Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』 第十八章
ガシガシ掲載していきます、『バルG』の18章です。
いつも通り、本文へは「READ MORE」にて。








バルドフォース エグゼ
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HG UNIVERSAL CENTURY1/144 ガンダム (アレックス) RX-78NT-1

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バルG第十八章


『レベル7』


 


 


 裏道を抜け、車を乗り捨てて下水道をひたすら進み続けること約一時間。アシュランとテロリストらしい二人の男女は、深夜の駅前にいた。
リャン:「どうやら、追っ手はいないみたいだね・・・」
 そう言って注意深く辺りを見回す少女の格好は、車の中で衛生兵の服を脱ぎ捨てていて、今は、テロリストには相応しくないチャイナドレスだ。レミーとそっくりな東洋系の顔立ちのこの美少女にはとてもよく似合っていて、アシュランは胸の鼓動が少し早まるのを感じた。しかしすぐに、今はそんなことを考えている場合ではないと考え直し、アシュランは、あえてきつい口調を作って言った。
アシュラン:「あんたら、俺をどうするつもりだ? 『飛刀』が俺に、何の用だ!」
 通常、軍人がテロリストに捕まれば、まず処刑される。しかし、今回の場合、彼らがただ自分を殺すために基地から連れ去ったとは考えにくい。そもそも、そう考えると、この誘拐劇はあまりにも手が込みすぎている。
 リャンがその問いに答えた。
リャン:「さっきも言ったろ。あんたをウチの組織に招待しに来たのさ。我らが『飛刀』にね」
アシュラン:「・・・・・」
あきら:「まあ、多少は『強引に』ってことになるのかね。アジトにゃ、メンバー以外入れることはできねえからな。断わりゃ、どうなるかはわかってんな。まあ、俺はそれでもいいがね」
 あきらの言葉は、はっきり言ってアシュランの耳にはまるで入っていなかった。
 レミーと同じ顔の少女が、よりにもよって自分を『飛刀』に勧誘してくるというこの事実に、アシュランは打ちのめされていたのだ。だから、アシュランには、このかなり強引な勧誘を、はっきりと断わるだけの気力が出せなかった。
リャン:「それで、あんた、どうすんだい。クーウォンに会ってみるか、ここで死ぬか。あたしとしては、後の方を選ぶことにゃしたくないんだけど・・・」
 アシュランは、少し考えた後、小さく頷いた。
アシュラン:「・・・・わかった。君の言う通りにしよう」
 その答えを聞いたリャンの顔が、僅かに緩んだ。そして、アシュランはその顔をみて、再びどきりとした。アシュランの大好きだった、この世から永遠に失われてしまったはずの笑顔が、そこにあったからだ。
アシュラン:「・・・・・・」
 すると、リャンがその視線に気付き、少し顔をしかめた。
リャン:「・・なんだい。あたしの顔に、何か付いてるのかい?」
 そうだ。彼女は、レミーではない。その事実が、アシュランにはとても辛かった。
アシュラン:「・・・・いや、すまない。何でもないんだ・・・・」
 そうかい、と言ってリャンは歩き出し、アシュランもそれに続いた。最後に、あきらがつまらなそうに道に唾を吐き捨て、背後を確かめながらそれに続いた。
 三人は、
偽造IDでやってきた列車に乗った(アシュランの分も、偽造IDが用意されていた)。列車に揺られている間、三人とも誰も一言も交わさなかった。


 


そして数時間後。三人は、貧民街(スラム)の無人駅に降り立っていた。
 空を覆い隠す摩天楼の群れと、重工業コンビナートの群れ。この巨大な構築物の群れが今に至るまで生き延びているのは、単に解体が不可能だから、という理由に他ならない。
 ここは貧民街(スラム)。環境も効率も無視して増殖した末に遺棄された、巨大な廃都。吹く風に混じって、くすんだ匂いが鼻を突く。
アシュラン:「ここは・・・。こんなところに、お前らのアジトが・・?」
あきら:「お坊ちゃま育ちのあんたにゃ信じられない、ってかい。ま、こんな所でも、住めば都なんだがね」
リャン:「それに、千年前までは本当に都だった、ってクーウォンが言ってたしな」
 戸惑うアシュランにあきらが皮肉っぽく、そしてリャンはおそらく素直な善意から解説してくれた。そんなリャンの立ち振る舞いは、お嬢様であったレミーとは似ても似つかないのに、どこか似たような雰囲気、言ってみれば生来の品格のようなものがあり、周囲をうろうろしているこのスラムに似つかわしいくすんだ人々の群れと比べると、とても麗彩なものが感じられた。
リャン:「さあ、行こう。少し歩くからね」


 


しばらく歩くと、二人は地下への階段を下り始めた。アシュランも、置いていかれまいと、黙ってそれに続く。地下への入り口は方形の壁で覆われており、入り口の上部には長方形のプレートが貼り付けられていた跡が見て取れた。どうやらここは、一世紀前まで使われていた、地下鉄駅の跡地であるらしかった。
アシュラン:「飛刀のアジトは、地下鉄駅跡にあるのか?」
 思わずアシュランが呟くと、すぐ前を歩いていたあきらが不機嫌そうに返した。
あきら:「いいから黙ってついてこいよ」
リャン:「気をつけろよ。最初は明かりもあるけど、もうすぐ真っ暗になる。足元も滑りやすいからな」
 そう言うと、リャンは作業用と思しき目立たないドアを迷わずに開け、本来駅として使われていた階層の更に下へと進んでゆく。そして、果たしてリャンの言葉どおり、次第に明かりは足元を照らす最小限の、頼りないものへと変わってゆく。
アシュラン:「この先には、下水処理場しかないはずだが・・・・」
 実際、足元を見てみると、汚らしい体毛をしたネズミや、ツヤツヤとした外骨格に覆われた不気味な虫の姿も見えることが多くなってきた。
あきら:「ちっ、ここはいつ見てもいやなとこだな」
リャン:「おいおい、あきら。お前、男のくせにみみっちいな。あたしは、全然平気さ。まあ、気持ちのいいところじゃない、っていうのは賛成だけどさ」
 アシュランは黙っていた。アシュランもあきら同様ここは気味が悪いと思っていたし、実はここに住んでいるような類の虫は大の苦手でもあったが、それもぐっと我慢した。それは、あきらに馬鹿にされる要因を作るからというよりも、リャンの自分に対する印象をこれ以上下げたくなかったからだった。おそらく、彼女が恋人そのままの顔をしているからだろう、アシュランは、なぜだかリャンの前では、格好をつけたかったのだ。そのため、足元から気を紛らわそうと周囲を見渡して、ふと、あるプレートが目に留まった。
アシュラン:「『この先 関係者以外の立ち入りを厳重に禁ず』、『軍特別監視区域』?ここは、破棄された軍の施設なのか?」
 リャンも、あきらも何も答えない。だが、周囲は次第に、薄汚れたコンクリートから、プラスチックコーティングの壁面に変わっていった。
 それから、どのくらい歩いただろうか。不意に、三人の目の前に、巨大な鉄の扉が立ちふさがった。幅およそ5メートル、高さに至っては、10メートル近くはあるのではないか、それは人を拒んでいるというよりも、何か別の、もっと強大なものを拒んでいるかのように聳え立っていた。
アシュラン:「こ、これは・・・?」
 すると、あきらが嫌味を含んだ得意げな表情で、唖然としているアシュランを見た。
あきら:「まあ見てなって。びびってちびっちゃわないようにな」
 横では、リャンが携帯端末で誰かと話していた。ということはおそらくここが、飛刀のアジトの入り口なのだろう。すると、リャンが携帯端末を閉じて、言った。
リャン:「さあ、下がりな。扉が開くよ」
あきら:「ようこそ、黄金郷へ。ってか?」
 そして、荘厳な鉄の扉が、ゴゴゴゴゴ、と厳めしい音を立てて左右に開く。驚いたことに、扉の厚さは7,80センチ。更に同様の扉が、奥に何重にも渡って設置されていた。すると、これは・・・・。
アシュラン:「核・・シェルター・・・?」
あきら:「ようこそ、我らが『レベル7』、地上の、いや、地下の楽園へ」


 


