かれた、もう一機のシュミクラム。
 ああ、そうだ。そのシュミクラムは、ナタク。そのパイロットは・・・。
アシュラン:「そんな、嘘だ、嘘だろ・・・・。」
 アシュランは、思い出す。目の前で喪われた、守れなかった大切な命。今度こそは守れると、力を手にし、そう思ったのに・・・。
リャン:「お・・兄・・・・ちゃん・・・・・・・・・」
 リャンが、ゆっくりと崩れ落ちる。
アシュラン:「――――――――――――――!!!!!」
 アシュランは、全てのスラスターが限界に悲鳴を上げるのにも構わずに、全速力でリャンに駆け寄った。
 そして、アシュランの手がリャンに触れる直線で・・・。
 目も眩むような閃光を発して、リャンは消滅した。
アシュラン:「あ・・・?あ・・ああ・・あ・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


透:「そんな、そんな・・・・・」
 透は、信じられない思いでその光景を見つめていた。
 目の前には、ゲンハの駆る死神と、うなだれるクーウォンと、そして再び愛する人を目の前で喪って慟哭するアシュラン・・・。
 透は思い出す。実の兄妹ではなかったけれど、透と妹の兄妹と同じ位仲が良かった、男の子と女の子のことを・・・。


女の子:『ううぅ・・えっぐ・・・・』
 怖い『実験』から帰って来た女の子は、憔悴しきった表情で、力無く泣いていた。きっと、よっぽど恐ろしい思いをしたのだろう。
 すると、背の高い男の子が真っ先に駆け寄り、女の子を抱きしめた。
男の子:『守れなくて、ゴメンな。でも、今度は絶対、リャンのこと守るから!』
 女の子は、リャンは男の子の顔を見上げ、そし息を飲んだ。男の子の顔は、リャンを庇うために大人達に抵抗した時、大人たちの反撃を何度も何度も受け、あちこちが腫れ上がっていたのだった。
リャン:『ゲンハ!!?いいよ、もう。そんなになってまで、アタシなんかのこと守らなくても・・・・』
 しかし、男の子は、ゲンハは泣き言一つ言わず、ただ力強く、優しく笑って言うのだった。
ゲンハ:『こんぐらい、何ともねぇよ。リャンの痛みに比べたら、俺の痛みなんて、大したことねぇ!』
リャン:『ゲンハ・・・・・』
ゲンハ:『だから、もっともっと強くなって、今度こそ絶対、リャンを守ってみせるんだ!!』
リャン:『ゲンハぁ!!!』
 ゲンハに縋って泣くリャンを、とても優しい瞳で見つめながら、ゲンハは優しく、リャンの頭を撫でた・・・・・。


透:「それが・・・どうして、どうして!!?」
 透は、ゲンハに向き直った。不思議と、今の記憶が真実であると、透は確信できた。
ゲンハ:「ひぃひひひ!!楽しい、楽しいなぁ!!人殺しは楽しいなぁぁぁ!!!」
 狂ったように、いや、狂って笑うゲンハを見て、透は遣りきれずに叫んだ!
透:「どうしてお前が、リャンを殺すんだよ!!!!?」
 透はビームサーベルを掲げてゲンハに突進し、ゲンハはデスペナルティで透の斬撃を受け止める。
透:「お前、リャンを守るって、そう言ったじゃないか!!!!」
 しかし、フェイスウィンドウに映し出されたのは、既に理性の崩壊した、一人の悪鬼の顔だった。
ゲンハ:「ひゃはははは、うひゃははははは、ひゃーはっはっは!!!!!」
透:「ゲン・・・ハ・・・・・。」
 ゲンハのその笑い声は、透には、血の涙を流しての慟哭のように聞こえた。
 その時だった!・・・・不意に、構造体が揺れた!!
透:「!!!?・・・・これは・・・・何かマズイ!!!!」


