Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』 第十三章
はい、おまちかね(?)の『バルG』十三章です。
いつも通り、「READ MORE」から本文へ進んでくださいね。

バルドフォース エグゼ


バルドフォース エグゼ






HG 1/144 バスターガンダム


HG 1/144 バスターガンダム







バルG第十三章 『夢』
 


あの悲劇から数日後・・・。
 治安維持局情報管理系特殊精鋭第一部隊、通称ザラ隊は、ある小島群を定時パトロールしていた。
 実世界で言う太平洋の如く巨大な、仮想世界の唯一の太洋。そのほとんど完全な中心部に位置するこの小島群は、赤道直下の島々を模していて、実世界にもあるような南の島々特有の動物や植物、そして珊瑚礁などの自然模様すらも正確に再現している。
 そんな華やかな見かけとは裏腹に、ここはバカンス用に作られたのではない。ここは血生臭い目的、つまり誰にも邪魔されない殺し合い、決闘用に作られた場所なのだ。
 そして、とても美しい現在の風景からは想像もつかないだろうが、先日ここで、とても悲惨な事件があったばかりだ。まだほんの子供が、ここで無残にも殺されたのだ。
 その子の名前は星野ミツル。まだ十歳の少年だった・・・・。

 先頭を飛んでいたイージスが島の一つに着陸した。そして、それに続くように、残りの三機のガンダムも次々とその島に着陸する。
ディアッカ:「なー、アシュラン。ここらで一休みしない?歩きっぱで、俺もういい加減疲れたよ」
 ディアッカが交信画面の向こうで、わざとらしく疲れた表情をした。
アシュラン:「おい、どうしたんだ、ディアッカ。まだパトロールは折り返しだぞ。それに、任務中は頼むから『隊長』と言ってくれないか」
 すると、間髪入れずにイザークが回線を開く。
イザーク:「フン、何を偉そうに!!キサマごときは、『アシュラン』で十分だ!!!」
 本来ならここまで生意気な口を利く部下に対し、上官であるアシュランはかなりの厳罰を加えることが可能だ。だが、この隊の中ではお馴染みの風景となっているイザークの反抗に対しては、アシュランはもう何を言う気も起こらなかった。
ニコル:「イザーク。何度も言われているでしょうが、いくらアシュランでも実質隊長なんですからね。プライベートならともかく、作戦行動中にそういう口の利き方は、あまり褒められたものではないですよ」
 ニコルがフォローしてくれるのはありがたいのだが、なんだかニコルの口ぶりを聞いていると、最近ではニコルもアシュランのことを『一応隊長』呼ばわりしているように聞こえてしまわなくもない。まあ、彼のことだから、アシュランに対する親しみと慣れからくるものであるのだろうが。
 なんだか色々遣る瀬無くなって、アシュランは思わず呟いてしまった。
アシュラン:「こういうとき、マリアさんだったら、もっときっちり言ってくれるんだろうけどな・・・・」
 その瞬間、周囲の温度がさっと冷えた気がした。
イザーク:「キサマ、よくもそんなことが言えるな!!キサマがとろとろしていなけるば、キサマがアイツを助けるのに間に合えば、あんなことには・・・・!!!!」
 間髪入れずにイザークがアシュランを罵る。そして、イザークの言葉はアシュランの胸に鋭い棘となって突き刺さった。
アシュラン:「くっ・・・」
ニコル:「イザーク!!アシュランを責めるのは、間違っていますよ!!それに、イザークだってわかっているでしょう!あのときいくらアシュランが急いでも、もう手遅れだったんですよ!!!」
 ニコルが慌てて二人の会話に割り込む。イザークもニコルの言うことがわかっているのだろう、乱暴に回線を切った。
 そうだ。今、サポートの席にマリアがいないのにも、そしてそれ以上にその原因となった事件にも、アシュランはとても大きな責任を感じていた。
 そのとき、ディアッカがぼそりと言った。
ディアッカ:「そういやさ、ここじゃないの?あの子供が死んだ島ってさ?」
 その言葉に、一同は静まり返った。

 結局、アシュランは間に合わなかった。
 アシュランが島に辿り着いてみると、もうそこには何も残っていなかった。戦いの爪痕は、この仮想の島のシミュレートを司るAIが自動修復した後であったし、シュミクラムの残骸などはそもそもネットの法則上、一切残らない。そして、ミツルを殺した犯人は既に島から去った後で、追跡は不可能だった。
 「十歳の子供が凶悪なテロリストになぶり殺しにされた」という衝撃的な事件は、マスコミの格好のネタだった。だから、アシュランたちはマリアに事実をそのままに報告するしかなかった。もしマリアのことを気遣って嘘を言ったとしても、この事件は既に大きなニュースになってしまっており、バレるのは時間の問題だったからだ。
 報告を聞いたマリアは、あまりのショックに言葉を失い、そのまま倒れてしまった。そしてそのまま面会謝絶。結局、重度のストレス障害が認められるということで、数日間の入院、そして数週間のカウンセリングが必要と診断され、任務に復帰できるのは、少なくとも来月になりそうだった。しかもそれ以上に、アシュランたちが見舞いに行ったとき、マリアの顔はいつもの柔らかで明るい笑顔が見る影も無いほどやつれて細っており、もしかしたらマリアは、もう軍にはいられないのではないかというほどだった(その日、イザークは大きなショックを受けたみたいで、一日中誰とも口を利かなかった)。
 アシュランは、あの、医務室に運ばれていくときにショックで激しく取り乱していたマリアの様子が、そして、ニュースで見た愛する我が子の、ミツルの死体に縋り泣き叫んでいた母親の様子が、網膜と鼓膜から離れなかった。ミツルが救難信号を発してから、ザラ隊が可能な限りの最速のスピードで急いだとしても、どのみちミツルの救出には間に合わなかった。それはわかっているのだが、アシュランは、あれは自分が間に合わなかったせいではないか、もっと早く駆けつけることが可能で、そうすればミツルも助かり、母親もあれほど悲しむことはなく、マリアのトラウマがこれ以上深く抉られることもなかったのではないか、という思いを、打ち消すことが出来ないでいた。