 最後の扉を潜ると、突然強烈な人口照明の光と共に、視界が大きく開けた。
 そこは、巨大なドーム状の建造物で、中心が大きく陥没しており、そこに巨大建造物がいくつか立てられていた。
 アシュランたちは、その陥没を囲む幾重もの螺旋状になったアーチの最上部に立っていた。アシュランは、思わず、吹き抜けになっている眼下の最深部を見下ろした。そこには、いくつもの無骨なバラックが点在し、まだ就学前と思しき年齢の子供たちがはしゃぎ回り、親らしい若い女性がそれを見守り、老人たちが腰を休めていた。
アシュラン:「・・・・・」
 予想とは大幅に異なった光景に思わず呆けていると、いつの間にか190cm以上ある大男が、アシュランたちに近づいてきていた。
男:「どうかね、ここは?『第七層防御シェルター』、旧世紀の大いなる負の遺産にして、追われてきた者たちの最後の砦は」
アシュラン:「!」
 慌てて振り返り、そこにいた者を見て、アシュランの思考は一瞬真っ白になった。腰の辺りまで伸ばした白髪交じりの長い髪、細面な顔、学者のような小さな丸眼鏡に、その奥にある柔和で理知的な瞳、そしてその穏やかな顔とは裏腹に、鍛え上げられた異様な存在感を醸し出すがっしりとした身体つき。
 見間違うはずもなかった。軍の掲示板で何度も手配書を見てきたし、テレビで何度も彼の声明を観た。
 そこにいたのは、反チップ主義テロリストの中でも最凶のタカ派グループ『飛刀』のリーダー。
アシュラン:リー・クーウォン!!!
 アシュランは咄嗟に飛びずさり、身構えた。しかし、一方クーウォンはそんなアシュランの様子をまるで気にすることなく、無防備に穏やかな笑みをこぼした。
クーウォン:「そう。私が『飛刀』のリーダー、リー・クーウォンだ。アシュラン・ザラ君、君が来るのを待っていた。私とここの住人は、君を大いに歓迎しよう」
 そして、クーウォンは次に、アシュランの横にいる二人の男女に視線を移した。
クーウォン:「あきら君、そしてリャン、君たちもよくやってくれたな。ありがとう。礼を言おう」
あきら:「いえ、そんな、礼なんて!ありがとうございます、俺、感激です!」
 今までの辛辣な態度はどこへやら。クーウォンを前にしたあきらは、まるで大好きな父親に対する幼い子供のようだった。そして、少し離れた場所ではリャンが、クーウォンを呆れたような、それでもどこか気を許した穏やかな表情で見ていた。
(父親、か・・・・)
 不意にアシュランの脳裏に、あの冷徹な父の、パトリックの姿が思い浮かんだ。アシュランは、慌てて我に返り、クーウォンを睨みつける。
アシュラン:「それで、クーウォン、あなたが俺を呼んだ目的はなんだ?ZAFTの最高責任者の息子の俺を人質にとって、軍を脅迫しようとでもいうのか?」
 すると、リャンとあきらが一転して険しい表情になった。
リャン:「お前、クーウォンがそんな卑怯な手を使うとでも・・・!」
 つかみかかりかねない勢いだったリャンを、クーウォンが片手でそっと制した。リャンは、それだけで、しぶしぶといった感じではあったが、大人しく引き下がる。
 卑怯な手?おかしな話だ。卑怯な戦術を主とするテロリストの親玉を、あの少女は、卑怯な手など使わない高潔な人物だとでも思っているのだろうか。
 何となく一気にいやな気持ちになったアシュランに、クーウォンは優しく語りかけた。
クーウォン:「君がそのような考えに至ってしまうのは致し方ないが、私はそんなつまらぬ事のために君を呼んだのではない。私は、『パトリック・ザラの息子』にではなく、『アシュラン・ザラ』、つまり君に用があったのだ」
 そう言葉を紡ぐクーウォンの表情には、一切のやましさも無かった。
アシュラン:「では、それは一体なんですか?」
クーウォン:「君に、我々を理解し、同志となってもらうためだ」
アシュラン:「な・・・・・?」
 アシュランは、一瞬、この男の言ったことが理解できなかった。
(同志?理解?この男は、俺に向かって何を言っているんだ?ZAFTの赤服パイロットで、軍の最高責任者の息子である俺に向かって・・・・)
クーウォン:「理解できなかったかね?では、もう一度言おう・・・」
アシュラン:「いえ、結構です。そもそも、あなたは何を考えているんですか!」
 答えなど、はなからわかっているだろうに。
アシュラン:「最初からワケがわからない!いきなり基地から部下を使って誘拐させて、理解しろ、テロリストになれとあなたは言う!でも、なんでいちいちそんなことをするんだ!なぜ俺なんだ!あんなリスクを冒して誘拐しておいて、目的が俺を勧誘すること!?そんなこと、信じられるわけあるか!!!」
 しかし、クーウォンはアシュランが詰め寄ってもまるで動じず、その眼鏡の奥にある深い瞳で、じっとアシュランの瞳の奥を覗き込んでいた。
クーウォン:「無論、理由ならある。君でなければならない、深い理由がね。本来なら相馬透君も一緒に連れてきたかったのだが、生憎『やつら』もさるものでね、彼は今我々の力が及ばない場所に移されてしまった。だから、せめて君だけでも、と思い呼んだのだ。方法は手荒だったかもしれないが、手遅れになるといけないのでね」
アシュラン:「透?なんでこんな時に、あいつの名前が出るんだ!!?」
 すると、クーウォンの表情が、僅かに鋭さを帯びた。
クーウォン:「話してもいいが・・・それは、君が我々の目的を、真に理解してもらってからでなくてはいけない」
アシュラン:「だから、それがわからないって言ってるんだ!!!」
 アシュランは、憤りの全てを視線に込めてクーウォンにぶつけた。
アシュラン:「あなたの唱える時代遅れの反チップ主義思想を、いったいどうやって理解しろというんだ!」
 クーウォンは、そんなアシュランの言葉を、視線を、身じろぎ一つせずに全て受け止める。
クーウォン:「私は、なにも脳内チップそのものに反対しているわけではないよ。あれは素晴らしい、人類の英知の結晶だと心から思うし、私自身あれの研究をしていたこともあった。だが、だからこそ、現在あれが使われようとしているその方法に、断固として反対しているのだよ」
アシュラン:「『脳内チップを使った、各国政府による大々的な洗脳政策』のことですか?」
 そんな話、かつては脳内チップの研究者だったという、この理知的な男には最もそぐわないものだ。しかし、クーウォンは、アシュランの言葉に真っ直ぐにうなずいた。
クーウォン:「そうだ」
アシュラン:「・・・・・」
 アシュランは、しばらく言葉を発することさえ忘れた。
アシュラン:「は、はは・・。バカげている!そんなこと、それこそあるはずがない!!脳内チップは、第三者機関の厳重な審査を経なければならないって、そんなこと小さい子供でも知っている!あなた、三流ホロの観過ぎじゃないか!!!」
クーウォン:「あいにく、そういうホロは嫌いでね」
アシュラン:「な、なら、なんでそんな妄想、おとぎ話を本気で信じ、あまつさえ俺にも信じろというんですか、この狂信者!!・・・くっ!!?」
 次の瞬間、アシュランは物凄い勢いで背後から蹴り倒され、起き上がろうとする間も無く右腕を後ろに捻りあげられた。
リャン:「クーウォンを、狂信者とか呼ぶな!!!」
 アシュランを捻りあげているのは、レミーそっくりなあの少女、リャンだった。リャンは、本来なら可愛らしいその顔を、アシュランに対するありったけの怒りにゆがめていた。
アシュラン:「うっ」
リャン:「もう一度そんな口を利いたら、あんたの腕を一生使えなくしてや・・・」
クーウォン:「止めるんだ、リャン!!」
 クーウォンが、一喝した。いや、それは一喝とは呼べないような穏やかなものだったが、相手の意思を削ぎ落とすには十分な迫力と威厳があった。
リャン:「ちっ・・・・」
 リャンは、仕方なく、といった面持ちで、アシュランの手を離した。
リャン:「とにかく、クーウォンを何も知らないくせに、そんな口、ここでは二度と叩かないほうがいいよ!」
 言われなくとも、もうアシュランにそんな気力は残ってなかった。笑顔が大好きだった少女と同じ顔の、あんな表情を見せられた後では。捻られた右腕の痛みを感じる余裕さえ、実は残っていなかった。
クーウォン:「済まなかったな。私としては、荒事を起こすつもりは無かったのだが。だが、それでいいのだ。膿は全て出してしまわねば。お互い不信感を持ったままでは、真の同志にはなれないからな・・・・」
アシュラン:「あくまでも、俺に、テロリストになれと言うのですか・・・・」
クーウォン:「そうは言ってはいない。『同志』というのは、なにも飛刀のメンバーのみを指すのではない。我々と同じ、真実を知り、それに己の意思で立ち向かおうとする者たちのことを、我々は『同志』と呼ぶのだ」
アシュラン:「・・・・・」
クーウォン:「まあ、まだ納得できないのは仕方が無い。それに、理由はどうあれ私は君を強制的にここに連れてきてしまったわけだからな、ここから出たいというならば自由に出て行って構わない」
 クーウォンはそう言うが、クーウォンの手下のテロリストたちが、自分たちのアジトの場所を知ってしまった人間、それも軍人を、みすみす生きて返すわけにはいかないことくらい、アシュランにもわかった。
クーウォン:「だが、真実はいつも、思いもよらぬ所に存在するものだ。そして、知らぬものに大いなる災いを運んでくる・・・。だから、君が納得するまでここに留まることは、悪くはない話だと思うのだが・・・」
アシュラン:「・・・それしかないようですね」
 クーウォンはアシュランの辛辣な皮肉を気に留めた様子も無く、吹き抜けのクレーターの底に視線を移した。
クーウォン:「ところで、君はここを見てみて、どう思ったかね?」
アシュラン:「どう、とは・・?」
 クーウォンは、視線をゆっくりとアシュランに戻した。
クーウォン:「武闘派テロリストのアジトにしては、非戦闘員らしき者が、あまりにも多いとは思わんかね」
 クーウォンの言う通りだ。ここに来たときから思っていたことだが、ここには女子供や老人たちなど、戦闘用員とはとても思えない人たちが多過ぎる。
クーウォン:「ここ『レベル7』を、『アジト』と呼ぶのは、本来は正しくない。ここは追い詰められた者たちのための避難所、最後の楽園なのだよ」
アシュラン:「「追い詰められた」って・・・?」
クーウォン:「無論、『脳内チップを使って、人民の意志を不当に拘束しようとする連中』だ。彼らは、それを知ってしまったか、地上ではその呪縛から逃れられなくなってしまった者たちなのだ」
アシュラン:「『謎の電波が語りかけてくる』とかいうやつですか・・・」
 しかし、あの無邪気な子供たちが、あの全てに疲れたような老人たちが、それを本気で信じているとでもいうのだろうか。アシュランは、なんだかこの一昔前ホロに登場する山賊の村のような場所が、精神科の集団隔離病連に見えた。
クーウォン:「まあ、真実というものは、往々にしてそう簡単には見えてはこないものだ。君も今日はもう疲れただろう。だから、今はとりあえず休むがいい。大丈夫だ。少し粗末かもしれないが、君の寝床はこちらで確保してある」
 クーウォンはそうやって一方的に話を打ち切ると、傍らにいる二人の腹心の部下に指示を出した。
クーウォン:「あきら君、リャン、彼を寝床まで案内してあげなさい」
あきら:「わかりました、クーウォンさん」
リャン:「・・・あいよ」
 二人に連れられながら、アシュランは最後にもう一度クーウォンの方を振り返り、そして、クーウォンが自分を、何とも言えない感情のこもった視線で見つめているのに気がついた。
 それは、あえて表現するのならば、父親が永い間離れ離れになってしまった息子と再会したときのような、そんな表情だった。