 厳重な仮想のシェルターの中で、憐はこの戦闘の様子を見ていた。
 いや、見させられていたのだ、橘玲佳に。
 玲佳から送られてくる映像は、とでも凄惨で、目と耳を覆いたくなるものばかりだった。
憐:「どうして・・どうして、こんなことになるの? どうして・・・・・・。」
 次々と人が死んでゆく、そんなあまりにも惨たらしい映像が、憐の全周囲に一方的に送られてくる。これは、もはや拷問だった。
憐:「いやぁ・・こんなの、見たくない!憐、こんなの、いやだよぉ!!助けて、助けて、お兄ちゃん・・・・」
 その時だった。憐の耳に、微かに聞き覚えのある声が、飛び込んできた。
??:『お兄ちゃん、助けて・・・』
憐:「!?・・・これ、まさか・・・・」
 憐は、声のした方を見て、そして信じられないものを見た。
 死神のようなシュミクラムに貫かれる、カーキ色のシュミクラム。通常の人間よりもはるかに『ネットに対する親和性の高い』憐には、それらのシュミクラムに乗っているパイロットが、ハッキリとわかった。そして、パイロットの顔は、二人とも、憐にとって非常に懐かしい顔だった。
憐:「なんで・・・?なんであの二人が、こんなことになってるの?だって、だってあの二人・・・・。」
 憐は、覚えていた。自分たち兄妹と同じ位仲の良かった、男の子と女の子のことを。女の子は、憐が兄にするのと同じように、悲しい事や苦しい事があった時、男の子に頼った。そして、男の子も、兄が憐にしてくれるのと同じように、女の子に悲しい事や苦しい事があった時、必ず女の子を守った。
 しかし、今、憐の目の前で、あの時の男の子が、あの時の女の子を殺したのだ!
憐:「そんな・・・どうして?うそだ、うそだよね・・・・?」
 しかし、そんな憐の想いを裏切るように、女の子のシュミクラムが、女の子の命が、激しい閃光を発して消滅した。
憐:「いや・・いやぁ・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


飛刀のサポート:「大変です、クーウォンさん!構造体内に突如、膨大なデータ密度を持つ謎の物体出現!!これは、おそらく、セラフィムです!!!」
 泡を食いながら必死に連絡する飛刀のサポートの声は、透にも届いた。
 そして、次の瞬間だった。

