Endless world -咬龍の庭-
このページは、僕の好きなゲームや漫画、テレビ、そして日常の出来事などのことをつれづれなるままに書いていくブログです。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

創作小説『バルドフォースG』第十六章
いよいよ、今回が前半のクライマックスです!というわけで、一気に三日連続三話掲載でした。いや~、ついにやっとここまで掲載できました(^-^!
後半もできるだけ早いペースで掲載していきたいと思います。では、「READ MORE」で本文へ。


バルドフォース エグゼ


バルドフォース エグゼ







HG UNIVERSAL CENTURY 1/144 ガンダムGP01Fb


HG UNIVERSAL CENTURY 1/144 ガンダムGP01Fb





第十六章『閃光』




 その日は、激しい雨だった。
 空には圧迫してくるような雨雲が垂れ込め、そしてそこから地上に向かって、まるで叩きつけるような雨が降っていた。
 そして時折、瞬く光と共に、慟哭のような雷鳴が辺りに響き渡るのだった。
 
 特殊精鋭第一小隊隊員、ディアッカ・エルスマンと、第八小隊隊員、ミゲル・アイマンの簡易葬儀は、その日、軍の基地近くの教会で行われた。
 式には、基地内で彼らと親しかった者はもちろん、彼らの学生時代の友人たち、そしてアイマン夫妻が参列した。友人たちは一様に故人を想って惜しみない涙を流し、そしてミゲルの両親に至っては、前途有望な我が子の若過ぎる、そして突然の死に、涙も枯れ果て、ただただ憔悴しきっているさまであった。

 アシュランは、そんな葬列から少し離れたところに立って、簡易な斎段に飾られた二人の青年の遺影を見ていた。
 未だに信じられない。ディアッカの死ももちろんだが、特にミゲルの死が。あれは、何かの悪夢だったのではないかと、アシュランは何度繰り返し思ったことか。
 だが、それが事実であることは、目の前の遺影が、周囲の啜り泣きが示していた。
 アシュランの目の前で起こった出来事。それは、例えどれほど悪夢めいていたとしても、紛れもない現実なのだ。


 アシュランが、仇敵ゲンハを後一歩というところまで追い詰めた瞬間、アシュランの危機を悟った親友が、アシュランを助けに現れた。アシュランは彼の姿を発見したとき、これ以上ないほどの頼もしさを覚えたのだ。
 しかし、次の瞬間だった。事態が急変したのは。
 親友が、相馬透が猛スピードで向かって行ったのは、あろうことかアシュランだったのだ。彼はビームサーベルを引き抜き、そしてそれを掲げてアシュラン目掛けて猛スピードで突撃した。
透:「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
 彼の雄叫びの真意は、アシュランには全くわからなかった。
 そして、確実に殺られると思った瞬間、アシュランをミゲルが突き飛ばし・・・・。
 親友のビームサーベルが、アシュランを庇った旧友を貫いたのだ。

透:「あ、ああ・・・・・・」
 次の瞬間、目の前で透は、信じられないという表情でビームサーベルを持った自分の手を眺めていた。
月菜:「と、透!!!!?」
 後から追ってきた、透の幼馴染の月菜が、事態を悟って絶望的な悲鳴を上げ、
憐:「お、お兄ちゃん・・・?な、なに? なにがどうしたの・・・・・?」
 月菜の後についてきた、あどけなさを多分に残した透の妹らしき少女は、突然の事態を把握しかねていた。
透:「お、俺は、一体何を・・・・・?」
 それは、アシュランにもわからなかった。
(一体、今透は、『何をやったんだ』!!?)
ゲンハ:「おいおい、テメェら、この俺サマを差し置いて、何をやってんだよ!!!!」
 本来なら彼の怒りを煽るゲンハの声でさえ、アシュランの耳には入ってきていなかった。ただ、仕損じてしまったな、ということを、漠然と思っただけだった。
イザーク:「ミ、ミゲルーー!!!!そんな、そんなぁぁ!!!!!」
 横で、イザークが何やら喚いていた。
(ミゲル?ミゲルがどうかしたんだ?)
イザーク:「キ、キサマぁぁ!!!!よくもミゲルをぉぉぉ!!!!!!」
 イザークが、叫ぶと共に方向転換した。そちらの方向には、ゲンハもクロトもいないのに、イザークは一体、どうしたというのだろうか?
月菜:「透、やばいよ、なにやってんの!!逃げよう、早く逃げよう!!!!!!」
透:「放せ、月菜!! あいつが優哉を、優哉を!!!!!!」
月菜:「“あいつ”って、透、あの機体はアシュランだよ!!!」
 もがく透を月菜が素早くさらい(『優哉』、それは確か、透の殺された親友の名前だっただろうか?) 、そのまま全速力でその場から離脱する。そして、透の妹らしき少女のシュミクラムも、うろたえながらもそれに倣った。
イザーク:「待て、キサマらぁ!!!!」
 イザークが慌てて追いかけようとするが、ゲンハのレールガンが行く手を塞いだ。
ゲンハ:「オラァ、ち~っと待てよ!! 俺サマを殺ってからでも、遅くはねーんじゃねえのかぁ?」
イザーク:「くそぉ!!!」
 イザークを、ゲンハとクロトが取り囲んだ。
(そうだ、ゲンハを斃さなければ!!!)
 アシュランは、ほとんど反射的にイージスの変形を解除し、ゲンハに向かっていこうとした。そのとき、アシュランの機体を、イザークが強引に押さえ込んだ。
イザーク:「バカか、お前は!!!今は退くぞ!!!!!」
アシュラン:「な・・・・?」
イザーク:「今の俺たちは勝ち目は薄い!!それに、ミゲルが死んだんだ、この上俺たちまで死ねないだろ!!!!」
(ミゲルが・・・・?)
イザーク:「ミゲルを殺した連中ならともかく、今俺たちでこいつらと戦るのは、無駄死するのと同じことだぞ!!」
(・・・そうだ)
 イザークに引きずられて撤退しながら、アシュランの脳が、ようやく一つの事実に思い当たった。
(ミゲルは死んだ。殺されたのだ・・・)
 誰に?
(透に。あの、相馬透に・・・・)
 そして、アシュランはようやく、目の前で起こったことの全てを認識した
 旧友が、親友になれると思った人に、アシュランを庇って殺されたのだということを・・・・・。