 聞こえるのは、爽やかな潮風の音、海鳥のどこか遠い感じの鳴き声、静かな波の音くらいなものだ。
 アシュランは、おもむろに言った。
アシュラン:「みんな、ここで一時休憩にしよう」
 他の隊員は、全員一瞬意外そうな顔をしたが、みなアシュランの言うことに従った。
 アシュランは、MS体を解除した。南国の楽園の潮風は、例え仮想のものとはいえ体に心地よい。それはまるで、数日前の悲劇のことを、嘘ですよと言っているかのようだ。
 ミツルの事件のことに加え、鋼鉄の体であるMS体で長くいると、気が滅入ることがある。MSは痛覚をほとんど実体とは共有していないので、ただ立っていても、どこか触覚的に物足りないところがあるのだ。例えるならば、何か思い出したいのに、もう少しのところで思い出せそうなのに、どうしても思い出せない、そんな感覚。その点、実体と五感全てを共有している電子体には、そんなことはない。正直、こんな心境でMS体でいるのは、もう限界だったのだ。
 それは他の隊員も同じだったらしく、アシュランが許可したのと同時に、みな電子体に移行した。
ニコル:「奇麗な景色ですね。なんだか、あんな事件があったことが嘘のようだ・・・・」
 ニコルがアシュランの隣にやってきて、限りなく透明に近い海を見ていた。見ると、ニコルもまた、微かに憂いの残る表情をしていた。優しいニコルのことだ。あの事件に、ショックを受けていないはずはなかった。
 イザークもディアッカも、悲しげな表情で海を見つめていた。
 本来なら、活き活きとした、心躍るものの象徴であるはずの南国の海は、今はどこか、その透明ささえ、虚ろなものの象徴であるかのように見えた。

