Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』第二十章

諸事情があって、今回から掲載方法を「ワードの原文を直接コピペする」から「一回メモ帳にコピペしてからここにコピペする」に変更しました。そのため、本文の字体とかも変わって(というか元に戻って)ます。
というのも、ワードからそのままコピペすると、何故か改行部分が一行空くという謎仕様になってまして、そのため逐一それを直していかないといけないんですよね。ワードから直接の方が、ルビとかもそのまま使えるので読んでくれている皆様を楽しませるという点ではいいのかもしれませんが、一部が三十ページにも渡るこの作品でそれをやるのは、本当苦行意外の何物でもないので・・・。すいませんが、何卒ご理解の程、よろしくお願いします(ペコリ)。

ではいつも通り、「READ MORE」にて本文へ。








バルドフォース エグゼ
バルドフォース エグゼ
PlayStation2
アルケミスト










HG 1/144 プロヴィデンスガンダム
HG 1/144 プロヴィデンスガンダム

バンダイ

  バルG第二十章 『遭遇』


透たちの物語と、多少時系列は前後するが・・・。
 
 ゲンハとの決闘の翌日、レベル7にて。
?:「ほらほら、起きな、朝だよ!!おてんとさんは、もうとっくに昇ってるんだよ!!」
 すぐ近くでけたたましい声がして、アシュランの意識は一気に覚醒まで持っていかれた。ついでに、近くの何者かの大きな声が頭の中で反響して、グワングワンという、内から響く不快な重層音を鳴らしていた。どうやら、昨日の宴会で飲み過ぎたようだ。
アシュラン:「くっ・・・、朝っぱらから耳元で大声を出さないでくれ、リャン!」
 すると、当の大声の犯人は、心底嬉しそうな邪気の無い声で言った。
リャン:「おお、一発で起きた!あんた、やっぱり中々やるね。それに比べて、全くうちの男どもときたらさ、何べん起こしても、蹴っ飛ばしても起きやしないんだから」
アシュラン:「それは光栄だな。とにかく、君に蹴られる前に起きられてよかったよ」
 二日酔いの頭痛の頭を、あのゲンハをも怯ますケリで蹴り飛ばされたらたまったものではない。
アシュラン:「それにしても、君は元気だな。リャンは昨日、飲まなかったのか?」
リャン:「少し飲んだよ。少なくとも、あんたよりはね。全く、あんた、たった四杯でぶっ倒れちまった上にさ、今でもそんな死にそうな顔しちゃってさ。あんたでさえそれなんだからさ、全く、男ってどいつもこいつも頼りないね」
アシュラン:「朝っぱらから、しかも頭痛がするのに、君の愚痴は聞きたくない。それに、“アンタ”ってのはやめてくれ。俺にもちゃんと名前がある」
 すると、それまで勢いが良かったリャンが、途端に静かになった。
リャン:「・・・・・・・・」
アシュラン:「おい、どうしたんだ、リャン」
リャン:「・・・・・・・・・・・」
アシュラン:「お~い」
リャン:「・・・・・・・・・・・・・・」
 リャンの表情が少しずつ難しいものになってゆき、最後にはクーウォン顔負けの学者のような表情になってしまった。
 そして、アシュランには、この少女が何を考えているのか、だんだんわかってしまった。彼女は多分、思考が顔に出やすいタイプだろうし、それでなくても恋人だった少女にそっくりな顔なのだ(レミーには「アンタは女心がわからない!」とよく言われたが)。
アシュラン:「なあ、リャン、ひょっとして、俺の名前・・・・」
リャン:「ああ、ちょっと待ってろよ。今思い出すからさ」
 しかし、リャンは一向に思い出す気配がなかった。そしてその表情は、もはや学者とかそういうレベルではなく、まるで永遠に解けない命題を必死で解き明かそうとしている修験者のような有様だった。見ていて気の毒にさえ思えてくるレベルだ。
 仕方なく、アシュランは助け舟をよこすことにした。