?:「アシュラン君・・・」
 アシュランは声をかけられ、我に返った。
 目の前には、いつの間にか、ミゲルの父であるアイマン氏が立っていた。
アイマン氏:「久しぶりだね、アシュラン君。見違えるようだ。軍のトップパイロットになったと聞いて、驚いていたが、こうして見ると、それも信じられるよ」
 おそらく、ミゲルから聞いていたのだろう。アイマン氏もそれを思い出したのか、堀の深い目に、薄っすらと涙を滲ませた。
アイマン氏:「すっかりたくましくなって。私も、君の友人の父として、鼻が高いよ・・・・・」
 そのまま、アイマン氏の頬を、涙が一筋伝った。
 アイマン氏とは、アシュランが小さい頃、ミゲルの家におじゃました時に何度か会ったことがあるが、その時よりも年をとったのはもちろん、随分やつれた気がする。無論、やつれたのはここ数日のことなのだろう。それはそうだ、息子を失った親の衝撃は、アシュランの想像を絶するものだろうから。
 アシュランは、アイマン氏に顔向けできない気持ちに襲われた。自分を庇って、この人の最愛の子供の一人が、死んだのだ。
アシュラン:「済みません、俺のせいで、ミゲルは・・・」
アイマン氏:「何を言うんだ、アシュラン君!!!」
 アイマン氏は、アシュランの肩を強く掴んだ。
アイマン氏:「私の息子は、君を、凶悪犯から守って、名誉ある戦死を遂げたそうじゃないか!!!私は息子を誇りに思いこそすれ、君を恨むことなど全くないよ!!!」
 そして、アイマン氏は、アシュランを縋りつくような目で見た。
アイマン氏:「唯一恨むとすれば、その凶悪犯だ!!頼む、アシュラン君!!君に負担をかけるようで申し訳ないが、君に是非、息子を殺した『凶悪犯』を捕まえてほしい!!ミゲルも、きっとそれを祈っている。頼む、お願いだ!!!」
 アシュランは、もうアイマン氏とまともに目を合わせることもできなかった。
 一体誰が、この息子を殺された父に言えるだろうか?
 息子を殺した『凶悪犯』は、自分が親友だとさえ思った人である、などと・・・・・・・。

 式が終わり、それぞれが皆解散してゆく中で、アシュランもまた、自室に引き揚げようとしていた。外では、プライマリー時代の同級生が集まって、同窓会のようなことがしめやかに行われようとしていたが、アシュランはそれに参加する気にはなれなかった。
 アシュランは、もう誰にも会いたくなかったのだ。
 そのとき、歩いているアシュランの後ろに、一人の男が並んだ。
 波立つような金髪、銀色のマスクに顔の上半分を隠した、長身の美丈夫の男。
アシュラン:「ギル隊長・・・・」
ギル:「アシュラン。今回の一件は、君も、さぞ辛かっただろう・・・」
 ギルは、アシュランを労わるような言葉をかけてくれる。
アシュラン:「・・・・・・」
ギル:「彼は君を庇ったそうだな。君の落ち込みもわかるよ。私にも、そういう経験が無いわけでもないからな。しかし、それは、君のせいではないのだ。君が、罪悪感を持つ必要は、これっぽっちも無い」
 ギルの台詞は、アイマン氏のものとそっくりだな。と、アシュランはぼんやりと思った。
ギル:「それでも、君の心は晴れないだろう。それは当然だ。だから、君にある任務を与えよう。とは言っても、これは私からではなく、長官からの指令なのだが・・・」
アシュラン:「任務、ですか?」
 その内容には、アシュランも予想がついた。そして、できれば聞きたくなかった。
 しかし、ギルは無情にも、その内容を告げた。
ギル:「『第一級の凶悪犯―ステッペン・ウルフ、相馬透』の追跡と、彼の捕縛だ。ミゲルの仇討ちと思って、引き受けてくれ」
 予想していた事ながら、その言葉を聞いたとき、アシュランは一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。
(透が凶悪犯?しかも、第一級??)
 第一級の犯罪者。それは、捕縛する際に少しでも抵抗するようなら射殺もやむなしであり、そして捕縛されればほとんどの確率で終身刑か、あるいは極刑が待っている、そんな凶悪犯の総称だ。
ギル:「彼は、度重なる第一級の不正アクセス罪に加え、数度にも及ぶ軍構造体への不正アクセス、そして、君に対するものも加えての兵隊への障害、殺人未遂を重ね、そして、今回の殺人だ!彼をこれ以上野放しにすることは、ネット社会の安全を脅かす危険がある!!」
 そのマスクに象徴されるように、普段から、何を考えているのか図りかねるところのあるギルが、珍しく、怒りをあらわにしているように思われた。
 そう。透の罪状を客観的に挙げてみれば、十分に第一級の犯罪者となり得るのだ。おそらく、アシュランたちを救った恩赦などは完全に取り消されているだろうし、アシュランは兵隊に対する彼の攻撃の目的と、そしてそこに殺意が無かったことを知っているが、それも今回の一件があっては、それを主張したところで、もう誰にも信用されまい。何より、透がミゲルを殺したことは、事実なのだ。
ギル:「彼は、君も知っての通り、かなりの凄腕だ。彼を捕まえられる腕前の持ち主は、我が軍の中でも、君くらいなものだと私も考えている。ミゲルのためにも、そして二度と彼のような犠牲者を出さないためにも、頼んだぞ、ザラ小隊長」
 ギルは、力強くアシュランを励ました後、そのまま行ってしまった。ギルの言葉の中には、怒りの中にも、心なしか歓喜のような感情が込められていた気がしたが、アシュランの頭は、これ以上物事を考えることを拒否していた。