 


アシュランが案内されたのは、クレーター底部に無数に存在する粗雑なバラックのうちの一つだった。
あきら:「ほらよ、ここがあんたのここでの寝床だ。汚くてわりーけどな」
 そう言うあきらの表情は、少しも悪いとは思っていないようだ。むしろ、「こんなヤツは犬小屋にでも押し込めておけ」とでも言っているかのように取れる。
 そして、バラックの中は意外にも、きれいに片付いていた。しかも、様子からして片付けたのはつい最近のことで、かなり念入りに掃除がしてあるみたいだった。ということは、自分が『クーウォンの客人』であるというのは本当のようだ。
リャン:「さて、今日はもうじき『光』が落ちる。クーウォンは色々忙しいから、何かあったらこいつ(と、いつの間にか手に持っていた扇子であきらを指した)に言いな。棲家も隣だしね」
 リャンがそう言い捨てて出て行くと、あきらはつまらなそうに顔を歪めた。
 アシュランとしても、このいかにもワルっぽい、しかも自分に対し悪い印象を持っている様子の(まあそれはそうだろう。自分は軍人で、彼はおそらくは元ハッカーだったのだろうから)青年に頼るのはあまり気が進まなかったのだが、慣れない場所での、しかもテロリストのアジトという非日常的な場所での、いつまでになるかもわからない滞在では、やはり自分の力だけでは如何ともしがたい困難に遭うこともあるかもしれない、と判断し、彼とコミュニケーションをとる努力をしてみることを決意した。
アシュラン:「あ、あのさ、き、君はその、えーっと・・・」
 やはり自分にはこういう作業は苦手だ、とアシュランが思ったとき、あきらは不意に、ひとりごちり始めた。
あきら:「ちぇ、なんで俺がクーウォンさんの命令とはいえ、こんなヤローの相手なんか・・。せっかく透とまた会えるかと思って、期待してたのによぉ・・」
 その独り言を聞いて、アシュランは思い出す。自分が、彼と共通の友人を持っていたことを。いや、正確には、今もその友人が自分のことを『友』と認識してくれているかどうかは、わからないが・・・。
アシュラン:「さっきも言っていたが、君は透の、相馬透の友人なのか?」
 すると、あきらはようやくアシュランに興味を示し、アシュランの方に振り返った。しかし、それは好意の視線などでは決してなく、むしろ憎悪の、悪意のこもった視線だった。
あきら:「ああ、そうさ。あいつは俺の最高のダチだった。いや、今でも俺はそう思ってる。あいつと、あいつらと組んだチーム、『草原の狼』は最高だったからな!!」
 あきらは、その『草原の狼』を潰した軍人の一人であるアシュランに向かって、はき捨てるように言った。
 アシュランは、とても居たたまれない思いで一杯になった。似たような罵倒を聞いたことを、思い出したからだ。

透:『どうしてお前が、優哉を殺したぁぁ!!!』



 そうだ。おそらくこのあきらという青年は知らないのだろうが、チームを潰しただけでなく、透と同じくあきらの最高の仲間の一人だった優哉を殺し、透と月菜の人生を狂わせてしまったのもまた、自分なのだ。
 そんなアシュランの思いに気付くこと無く、一度溢れ出てしまった感情は止まらないのか、あきらは更に思いを虚空にぶつけ続ける。
あきら:「チクショウ!!なんで、なんで優哉は死んじまったんだよ!!あんないいヤツを、誰が殺す権利があるっていうんだよ!!!」
 あきらの言葉が、鋭利な棘となってアシュランの心を穿つ。自分の復讐心の暴走の末、巻き込んでしまった者たち。喪われてしまった者たちはどうやっても戻らず、それ故にアシュランの心には、堪えきれないほどの重みがのしかかる。
 そんな空気に負けて、アシュランはついポツリと、漏らしてしまった。
アシュラン:「わかっている、済まない・・・」
 途端、あきらはアシュランの胸倉を掴んで、粗末な木製の壁に思い切り叩きつけた。
あきら:「わかってるだと!!?ふざけんな!!軍人風情が、知ったような口を利くんじゃねーよ!!!あんたらのせいで、優哉は、月菜は、透は!!!」
アシュラン:「・・・・」
 胸倉をつかまれたまま、何も言えないでいるアシュランを、あきらは捨てるように放すと、ちっと舌打ちをしてバラックから出て行こうとした。そして、簾が一枚かかっただけの出入り口から出ようとして、あきらは振り返った。
あきら:「そうそう。一つ教えておいてやるよ。あんたらがぶち込んでくれたあの刑務所、あれはサイコーだったぜ!!今まで俺のやったことを考えても、オツリがたんまりくるくらいにな!!!」
 そして、あきらはバラックから出て行った。同時に、外を照らしていた光が、ゆっくりと弱まり、時刻が就寝の時間に近づいていることを知らせていた。
 アシュランは、もう何もする気が起きなかった。アシュランは用意された布団を敷物が敷かれただけの床に敷き、上着を脱ごうとして、上着のポケットの中に何かが入っていることに気が付いた。
 それは、短剣の形をしたペンダント。透から軍が没収したものだった。それを見ていると、先程アシュランを糾弾した、あの青年のことが思い浮かんだ。
アシュラン:「透・・、俺は・・・」
 アシュランは、そのまま倒れこむようにして横になり、そしてそのまま泥のような眠りに就いた。


 


 