セラフィム:「グオォォォォォォォン!!!!」

 凄まじいセラフィムの咆哮が、構造体内全てに響き渡った!!
 次いで、ゲンハに、橘玲佳からの通信が入る。
玲佳:「ゲンハ!予定通り“セラフィム”が発動したわ。ここにいると危ないから、そろそろ退避しなさい」
 しかし。
ゲンハ:「うひゃひゃひゃ、あひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」
 新しい雇い主となった玲佳の声も、完全に壊れてしまったゲンハには届かなかった。
玲佳:「くっ・・・・。仕方、ないわね」
 玲佳がそう呟いた瞬間、ゲンハのシュミクラム体が不意にネット空間から消失した。おそらく、玲佳が『強制離脱(アボート)』をかけたのだろう。
 その時、あたりの景色が歪んだ。そして、周囲の映像がコマ飛びになる。膨大なデータ量を持つ“セラフィム”の出現によって、AIが悲鳴を上げ、そのためこの地域のシミュレートに障害が発生しているのだ。
透:「・・・なるほど、それで、限界に達したAIがこの地域のシミュレートを拒否すれば、DOS攻撃の出来上がりってか!?まったく、とんでもないな!!」
 次いで、構造体の壁面が、次々に崩壊してゆく。AIが負荷を下げるために、次々と不要なプログラムのシミュレートを放棄しているのだ。つまり、それは、この構造体の崩壊の足音のようなものだ。
 それの様まるで、一つの惑星が、巨大なブラックホールに飲み込まれていくのをイメージさせた。ネット兵器“セラフィム”、それはつまり、ネット世界内における、惑星を丸ごと一つ飲み込む人工ブラックホールのようなものだった!
透:「しかし、橘玲佳のやつ、この構造体を、セラフィムの威力を測る実験台にしやがったな!!それに、セラフィムを使うってことは、あいつ、憐に一体どんな酷い事をしやがったんだ!!!」
 その時、飛刀のサポーターから、DOS攻撃の影響で声が奇妙に波打った通信が入る。
サポーター:「クー・・・ウォン・・さん!! 早・・く・・脱出・・・・・・」
透:「そうだ、クーウォン!!!」
クーウォン:「・・・・・・・」
 愛娘を愛息子に眼前で惨殺されたクーウォンは、今までの威厳がまるで嘘のように、放心しきっていた。
透:「クーウォン、ここは危ない!!さっさと脱出するんだ!!!」
クーウォン:「・・・・・・・・・・・」
透:「あんたは、『飛刀』のリーダーだ!あんたがこんな所で死んだら、ここの人はどうするんだ!!!」
 その時、ようやくクーウォンの瞳に、理性の輝きが戻った。
クーウォン:「・・・・そうだな。ここの住人を、脱出させねば・・・・」
 クーウォンは、ようやくそれだけを力無く呟くと、構造体内から離脱した。
 その時、バチェラからの通信が入る。
バチェラ:「透、アシュラン。キミたちも早く脱出するんだ!!」
透:「バチェラ!!月菜は!!?」
バチェラ:「月菜もここだ!他にも、生き残った人たちはみんな離脱してる!構造体内にいるのは、もうキミたちだけだ!!!」
透:「だってさ!行くぞ、アシュラン!!・・・・アシュ、ラン・・?」
 アシュランは、リャンが消えた場所に蹲ったまま、その場を動こうとしなかった。
アシュラン:「リャン・・・リャン・・・・・・」
 透の胸が、強く痛んだ。リャンがアシュランの死んだ恋人にそっくりだという話は聞かされていたが、アシュランがリャンを大切に想っていたのは、それだけが原因ではないということは透にもわかっていた。それほどまでに大切な人を、アシュランは二度までも、しかも同じ男の手で、永久に奪われたのだ。
 しかし、今は悲しんでいる場合ではなかった。
透:「アシュラン・・・、とにかく、今は脱出するんだ!じゃないと、ヤツが来る!!」
 その時だった!まるで、透のその言葉が引き寄せたかのように、セラフィムが、突如として透たちの眼前に出現したのだった!!
透:「何だって!!!?」
バチェラ:「そんな!?あれだけの距離を、一瞬で!!まさか、瞬間移動したのか!!?そんなの、普通なら不可能なはずだ!!・・・ヤツは、ネットロジックをも超越するっていうのか!!!!?」
セラフィム:「グオォォォォォン!!!!!」
 突如として、空間がグニャリと歪む。おそらく、これがDOS攻撃の波なのだろう。これに囚われた瞬間、あまりの過負荷によって、透の電子体と実体を繋ぐシルバーコードは、切断されるのだ!!
透:「くそっ!!そう簡単に、やられてたまるか!!!」
 透はセラフィムに、必殺のフルバーストをお見舞いする! しかし、必殺の一斉射撃は、セラフィムの目の前で見えない壁のようなものに弾かれ、かすり傷さえも与えることができない。
透:「こいつ、バリアまで持ってるのか!!・・・バチェラ、アシュランを強制離脱(アボート)させろ! それから俺もだ!今ちょっと、手が離せそうにない!!!」
 透のその言葉と同時に、セラフィムから無数の光る羽が舞い上がり、次々と光弾に変化、透に襲い掛かる!透はそれをマルチロックオンの射撃で次々撃ち落して応戦するが、あまりの数と威力に、長くは持ち堪えられそうにない。
 何より、DOSの波は、確実に迫っている。このままじゃ、間違い無く殺られる!!
バチェラ:「わかった!!」
 バチェラが叫んで、アシュランの姿が消失した。しかし、次の瞬間、DOSのうねりが勢いよく襲いかかり、透はそれに、成す術無く飲み込まれた。
透:「く、くっっっそぉ!!!!!」
 そして、その瞬間、透の五感は、実体(リアルボディ)と完全に切断(ディスコネクト)されたのだった。