 暫らくして、イザークが唐突に口を開いた。
イザーク:「なあ、マリアが教師の夢を諦めて軍への入隊を決めた時って、どんな気持ちだったんだろうな・・・・」
アシュラン:「・・・・・」
イザーク:「子供の頃からの夢だったらしいんだ。それが目の前で壊されて、それを諦めるときの心境って、どんなものなんだろうな・・・・」
 イザークがこんな風に他人のことを心から気遣うのを、アシュランは今まで見たことがなかった。自己中心的なイザークらしからぬ言動だが、つまりは彼はそこまで、マリアのことを大切に想っている、ということだろう。
イザーク:「俺は、もうマリアにはそんな思いはして欲しくなかった。だが、だが・・・くそぉっ!!!」
 イザークは激昂し、創り物の砂浜に拳を叩きつけた。何度も地面に打ち付けられたイザークの拳に、仮想の血が滲んだ。
 イザークは、おそらくマリアの境遇に、自分自身を重ね合わせているのだろう。幼い頃からの夢を持ち、それを叶えるために軍に入った彼だからこそ、それが破れる痛みというのも明確に想像できるのだ。
 そのとき、ディアッカが言った。
ディアッカ:「そういやさ、イザーク・お前はなんか、夢あんの?」
 おそらく、イザークの気持ちを和らげようとして言ったのだろう。そしてその効果は、ある意味では覿面だったのかもしれない。
イザーク:「あ?俺か?」
ディアッカ:「そうそう、お前、小さい頃からの夢とかあんの?」
イザーク:「し、知るか!!あったとしても教えん!!」
 イザークはいきなり顔を真っ赤にし、ディアッカから居心地悪そうに目を逸らした。もちろん、こんな反応では、ディアッカは満足するどころかますます知りたがる。
ディアッカ:「おいおい、俺たち仲間だろ?なあ、こっそりでいいから、教えてくんねーかな~?」
イザーク:「だ、だから教えんって言ってるだろうが!!そ、そうだ、ニコルはどうなんだ!!?」
 たまたま目が合ったのをこれ幸いにと、イザークはニコルに話題を逸らした。
ニコル:「え、僕ですか?あれ、みんな知ってると思いましたけど?」
 そうだ。ニコルが軍に入るまで何をやっていたか。そして、ニコルの本当の夢は、結構有名だ。
イザーク:「ああ、あれか!あの、キサマらしい女々しい夢か!!」
 イザークの、そんな失礼極まりない発言にも、ニコルは動じずに笑って返す。
ニコル:「確かに、ピアニストが雄々しい夢とは、言い難いかもしれませんがね。でもイザーク、ピアノが弾けないのが男らしいとは、必ずしも言えませんよ」
ディアッカ:「そうそう。こいつ、ピアノでどうやったらあんな音が出るのか、ってくらい下手だからな。あと、歌とかもマジで音痴だし」
 ディアッカが喉で笑ってからかい、イザークが更に真っ赤になる。
イザーク:「う、うるさい!!俺には音楽の才能なぞ必要ないんだ!!!」
 それを見て、ニコルもまた笑った。
アシュラン:「ということは、ニコル、まだ夢は諦めていないんだな」
ニコル:「ええ。軍には、飛刀との戦いが一段落するまではいようと思ってます。でも、僕の夢は、あくまでも父を超えるピアニストになることですからね」
 そう話すニコルの表情は、とても大人びて見えた。
 ニコルの父は、世界的なピアニスト、ユーリ・アマルフィだ。世界中の音楽評論家たちから『神の指』と称されるほどの天才で、音楽にはあまり興味が無いアシュランでさえ、彼の演奏は他のピアニストとは一味も二味も違うと肌で感じられるほどだ。そして、その一人息子であるニコルもまた、その才能を受け継いでいる。以前、基地にある古びたピアノを引っ張り出して彼が弾いているのを聴かせてもらったもとがあるが、単に遊びで弾いているにも関わらず、それは一流のピアニストの公式の場での演奏に匹敵するのではないかというほど見事だった(その直後、イザークがそんなニコルを「女々しい」とバカにし、それならばということでイザークにもピアノを弾かせたところ、全く逆の意味で見事な演奏だった)。
 実際、ニコルも幼少の頃から天才の名をほしいままにし、本当なら今頃は父親に負けないくらいの有名ピアニストになってもおかしくはなかった。しかし、彼はその栄光から離れ、そのピアノを弾くためにのみ与えられたような指で、銃を持って戦っている。
 全ては、『あの日』が始まりだった。ネット空間のあるコンサートホールで行われたユーリのピアノリサイタルに、飛刀が襲撃してきたのだ。
 婚約者のレミーがユーリのファンだったため、その日偶然そこに居合わせたアシュランたちは、その襲撃に巻き込まれた。多くの人が殺され、そして、レミーは、あの男、ゲンハに乱暴され、殺されたのだ。
 後で聞いた話によると、ニコルは、レミーの亡骸に縋りついて泣き叫んでいるアシュランを目の当たりにしたのだと言う。正義感の強いニコルは、その様を目の当たりにしたとき、無力な自分を悔いたのだそうだ。そして、両親の強い反対を退けて、ニコルは軍人になることを決意した。戦うことにはまるで向いていない性格の彼が、エースパイロットの地位を手に入れたのは、並々ならぬ努力があったのだろう。そしてそれが可能だったのは、彼の意思がそこまで強かったからなのだろう。
 正直、アシュランとしては、ニコルには済まないと思う気持ちで一杯だ。あの当時、アシュランは既に軍人になることを決め、軍の士官学校に通っていたのだ。だから、レミーを守れなかったのは、自分の無力が原因なのであって、ニコルが責任を感じる必要は全く無いはずだ。
そんなアシュランの心情に気付いているのか、ニコルはアシュランを見て、朗らかに笑いかける。
ニコル:「確かに軍に入ったのは、ちょっと寄り道のような感じですが、僕は軍に入ってとてもよかったと思っていますよ」
アシュラン:「ニコル?」
ニコル:「僕、軍に入って、色々なものを見てきました。大抵が戦争のことでしたが・・・。でも、これは多分、軍に入らないと、なかなか見えてこないことではないでしょうか」
ニコル:「だから、僕は考えたんです。僕は何のためにピアニストになるのかなって。以前から、父を越えるためにピアニストになりたいと思っていましたが、それ以外は特に何も考えていなかったんですよね。でも、実際に軍人になってみて、ネット世界での出来事ではありますが、戦争や、テロリストの破壊活動や、民間人が引き起こす大惨事や、本当に、色々なものを見ました。それで、僕は思ったんです。この世は今まで僕が思っていたほど、平和じゃないんだな、って」
ニコル:「それで、僕は考えたんです。どうすれば、みんなが平和になってくれるのかなって。もちろん、そんなことは不可能かもしれない。でも、僕はそのために何かができるかもしれないなって。そして、出した答えが、ピアノだったんです」
ニコル:「アシュラン、いつか眠れなくなったことありましたよね。それで、僕が基地のみんなに頼まれてコンサートを開いたときに呼んだら、気持ちよさそうに寝てましたよね」
アシュラン:「あ、ああ・・・。そんなこともあったかな・・・・」
 アシュランとしては、一生懸命ピアニストが演奏しているコンサートで寝るなど、あれは痛恨のミスだったと思っている。しかし、そういえばあの後、寝てしまったことをニコルに謝ると、何故かニコルは嬉しそうに笑っていたっけ。
ニコル:「あのとき、僕は思ったんです。僕の拙いピアノでも、人の心を穏やかにできるんじゃないかって。だから、僕、一流のピアニストになった時には、今も戦争などで苦しむ人たちのために、コンサートを開きたいなと思っているんです」
 ニコルは、「話が長くなっちゃいましたね」と照れ笑いをして、話を締めた。
ディアッカ:「へ~、お前、すげーじゃん」
 ディアッカが、彼にしては珍しく、素直に感動していた。
アシュランも、正直感動した。確かに、あの頃は慣れない隊長という状況の中、様々なストレスが溜まって、少々不眠気味になっていた。しかし、あのコンサートの後、不思議とぐっすり眠れるようになり、それ以降はこの通り、隊長の仕事も(十分とは言えないかもしれないが)きちんとこなしている。
ニコルは、優しい子だ。人の痛みがわかり、とても思いやりに溢れている。その性格は、自然と彼の演奏にも現れる。だから、多分ニコルなら彼の夢を叶えていけるのではないかと、アシュランは思った。
イザーク:「ならディアッカ、お前はどうなんだ!?」
ディアッカ:「へ、オレ?」
 唐突に話を振られて、ディアッカは少し戸惑った。そう言えば、アシュランもディアッカのことは、あまり聞いたことがない。
ディアッカ:「オレか・・。う~ん、そうだなぁ・・・」
 ディアッカは、暫らくどう話そうか考えていたが、ニコルが自分の夢について語った後に自分が何も話さないのは失礼だと思ったのだろう、一度うなずくと、話し始めた。
ディアッカ:「オレもさ、もうそろそろ、軍辞めようと思ってるんだわ」
アシュラン:「え・・・」
イザーク:「何!!?キサマ、辞めるだと!!?何故、どうして、なんでなんだ!!!?」
 イザークが、ディアッカの胸倉を掴んだ。軍に対して執着が強いイザークには、『軍を辞める』という発想が信じられないものだったのだろう。それも、ピアニストという夢を持っているニコルならいざ知らず、ディアッカが、だ。
ディアッカ:「おいおい、苦しいな。その手を離せよ」
 ディアッカは、とりあえずイザークの手を退けると、今までの彼にない落ち着きを持った声で話し始めた。
ディアッカ:「オレさ、お前ら知ってるよな、オレが軍に入る前、家出して世界を回ってたってこと」
アシュラン:「あ、ああ・・・」
 ディアッカの生い立ちについては、おぼろげながらだが聞いたことがあった。中東の某国の王家の長男として生まれたこと。そして、王位を継ぐのが嫌で家出をしたこと、それから軍に入隊するまでの間、世界中を放浪していたことを。
ディアッカ:「オレさ、軍には、なんかいい稼ぎになって面白そうだっていう理由で入ったんだけどさ、なんかさ、オレ、あんま軍人には向いてないかもなって、ずっと前から思ってたんだ」
イザーク:「フン、そんなこと、前々から思っていたことだ!」
 イザークが、顔をしかめながら言った(アシュラン的には、イザークもどちらかというとあまり軍人に向いている方ではないとは思うのだが)。
ディアッカ:「まあそうなんだけどさ・・・・。でもな、オレ・・・」
 そう言ってディアッカはニコルをちらりと見て、続けた。