 次の日の寝覚めは唐突だった。
?:「ほら、起きなよ。いつまで寝てるんだい!」
 次の瞬間、頭を思い切り蹴飛ばされて、アシュランの意識は一気に覚醒した。
アシュラン:「っってて・・一体、なんだって言うんだ!」
 自分を蹴っ飛ばした相手に文句を言おうとして、アシュランは一瞬、呼吸が止まった。それは、もう絶対に見ることが叶わないと思っていた人の顔だったからだ。
アシュラン:「レ・・・・、いや、リャン、といったっけな・・・」
 はやる心臓の鼓動を何とか落ち着け、アシュランは目の前の少女を見据えた。
アシュラン:「あのさ、リャン、でいいのかな。朝からこんな乱暴なマネは、やめてくれないか」
リャン:「何言ってんだ。いくら起こしても起きないようなヤツは、そうされても文句言えないのさ」
 リャンはしれっと言い切る。そして、その表情には微塵の悪意も無い。さっきアシュランを蹴っ飛ばしたのだって、単に彼を起こそうとしたのであって、他意は全く無いようだった。
 アシュランが何か文句を言おうと言葉を捜していると、リャンはトレイに乗った食料をアシュランの目の前に差し出した。
リャン:「ほら、朝メシだ。あんたのために、わざわざ持ってきてやったんだぞ」
 言われて外を見てみると、簾が上げられた入り口の向こうには、老人から子供から、雑多な人たちが皆片手におわんを持って、湯気を立てている大きな鍋の前に長蛇の列を作って並んでいるのが見えた。まるで、旧世紀の世界大戦の時代に経済的に貧しい小国が行っていたという配給制みたいだ。
 そして、そこまで考えてから、アシュランは今が外の世界の『朝食の時間』であることに気が付く。地下深くに掘られた、ここ『レベル7』で、中の住人たちが時間の感覚を失わずにいられるのは、ここの人工照明が、外の世界の時間に合わせてその出力を調整しているからに他ならなかった。
 目の前に出された食料は、一斤のパンと、そして野菜と肉が入ったスープだけという、貧しい部類に属するものだった。しかし、今は贅沢を言っている場合ではない。アシュランは、早速スープの入ったお椀を手に取り、スプーンで器用にすくって食べ始めた。
リャン:「見た目はつましいかもしれないけど、我慢しろよな。これでもあんたはマシな方なんだ。クーウォンの客人、ってことでね。本当なら、あんたに無駄飯食わせる余裕なんて無いんだけどね。この合成栄養食(パン)を得るために、仲間が何人も死んでるんだ」
 そう文句とも愚痴ともつかないことを言いながら、リャンはアシュランの食べ様に、まるで吸いつけられるように見入っていた。
アシュラン:「・・・なんだよ。あまり見るな、気になるから
リャン:「いや、なんか、いやに上品な食べ方だと思ってさ・・・」
 それは昔、この少女にとてもよく似た顔の少女が、散々「あんたの食べ方は汚い!」と言ってテーブルマナーを矯正してくれた賜物だったのだが、そんなことをこの少女に言っても仕方が無いので、アシュランはあえて何も言わずに食べ続けた。
 すると、リャンのアシュランを見る顔付きが、また昨日の敵対的なものに変わった。
リャン:「ふん、そういや、あんたはいいとこのお坊ちゃんだったっけね。全く、なんでクーウォンはあんたみたいなのをここに呼んだんだろうね」
 リャンはそう言い捨てて、バラックから立ち去った。
アシュラン:「・・・それは、こっちが知りたいんだけどな」
 そう言いつつ、アシュランは料理を食べ続けた。食べ続けながら、アシュランはふと、あのリャンという少女のことを考えた。
 死んだ恋人に瓜二つなのはまあこの際置いておいて、あのリャンという少女、何故今朝は自分に朝食を届けてくれたのか。それも、(少々手荒いやり方ではあるが)わざわざ起こしてくれて。自分は、おそらくあの少女に、あまりいい感情を持たれていないだろう。軍人だから、ということもあるだろうが、多分決定的なのは、昨日、彼がクーウォンに暴言を吐いたせいだろう。あの時、リャンは、クーウォンを心酔しているだろうあきらよりも素早く行動を起こした。普段は、特にクーウォンに対して忠実であるという素振りは全く見せないのだが・・。
アシュラン:「まあ、まだここに来てから二日目だしな。わからないことはいくらでもあるさ」
 そう呟いて、初めて自分が、軍の基地からテロリストによって『誘拐』されてきたのだという事実を思い出した。実際は、まあ色々とゴタゴタはあったものの、『誘拐』とはあまりにも程遠い待遇だったので、忘れていたのだが。
 イザークは、ニコルは、今頃どうしているだろう。誘拐された自分のことを、少しは心配していてくれているだろうか。イザークは、アシュランのことを、誘拐されるのろま野郎とこき下ろしているだろうか。まあ、そんなことを言いつつ、彼はきっと心の底では心配してくれているだろうが。ニコルは、今頃顔面蒼白でうろたえているだろうか。いや、芯の強い彼のことだ。きっと冷静に事態を把握し、軍上層部に捜索隊の依頼でもしている頃だろう。上層部は、動いてくれるだろうか。父は、果たして動いてくれるだろうか?
 それはないな。と、何故かアシュランには確信が持てた。父はきっと自分を切り捨てる。まるでいらなくなった道具の様に。彼の言う『ザラ家の誇り』とは、そういうものだから。そう考えるアシュランの心の中には、特に父に対する怒りや恨みは無かった。ただ、ここに住む『テロリストたち』の生活ぶりを見ていたら、自分たちが正義で彼らは悪、という単純な線引きが、どうもしにくくなっていた。無論、彼らが狂信者たちだ、という認識は根本では変えていなかったが、それでもどこか、彼らの言い分にも何か聴くべきところがあるのでは、と、そう考えるようになっていた。それが何か、は全くわからなかったが。
 と、アシュランは、いつの間にか自分が、食事を終えていることに気が付いた。
 なんだか最近物思いに沈んでばかりいるな、と思いつつ、食器を下げるためにアシュランは立ち上がった。
アシュラン:「こんな時、レミーなら『なに暗い顔して考え込んでるの!』とか言いそうだな・・・」
 その時だった。
??:こら!!やめろ!!離せよ!!!
 アシュランが、今最も聞きたい声にそっくりな少女の声と、
??:うひゃはは、いいじゃねーかよぉ~!
 最も聞きたくない狂人の声が、アシュランの耳に同時に飛び込んできた。
アシュラン:「くっ!!」
 アシュランはトレイを投げ捨て、胸を掻き毟るような強烈なデジャビュに苛まれながら、声がした方向に駆け出した。


 