『切断(ディスコネクト)』


『反転(フリップ・フロップ)』


『強制離脱(アボート)』


透:「う・・・・・」
 アボート特有の不快感を脇に押しやり、透はニューロジャックを引き抜いた。周囲で、月菜が心配そうに覗き込んでいるのが見える。ということは、どうやら透は生きているようだ。強制離脱の寸前、セラフィムのDOSをモロに浴びてディスコネクトされてしまったような気もしたが、それはバチェラの強制離脱がほぼ同時だったことによる、錯覚というものだったのだろう。
透:「バチェラ、ありがとう。間一髪だった、助かった・・・・・・」
 そこで、透はバチェラの視線の先に気が付いた。
 アシュランが、リャンを抱いて、泣いていた。
アシュラン:「リャン、リャン・・・どうして、どうして!!!?」
 リャンは、まるで眠っているように、安らかに目を閉じていた。しかし、リャンの寝顔には、生気がない。リャンは息もしていない。いや、これからも息をすることはないのだ。永久に。
月菜:「透・・・・」
 月菜の目にも、涙が溢れている。透が生還したことによる安堵とは別の、全く別の、悲しみの涙。
 そうだ。リャンは、死んだのだ。
透:「アシュラン・・・・・」
 透は知っていた。大切な者を喪う悲しみを、辛さを。だから、絶望に打ちひしがれる友に何の言葉をかけてやることもできない自分の無力さを、ただ呪うことしかできなかった。
 その時、クーウォンが、アシュランの肩を優しく叩いた。
クーウォン:「アシュラン・・・、済まないが、今は立ち上がってくれ」
アシュラン:「クー・・・ウォン?」
 アシュランは涙で溢れた瞳で、クーウォンを見上げた。クーウォンは、絶対的な悲しみの中で、それでも静かに、悲しげに笑っていた。
 そしてその姿は、透の脳裏に、記憶にもない『父親』の姿を、強く思い起こさせた。
クーウォン:「まずは、皆に例を言わねばならないな。この状況で、我々に力を貸してくれて、有難う。おかげで、生き残った住民の全てを避難する時間を、稼ぐことができた・・・」
 クーウォンは、ゆっくり透たちを見回すと、ふかぶかと頭を下げた。愛娘を喪った悲しみを精一杯押し殺してのそれは、見ていて息が詰まるくらい、痛々しかった。
クーウォン:「だが、あの“セラフィム”のDOSによって、セキュリティ・コアは完全に破壊された。ここは、もはや丸腰も同然だ。程無くして、軍の実働部隊が、ここに押しかけてくるだろう・・・・」
 確かに、外からはまだ微かにだが、散発的な銃声や爆音が聞こえてきた。
クーウォン:「だが、安心したまえ。君達の脱出経路は、既に確保してある。非常用の五番ゲートから脱出したまえ。そして、この紙に書かれてある場所に行くがいい。君達を匿ってくれる人物とは、既に連絡が付いている。その人物とは、そこで落ち合えるだろう」
 そう言うと、クーウォンは小さな紙片を、近くにいたバチェラに渡した。
透:「でも、クーウォンは!?」
 今の話を聞く限りでは、『脱出する人』に、明らかにクーウォンは含まれていなかった。
クーウォン:「私は、もう少しだけここに残る。やらなければならないことも、あるのだしな」
透:「ちょっと待ってくれ!クーウォン、何か俺達に、話があるんじゃなかったのか!!その話もしないで、俺達を置いていくつもりかよ!!!」
 すると、クーウォンは、悲しげに吐息を吐いた。
クーウォン:「そうだな・・、時間も無くなってしまったし、全部話すことはできないが・・・少しだけ、聞いてくれ」
 そう言うと、クーウォンはアシュランから、リャンの亡骸を抱き取った。アシュランも、何も言わずにリャンから手を離した。クーウォンが、今にも壊れそうな表情をしていたからだ。
クーウォン:「透君とバチェラ・・・、君たちが、それぞれ施設や笹桐の家に引き取られる前は、私達と暮していたことは、もう思い出しただろうか」
 その一言に、月菜が驚いて透を見た。
 しかし、透は驚かなかった。あの戦闘中、透が見た映像は、今まで夢として見ていた遠い記憶を、僅かながらだが呼び覚ましていた。だから、何となくだが、それを聞いても、すんなりと納得できるのだった。
 そして、それはバチェラも同じようで、彼女はただ、一度頷いただけだった。