ディアッカ:「オレもさ、軍に入って、色んなこと見てきたって思うんだ。それは、ほとんど始めてのことでさ、オレも思ったよ。『世の中、まだまだオレの知らない事ばっかりなんだ』ってな・・・・」
ディアッカ:「だからさ、オレ、ニコルみたいに何か特別な才能があるわけじゃねぇけどさ、オレも思うんだよな・なんかオレにできることはないかな、って。オレにもっと合ったもんで、オレがこの世の中のために、なんかできることはないかね、ってさ・・・」
イザーク:「『なんか』って、なんだ?」
ディアッカ:「そりゃオレにもまだわからないけどさ・・・」
イザーク:「それじゃダメだろ!!」
ディアッカ:「でもさ、オレはさ、それも含めて、なんか見つけたいんだよ。だからさ、もうそろそろ軍を辞めて、また世界を回ってみようと思う」
ディアッカ:「そうすれば、今までには見つからなかった、オレの生き方みてーなもんが、見つかるかもしれない・・。いや、見つけたい」
 そう言うディアッカの表情もまた、ニコルと同じくらい輝いていた。
ディアッカ:「ま、そうは言ってもさ、オレは今すぐ辞めるつもりはないさ。オレにはまだ“やり残したこと”があるからな」
アシュラン:「やり残したこと、って?」
ディアッカ:「それは、ヒミツってヤツだ」
 そう悪戯っぽく微笑んで、ディアッカの話は終わった。
ディアッカ:「そんでさイザーク、もうそろそろお前言えよ」
イザーク:「う・・・・」
 流石に二人が言った後なので、逃げられないのだろう。イザークは観念したような仏頂面で話し始めた。
イザーク:「・・・・笑うなよ」
ディアッカ:「そいつは内容にもよるが、まあ努力はするさ」
イザーク:「・・・・俺は、もっと強くなりたいんだ」
ディアッカ:「え?」
イザーク:「俺はもっともっと強くなりたい。そう、安室嶺みたいに・・・」
ニコル:「安室嶺ですか?」
イザーク:「ああ・・・。俺は、そ、その、安室嶺に憧れて、軍に・・・って、おい、ディアッカ、笑うなと言っただろう!!!」
ディアッカ:「ぷ、ははははははは!お前、それ、マジかよ!?」
 ディアッカは、案の定、馬鹿笑いしていた。
イザーク:「く・・・。だから、言いたくなかったんだ!!」
ニコル:「でもイザーク、気持ちはわかりますよ。僕も小さい頃は、安室嶺に憧れていましたから。それに、そういうのも立派な夢じゃないですか」
イザーク:「笑いながら言っても何のフォローにもなってない!!・・・お前ら、俺をバカにして!」
アシュラン:「そうでもないよ。普通は、みんなそれを夢見ても、なかなか実現させようとは思わないだろう。だけどイザークは、実際に軍のトップパイロットの一人になっているじゃないか」
イザーク:「うるさい!キサマにだけは言われたくないな!!・・・ところで、キサマはどうなんだ、アシュラン!!」
ディアッカ:「そうそう、オレも聞きたいね、タイチョウさん」
アシュラン:「う、うう・・・」
 いきなり自分にお鉢が回ってきて、アシュランはうろたえる。見れば、ニコルもどこか期待するような表情でアシュランを見ている。どうやら、逃げることはできないようだ。仕方なく、アシュランは率直なところを口にした。
アシュラン:「いや、俺は特に、そういうのは無いんだいけど・・・・」
 隊のみんなのとても素晴らしい夢を聞いた後に言うのは恥ずかしいのだが、実際に無いのだから仕方がない。
イザーク:「無い、だと?それじゃあキサマ、一体何のために軍に入ったんだ!!!」
 それは、アシュラン自身にもわからない。
(そういえば、自分は一体何故、軍に入ったのだろう?)
 アシュランは、今までそれをあまり深く考えたことがなかった。
 今は、レミーの仇を討つため、飛刀を壊滅させるために戦っている。そして、もう二度と、レミーのような犠牲者を出さないようにするという目的もある。
 しかし、アシュランが軍に入ることを決めたのは、レミーが殺されるずっと前だ。そして、今の自分の意識は、そのときの延長線上だという部分もある。
 では、何故自分は、軍に入りたいと思ったのだろう?
 イザークのように、特に英雄になりたいわけではない。ニコルのような動機を持ったのは入隊後だ。そして、ディアッカのように『面白そうだから』と軍のことを考えたことがあっただろうか?そもそも、軍にいて面白いと、心底満たされたような気持ちになったことが、あっただろうか?
 そういうとりとめのないことを考えていると、アシュランの頭の中には、何故か父パトリックの冷たい表情がちらちらと浮かんでくるのだ。正直、それはあまり思い出したいものではない。アシュランは心の中でかぶりをふって、父の影を追い出した。
アシュラン:「正直、とても恥ずかしい話だと思う。でも、今思い返してみると、俺は自分が何故軍に入る決意をしたか、わからないんだ・・・・」
 すると、すかさずニコルがフォローしてくれる。
ニコル:「でも、今は目的があるじゃないですか。それも、立派な目的が」
 そうだ。今の自分には、戦う目的がある。ならば、それでいいのだろうか?
ディアッカ:「そーそー。目的がある、ってことは、そこから夢に繋ぎやすいぜ」
 ディアッカがうんうんうなずきながら同意する横で、イザークだけは膨れ面だ。
イザーク:「フン。もともとろくでもないヤツだとは思っていたが、夢までないとはな!」
 ディアッカが、すかさずつっ込む。
ディアッカ:「ま、イザーク、お前のよくわかんない夢といい勝負だな」
イザーク:「どこが!!」
ディアッカ:「具体性がないんだよな、具体性が」
イザーク:「ぐ、具体性のことを言うのなら、キサマも同じようなものじゃないか!!!」
ディアッカ:「いんや。オレは具体的に『どうするかわかんないけど何かやる』ことは決めてるぜ」
イザーク:「それが、具体性が無いってことだろ!!!」
 そんな様子を、やはりニコルが楽しそうに見つめている。
 アシュランには、軍の中で心が満たされる思いをした覚えが無い。でも、本当にそうだろうか?
 今、一緒に戦う仲間たちは、こんなにも楽しげだ。そして、今までは、彼らのほとんどを『アクの強く扱いにくい部下』だと思ってきたのだが、最近、彼らといて楽しいと思う自分がいることにアシュランは気付き始めていた。
(俺には、何かが欠けているんじゃないだろうか・・・。とても大切な、何かが・・・・)
 アシュランは、ふと、そんなことを考えた。そして、もしかしたら、この仲間たちともう少し親しくなることができれば、その欠けているものが見つかるかもしれない、とも・・・・。
そのときだった!
ニコル:「アシュラン、こちらに接近してくるMS反応三!・・・・これは、テロリスト、『飛刀』!!?」
アシュラン:「なに!!?」
 電子アイテムのレーダーには、確かに三機のMS反応があり、そしてレーダーの画面下のアイコンが、その機体が飛刀のものだということを告げていた。
アシュラン:「くっ!!何故飛刀がこんな所に!!!?」
 そう叫ぶが早いか、アシュランはシュミクラム体に移行し、ジャマーを全開にして岩陰に隠れた。他のメンバーも皆、アシュランの指示を待つまでも無く、一様に同じ動きを取る。流石は、ZAFTが誇るエリートパイロット『赤服』である。対応の速さは、並ではない。
 しかし、そんなことをしても敵を巻くことはできないということは、アシュランたちはわかっていた。何しろ、先程まで、最も探知されやすい電子体でいたのだ。レーダーに映る距離からいって、探知されていないはずはなかった。だからこそ、アシュランたちは、姿の小さく隠れやすい電子体ではなく、防戦しやすいMS体を選んだのだ。
 そして、レーダーで探知された三機のMSは、肉眼で形状が確認できるくらいに近づいてきた。果たして、それは・・・・。
アシュラン:「ゲ、ゲンハ!!!!!?」
 なんと、アシュランの仇敵ゲンハとその取り巻き二人のMS、カラミティ・レイダー・そしてフォビドゥンだった!
 ウェブライダー形態のレイダーに乗ったカラミティが、さっきまでアシュランたちがいた地点を全身のビーム兵器でなぎ払った。凄まじい仮想熱量のエネルギーが、大地に穴をあける。
ゲンハ:「へへ、出て来いよぉ!!そこに誰かいるのは、わかってんだぜぇ~」
アシュラン:「言われなくとも!!!」
 アシュランは素早く飛び出しイージスを変形させてスキュラを、ディアッカが砲身を連結させて超高インパルス長射程狙撃ライフルを三機に向けて放ち、その着弾による巨大な爆煙が晴れないうちに、イザークとニコルがそれぞれビームライフルからビームを、三機がいると思しき空間に向けて連続で放った。
アシュラン:「・・・どうだ?」
 アシュランはイージスを人型に戻しながら呟いた。あれだけの威力の同時攻撃だったのだ。手応えは、あったと思うが・・・・。
 しかし、煙幕が晴れたとき、そこにはほとんど無傷な三機のMSが立っていた。体勢からすると、ゲンハがビーム偏向板で全ての攻撃を捌いたらしい。
ゲンハ:「いよ~ぉ、誰かと思ったら、テメーらじゃねぇか」
 通信回線が開き、もう二度と見たくも無い凶悪な人相が出現する。
ゲンハ:「最近ストレスが溜まってっから来てみたら、今度はテメーらとはなぁ。こりゃ、俺らとこの場所は、相性がいいのかもなぁ~」
アシュラン:「何!?どういうことだ!!」
ゲンハ:「ああ、この前、なんかこの俺サマに無謀にも挑戦状を送りつけてきたガキがいてなぁ・・・・。ストレス解消にちーっと相手してやったら、あっけなく死んじまったぜ、ぎゃははははは!!!!」
アシュラン:「な・・・・」
 それでは、ミツルを殺したのもゲンハだというのか。回線の向こうでは、イザークが殺気の篭った形相になり、ニコルが青ざめて震え、そしてディアッカの表情も硬くなっていた。
アシュラン:「お、お前、あんな子供まで殺したのか!!!」
ゲンハ:「何言ってやがんだ、ガキもクソも関係あるか!!殺し合いを挑まれたら、相手をぶっ殺すのは当たり前じゃねーかよぉ!!!」
 どうやら、この狂人に人としての倫理を説いたところで無駄らしい。いや、そんなことは、アシュランにはもう二年も前からわかっていたことだ。
アシュラン:「とにかく、ここで遭遇したのはむしろ幸運だ。みんな、こいつらを捕縛、出来ない場合はやむを得ない、射殺するぞ!!!」
ニコル:「了解です!!」
ディアッカ:「オーケー!」
イザーク:「任せろ!!!」
 回線の向こうのゲンハの顔が、怒りに歪む。