 
 果たしてそこには、アシュランの予想そのままの光景が展開されていた。
アシュラン:「あ・・・あ・・・」
 アシュランは、あまりのことに我を忘れ、騒動の中心人物たちの周りにできた人だかりを掻き分けながら、ふらふらとその中心に向かって吸い寄せられるように進んでいく。その途中で、あきらとぶつかったが、アシュランはそのことを気に留める余裕も無い。
あきら:「あんたも来たのか。まあ、最初は驚くだろうが、いつものことなんでね、あんまり気にすんな」
 あきらが何を言ったのかも、聞こえていなかった。
 人だかりの中心では、リャンが、その小さな体を長身の男に組み付かれて、必死に抵抗していた。男は、180㎝以上はある長身ながら異様なほどに痩せこけていて、しかしそれでいて、全身から発するオーラのようなものはまるで野獣のように獰猛で、それがこの男が只者でないことを誰の目にも明らかなものにしていた。
 忘れるはずもない。見紛うはずもない。今でも夢に見るのだ
アシュラン:「ゲン・・ハ・・・」
 忘れていた。いや、考えないようにしていたのか。ここが『飛刀のアジト』だということは、当然この男もここにいるのだということを。
リャン:「やめろ、離せ、このバカ!!」
 リャンはゲンハの細長い腕を振り解こうと必死にもがくが、ゲンハの腕は、まるで蛇のように、リャンの細い身体に絡み付いて離れない。
ゲンハ:「いいじゃねーかよぉ。こちとら、一仕事終えて疲れてるんだからよぉ、熱烈な出迎えでもしてくれりゃいいのによぉ」
 ゲンハのそばには、屈強そうな人相の悪い、『いかにも』な感じの男たちが数人たむろしていた。おそらくはゲンハの手下と思しき彼らも、流石にゲンハの蛮行には付いていけないものがあるのか、その表情は一様にうろたえている。ただ一人、クロト・ブエルと思われる少年だけは、心底楽しそうにニヤニヤしながらその光景を眺めていた。
ゲンハの手下の男:「ゲ、ゲンハさん、そりゃマズイですぜ。このことをクーウォンさんが知ったら、なんて言うか・・・・」
 途端にその男は、ゲンハに一睨みされただけで沈黙してしまう。連戦練磨の戦士だろう彼さえも黙らせるその眼光に込められたものは、もはや『殺気』と表現することも生ぬるいほどの鋭さと冷たさを持った『何か』だった。
ゲンハ:「ひゃひゃひゃ、何言ってんだよぉ!クーウォンがどうしたってぇ?!あんな野郎に、この俺サマをどうこうできるわきゃねーだろうが!!何たって俺サマは、いまやこの飛刀にゃ欠かせない戦力だもんなぁ!今日も大量の食料取ってこれたのだってよぉ、俺サマが敵を何十匹もぶち殺したおかげだろうがよぉ!!」
 ゲンハはまるで皆にアピールするかのように声を張り上げると、再びリャンに、その狂気で歪んだ醜い顔を近づけた。
ゲンハ:「だからよぉ、リャン、この俺サマに、お礼のちゅーくらいはしてくれてもいいんじゃねえかぁ」
リャン:「こ、この・・・」
 ゲンハの骨ばった両手がリャンの腰の辺りまで這い寄り、ゲンハがまるで蛇のように長い舌をリャンの美しい顔に這わせようとしたとき、アシュランの中で何かが切れた!
(コノショウジョニ、テヲダスナ!!ソノキタナイツラデ、オレノタイセツナ、タイセツナアイツニ、モウニドトテヲフレルナ、コノゴキブリヤロウ!!!!)
 アシュランが拳を、爪が皮膚に食い込んで出血するほど硬く握り締めたとき、事態にあきらが気付いた。
あきら:「お、おい、待て、リャンは・・・」
アシュラン:うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
 アシュランが人垣を掻き分け、物凄い勢いでゲンハに突進したのと、
リャン:ハァッ!!!
 リャンが、まるで雌豹のようなしなやかな動きでゲンハから脱出し、ゲンハに鮮やかな連撃をきめたのはほぼ同時だった。
ゲンハ:「くあっ!!?ってぇ~!」
リャン:「どうだ、みたか、このスケベヤロウ・・・え!?」
 一連の事態は、怒りに我を忘れたアシュランには全く見えていなかった。
アシュラン:ゲンハァァァァァ!!!!
 アシュランの振り上げた拳は、丁度リャンに金的でも打たれたのか、腰を屈めながら無防備になっていたゲンハの顔面を、この上もなくきれいに捉えた。
 ゴッッ!!
 ドーム状の空間に、あまりにも愉快な音が鳴り響き、
ゲンハ:「ぐあぁ!?」
 面白いくらいに呆けた顔のゲンハが、ゆっくりと頭から地面に倒れた。
アシュラン:「はあ、はあ、はあ・・・・え?」
 アシュランは、自分の拳があまりにも容易に入りすぎたことに、強い違和感を覚えた。続いて、回りの空気が、先程までよりも遥かにおかしくなっていることに気が付く。
 周囲は、シーンと、水を打ったように静まり返っていた。いや、その表現は正しくないか。周囲の人だかりの表情は、皆一様に、凍り付いていたのだから。
アシュラン:「あ、あれ・・・?」
 アシュランは、横で自分が助けたはずの少女が、皆と同じく蒼ざめているのに気が付いた。そして、少女は次にアシュランを見た。その表情は、助かった安堵ではなく、「何で余計なことをしたんだ!」とでも言いたそうな様子だった。
ゲンハ:「こ、こんのガキがぁぁぁ!!!」
 ゲンハが、顔に人間がこんな表情ができるのかというほどの憤怒をみなぎらせて起き上がった。その表情の根にあるのも、『殴られた痛み』というよりも『予想外のことをしでかしてくれたな』という類のものだった。
 ゲンハはゆっくりと顔をアシュランに向け、周囲の温度がより一層下がった。しかし、アシュランは、落ち着いてゲンハを睨みつけた。先程までの怒りは引き、今は周囲の低温が、程よく頭を冷やしてくれた。そして、目の前の男に対しては、憎悪が沸くことはあっても、怯えなど湧くはずもなかった。おそらくまともに戦っては勝ち目は無いだろうが。
 すると、一触即発のアシュランとゲンハの間に、慌ててリャンが割り込んできた。
リャン:「な、なあ、ゲンハ。こいつは、昨日来たばかりの新入りなんだ。クーウォンの客人らしいんだけどさ、なんかわかってなかったみたいで・・・」
ゲンハ:「うるせぇ!!!」
 リャンが更に何か言おうとするのを、ゲンハは一喝した。クーウォンのそれとはまた違った、クーウォンが威厳で相手を従わせるのであれば、こちらはただ圧倒的な暴力を以って従わせるかのようなそれは、アシュランとリャンを除く周囲の人たちを、一人残らず震え上がらせた。
リャン:「おい、落ち着けゲンハ!!こいつはクーウォンの客人て言ったろ!!そいつに何かあったら・・・」
 リャンの言葉を跳ね除けるように、ゲンハは突然右手に剃り刀式ナイフを取り出した。いつどうやって抜いたのかは、軍で格闘技の訓練を積んでいるアシュランにさえ、全く見えなかった。
ゲンハ:「あんなふざけたマネされてよぉ、この俺サマが黙ってられるとおもうかぁ。クーウォンの客人だぁ?それならよぉ、クーウォンが見込んだ男ってことだよなぁ。ならますます、この俺サマと、一曲踊ってもらわにゃなぁ!!」
 ゲンハが憎悪と歓喜の混じった何とも言えない表情で舌なめずりをし、リャンはやれやれと諦めたような表情で首を振った。
リャン:「あんた、悪いね。こうなったら、もうアタシにもどうすることもできないよ。・・・あんた?」
 リャンは済まなそうな表情でアシュランの方を向き、一瞬、言葉を失った。
 アシュランは、この状況にいささかも動じてはいなかったのだ。
アシュラン:「ああ、わかっている。だがゲンハ、俺は生憎、現実世界での格闘技はあんたほど得意じゃない。だから、踊るなら、ネットの方があんたを満足させられると思うんだが」
 アシュランの脳は、この状況を最高の形で収めるために、冷静な回転を猛スピードで始めていた。
ゲンハ:「テメエ、現実じゃ敵わねぇってのはいい判断だがな、ネットに逃げ込んでも、どうにもならねえって忠告しといてやるぜぇ」
アシュラン:「そうか。安心したよ。あんたがシュミクラムに乗れるのか、不安だったんだ」
 アシュランのその一言に、周囲がざわめく。何しろ、ゲンハは飛刀内での、最強のシュミクラムパイロットなのだから。無論、アシュランもそんなことは百も承知だった。それを承知で、あえてゲンハを挑発したのだ。
 そして、案の定、ゲンハはこめかみをひくつかせて、一層人間離れした表情でアシュランを睨んだ。
ゲンハ:「ほう、シュミクラムに乗れるか、だぁ?そんなこと聞いてきやがったのは、テメエが始めてだぜぇ!!!いいだろう、お望み通り、シュミクラムで踊ってやらぁ!!!おい、ヤロウども、決闘の準備だ!!!」
 途端に、周囲が慌しく動き始める。
ゲンハ:「おい、にいちゃん、怖くなったからって、逃げんじゃねえぞ」
 そう言い捨ててゲンハが背を向けると、今まで観客の一人として成り行きを固唾を呑んで見守っていたあきらが、泡を食ってアシュランに駆け寄る。
あきら:「あんた、バカか!!あれはうちじゃよくあることなんだよ!!」
アシュラン:「え・・・?」
 アシュランは、この場に来て初めて表情を崩した。
 あきらの言葉の意味は、ゲンハが毎日ここの女性に狼藉を働いている、ということだろうか。しかし、そうとるにしては、あきらの言い様はどこかおかしい。すると、あきらは続けた。
あきら:「リャンの腕っ節は、並みの男じゃ敵わないくらいなんだよ!あのゲンハでも、容易にゃ手が出せない。みんなそれを知ってるから、ああなっても誰も手を出さないし、ゲンハもそのことがわかってるから、ここではリャンにしか手を出さないんだよ!!」
アシュラン:「え・・え・・・」
 では、あれは一種のレクリエーションだったということだろうか。そして、自分が何もしなくても、あの場は勝手に収まっていたということだろうか。
 そう言えば、確かに自分がゲンハを殴る直前、リャンがゲンハに何かしたような気がした。あの時は、頭に血が上って何も見えなかったが・・・。
 すると、あきらの横ではリャンが、心底呆れ顔でアシュランを見つめていた。
リャン:「でもさ、それを知らなかったのを差っ引いても、あんたとんでもない大バカだよ。あいつがどういうヤツかくらい、あんただってシュミクラムパイロットなら知ってるだろ。そいつに喧嘩売るなんてさ」
 助けたはずの当のリャンにまで言われて、アシュランはなんだか情けない気持ちになってしまった。でも、それでもリャンを助けようとしたときに固めた、心の奥の決意はいささかも揺るがない。
アシュラン:「ああ、確かに、俺はあいつが誰だか知ってたさ。それも、よーく、ね」
リャン:「だったら何故、あたしなんか助けたんだい?あんな、危険なやつからさ。まさか、陳腐な正義感から、とかじゃないだろ?」
 それは、もう二度と大切なものを喪いたくないから、などと言っても、当然この少女は理解してはくれないだろう。だから、アシュランは、こう言った。
アシュラン:「どうしても、あの場では黙っていられなかった。これでいいだろ?」
 アシュランの、深い深緑の瞳を見て、リャンも薄っすらとだが、背後にある『何か』の事情は察したらしい。
リャン:「わかった。だけどさ、あんた、自分がしたことの落とし前は自分で付けなよ。ここであんたが無様に負けりゃ、あんたは一生ゲンハの手下扱いなんだからな。」
アシュラン:「わかってるよ。心配するな、二人とも」
リャン:「ア、アタシは別に心配してなんか・・・」
あきら:「俺も、あんたなんかの心配はしてねえけどよ・・・・」
 すると、アシュラン目の前に、ここの住人と思しき男が、ネットの端末を運んできた。見れば、近くで既に、ゲンハもニューロジャックを差し込んで没入している。地面に胡坐をかいた、コンソールもヘッドマウントディスプレイも無い、粗雑極まりない没入の仕方だ。そして、それは非常に無防備な状態だった。今、ゲンハの首に刺さっているニューロジャックを引き抜けば、それだけであの野獣のような兇漢は、この世から消え失せるのだ。
 一瞬、アシュランの頭を、抗し難い誘惑が駆け抜けた。しかし、そのとき、アシュランの脳裏に、ある人物の顔が甦った。それは、親友の仇を討とうと狂気に顔を歪めている友の顔であり、そして全く同じ表情をした自分の顔だった。
 いつの間にか、あちらこちらにネット内の様子を写すための空間映写機が置かれ、そこには多くの人だかりができていた。おそらく、ここの住人は娯楽に飢えていて、そしてこういった決闘もここでは珍しくないのだろう。
 