クーウォン:「そうか・・・。では、話が早い。そうなる経緯については、今話している時間は無いし、君達とこれから出会うことになる人物が話してくれるだろう。とにかく、君達と私は、あの橘玲佳に追われ、一時期、あちこちを転々とする逃亡生活を送っていたことがあったのだ」
 それも、思い出した。あの山奥の、山荘での生活。あの頃は『リー先生』と呼んでいたクーウォンと、バチェラと、そしてゲンハとリャンとの生活。
クーウォン:「だが、遂に逃げ切ることが難しくなってな・・・。私は仕方なく、最後の砦、ここ、レベル7に逃げ込むことに決めた。その頃から、ここにはまだ小規模ながら、橘玲佳の洗脳政策と戦うための組織がアジトを構えていた。いわば、『飛刀』の前身だな。だから、私はそこに匿ってもらうことにした」
 おそらく、それから数年間で、クーウォンは玲佳と戦うために、『飛刀』を結成、組織を大きくしたのだろう。しかし、何故そんなことに、リャンとゲンハを巻き込んだのか。
 それに答えるように、クーウォンは続けた。
クーウォン:「その時私は、戦いの始まりを覚悟した。だから、まだ幼い子供たちは連れて行けないと思った。透君を、私の古くからの友人だった笹桐の家に、そしてバチェラ、いや、ひかる君を孤児院に、それぞれ預けたのだ・・・」
 そこで、再び月菜が、驚愕に目を見開く。
月菜:「あ、あたしのお父さんが、クーウォンさんと知り合い・・?」
クーウォン:「そうだ。そこら辺の経緯も、長くなるので省くが・・・、彼は、私の数少ない、心を許せる親友だった。数年前、風の噂で他界したと聞いた時は、三日は食事が喉を通らなかったよ。しかし、その娘である君が、私の提唱してきた『人類の更なる可能性』に、何の措置もなくして目覚めるとは・・・、運命というのは、皮肉だな」
月菜:「・・?」
クーウォン:「話を戻そう。そうして、私は二人を安全な所に預けた。しかし、リャンとゲンハだけは、どうしても私の手元から離すわけにはいかなかった。アシュラン君には、何故だかわかるな」
アシュラン:「ええ・・・。リャンも、ゲンハも、何らかの補助チップによる異常を抱えていた。リャンは、突発的に数年間もの記憶のほとんどを失う病気を、ゲンハは・・・非人道的な行為に強い快楽を覚えるという異常を、それぞれ持っていた。だから、二人は、その原因を知り、対処法を知るあなたの下以外では・・・普通に生活することさえ、できなかった・・・」
クーウォン:「そうだ・・・。これでも、苦渋の決断だった。結果的に・・・それが、大きな誤りだったがな・・・・」
 クーウォンは、冷たくなったリャンの躯を、強く、強く抱きしめた。
クーウォン:「二人とも・・・とても、優しい子だった。私は二人を、玲佳との戦いには巻き込まぬようにしてきたが・・・二人は、私の役に立ちたいと、そう言ってきた。そして、リャンは武術と通信術を必死に身に付け・・・・・・・」
 クーウォンの目から、堪えきれなくなった涙が零れ落ちる。
クーウォン:「ゲンハは・・不足しがちな戦力を補うために、私が止めるのも構わず、シュミクラムに乗り・・・そして、心を悪魔に、蝕まれていった・・っ!私の、せいだ!!あの時、私がなんとしてでも止めなければならなかった、いや、そもそも、彼らを私の手元に置くべきではなかった!!・・・・私は、父親失格だ。私は、あの時、ゲンハがパイロットに志願したとき・・・・不覚にも、少し安心してしまったのだ!ゲンハは強い。これで、決定的な戦力が手に入ると、全てを知っていながら、あの子には戦わせてはならないと知っていながら、心のどこかで思ってしまっていたのだ!!・・・・それが、アシュラン君の恋人を殺し、沢山の罪もない人を殺し、ゲンハ自身の心を壊し、そして・・・リャンを、殺したっ!!!!
 クーウォンは、嗚咽した。それは、愛する子を喪った父親としての、あまりにも悲しい嗚咽だった。
しかし、クーウォンは気丈にも、すぐに涙を拭ったのだ。
クーウォン:「・・・済まない。さあ、もう時間が無い。暫らくのお別れだ。すまないが、君達を一人一人、抱き締めさせてくれ」
そう言って、クーウォンはリャンの亡骸をひとまず床に横たえると、まずバチェラを抱き締める。