ゲンハ:「『捕縛』だとぉ~?なめやがって!!!相変わらず甘っちょろいヤロウだ、反吐が出るぜ!!!おい、オルガ、クロト!!こっちはハナっから、グチョグチョのミンチにするつもりでいくぜぇ!!!」
オルガ:「ああよ!!!」
クロト:「へへん、腕が鳴るねー!!!」
 そして、飛刀の三機はそれぞれありったけの火力を放つと、同時に散開した。アシュランたちも、それをかわすと同時に散開する。
 アシュランはゲンハを追い、ビームライフルで激しく狙撃する。ゲンハは、それらを全て偏向板で曲げて防いだ。しかし、その攻撃は囮に過ぎない。ゲンハが気を逸らされたタイミングを狙ってイザークが絶妙な方向からビームサーベルで必殺の気合と共に斬りかかった。
 そのとき、ウェブライダー形態のレイダーが、全身の機関砲や盾の超高初速砲、口部のツォーンを放ちながら割り込んできた。砲撃の威力はさほどでもなかったが、イザークの攻撃は妨害され、用を成さなくされてしまった。
イザーク:「ちっ!!」
 そのレイダーを、高機動力のブリッツが追いかける。それに気付いたレイダーは素早く反転、砲撃しながらクローでニコルを掴もうとした。クローがブリッツに届く寸前、ニコルはミラージュコロイドでブリッツの姿を消してかわすと、攻撃を仕損じてもう一度反転するレイダーの隙を狙って、トリケロスからビーム刃を放出し斬りかかった。しかし、レイダーは寸前でそれをかわし、瞬時に急旋回してニコルの頭上を取ると激しく砲撃する。
ニコル:「くっ!!」
 ニコルは素早くトリケロスでそれを防ぐが、そのとき、背後から数条の強烈なビームが、ニコルを襲った。
ニコル:「う、うわぁ!!!!」
 放ったのは、カラミティだった。
ディアッカ:「くそっ、ニコル!!!」
 ディアッカは咄嗟に両肩の多弾頭ミサイルポッドからありったけのミサイルを放った。多数のミサイルが、ビームにぶつかってその威力を殺し、その爆炎はビームの軌道を変曲させる。
ニコル:「ディアッカ、助かりました!」
ディアッカ:「まかせなって!!」
 カラミティが今度はディアッカを標的にした。カラミティの複数の大口径のビーム砲の砲口が、一斉に火を噴いた。ディアッカはそれを寸前でかわすと、ガンランチャーと収束火線ライフルを腰だめに構えて放ち、更に砲身を連結して、対装甲散弾砲として放った。しかし、その攻撃も全て、カラミティの圧倒的な火力の前に、一発も届かずに相殺される。そのとき、
ゲンハ:「貫けぇ!!!」
 ゲンハが必殺のフレスベルクを放った。猛スピードで、しかも軌道を偏向させながら襲い掛かるビームを、ディアッカはかわすことができない。
 しかし、ビームがディアッカを貫く刹那、アシュランがその軌道上に割り込み、アンチビームシールドでそれを防いだ。
ディアッカ:「ひゅ~、アシュラン、さんきゅ~」
 アシュランはそのままゲンハに向き直ると、右腕のクローからビーム刃を放出、裂帛の気合と共にゲンハに斬りかかった。ゲンハはそれを、ニーズへグで受ける。
アシュラン:「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
 そんなアシュランを、カラミティが盾の衝角砲で妨害し、レイダーもその火器をアシュランに集中させる。
アシュラン:「くっ!!?」
 堪らずゲンハから離れたアシュランを、今度はゲンハの巨大な処刑鎌が襲う。
ディアッカ:「させっかよ!!」
 ディアッカが超高インパルス長射程狙撃ライフルと放ち、ゲンハはそれを屈曲させて防ぐが、そのビームの威力に堪らず後退する。
 更にイザークが、レールガンを撃ちながらゲンハに斬りかかった。しかし、寸前で、またもやレイダーが割り込む。
イザーク:「ちっ、ジャマだぁ!!」
クロト:「させないよーだ!!」
 イザークの斬撃を、レイダーは変形解除し盾で防ぐと、
クロト:「そりゃー、爆殺!!!」
 ミョルニルを放った。
イザーク:「ぐあぁっ!!!」
 イザークは咄嗟にそれをシールドで受けたが、大質量の鉄球の凄まじい衝撃で、大きく弾かれた。
クロト:「もう一つオマケに、撃滅!!!」
 追い討ちで放たれたミョルニルは、イザークに到達する寸前で、ニコルが放ったグレイブニールの鉤爪にガッチリと掴まれる。クロトは鉄球を鉤爪から引き剥がすと、ブリッツに向かって盾の超高初速砲を放った。ニコルがそれをかわした背後から、ディアッカがミサイルで狙い撃ちにしようとした。
ディアッカ:「動きが止まってんぜ!!」
 しかし、その寸前で、ゲンハがそれに気付いた。
ゲンハ:「どっちがよぉ!!!」
 ゲンハが二丁のレールガンを放ち、その二発の弾丸は、寸分違わずに、今まさにミサイルを発射しようとしているミサイルポッドのど真ん中を捉えた!!
ディアッカ:「!?ぐあぁ!!!」
 超高速の弾道が両方のミサイルポッドを貫き、その衝撃によってポッド内のミサイルが全て誘爆、ミサイルポッドは爆発し、閃光を発して消滅した。その衝撃で地面に叩き付けられたディアッカに、ゲンハはトドメのフレスベルグを放とうとする。
アシュラン:「させるかぁ!!」
 アシュランが必死に斬りかかってそれを阻止するが、ゲンハは今度はアシュランを標的にフレスベルグを放った。アシュランはそれを巧みにかわすが、今度はカラミティが、アシュランにその恐るべき火器の標準を合わせた。
イザーク:「こっちをみろぉぉぉ!!!」
 そうはさせじとイザークが斬りかかったが、寸前でレイダーの超高初速砲に撃ち落される。
 更に、レイダーのツォーンをシールドで防いだニコルも、その隙に急接近したレイダーに蹴られ、地面に落ちた。
 ザラ隊の全員が一箇所に固まったのを、オルガは見逃さなかった!
オルガ:「おらおらぁぁぁーーー!!!!」
 カラミティの超火力が、全門一斉に、何度も何度も火を噴いた!!
 アシュランとニコルは咄嗟にシールドで防いだが、あまりの威力に吹き飛ばされる。そして、シールドを持たず、しかも未だ体勢を崩したままのバスターを、超威力のビーム砲が容赦なく襲う!!
 ディアッカが強烈なビームに押し潰される寸前、イザークがシールドを掲げ、その間に割って入った!!
イザーク:「うおあぁぁぁ!!」
 凄まじいビームが、イザークをもろに襲った。イザークのシールドが吹っ飛ばされ、さらに腹部の追加装甲が溶かされた。二機はそのまま、地面に投げ出される。
ディアッカ:「う・・・イ、イザーク!!大丈夫か!!?」
イザーク:「当たり前だ!!・・・追加装甲がなければ、少し危なかったかもしれんがな・・・」
 しかし、カラミティは更に追い討ちをかけようと、標準を二人に合わせる。慌ててアシュランとニコルがそれを阻止せんと斬りかかるが、変形したレイダーの機関砲の総射撃に邪魔される。
イザーク:「くそぉっ!!!」
 カラミティの砲門が臨界に達し、閃光を発する寸前、イザークはレールガンとミサイルポッドをカラミティに向けて放った。それをかわした拍子で、カラミティの砲撃は全て外れたが、ビームに薙ぎ払われた地面に、大きな陥没ができた。
 続けてアシュランが撃ったビームを、カラミティはかわしながら飛び上がると、上空を飛んでいたレイダーに飛び乗り、そのまま上からアシュランたちを容赦なく砲撃した。その強力なビームは、どれもまともに当たれば一撃必殺の威力だ。四人は懸命にかわすが、それに必死で思うように反撃が出来ない。
ディアッカ:「畜生、厄介なヤツだ!!あいつを何とかしないと、オレらは全滅だ!!!」
 ディアッカは、ビームに頭部が貫かれるのも構わず、超高インパルス長射程狙撃ライフルを放った。それはレイダーに楽々かわされるが、その瞬間、砲撃が弱まった。
 その一瞬を逃さず、ニコルが飛び上がり、レイダーとその上のカラミティに向けてビームを放った。更に、ディアッカも砲身を素早く組み替え、対装甲散弾砲を放つ。
 レイダーはそれらを懸命にかわしていたが、無数の散弾のために遂にかわしきれなくなり、それを見て取ったカラミティが飛び降りた。そして、カラミティは自由落下しながら、胸部のスキュラを真下のアシュランたち目掛けて放とうとする。咄嗟にアシュランはイージスを変形、カラミティの下に潜り込み、カラミティと同時にスキュラを放つ。
 強烈なビームが空中で激突、そして激しい衝撃を発して空中で爆発した。その余波で二機とも体勢を崩し、吹き飛ばされた。背中のバーニアを全開で吹かしながら人型に戻り何とか無事に着地したアシュランを、ゲンハのニーズヘグが襲った。アシュランは盾を装備している左手以外の全ての手足からビーム刃を放出し、ニーズヘグを受け止めると同時に、足のビーム刃でゲンハの脚を斬り払った。しかし、なんと刃が届く寸前で、ゲンハは跳び上がって空中で膝を曲げ、それらをかわした。
ゲンハ:「ヒャッホウ!あっぶねーぜぃ!!」
 更にゲンハは、腕の機関砲とイーゲルシュテルンを放ち反撃した。変形機構のため装甲が多少薄いアシュランのイージスは、堪らず後退する。その隙を突いて、ゲンハはアシュランを蹴り飛ばすと、トドメとして大鎌を投げようとする。
ゲンハ:「逝っとけや、このヤロオぉぉぉぉ!!!!」
 しかしその寸前、イザークが二本のビームサーベルでゲンハに斬りかかった。ゲンハは素早く反応、切り替えて鎌でそれを受け止めた。イザークはイーゲルシュテルンも交えながらゲンハを斬りつけるが、ゲンハはそれを巧みに捌く。
 そのときだった。空中で体勢を立て直したカラミティが、着地した。そして、全ての砲門で、ゲンハに苦戦しているイザークとアシュランを狙ったのだ!!
オルガ:「おらぁぁ!!!」
 イザークとアシュランはそれに気付く余裕も無く、ニコルもレイダーに掛かりっきりで、助けに入る余裕は無かった。
ディアッカ:「!!!」
 それに真っ先に気が付いたのは、ディアッカだった。
 砲身を連結させている暇は、もはや無かった。カラミティの砲口は、既にエネルギーが臨界寸前まで達していた。
 ディアッカは、反射的に飛び出すと、二丁の砲身を構え、それをカラミティの背中の大口径ビーム砲に押し付けた。そして、
ディアッカ:「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 バスターの二丁の砲門が、火を噴いた。それは、カラミティのビームのエネルギーを暴発させた。
凄まじいエネルギーが二機の真ん中で迸り、目も眩むような閃光と、耳をつんざくような爆音が、二機の姿を包みこんだ。