陰鬱な長雨が降り注ぐ下町のアパートの一室 透の部屋
 うなだれる透の横で、月菜が啜り泣きと嗚咽を漏らしていた。
 月菜は、ずっとこの調子だ。実世界に戻り、そしてまだ夢心地のような気持ちの中、二人は自宅のアパートに戻ってきていた。そしてそれから数日が経ったある日、月菜が突然蒼白な顔で透の部屋を訪ね、透がソファーを薦め、それに座った瞬間、月菜はまるで決壊したかのように、わっと泣き崩れたのだ。
月菜:「うう・・・透、自首しよ、ねぇ、自首してよぉ・・・・」
 月菜は涙に声を詰まらせながら、まるでうわ言のようにそう繰り返すばかりだった。
 透は、月菜の体が小刻みに震えていることに気が付き、自分の上着をそっとかける。すると、月菜は怯えるようにビクッと体を強張らせ、それから透の上着を、ぎゅっと強く掴んだ。
 おそらく、月菜の震えは、雨で部屋の中が冷え込んでいるからだけではないのだろう。
 月菜は、透が兵士のジンを、アシュランの仲間を突き刺す場面を、はっきりと見てしまったのだ。
 ようやく落ち着いた月菜が、鼻を啜りながら、涙で真っ赤に貼れた顔を上げた。
月菜:「ねえ、透、自首、しよ・・・・」
 月菜の声はか細く、今にも折れてしまいそうな感じがした。
透:「・・・・・・」
月菜:「透、ねえ、お願い。事情を話せば、きっと悪いようにはされないよ。あの兵隊さんのことは、あたしも一緒に償うからさ・・・・・」
透:「『悪いようにはされない』か・・・・・。まあ、捕まれば、極刑以上は『悪いようにはされない』だろうな」
月菜:「え・・・・・・」
 月菜の表情から、血の気が完全に引いた。
 透は、胸がズキリと痛んだ。もちろん透だって、月菜が自分のことを大切に想ってくれていることはわかっている。だから、今もあんな言葉を、皮肉や月菜を傷つけるために言ったわけではない。ただ・・・。
透:「月菜、お前もわかってるだろ。俺はもう、極刑は免れないよ・・・」
月菜:「・・・・・・・」
透:「今回のことだけじゃない。俺にはゴマンとハックの前科がある。それに、兵隊への障害、殺人未遂も何件もな」
月菜:「・・・・・・」
透:「でも、月菜ももう、俺が逃げられないことはわかってるだろ。だから、『自首しろ』って言ったんだろ。そうだな。俺は、自首するよ・・・・」
月菜:「ダメ!!!!!!」
 突然、月菜が声を枯らしながら叫んだ。
月菜:「ダメ、ダメェ!!!!! そんな、そんなの、絶対ダメ!!!!!!」
 月菜の両目からは、既にとっくに枯れるほど流したにも関わらず、また新たな涙が見る見る溢れ、そして何筋も頬を伝った。
透:「月菜・・・・」
月菜:「お願い、透、行かないで!!!!あたし、透までいなくなったら、いなくなったらあたし、あたし!!!!!」
 月菜は、透の腕に縋り、なおも泣き叫び続けた。
月菜:「あたし、透が罪を償うんだったら、いつまででも待つよ!!それに、あたしだって共犯だもん、透だけじゃない、あたしのせいであんなことになりましたって、一生懸命言うよ!!!」
透:「バカなことを言うな!!月菜は、俺が巻き込んだだけだ!!!」
月菜:「違うよ!!あたし、透と離れたくなかっただけだよ!!!!」
透:「つ、月菜・・・・」
月菜:「だから、透、お願い、考え直して!!!自首するのはいい、もう逃げられないし、あたしも一緒にする!!でも、でも、死にに捕まるようなことだけは、絶対やめてぇ!!!!!」
 そのまま、月菜は何時間も、何時間も泣き続けた。透は、そんな月菜の髪をなでてやることしかできなかった。

 月菜は暫らく泣き続けると、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。
 透は月菜をソファーに寝かせると、その上に毛布をかけた。
 月菜の寝顔は、先程まであれほど泣き叫んでいたとは考えられないほど、穏やかなものだった。もしかしたら、いい夢でも見ているのかもしれない。
透:「・・・・・」
 透は、月菜の寝顔を、ゆっくりと眺めた。
 月菜はいつの間にか、初めて出会ったときの少女から、美しい女性へと成長していた。いつもは出会った頃のままの感覚で接している透も、月菜のこういう表情を改めて見ると、何故か厳粛な気持ちになってしまう。
透:「こいつも、だまってりゃ、なかなかの美人なのにな・・・・・」
 透はそう呟きながら、今言ったことに、心の中で少し訂正を加えた。
 月菜は、『なかなか』どころか、『とびっきりの』美人だ。それに、世話好きで気立ても良く、ちょっと口うるさくてお転婆なのが玉に瑕だがそれを補って有り余るくらいの魅力を持った少女だ。
 これほどいい女に育った月菜だ。今は透に付きまとっている彼女にも、いつかは彼女に相応しい恋人ができ、やがては透から離れてゆくのだろう。今回のことは、それが少し早くなっただけのこと。そして、彼女にとっては、そうなるいい機会のはずだ。
 そういえば、かつて優哉は言った。
優哉:『お前がアンダーグラウンドの住人になっても、月菜は絶対お前のことを追いかけてくる』
 月菜が透を追いかけてくるのは、幼馴染のよしみ、そして手のかかる弟への世話心、そして、一人になりたくないからだろう。でも、月菜は優しく強い娘だから、一人になってもやっていけるだろうし、周囲の人が彼女のような人間を一人にしておくはずが無い。しかし、透とこれ以上一緒にいては、そんな彼女の人生も、闇に閉ざされることになる。
 透は、もう一度月菜の美しい寝顔を眺めた。もう二度と見ることの無いだろう大切な人の顔を、しっかりと目に焼き付けておくために。そして、
透:「じゃあな、月菜」
 透は、部屋をあとにした。