クーウォン:「ひかる君、君には、とても孤独な想いをさせてしまったね・・・。でも、君はもう一人じゃない。周りにいる仲間たちを、友人たちを、大切にするんだ・・・・」
バチェラ:「・・・はい」
 バチェラは、強く頷いた。
 クーウォンは、次に月菜を抱き締める。
クーウォン:「月菜君・・・、君は、本当に若い頃の笹桐に、よく似ている。情熱的で、真っ直ぐだ。天国の笹桐も、君の成長を見て喜んでいるだろう。君まで妙な戦いに巻き込んでしまったことは、本当に済まなく思っているが・・・、透君を、よく支えてあげてくれ」
月菜:「・・はい」
 月菜は、真摯な表情で頷いた。
 クーウォンは、次にアシュランを抱き締める。
クーウォン:「アシュラン君・・・君には、本当に、何回この命を以て詫びても、償い切れぬようなことをしてしまった・・。恨むなら、私を好きなだけ恨んでくれてもいい」
 しかし、アシュランはゆっくりと、首を横に振った。
アシュラン:「いえ・・・。あなたは、ただあなたが正しいと思うことをしただけです。一連の事件は・・・全て、不幸な出来事の連続で起きてしまったのだと、俺は思ってます・・・」
 その言葉を聞いて、クーウォンの目から、新たな涙が溢れる。
クーウォン:「そう・・・か・・。不幸なめぐり合わせだったが、私は君に出会えて、本当に良かったと心から思う。君がここにいた間、私は息子がもう一人できたと、そう思っていた。ありがとう、アシュラン君。君は誇るべき、私の息子の一人だ」
アシュラン:「俺も・・・、あなたには、多くを学びました。本当に、ありがとうございました」
 アシュランは、偽りの無い誠実な言葉と共に、クーウォンに頭を下げた。
 そして、クーウォンは最後に、透を抱き締めた。
クーウォン:「・・透君」
透:「・・・・・・」
クーウォン:「橘玲佳を倒し・・・あの“セラフィム”を止めることができるのは、おそらくは君だけだろう。今はこの言葉の意味がわからないかもしれない。だが、いつか必ず判るときが来る。その時は・・・自分の『意思の力』を、強く、強く信じるのだ!」
 そう言って、クーウォンは強く透を抱き締めた。
 不意に、透の脳裏に、過去の映像が蘇る。
 全てを失い、泣くことしかできなかった透に差し伸べられた、暖かい手。無骨だけれど、大きくて優しい手。「自分の意思の力を信じろ」と、そう言って励ましてくれた、力強い言葉。
クーウォン:「大丈夫、君は強い。その上、今の君には多くの大切な人たちが、心強い仲間達がいる。今の君ならば、どんな困難にも、打ち勝っていけるはずだ!」
 その言葉に、その温もりに、透はある人を思い出し、そして涙を流した。
透:「・・・父さん
クーウォン:「・・・・・・」
 クーウォンは万感の想いで、もう一度、透を強く抱き締めた。
 そして、透を離し、再び娘の亡骸を抱いて、クーウォンは言った。
クーウォン:「さあ、行け!!私の大切な子供たちよ!!!」


 透たちは、クーウォンの言葉に従って、脱出口から続く地下通路を通って、地上へと急いだ。
 透たちが脱出口へと入った時、脱出口のシャッターが全て閉まり、透たちとレベル7を完全に隔てた。
 そして、透たちが地下通路に入って暫らく進んだ時、突然、物凄い轟音と共に、辺りが大きく揺れた。
透たちが、それがレベル7が突如自爆と見られる大規模な爆発を起こした時の衝撃だと知ったのは、地上に出た後のことだった。
 透たちが地上に出たとき、スラムのある方向から、巨大な爆煙が上がっていた。爆発があった時間にあの付近にいた者で、生存者は皆無だと、そう確信できるほどの規模の爆発だった。


 この日、反チップ主義者集団『飛刀』は、完全に崩壊した。


 



第二十七章『崩壊』完

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【2008/10/04 01:14】 URL | #- [ 編集]


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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
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