 ディアッカ・エルスマンにとって、軍とは単なる、少し面白そうな小遣い稼ぎでしかなかった。特に軍人としての目的意識も無かったし、入隊時のシュミクラムパイロットの適性試験で物凄い好成績を出し、士官学校に授業料免除で入れてもらって、トップパイロットとしての道のりを歩み出した時も「ああ、これでちょっとは給料上がるかな?」と思っただけだった。
 だから、実際に部隊に配属されたときも、ただ死なずに戻ってくればよかったし、いずれ軍を辞めることがわかっていたので、特に軍内部での出世にもあまり興味は無かった。
 そして、ディアッカにとっての軍隊生活は、最初は単なる苦痛でしかなかった。思ったよりずっと規則は厳しく、思ったよりずっと給料は安く、メシは不味く、そして任務は、思ったよりもずっとずっと、危険や死と隣り合わせだったからだ。だから、ディアッカは、ザラ隊に配属された最初の頃は、ただ辞めることばかりを考えていた。折りを見て、こんな所は早く抜け出してやるということばかりを考えていたのだ。
 しかし、ザラ隊、特殊精鋭第一小隊に配属され、少しばかり月日が経った頃、ディアッカの心情に、ある変化が現れてきていた。
 その変化のきっかけは、ディアッカの小隊の隊長だった。
 最初ディアッカは、アシュランのことを内心、完璧にバカにしていた。しかし、いつの頃からだろうか、今までバカにしていたのと同じ理由で、アシュランのことが、だんだんと気に掛かり始めてきたのは・・・・。
 とんでもなく優秀なくせにどこか抜けていて、真面目なのはいいのだが真面目過ぎる位真面目で気の抜き方も知らない所があり、どこか危なっかしい雰囲気を持った、自分と同い年の若き小隊長。そんなアシュランをバカにしながらも、しょうがねーなと、微笑ましく思う自分がいたのだ。それは、アシュランが、ディアッカが国に残してきた弟と、そっくりなせいなのかも知れなかった。彼も自分とは反対に真面目で、どこか無理し過ぎな所があった。
 いつの頃からか、ディアッカは思っていた。アシュランを、我が隊の小隊長殿を、自分がきちんと補佐してやろう、と。見ていて内心いつもヒヤヒヤさせられるこの隊長を、自分がしっかり支えてやろう、と。
 アシュランが、あのテロリストの兇漢、ゲンハを仇と狙っていることは、ディアッカも気付いていた。そして、アシュランが彼に恋人を殺されたことも、耳聡いディアッカは知っていた。本人は誰にも話さないが、こちらとしては丸わかりだったのだ。
 そのくせ、アシュランはなんとか隊長らしくいようと、飛刀との戦いの中でも、復讐心を押し殺して『我が隊の隊長』を無理して演じていた。ディアッカからすれば、一番大切な恋人を殺されたのだから、もっと自分たちには遠慮などせずに戦って欲しいと思うのだが。でも、おそらくそれが、アシュランのいいところなのだろう。そして、そのせいでアシュランが潰れてしまうのは、ディアッカは見たくなかった。
 だから、ディアッカは思ったのだ。こいつが心置きなく仇を討てるよう、自分はこいつの目的の手助けをしてやろう、と。そのことは、密かにディアッカの、自分が軍人である意味になっていた。自分はいつか、広い世界に旅立つだろう。でも、その前にこれだけは絶対にやっておこう、という目的、彼の“夢”に・・・・・。