 透は、雨が降り注ぐ夜の下町の中を、傘もささずに歩いていた。
透:「この街並みとも、もうお別れだな・・・・」
 透は感慨深げに、闇に飲み込まれている薄汚れた街並みを眺めた。
透:「ここに来てから、いろんなことがあったっけな・・・・」
 そうこうしているうちに、透の足はアジトの溜まり場へとやって来た。
 透は溜まり場のコンソールの一つに、深く腰をかける。そして、メールフォームを開きながら、何となく気になって、チャットルームの覗き窓(ウィンドウ)を開いた。
透:「・・・・・・」
 実世界の天候や時間と関係なく青空が広がる(チャットルームの背景は全て壁紙で、実際は『屋内』にあたるからだ)そこには、すやすやと寝息を立てながら、憐の小さな体が横たわっていた。
 透は、そんな憐の寝顔を少しの間眺めていた。憐の寝顔はあどけない少女のもので、まだ月菜のような神秘的な美しさはないが、顔立ちは上品に整っている憐は、きっと将来、月菜に負けないとびきりの美人になるだろう。
透:「それにしても、全く、なんてところで寝ているやら・・・・・」
 すると、憐は突然、苦しそうに顔を歪めた。
憐:「う・・・うう・・・行かないで、お兄ちゃん・・・」
 透の心臓が、一瞬、激しく飛び跳ねた。
 だが、憐はあの日、透が何をしてしまったのかは知らない。あの状況に遅れてやってきた憐は状況を把握していなかったし、透も月菜も、憐に本当のことは一切話さなかったからだ(話せるはずが無い。こんなショッキングなことを、こんな無垢な少女に)。
 だとすれば、憐はきっと、実の兄のことで悪夢にうなされているのだろうか。
憐:「おねがい、まって・・・・。憐を、憐を一人にしないで・・・・・」
 うなされている憐の額には汗が滲み、目には涙さえ浮かんでいた。憐はその愛らしい唇で、必死に助けを求めていた。
透:「憐・・・・・」
 透は堪らなくなって、ついチャットルームに没入した。そして憐に駆け寄ると、憐の肩を軽くゆすった。
透:「おい、憐、憐、しっかりしろ」
 すると、憐の目が、薄っすらと開く。
憐:「お、お兄ちゃん・・・・・・?」
 そして、
憐:「お兄ちゃん!!!」
 憐の小さな体が、勢い良く透の腕の中に飛び込んできた。憐の体はとても軽く、そして温かかった。
透:「お、おい、憐・・・・」
憐:「う・・・ぐす・・・お兄ちゃん・・・・」
 よほど怖い夢でも見たのだろう。透の腕の中で震えながら泣き続ける憐の背中を、透は優しく撫でる。
 憐は、初めて出会ってからの短い時間で、すっかり透に懐いてしまった。そして、そんな憐といることで、透も何故か、妙に落ち着いた暖かい気持ちになれるのだった。時折、憐を自分の本当の妹のように考えることさえあるほどに・・・・。
 気が付くと、憐はいつの間にか泣き止んでいた。
透:「憐、落ち着いたか?」
憐:「うん・・・」
 憐は弱々しく首を縦に振るが、透から離れようとはしない。
透:「憐、悪い夢でも、見たのか?」
 憐はコックリと首を縦に振った。
透:「しっかし、憐、寝るときくらい現実に帰らないと、体に悪いぞ」
 すると、憐は透の顔を見上げた。その目には、深い孤独と絶望が見て取れた。
憐:「だって、夜はいつもさびしくて・・・・・」
透:「・・・・・」
憐:「一人で寝ていると、どこかにつれていかれちゃいそうな気がして・・・・・。だけど、ここにいると、お兄ちゃんが来てくれるかなって、そんな気がして・・・・」
透:「憐は甘えん坊だな・・・・」
 透は、憐の背中をもう一度、いとおしい気持ちで優しく撫でた。
 家族も友人もなく、孤独に数年という月日を生きてきた憐。その間、彼女の味わった恐怖と不安は、いかほどのものだっただろう。
透:「それで、憐はどんな夢を見ていたんだ?」
 憐は、ポツリと言った。
憐:「お兄ちゃんが、どこかへいっちゃう夢・・・・」
 透の背筋が一瞬、さーっと冷たくなっていった。憐が、全てを見透かしているような気がしたからだ。
憐:「お兄ちゃんは、どこへも行ったりしないよね?憐を置いて、どこかへ消えたりしないよね・・・・?」
 憐は、真剣に透を見つめていた。その表情には、不安以外は見て取れない。どうやら憐は、ただ怖い夢を見て、不安に襲われただけなのだろう。
透:「大丈夫だ、憐、どこへも行かないから安心しろ」
憐:「うん。約束だよ、お兄ちゃん・・・・」
 そう言って、安心しきった表情で透から離れてゆく憐を見て、透はこれ以上無いほどの罪悪感に襲われた。もうこれ以上憐と会話することに、耐えられそうもない。
透:「約束するから、今日はもう、現実に帰って休むんだよ」
憐:「うん・・・・」
 憐はゆっくりと首を縦に振った。おそらく、透の言葉の意図にも、全く気付かないまま。
 帰り際、憐は仮想の草原を見渡しながら、言った。
憐:「憐ね、ここ大好きなんだよ・・・・」
透:「そうか・・・・。ここは俺の、シュミクラムの次に、ネット人生で今のところ最大の自信作だからな。我ながら、本当にいい景色に仕上がってると思うよ」
憐:「うん、けしきもそうなんだけど・・・。ここがほんとうに好きなのには、もう一つ、理由があるんだよ・・・・」
透:「どんな理由だい?」
憐:「・・・えへへ、ひみつ」
 顔を赤らめながら、はにかんだように笑うその表情は、本当に、まだ幼い子供のそれだ。
透はそんな憐の表情に、胸が強く締め付けられるのを感じながらも、同時に、ある決意を固めていた。
(この子を、これから始まることに、絶対に巻き込むわけにはいかない・・・・)
 だから、透は言ったのだ。
透:「じゃあ、俺もそろそろ戻るから、憐も現実に帰るんだぞ」
憐:「・・・うん」
 一瞬、憐は透の顔を覗き込むような仕草をしたが、すぐに後ろを向き、草原の向こうに駆け出し、程なくして、その体は青空の向こうに消えていった。
 透はその小さな背中を見送りながら、呟いた。
透:「さよなら、憐・・・・」
 憐は、本当に、この短期間で透にすっかり懐いてしまった。もし透が本当にいなくなったら、憐は一体どうなってしまうのか、そんなことを考えさせられる程に・・・。
 透は、慌ててそこから先の考えを、頭を振るって追い出す。
透:「大丈夫だ。憐にはもう俺だけじゃなく、月菜だっている。きっとあいつが、憐の面倒を見てくれるさ。それに憐だって、いつかきっと、本当のお兄さんに会える。俺は、それまでの、『お兄さん代わり』でしかない。いつかは別れることになるんだしな・・・・」
 そして、透はもう一度、自慢のチャットルームを見渡す。もし自分がここからいなくなっても、憐がきっと訪れてくれるだろう。そしていつか憐も兄と再会して本来の生活を取り戻し、友達も沢山でき、そして、憐がその友達をここに連れてきてくれる。そうなれば、ここは透がいなくとも、決して忘れられることも失われることもない・・・・。
 透は草原の景色と、その中で安らかに眠る可愛らしい眠り姫の姿を頭に焼付け、そして仮想の草原を、永遠に後にした。
 