アシュランは何も言わず、ゲンハと同じように胡坐をかき、近くに置かれたニューロジャックを首に差し込んだ。

『没入
(ダイブ)



 アシュランとゲンハが降り立ったのは、周囲を金網に囲まれた、まるで格闘技のデスマッチ用のリングのような場所だった。おそらくここが、この組織内での決闘場なのだろう。
アシュラン:「試合はシュミクラムによる擬似戦闘。ルールは無し。どちらかが撃破されるまでの時間無制限の一本勝負でいいな?」
ゲンハ:「へ、擬似戦闘か。負けて逝っちまうのが怖いのかぁ?」
 アシュランは目を閉じて、先程思い浮かべた顔を、もう一度思い浮かべた。そしてゆっくりと目を開け、言った。
アシュラン:「いや、あんたを殺してしまうのが怖いからな。あんたみたいなヤツでも、ここには必要なんだろ?」
 正直、ゲンハに勝負を挑んだ時点で、アシュランの中で『勝ち負け』などということは、既に思慮の外へと消えていた。それは、ゲンハに対しては『勝つか負けるか』ではなく、『勝つこと以外考えられないから』だった。
ゲンハ:「いいねぇ!!それじゃ、踊ろうか、バリバリのハードロックをよぉ!!!」
 そうゲンハが叫んだ瞬間、ゲンハの電子体が目も眩む閃光に包まれ、MS体“フォビドゥン”に変化する。
リャン:「新入り。あんたのシュミクラムも、既に回収済みだ。いつでも転送できる」
 リャンの言葉を受け、アシュランもシュミクラム体に移行する。
 アシュランの体積が三倍近くに膨れ上がり、肉体は本来の柔らかな肉と肌に包まれたものから、鋼鉄に包まれた無骨で粗雑なものへと転移してゆく。これから転移するMSは、先日の闘いで修繕不能まで大破してしまった愛機“イージス”ではなく、新型機が完成するまでの繋ぎとして与えられた“アレックス”のはずだった。
 アシュランがMS体に移行したのを見て取ると、ゲンハはベアリングをきしませ、バーニアスラスターを吹かせて襲い掛かってきた。
ゲンハ:「さあ、いくぜぇ!!!」
アシュラン:「こい!!・・・なぁ!?」
 迎え撃とうとして、アシュランは自分の体がいやに重いことに気が付いた。
 鋼鉄の肌になったから、というわけではない。使い慣れないMSを使ったからだ、というのともまた違う。とにかく、全身に、何か錘を吊り下げられているような感覚だったのだ。アシュランは慌てて全身を見回して、そして唖然とした。
アシュラン:「アジャスト・アーマー!!?くそ、この機体、まだ整備中だったのか!!!」
 “アレックス”の体は、こともあろうか、全身を重厚な灰色の装甲で覆われていた。
ゲンハ:「ひゃっひゃっひゃ、おい、どうしたよ。さっきはあんだけでかい口叩いておいてよぉ、実は殺られるのが怖くて鎧なんて着込んじまってるのかぁ?」
 ゲンハが歪んだ笑みを浮かべながら、ニーズヘグで斬り掛かった。アシュランはそれを間一髪でよけるが、全身に纏わり付いたアジャスト・アーマーのせいで、いつもは回避と同時に行うはずの反撃に移ることができない。
 アジャスト・アーマーというのは、軍などがシュミクラムが整備中のときに取り付ける、いわば整備用の追加装甲だ。シュミクラムの整備は、専用の自動整備プログラムによって内部から行われるため、その間の無防備な状態を万一襲われて強奪、あるいは破壊されないため、外面を専用の追加装甲で覆うことが可能となっている。そのための装甲の一種が、この『アジャスト・アーマー』で、これはその類の装甲の中でももっとも強固で、ハッキングに対する耐性も高い。しかし、如何せん、整備時のMSの保護のみに重点が置かれているため、装備時はシュミクラムの機動性、運動性を、大きく犠牲にしてしまうのだ。しかも、ハッカーなどに強制パージされないため、内から外すのにもかなり複雑な操作がいる。
アシュラン:「く、くそっ!!」
 思いも寄らない事態に戸惑っているアシュランに対し、ゲンハは容赦の無い攻撃を繰り返す。
ゲンハ:「おらおらぁ、どうしたよぉ!亀みてぇな甲羅背負って、逃げてばかりじゃつまんねえなぁ!早く俺と、踊ってくれよぉ!!!!」
アシュラン:「畜生、せめてこの鎧さえ外れてくれれば・・・」
 アジャスト・アーマーを付けたままでは、アレックス最大の特徴である腕部のガトリングガンも使えないし、ビームサーベルもライフルも、使えたとしてもまともに扱えないだろう。アシュランはゲンハの猛攻をかわしながら、驚異的なスピードでアジャスト・アーマーをパージするための操作を実行していた。エリートシュミクラムパイロットの中でもトップクラスの能力を誇る彼ならではの芸当は、それでもこの強敵相手に間に合うかどうか、正直怪しかった。
 そうしている間にも、ゲンハは猛烈、かつ的確な攻撃で、アシュランを追い詰めていく。
 仮面のように被ったリフターから、歪曲ビーム“フレスベルク”が放たれる。ただでさえかわしにくいこのビームを、アシュランは驚異的な反射神経でかわそうとするが、重装甲となっているアレックスでは回避しきれず、コックピット直撃は避けたものの、左足をアーマーごと貫かれてしまう。
アシュラン:「しまった!!」
 左足が使い物にならなくなり、明らかに動きが鈍ったアシュランに、ゲンハは一気に接近すると、悪魔の処刑鎌ニーズヘグを振り下ろす。
ゲンハ:「くらえぇぇ!!」
 アシュランはそれを、アーマーに覆われた左腕をなんとか持ち上げて受け止めるが、この密着状態はまずい。
ゲンハ:「逝っとけや、このヤロオォォォォォォ!!!!」
 案の定、ゲンハは総攻撃を仕掛けてきた!二門のレールガンにフレスベルク、腕部機関砲にイーゲルシュテルンまでもが一斉に火を噴く!!アーマーに動きを封じられたアシュランには回避できず、そしてそのアーマーの力を持ってしても防ぎきれない火力だった。
 そのとき、外界で見ていたリャンが、思わず叫んだ。
リャン:アシュラン!!!!
 