 閃光が収まった時、そこにあったのはボロボロに半壊したカラミティだけだった。
 バスターの、ディアッカの姿は、影も形も、残っていなかった。
ニコル:「そ、そんな・・・・」
イザーク:「バカな!!!!」
アシュラン:「ディ、ディアッカ・・・?嘘だ、嘘だろ・・・・・」
 そのとき、カラミティがよろよろと動き出し、盾の衝角砲を構えたのを、アシュランは見た。
アシュラン:「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 アシュランの体が、考えるよりも先に動いた。口から意味を成さない叫びを上げながら、シュミクラムをウェブライダーに変形させ、カラミティ目掛けて突っ込む。そして四本のクローでカラミティに組み付くと、全てのクローの先端からビーム刃を伸ばしてカラミティの全身を貫き、そしてスキュラでカラミティのスキュラの砲口、丁度コックピットの部分を、撃ち抜いた。
カラミティは、閃光を発して完全に消滅した。
ゲンハ:「て、てんめぇ!!!!よくも俺サマの、可愛い部下を!!!!!」
 そのときだった。
 激しい空中戦を繰り広げていたニコルが、レイダーに向けてランサーダートを三発放った。レイダーはそれを楽々かわすと同時に、すぐさま変形を解除、間髪入れずにミョルニルを放ったのだ。
 ニコルはそのとき、撃ち終わりで完全に無防備だった。巨大な破砕球は、ブリッツの胸部、コックピット部分の装甲を、まともに強打した!!
ニコル:「があぁっ!!!」
 ブリッツはそのまま、頭から地面に叩きつけられた。通常は、現実のときの癖で、咄嗟に頭を優先的に保護しようとするものだ。つまり、あの落ち方は、パイロットが意識を失い、危険な状態かもしれないということだ。
アシュラン:「おい!!?ニコル、ニコル、応答しろ、応答してくれぇぇ!!!」
 しかし、回線からはニコルの返事が全く返ってこない。MSが消滅していないので、おそらくまだ生きているとは思うが、極めて危険な状態なのかもしれない。
(まだディアッカの死さえ、現実のものとして感じられないのに、その上ニコルまで―――――――!!?)
アシュラン:「イザーク、撤退だ!!!!」
イザーク:「何!!?」
 イザークが、ゲンハの攻撃を防ぎながら叫んだ。
アシュラン:「ニコルが危険だ、早く連れて離脱しないと!!!!」
イザーク:「畜生、ディアッカの仇を討ってやろうと思ったのに!!!」
 イザークはゲンハをイーゲルシュテルンとレールガン、ミサイルポッドで引き離すと、駆け寄ってブリッツを抱え、そのまま素早く小島から離脱しようとした。それを追おうとするレイダーを、アシュランがスキュラで引き離す。
ゲンハ:「逃がすかよぉぉっ!!!」
 ゲンハが、なおも追撃しようとした、そのとき。
?:「ゲンハ、何をやっているんだ!!勝手な行動は慎めと言ったはずだ!!!!」
 突然、テロリストの回線に、中年の男性の声が割り込んだ。その声は、テロリストの一員とは思えないほど理知的な響きだったが、並の者には無いような、不思議な凄みがあった。
ゲンハ:「畜生、クーウォンに気付かれたか!!おい、クーウォン、何をしようが、俺サマの勝手だろ!!!!」
?:「ゲンハ、お前に勝手を許した覚えは無い!!直ちに戻らないなら、今すぐニューロジャックを引き抜かせてもらう!!」
ゲンハ:「くっ・・・・」
クロト:「ゲ、ゲンハ、やばいよ!クーウォンが怒ってるよ!!!」
 あのゲンハとクロトが、一瞬で黙らされてしまった。そして、回線の向こうの声は、本当にかの悪名高き飛刀のリーダー、リー・クーウォンだとでもいうのだろうか。
 そのときだった。
ゲンハ:「ちっ、しょうがねぇ。てめぇら、この借りは必ず返すぜ、あばよ!!!!!」
 セリフの最後は、フレスベルグを放つのと同時だった!そしてビームは、真っ直ぐにニコルを抱えたイザークへ向かった。
アシュラン:「危ない!!!!!」
 アシュランは、咄嗟にウェブライダー形態のイージスを割り込ませた。瞬間、アシュランを被弾の衝撃が襲う!
アシュラン:「ぐあっ!!!」
イザーク:「大丈夫か、アシュラン!!!?」
 幸い、ビームが被弾した所は、コックピットには程遠い場所だった。そして、ゲンハとクロトは、あの一撃を最後に、アシュランたちとは逆方向に撤退していた。
アシュラン:「ああ、何とか、大丈夫・・・・うお!!?」
 そのときだった。急にアシュランの機体が傾き、たちまち操縦が利かなくなる。
イザーク:「おい、どうした、アシュラン!!?」
アシュラン:「どうやら、今ので動力系をやられたらしい。もう、上手く飛べそうにない」
イザーク:「なんだとぉ!!!?」
 既にアシュランの機体は完全に操縦不能に陥り、高度も次第に下がっていた。
アシュラン:「俺はこのまま、島の一つに不時着する。イザーク、お前はニコルを連れて、早く離脱妨害エリアの外に出るんだ!!」
イザーク:「何を言っているんだ!!! お前をこんな所に、一人で残していくわけには・・・・」
アシュラン:「頼む、イザーク!!!ニコルは本当に危険な状態かもしれないんだ!!!!」
 その言葉を聞き、イザークも遂に覚悟を決めたようだった。
イザーク:「わかった!ニコルは必ず生きて帰す。お前も、絶対に死ぬなよ!!!!」
アシュラン:「了解だ」
 これではどちらが隊長だかわからないな、とアシュランが思ったその時、イージスは飛行能力を完全に失い、急激に落下していった。
 イザークは、もうアシュランには脇目も振らず、ニコルを抱えて離脱妨害エリアの外へと一直線に機体を走らせている。
 アシュランは受身をとるためイージスを人型に戻すと、軟着陸を試みた。
 それは辛うじて成功し、イージスは島々の一つに上手く不時着したが、それでもアシュランを、かなりの衝撃が襲った。