 そして、透は開いていたメールフォームに文字を打ち込みながら、チャットルームの情景をもう一度思い出した。
 あそこも確か、優哉と一緒に創った場所だ。そして、透はあそこで、優哉と色々な話をした。悩みを打ち明けたこともあるし、バカ話に興じたこともあったし、言い合いになったこともあった。
そう言えば、優哉とどんなに激しい言い合いになったときでも、結局はこういう風に、後腐れなく終わったのだ。
優哉:『はは、少々熱くなりすぎちまったな。ま、そういうこった。許せ、相棒』
 透の大好きな、優哉の優しい微笑みで・・・・・。
透:「優・・哉・・・・・」
 透の目から、涙が零れ落ちた。もうその優哉は、この世のどこにもいない。あの大好きな笑顔は、もうどうやったって見られないのだ。もう透の横のコンソールに彼が座ることは、永久にないのだ。
(どうして?)
 そう考えた透の脳裏に、『あの』シュミクラムの姿がよみがえる。禍々しい四本のクローを持つ、軍の可変型シュミクラム、いや、『イージス』!
透:「あいつが・・・・・あいつが、優哉を殺したからだ!!!!」
 そう、『あいつ』が。あんなに優哉に似た笑顔をしていたのに。同じく『仇』を持つものとして、そして人として、友として、優哉以来と思えるほどに解り合えたと思ったのに――!!!
 もうその先は考えられなかった。透の思考は、沸きあがる炎によって、既に赤一色に塗りたくられていた。
 透は、残りの一字一字を、ありったけの憤怒を込めて打ち込んだ。
透:「捕まるんなら、捕まってもいい!死刑になるんなら、もうそれも構わない!!でも、でも・・・・!!!!!」
 透は、最後の一文字を打ち終えた。
透:「優哉の仇だけは、あいつの仇だけは討たないと、俺は、死んでも死に切れない!!!!!」
 そして、透は憎しみと共に、そのメールを『相手』に送信した。