諦めかけていたアシュランの脳に、一人の、愛しい少女の姿が浮かぶ。

『アシュラン』
『ねえ、アシュラン』
『もー、アシュランったらあ』
『ふふ、アシュラン』



 最愛の少女が、野人のような男に組み伏せられている。


『助けて、アシュラン!!!』
 
アシュラン:「俺は、俺は・・・・コイツにだけは、負けるわけにはいかないんだぁぁ!!

『反転(フリップ・フロップ)


 
 いつかどこかで聞いたような電子音声がアシュランの脳内に響き渡り、瞬間、アシュランの周囲の時間が止まった。アシュランはその間に、猛スピードでアーマーパージの残りの行程を開始した。不思議と、自分のやっていることに、全く迷いは生じなかった。
 全てが終わったとき、時間が動き出した。
 誰もが、勝負は決まったと思った。アシュランのシュミクラムはゲンハの攻撃を全て被弾し、撃破されたのだと。ゲンハでさえ、そう信じて疑わなかったのだ。その認識が間違っていると知ったのは、フォビドゥンのビーム偏向板の片一方が、ビームサーベルによって斬り飛ばされた後だった。
ゲンハ:「くっ!!?」
 それから一泊遅れて、観客たちも事態を把握した。被弾して大破したのは、被弾の寸前にパージされたアジャスト・アーマーだけだった。その事態を、観客たちは認識はしていたが、誰しも現実のこととしては受け止められなかった。それほどまでに、ゲンハの攻撃は、必殺のタイミングだったからだ。
ゲンハ:「んなろー!!!」
 必殺の攻撃を外されたゲンハは、ムキになって、砲撃しつつ突進する。しかし、アシュランはゲンハの攻撃を、さも当然のように軽々とかわす。左足がいかれているのが信じられないほどの、鮮やかな動きだ。ましてや、今日始めてこの機体を使ったとは、とても思えない。
 アシュランは武器を素早くビームライフルに持ち替え発射し、更にそれが残ったビーム偏向板の盾によって防がれることを確認するより早くビームライフルを捨て、両腕の腕部ガトリングガンを機動させて、それを乱射しながらゲンハに突進した。
ゲンハ:「ナメんな、コゾォォ!!!」
 ゲンハもまた、偏向板のシールドでは全て防ぎきれずに無数の強烈な弾頭が被弾するのにも構わず、大鎌を振り上げ突撃した。
 比較的脆いレールガンの砲身が、大破する。ゲンハはそれにも構わず鎌を振り下ろし、アシュランの右腕を切り飛ばすが、アシュランもそれに臆することなく今度は左手でビームサーベルを引き抜くと、ゲンハの左腕を斬り飛ばした。
 ゲンハは素早く鎌を右の片手持ちに持ち替えると同時にフレスベルクを放ち、とっさに飛びずさったアシュランの右足を捥ぎ取るが、アシュランは背中のバーニアだけで機体を制御し、飛び退いたために空けてしまった距離を一気に詰める。ゲンハもリフターをパージして身軽になると、ニーズヘグを振り上げて迎え撃った。
アシュラン:うおぉぉぉぉぉぉ!!!!
ゲンハ:死ねやぁぁぁぁぁ!!!!
 アシュランのビームサーベルがフォビドゥンのコックピットに突き刺さるのと、ゲンハの大鎌の刃がアレックスのコックピットを背中から貫くのとは、全くの同時だった。
 そして、二機のシュミクラムは、全く同時に強烈な閃光を発し、全く同時にネット世界から消失した。
 
『離脱(ログアウト)
 


アシュラン:「はあ・・はあ・・はあ・・・」
 離脱と同時に、あれほど鋭敏だった感覚は元に戻り、今は自分の心臓の音だけがやけにうるさい。
 周りは、さっきからまるで誰もいなくなったように静まり返っていた。
 その中で、不意に一つの笑い声が起こった。
ゲンハ:「はは、ははは、はははは、俺、死んだのか?俺、殺られたのか!?」
 誰も、応えるものはいない。
ゲンハ:「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。信じらんねぇ、この俺サマが殺されるなんてよぉ!!!!」
 その笑い方は人間のものとは思えず、どこか薄ら寒いものを感じさせた。狂人の笑み。
 しかし、次の瞬間、そんな乾いた笑い声を吹き飛ばすような大歓声が、どこからともなく、地下都市中に沸き起こった。同時に、アシュランの周囲に、今まで見物していた住人たちが殺到した。
男1:「おいおい、すげえな、兄ちゃん!あのゲンハを倒しちまうなんてな!」
男2:「俺も実はシュミクラムパイロットなんだけどさ、あんなにすげえの見たのは初めてだぜ!!」
アシュラン:「あ、ああ・・・」
 アシュランが戸惑っているうちに、いつの間にか大量の酒樽が運び込まれ、辺りは一瞬にして宴会ムードになる。
男3:「飛刀の勇猛なる戦士、万歳!!新たなる同志、万歳!!」
アシュラン:「いや、俺は・・・」
男4:「さあ、飲みな、兄ちゃん!今日はあんたが主役だ!!」
 アシュランが何か言おうとする前に、目の前にはなみなみと酒が注がれたジョッキが差し出されていた。そして、早くも完全に盛り上がっている周囲の雰囲気には、どうやら逆らえそうも無かった。
 アシュランは、覚悟を決めてジョッキを一気に飲み干した。まあ、この一杯でつぶれるということは無いだろう。
 ジョッキ一杯を一気で空にすると、辺りから大歓声が上がった。途端に二杯目が注がれ、それを見るアシュランの視界が、突然グニャリと歪んだ。
アシュラン:「くっ!!?」
 アシュランは倒れようとする体を辛うじて押し留め、差し出された二杯目を受け取った。
 アシュランは、ふと、リャンとあきらの方を見た。二人は、アシュランを見ていた。そして、心なしかその視線は、先程よりも穏やかなものとなっている気がした。


 


 


・・・・・・。
アシュラン:「・・・・・うう、っつう~」
 アシュランは、鈍い痛みを発し続けている頭をおして起き上がった。
 周囲には、まるで屍のようにぐったりとなっている男たちの姿がちらほらと見受けられる。ドームを照らす人工照明はいつの間にか微弱になっていて、今が夜であることを知らせていた。
アシュラン:「もうこんな時間か・・。俺は、いつの間に・・あつつ!」
 アシュランは頭をおさえて蹲りながら、こうなる前のことを懸命に思い出そうとした。
アシュラン:「確か、俺はゲンハと戦って、その後援会になって、それで俺は酒を飲まされて・・・」
 そこら辺で、アシュランの記憶は途切れていた。何杯目でダウンしたのかすら、全く記憶に無い。
アシュラン:「俺、結構弱かったんだな。知らなかった・・・」
 アシュランはそのまま立ち上がろうとしたが、どうにも足に力が入らなくなって、途中でふらふらと崩れ落ちた。すると、
?:「ほら。水持ってきてやったぜ」
 横から、一杯の水が手渡された。
アシュラン:「ああ、ありがとう・・・」
 そう言って、アシュランはその手の主を見た。あきらだった。
アシュラン:「君か・・・」
 アシュランは水を受け取り、それをひりついた喉に注ぎ込みながら、意外な気持ちになった。すると、あきらもそれを読み取ったのか、ぶっきらぼうに言った。
あきら:「ふん、か、勘違いするなよ。俺はあんたを許しちゃいない。けどな、今日はリャンを助けたからな、そのお礼だ」
アシュラン:「・・いや、俺は余計なことをしただけだよ。それに、俺はゲンハに勝ったわけじゃない。あいつを倒せても、俺が死んだら意味無いからな・・・」
 そうだ。あのゲンハを、模擬戦とはいえ倒せたのに、アシュランには何の感慨も湧いてはこなかった。
 すると、あきらは鼻を鳴らした。
あきら:「ふん。つまんねーやつ。もっと素直に、どういたしまして、とか、笑って言えねーもんかね」
 しかし、そう言うあきらの顔は、次第に穏やかなものになっていった。
あきら:「でもさ、そういうとこ、俺のダチにそっくりだぜ、あんた」
アシュラン:「そうか・・・・」
 そう言われて、アシュランは、おそらくあきらが思い浮かべたのと同じ、一人の友人の顔を思い浮かべた。
 相馬透。彼は、今どこで何をしているのだろうか・・・。
 