アシュラン:「うわあぁ!!!・・・・・い、いつつつ」
 スキャナーで、周囲の状況を確認してみる。ここは、仮想世界の無人島の一つ。四方を仮想の大海原に囲まれ、離脱も転送も不可能。そして当然のことながら、食料になるものは一切無い。そして、不幸中の幸いか、近くには危険になりそうな物は、一切見つからなかった。
 アシュランは電子体に移行すると、携帯端末を呼び出してMSのステータスを見た。
アシュラン:「これは・・・・結構派手にやられているな・・・・」
 シュミクラムの破損は、思ったよりも大きそうだ。これでは、自動修復プログラムを全力で稼動させたところで、半日以上かかりそうだ。もちろん、それは必要最低限、つまり、アシュランがこの島から出られるようになる位の修理が終わるまでの時間、ということだ。要するに、その時間は、アシュランがこの島に閉じ込められる時間とイコールであるわけだ。
アシュラン:「しかも、くそっ、日まで沈んできたか!!」
 見れば、仮想の大空が、薄っすらと茜色に染まり始めている。
 ネット空間にも、実世界と同じ時間が流れる。軍構造体のような、いわゆる『屋内』の場所では、二十四時間外観は変わらないが、こういった『屋外』の場所では、夜になれば暗くなるのだ。
アシュラン:「しかもこの空間、長距離レーダーの類が一切使用不能だぞ。一体、ここを創った人間は、何を考えていたんだ」
 困ったことになった。MSの救難信号は、完全に壊れているのだ。同様の効果の電子アイテムもいつの間にか同じように壊れてしまっている。この状況ではレーダーが利くのは島一つ分位。つまり、イザークが実世界に帰ってアシュランの捜索要請を出したとしても、ほとんど手探りの状態で探すしかないわけだ。しかも、イザークが実世界に帰りニコルを医務室に送る頃には、もう既に日は完全に暮れているだろう。ここはテロリストの出現した危険な地域であり、夜になれば捜索は打ち切りだ。
アシュラン:「この時代に、ネット空間で『夜になったので捜索は打ち切り』とはな・・・。仕方ない。食料は、非常用の物が数日分はあるんだ。あまり電子体が実体と離れるのはよくないが、まあ、一晩くらいなら大丈夫だろう・・・・」
 アシュランは、覚悟を決めた。
 そうなれば、アシュランの行動は早い。すぐさま燃料となる木の枝を捜しに歩き出す。幸い、木は南国特有のものがそこら中に生えている。
 アシュランは木の枝を拾いながら、今日の戦闘のことを思い出した。
 バスターとカラミティを包む激しい閃光、そして・・・・・。
 そう。ディアッカが、死んだのだ。あまりにも突然過ぎて実感が沸かないが、もうあの皮肉めいた笑いを、聞くことも見ることもできないのだ。

ディアッカ:『りょーかい』
ディアッカ:『オレ、もうそろそろ軍を辞めて、また世界を回ってみようと思う』

 ディアッカの飄々とした笑顔を、そして自分の夢を語る時の真摯な表情を思い出し、アシュランは焚き木に火を付けながら、一人、泣いた。



第十三章『夢』完
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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
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