 その相手の名は、アシュラン・ザラ。


 アシュランは、まるで魂の抜けたような心境で、自室の端末のスクリーンと向かい合っていた。とはいっても、特に何か目的があってのことではない。ただ、部屋にこうして一人座っていても他にやることがなかったし、他に何かやりたいとも思わなかっただけだ。
アシュラン:「第一級の凶悪犯、相馬透。か・・・・・」
 アシュランは、透の顔を、あの悪戯盛りの子供の面影を色濃く残した青年の顔を、思い起こした。彼が、捕まえる際には『生死を問わず(デッド・オア・アライブ)』の凶悪犯だなんて、そしてそれをこれから自分が捕まえに行かねばならないなんて、アシュランにはとても信じられなかった。
 しかし、現に彼は、アシュランの目の前でミゲルを殺したのだ。アシュランの、最も古くからの友達を。ミゲルが軍に入ったのだって、アシュランの恋人を襲った惨劇を聞いたからだ。彼はいつも、アシュランのことを思ってくれていた。
アシュラン:「透、どうしてお前は、あんなことを・・・・。」
 そのとき、アシュランの脳裏に、透が叫んでいる様がよみがえった。
透:『放せ、月菜!! あいつが優哉を、優哉を!!!!!!』
アシュラン:「俺が、透の親友を――――!!?」
 殺したというのか?アシュランには、もちろんそんな記憶は無いのに。
 しかし、思い返してみる。透は、親友の仇のシュミクラムのことを、『軍の可変型』と言ったではないか。そして、透は変形したイージスを見た瞬間、豹変して襲いかかって来たのだ。イージスはアシュランの専用機で、同タイプの機体は少なくともこの日本のZAFTには存在しない。大切な親友の仇を、透が見間違えるということも考えにくい。
 更に、透の親友が殺されたのは、『軍構造体内に飛刀が襲撃してきたとき』だったはずだ。そのときに、アシュランには民間人のシュミクラムを撃破した記憶はないが、一機、ただ一機だけ、相手をよく確認せずに撃破した機体があった。
あれは、ゲンハと戦った直後だった。ゲンハと戦っているうちに怒りによって我を忘れ、気が付いたら仲間たちとはぐれていた。そしてアシュランはゲンハに敗北、気絶した。次に目が覚めてみると、近くに友軍機ではない機体がいたのだ。アシュランは咄嗟に、とどめを刺そうとしているゲンハだと思い、死力を尽くして突進した。その相手はやけに手応えが軽く、ゲンハではないことはすぐにわかったが、アシュランはただ、ゲンハは自分にとどめを刺さずに撤退したのだ、ということを考えただけだった。
 あの機体が何を言っていたのか、そしてどういうタイプの機体だったのかさえ、アシュランには思い出せなかった。そして、アシュランは今日まで、あのときに倒したのはテロリストだとばかり思っていた。
 しかし・・・・・。
 アシュランは背筋が、さっと冷え込むのを感じた。
アシュラン:「俺は・・・俺は・・・・・・・」
ピロロロロ・・・・・。
 アシュランは、咄嗟にビクリと背筋を強張らせた。しかし、よく聞いてみると、端末から流れたただの電子音だ。どうやら、誰かからアシュラン宛にメールが届いたらしいが。
アシュラン:「一体、誰からだ・・・・?」
 アシュランはメールを開こうとして、何気なく発信者の項に目をやり、次の瞬間凍りついた。
アシュラン:「こ、これは・・・・・・・」
 そのとき、部屋のドアが開いた。アシュランは咄嗟にメールソフトのウィンドウを閉じ、振り返った。
アシュラン:「イザーク・・・・・」
 そこにはイザークが、なんとも言えないような、複雑な表情で立っていた。
アシュラン:「何しに、来たんだ・・・・・」
 口に出してしまってから、アシュランは、己の愚かさを悔やんだ。自分を心配して来てくれたに決まっているではないか。それともまさか、こんなときに、イザークがアシュランに嫌味を言いに来るとでもいうのだろうか。
イザーク:「いや・・・ただ、気になってな・・・・」
 わざとぶっきら棒に言うイザークだが、その表情からは、アシュランに対する気遣いが滲み出ている。誤解を招きやすいところがあるが、本当は優しく仲間想いのイザークだ。今回の出来事に心を痛め、そしてそれと同じくらい、アシュランのことを心配しているのだろう。アシュランにも、もうイザークにもこういう一面があることはわかっていた。
 アシュランは、入隊した当初はイザークのことを、何と傲慢で協調性の無い男だろうと思った。我侭で、事ある毎に隊長である自分に突っかかり、簡単に暴力も振るう。アシュランにとって、イザークは手の付けられない暴れん坊であり、彼と解り合うことは永遠に無いと思ったことさえあった。
 しかし、幾度と無く任務で生死を共にし、そして日常の様々な場面でのぶつかり合いを経て、アシュランにとってイザークは、かけがえの無い仲間の、友の一人になっていた。
 だが、今のアシュランにとっては、そんな友の言葉も、正直煩わしいだけだった。こんなことを言うのは単に自分の我侭なのはわかっているが、それでも、一人になりたかった。
 そして、そんなアシュランの様子を、イザークも悟ったのだろう。彼は、扉から中に入らずに、すぐに出て行くということを暗に示しながら言った。
イザーク:「・・・・ニコルには、まだこのことは話してない。あいつは明日にでも退院できそうだから、その時に俺から話す。マリアにも言ってないが、これも俺に任せてくれ」
アシュラン:「・・・・・・」
 ニコル。そうだ、ニコルは今、負傷して入院していたのだ。彼は、ミゲルの事件を知らない。そんなことさえも、すっかり忘れていた。
イザーク:「・・・『ステッペン・ウルフ』か。あの野郎、ミゲルを殺しやがって!!!」
 『ステッペン・ウルフ』。その言葉を聞いたとき、アシュランの心臓が、大きく跳ねるのを感じた。イザークは、それに気付く様子も無く、言葉を続けた。
イザーク:「アイツは、俺に傷をつけ、その上ミゲルを殺した!!このお礼は、俺の手でしてやらないと、気が済まない!!」
アシュラン:「・・・・・」
イザーク:「・・・だから、アシュラン。今度は一人で突っ走ろうとか、思うんじゃないぞ!!!」
 そして、イザークはそのまま、部屋から出て行った。
 イザークは、目の前で友を殺されたアシュランが、また暴走することを心配して来てくれたのだろうか。しかし、そんな友の心遣いも、アシュランにはどうでもいいことのように思えた。
 アシュランは、無感動のまま、透から送られてきたメールを開いた。そこには、案の定の内容が書かれていた。
アシュラン:「仇・・。そうだな、俺は、透の仇か・・・」
 そう呟いた時、アシュランの脳裏にふと、ある出来事が蘇る。そうだ、あれは確か、自分が今の部隊の隊長に任命してすぐの事だ。
 突然基地内で、アシュランは軍服をさも当然のように着たミゲルを見たのだ。そして、驚きのあまりミゲルに詰め寄ったアシュランに、ミゲルは当たり前のようにこう答えたのだ。
ミゲル:『仇を討つには、一人よりは二人の方がいいだろ。及ばずながら、力ぁ貸すぜ』
アシュラン:「仇・・・。それは、お互い様だな、透!!」
 アシュランの心の中に、唐突に憤怒の炎が沸きあがる。そうだ、透がミゲルを殺したことを、許すわけにはいかない!
 そしてそれは、透にだって同じことだ。一度は親友だと思った人物だ。アシュランには、彼の考えることがよくわかる。透は、おそらく親友の仇を許さず、そして仇討つまでは決して諦めないだろう。そして、今のままでも彼の刑は十分に絶望的だが、今アシュランが行かねば、捕まらないために透は更に抵抗し、罪を重ね、間違いなく極刑に処される。今自分が出て行かねば、透は誰かの手によって殺される。それなら、それならばいっそ・・・・・。
アシュラン:「・・・俺が、お前を殺す!!」