すると、あきらがおもむろに話し始めた。
あきら:「今朝話した、軍の刑務所のことだがな・・。ありゃマジで地獄だったぜ」
アシュラン:「・・・・・」
あきら:「この世のものとは思えねぇ糞地獄(シット・ヘル)だった。あんなところにあと半年もいりゃあ、俺は死ぬか廃人になってもおかしくなかった」
アシュラン:「飯はマズイ、看守は粗暴、施設の環境も最悪、か?」
 あきらはゆっくりと首を横に振った。
あきら:「いや、施設はキレイで、看守は優しい、飯はまあイマイチだったかもしれねえが、囚人に暴力を振るわれることも無かったぜ」
アシュラン:「ああ。今では囚人の人権にはかなり気を使われているからな。旧世紀を舞台にしたホロに出てくるようなことは、無いだろうさ」
 しかし、あきらは大きくため息をついた。
あきら:「やっぱり、あんた、何も知らないんだな。ま、それも当然といや当然なんだろうけどさ。お前らはさ、そんな天国みたいなところで、本当に囚人が更正できるのかとか、疑問に思ったことはねえのか」
アシュラン:「いや・・そう言えば・・・・」
あきら:「ま、そうだろうな。この俺でさえそんなこと、ムショに入れられるまでは考えもしなかったんだからな。ましてや、あんたみたないいとこの坊ちゃんは、って感じだな」
アシュラン:「・・・・」
あきら:「ところが、だ。天国みてえな場所でも、強面の極悪人を矯正できる、嘘みたいな仕掛けがあるんだよな。そして、その仕掛けがあれば、天国みたいな刑務所も、あら不思議、たちまちシット・ヘルってえ寸法さ」
 あきらはそう言って、頭に巻いていたバンダナを外し、頭のある一点を指差した。そこには小さなハゲができていて、最近そこに外科的な手術が加えられたことを示していた。
アシュラン:「これは・・?」
あきら:「最新型補助チップ、名付けて『囚人更正チップ』ってところかな」
アシュラン:「ああ、それが、か。囚人になんらかの補助チップが埋め込まれるのは、俺も知ってるさ。だがこれは、囚人が再犯したことを、政府がより迅速に正確に知るためのものなんだろ?」
あきら:「はは、それだけだといいんだけどな。でもな、あいにく、これはそんだけじゃねえんだ。これを埋め込まれるとな、反社会的なことを考えただけで、チップが反応してよ、体に電流を流す仕組みなんだ」
アシュラン:「な・・・」
あきら:「例えばよ、端末見て『ハックしてぇ』とか思うとビリッ。いい女見て『押し倒してぇ』とか思うとビリリッ。さらにゃあ、ムカつくこと言われて『思い切りぶん殴りてぇ』とか思ってもビリビリビリッ!ほんと、たまんねえぜ」
あきら:「逆に、社会的に認められる行いをするとよ、チップが脳内物質を操作して、なんともいい気持ちになるんだ。ありゃ、いい女とヤッたときなんかメじゃねえ。だからよ、あそこじゃあ前科何犯ってえ粗暴犯どもが、ニコニコしながらゴミ拾いとかやってるんだぜ」
 そう言ってあきらは笑ったが、アシュランにはとても笑える話ではない。
アシュラン:「それは、この国の憲法、いや、国際法でも堅く禁止されている、外部からの物理的且つ強制的な思想統制と同じじゃないか!!いくら囚人相手とはいえ、許されるはずが無い!!それは、それは本当の話なのか!!」
あきら:「あんた、俺が嘘つくとでも。」
 あきらに睨まれて、アシュランは反論する言葉を失った。このあきらという男、一見すると軽薄な印象だが、今まで見てきたところでは、かなり己や友に対して筋を通すタイプだ。そもそも、透の仲間だったことがあるのだ。そんな彼が、今悪質な嘘をつく理由が無い。
アシュラン:「いや、すまん・・・」
あきら:「・・・まあ、いいさ。だからよ、俺は、クーウォンさんにマジで感謝してる。クーウォンさんが刑務所を襲撃したとき、あそこのチップを管理してるメインコントロールシステムを吹っ飛ばしてくれにゃあ、俺は俺でなくなってたところだ。まあ、システム吹っ飛ばしたときに、その衝撃で何人かは逝っちまったみてえだが、どうせあのまま生きてても死ぬのと変わりないんだからな、運が悪かったってところさ」
 最後の部分はアシュランには同意できないところだったが、それでも、確かにそんなことをされたのなら、あるいは『死んだほうがマシ』と思う人も出なくは無いだろう。それは、人間の魂を冒涜する行為だ。罪の償いなどという理由で、片付けられるものではない。しかし・・。
アシュラン:「それは、囚人に対するものだけだろ?クーウォンは、全世界的に人民に対して洗脳措置が行われ得ると言っているんだ。そんなことが、あり得るか!?それに、クーウォンは罪の無い人たちも、大勢殺しているんだ!そんな人の、仲間になどなれるか!!」
 あきらは、そんなアシュランを見て、ゆっくりと立ち上がった。
あきら:「・・・まあ、今すぐ信じれとは言わねえよ。だがな、『刑務所にもこんな非合法的な措置が取られてる』ってことの意味、よーく考えてみな。クーウォンさんのやってることが、いかに正しいか、わかるってもんだぜ。・・・ち、今日は何だか喋り過ぎちまったみてえだぜ・・・」
 そう呟くと、あきらは、ふらふらとした足取りで去っていった。
アシュラン:「真実、か・・・・」
 一人になってしばらくした後、アシュランは誰にとも無しに呟いた。
 あきらの話は、衝撃的だった。そして、あきらが言ったように、国営の機関である刑務所でそのような話がまかり通っているなら、それは確かに由々しき事態だろう。
 しかし、だからといって、クーウォンの話をすぐに信じられるかというと、それも無理がある。クーウォンは、今までアシュランたちが『敵』として戦ってきた存在なのだし、飛刀との戦いで大切な仲間たちも大勢死んだ。そして、飛刀は、アシュランから最も大切なものを奪った組織なのだ。
 そこまで考えて、アシュランは、あのリャンという少女のことを思い浮かべた。
 アシュランは、今でも飛刀を激しく憎んでいる。しかし、あのリャンという少女を、敵とみなすことはもうできそうにない。そして、透の仲間だったという、あきらという青年のことも、今では憎からず思ってしまっている。
 それに、ついさっき共に酒を飲み交わした人たちは、アシュランが今まで飛刀に抱いていた『残虐無比なテロリスト』というイメージからは程遠い、平凡な、気のいい人たちだった。自分は、もし軍に戻ったとして、将来彼らを『敵』として平然と討つことができるのだろうか。
アシュラン:「『真実はいつも、思いもよらぬところに存在するもの』か・・。確かに、俺は何も知らないな・・・」
 そして、ふらつく頭を抱えながら、アシュランは自分の寝床へと、戻っていった。


 


 


クーウォン:「そうか・・・。よく報告してくれた、リャン」
 作戦室で、クーウォンは顎を捻りながら、難しい面持ちでそう唸った。
リャン:「それで、あれは一体どういうことなんだ?」
 リャンが質問しても、クーウォンは何かをぶつぶつ呟きながら、一向に答えてくれる気配は無かった。
 リャンは、ゲンハとの一件の後、事の次第をクーウォンに簡潔に報告した。クーウォンは、最初は特に何の表情を見せずに聴いていたが、話がアシュランとゲンハの戦いの顛末、長年サポートとして何人ものシュミクラムパイロットを見てきたリャンでさえもハッキリ“異常”だと分かるほどに研ぎ澄まされたアシュランの動きのことに及ぶと、途端に顔色を変えたのだ。
 それは、いつも冷静なクーウォンからは考えられない、クーウォンと長年共に生活してきたリャンでさえ、ほとんど見たことが無いような驚愕の表情だったのだ。
リャン:「おい、クーウォン。一人でぶつくさ言ってないで、アタシにも教えてくれよな。もちろん、アタシの悪い頭でもわかるようにさ」
 しかし、その日、クーウォンが答えることは無かった。諦めて部屋を出る前、リャンは、クーウォンのこんな呟きを耳にした。
クーウォン:「そうか、彼も既に『覚醒』していたのか・・。これは、予定よりも早く、『真実』を彼に教えねばなるまいな・・・・」


 


 


 


 


 


第十八章『レベル7』完


 

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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
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