 仮想の世界の中にも、滝のような雨が降り注いでいた。
 透はシュミクラムを雨で濡らしながら、荒れ狂う大海原の上を、『あの場所』へと急いで飛んだ。透が取り返しのつかない罪を犯してしまった場所、そして、透が優哉以来の親友と思える人間と出会った、あの場所へ・・・・。
 その場所には、既に先客が来ていた。ビームライフルを掲げた、真紅の機体。約束の時間は、まだ来ていない。おそらく、彼は大分前からここで待っていたのだろう。軍機に完全に違反してまでも。いかにも彼らしい行動だ。
 そこまで考え、透の心が、一瞬揺れる。目の前にいる機体はイージス、アシュランが操る機体だ。そう、アシュランが・・・・・。透の決心が、一瞬ぶれた。
 しかし、透はすぐさま頭を振って、思考を怒りに委ねた。
(何を言っているんだ!!あいつは、仇なんだ!!!優哉を殺した・・・・そう、優哉を殺したな!!!!!)
 その事実を確認した瞬間、透の思考が、一瞬で憎しみに満たされる。もう透には、目の前の機体を倒すこと以外は考えられなかった。
透:「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
 透は、イージスへ向けて、チャージショットを容赦なく放った。アシュランもそれを予測していたのか、易々とかわすと、同時にビームライフルを透に向かって激しく撃ちかける。
 二機は決闘場の小島の上を交差しながら、激しく討ち合った。
 お互いのビームライフルが同時に被弾し、閃光を発して消滅する。その閃光が、イージスの機体を赤々と写し出した直後、アシュランはすぐさまビーム刃を射出すると、透に勢い良く斬りかかった。透もまた、ビームサーベルを抜いてそれを受け止めながら、アシュランの太刀筋に言いようも無い気迫が篭っているのを感じた。間違いない。彼もまた、透を殺すつもりだ。
透:「だろうな!!俺と良く似たお前だ!お前も俺を許せないと思ったよ!!!」
アシュラン:「・・・・」
透:「だが、かえって好都合だ!!俺もお前を許さない!!!」
 二機は、交差しながら何合も打ち合った。そして、何合目かの打ち合いで、二機はお互いのビーム刃をシールドで受け止め、そのまま激突した。
透:「く、くくく・・・・・」
アシュラン:「う、おおおお・・・・」
 透は、その激突の最中、彼の太刀筋から、アシュランがまだ、自分を討つことに僅かながら躊躇いを持っていることを悟った。それを知り、透の中にもまた、微かな躊躇がよみがえる。
 アシュランは、相変わらず優しい。あれだけのことがあったのに、まだ自分を憎みきれていないようだ。それは、とても悲しい優しさだ。アシュランは、とてもいいやつなのだ。こんなにいいやつなのに、それなのに・・・。
透:「なのに、なんで、どうして・・・・!!!!」
 お互いの攻撃による衝撃で、二機は弾き飛ばされた。そして、アシュランは迷いを振り捨てようとするかのように、『奥の手』の変形を躊躇無く使う。
 透の目の前で、再び友のシュミクラムが、あの憎き『仇』の姿に形を変えた。
優哉:『ハックで稼いだ金を元手に、商売を始めようと思っているんだ。できれば、お前と一緒にな』
優哉:『ははは、気にするなよ、相棒』
 優哉の夢を、未来を、笑顔を、それを、こいつが、こいつが!!!
透:「どうして、どうして・・・・・どうしてお前が、優哉を殺したぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

『反転(フリップ・フロップ)』

 透の脳が、一気に怒りに沸騰し、次の瞬間、まるで目の前の霧が晴れたように、五感の全てがやけに鮮明になる。
 透は、アシュランの放ったスキュラを難なくかわし、一気にアシュランに詰め寄ると、ビームサーベルを左袈裟に振り下ろした。アシュランは急いで変形を解除し、それをシールドで受け止めるが、鬼気迫る一撃は、シールドごとイージスの左腕を斬り裂いた。
アシュラン:「くっっ!!!!」
 アシュランは右腕からビーム刃を伸ばし、イーゲルシュテルンを交えながら、懸命に透の太刀を捌いた。しかし、透は追撃の手を全く緩めない。
雨が、激しさを増した。


 その頃、月菜は透の部屋、ソファーの上で目覚めた。いつの間に寝てしまったのか、自分の体の上には、親切に毛布までかけてある。おそらく、透がかけてくれたのだろう。透は、いつもは月菜に対して冷たいが、こういうところはとても優しい。透のそういう一面も、月菜が大好きなところだった。
月菜:「透、ありがとうね。あたし、寝ちゃってたんだね。そろそろあたし、帰るから。ねえ透。・・・透?」
 返事が無い。透も寝てしまったのだろうか。いや、それにしては、この部屋に、“透の気配自体無い”というのはおかしい。
月菜:「透、透、ねえ、透!!!!」
 やはり、返事は無かった。月菜の思考を、ある考えがよぎる。
月菜:「まさ、か・・・・。ありえないよね、そんな、透に限って、まさか、まさか・・・・」
 そう言いながらも、月菜の不安は増すばかりだ。
 そう、月菜はわかっていた。“透だからこそ”あり得るということを。付き合いの長い月菜だ。透の考えることは、大体わかる。わかってしまう。
 透が、大人しく捕まるはずがない。この状況で、優哉の仇を目の前にしたこの状況で、何もせずにおとなしく捕まるはずは。なぜなら、透はとても友達思いで、そうでなくとも、優哉のことをどれほど大切に想っているのか、月菜は知っていたから・・・。
月菜:「透、だめぇ!!!!」
 気が付いたら、月菜は傘もささずに、豪雨の中に駆け出していた。

 下町のアジトの扉には、案の定鍵がかけられていた。しかし、月菜も『ステッペン・ウルフ』のメンバーだ。合鍵くらい持っている。鍵さえ掛ければ、透は、月菜が入ってこないとでも思ったのか?月菜に黙ってこから没入すれば、月菜が心配しないとでも思ったのだろうか?
月菜:「透!!!!」
 遅かった。透は既に、自分専用のコンソールに座り、ネット世界に没入していた。
 月菜は駆け寄り、ディスプレイの中を覗き込む。そこには、やはり、思った通りの光景が映し出されていた。
 激しい雨の中、イージスと、アシュランと討ち合う、透の姿が・・・・。
月菜:「透!!!!」
 月菜はすぐに隣の、いつもは優哉が座っていたコンソールに腰掛けると、急いで電源を立ち上げ、ニューロジャックを掴んだ。
 そのとき、画面の中にウィンドウが勝手に開き、そこにはチャットルームの光景と、憐の姿が映し出された。
月菜:「憐ちゃん!!!?」
憐:「月菜お姉ちゃん!!!」
 憐の表情は、色濃い不安と安堵が、それぞれ入り混じっていた。
憐:「ねえ、月菜お姉ちゃん、お兄ちゃんは!!?」
月菜:「え!!?」
憐:「お兄ちゃん、さっきここにきたんだけど、なんか様子が変なの!!ねえ、月菜お姉ちゃん、お兄ちゃんになにかあったの!!?お兄ちゃん、いまどこにいるの!!!?ねえ、ねえ!!!!!?」
 最後は、完全に悲鳴になっていた。
 憐も、透のことを、薄々感じ取っていたのだろう。それでも誤魔化せると考えるあたり、透は相変わらずだ。
 月菜は、なんだかとても悲しい気持ちになりながらも、なんとか気をしっかりと奮い立たせて、憐に言った。
月菜:「憐ちゃん、あたし、透がいる所を知ってる!!だから、お願い、一緒に行こう!!!!!」
 そして、月菜はニューロジャックを首に刺し込んだ。


アシュラン:「くうっ!!!」
 アシュランは、さっきから受け太刀になる一方だった。
 透はスキュラをかわしてから、その動きはまるで別人になったようだ。凄まじい気迫と殺気が篭ったその斬撃は、重く鋭く、いつまでも受けきれるものではない。だが、アシュランとて、負けるわけにはいかない。
アシュラン:「くそぉ!!!」
 アシュランは苦し紛れに反撃の一太刀を放つが、透にあっさりと弾かれ、次の瞬間、腹を蹴られて岩場に叩きつけられた。そこは数日前、アシュランが透たちと楽しく語らった場所だ。
 透の実力は、圧倒的だった。以前戦った時も赤服レベル以上だとは思ったが、それどころではない。力も殺気も、あのゲンハ以上だ。同じ人間とは思えない。格が、いや、次元が違う。
 岩場に背中を強打し、アシュランは起き上がれない。透が、とどめの一太刀を放とうと、突っ込んでくる。
(もう、終わりか!!?)
 そう考えたそのとき、アシュランの脳裏に、ミゲルの笑顔が蘇った。
 いつも陽気に笑ってくれたミゲル。人付き合いが苦手だったアシュランは、彼のおかげでどれほど助けられたことか。
 もう、大切な人を失いたくない、奪われたくない!奪った相手を、絶対に許すわけにはいかない!!
アシュラン:「透!!!俺が、お前を、討つ!!!!!」

『反転(フリップ・フロップ)』

 アシュランの脳内に聞いたことがない電子音声が響き渡り、それと同時に、目の前の感覚が一気にクリアになった。落ちてくる雨粒の一つ一つが手に取るように感じられ、激しく吹きすさぶ風の形まで見えるようだ。そして、今、これから自分が何をすべきかが、はっきりと感じ取れる。
 さっきまではかわせないと思っていた透の一撃を、アシュランは易々とかわした。そして残りの三本の手足全てからビーム刃を展開、透に向かって、おどりかかった!

 閃光が迸り、小さな島を轟く雷鳴が包んだ。
 透とアシュランは、以前二人が親友として過ごした場所で、いつ果てるとも知れない、凄惨な殺し合いを続けていた。
 アシュランのビーム刃が透のシールドを貫き、メインバーニアの左の一基を、左腕ごと斬り裂く。透もまた、イージスの頭部を勢いよく斬り飛ばす。二機はお互いの装甲を激しく傷つけ合いながら、それでもこの壮絶な私闘を止めなかった。
 イージスが変形し突進、三本のクローで透を貫こうとした。透はそれを紙一重でかわすと、無防備になったコックピットに、ビームサーベルを上から思い切り突き立てた!!
(殺ったか!!?)
 透の背筋を、戦慄にも似た達成感が走り抜けた。しかし!!
(かわされた!!!?)
 イージスの機体は一瞬スパークしたが、それだけだった。咄嗟に機体を捻って、コックピットへの直撃を避けたのだろう。そして次の瞬間、イージスが機体を持ち上げると、透の機体にクローで組み付いた。
 
 アシュランの目の前には、透の機体のコックピットがあった。王手(チェックメイト)だ!今スキュラを放てば、全て終わる!!
 アシュランは、背筋を立ち上る快感に動かされるままに、スキュラのトリガーを躊躇い無く引いた!!
 強烈なエネルギー砲が臨界し、そして透の機体を貫く、その刹那!!
 透の機体が、上半身と下半身が独りでに分解し、そして上半身からさらにコックピット部のみが切り離され、戦闘機に変形したのだ!!
 アシュランの脳裏に、無人島での会話がよみがえった。
(コアブロックシステム!!?そうか、しまった!!!!)
 コアファイターが脱出したその瞬間、スキュラが炎を噴き、ゼフィランサスの機体の残りのパーツは全て、その閃光の中に飲み込まれていった。
 イージスの上空に飛び上がった小型脱出艇・コアファイターは、脱出するどころか、なんと向きを変え、そしてアシュラン目掛けて一直線に突っ込んできた!!
透:「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
(まさか、あのまま体当たりするつもりか!!!?)
 透の獣の咆哮のような雄叫びを聞き、アシュランの背筋が一気に凍りついた。あんなちっぽけな脱出艇での突撃など、正気の沙汰ではない!
透の殺気が、そのまま脊髄を走りぬけたような気がした。さっきの一撃で動力系をやられたのだろう、イージスは動かず、アシュランはかわせない!!
アシュラン:「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、二機は激突、炎上、大破した。








第十六章『閃光』完
スポンサーサイト
この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://gozen1020.blog69.fc2.com/tb.php/49-b8be6c0e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30



最近の記事



プロフィール

ごぜん

Author:ごぜん
現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
話すのが大好きだが、上手なわけではい。



フリーエリア

このページはリンクフリーです。



フリーエリア

総計 アクセスカウンター 今日 アクセスカウンター 昨日 アクセスカウンター



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する





上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。