アシュラン:「アシュランだよ。アシュラン・ザラ。」
リャン:「ああ、答えを言うなよな!!チックショー、もうちょっとで思い出せそうだったのにさ」
 多分、今日一日待っても思い出すことはなかっただろうと、アシュランは確信を持って断言できた。
リャン:「おいおい、なんだよ、その顔は。これでも一応、最初が『ア』だってことは思い出せたんだからな」
アシュラン:「最初の一文字だけかよ。あと七文字もあるんだけどな」
リャン:「う、くっ!あ、あんたがややこしい名前してるから悪いんだぞ! 横文字なんて、覚えにくいだろ!!」
アシュラン:「横文字の名前なのは、俺のせいじゃないよ。それに、リャンだって、大陸系の名前だろ」
リャン:「う・・・・、いいよ、あたしが馬鹿だったよ」
 遂に、リャンが負けを認めた。下らないことだが、思えば、リャンがこういう風に、アシュランに対して素直に何かを認めるというのは、これが始めてではなかろうか。そう言えば、リャンの今朝の態度全体を見ても、今までと比べて、かなり態度が軟化してきているように思えた。
 とりあえず、顔を洗うためにバラックの外へでようとすると、リャンもそれに付いて来た。そして、中央広場に出た辺りで、リャンがポツリと言い出した。
リャン:「あの・・さ、昨日は、その、なんつーか、あ、ありがとう」
 しどろもどろになりながらも、それでも比較的穏やかな表情で感謝の言葉を口にするリャンは、いつもの暴力娘と同一人物とは思えないほど、とても可愛らしかった。アシュランも、辺に落ち着かない気分になってしまう。
アシュラン:「あ、あれはさ、結局俺、余計なことしただけだったし。それに、ゲンハには、個人的に恨みもあったから・・・」
リャン:「・・ふ~ん、ゲンハに個人的な恨み、ね。そういや、あんた軍人だったっけ。仲間があいつに、殺されたのか?」
 それもそうだが、もっと大切な存在、君によく似た顔の恋人が殺された、とは口が裂けても言えない。そんなアシュランの心情を他所に、リャンは続けた。
リャン:「そりゃさ、うちらだってあいつに関しては、あれでいいとは思ってないさ。でもさ、しょうがないんだ。あいつがいなきゃ、うちらはこれまでだって戦ってはこれなかった。だから、あいつには好き放題させるしかない、っていうのが現状だったんだ。だからさ、みんな、ゲンハ相手にあそこまで戦えるあんたが来て、正直、物凄く喜んでるんだ」
アシュラン:「その話か・・・。あのさ、勝手に盛り上がってるところ、悪いかもしれないけど、俺にはテロリストの仲間になる気は・・・・」
 そのとき、可愛らしい声が二人に近づいてきた。
?:「あ、いたいた、昨日の凄腕の新入りさんだ」
 見ると、二人の子供、年の頃はまだ十代前半の少年と少女だった。
アシュラン:「君たちは?」
少年:「あの、僕も昨日の戦いを見てました。凄いですね、あのゲンハとあそこまで戦える人がいるなんて、僕、思ってもみませんでした」
アシュラン:「いや、あれは・・・」
少女:「これほどの凄腕パイロットさんと肩を並べて戦えるなんて、私たち、とても光栄に思います」
アシュラン:「いや、だから、まだ俺は・・・って、え?」
 その単語は、まだ幼い少女の口からあまりにも自然に出てきたものだったから、アシュランは危うく聞き飛ばすところだった。
アシュラン:「“肩を並べて”って・・・。まさか、それじゃあ君たちは・・・・・・」
 アシュランの脳裏を、信じられない、信じたくない考えが過ぎった。そして、その考えは、次の瞬間無情にも、あっさりと現実になってしまう。
少年:「僕らも、シュミクラムパイロットなんです。次の作戦では、一緒に戦えるといいですね」
アシュラン:「な・・・・」
 二人の子供、まだあどけなさが深く残る少年と少女は、屈託の無い笑顔を浮かべると、一礼してその場を去っていった。アシュランの心に、大きな衝撃を残して。
アシュラン:「そんな、まさか、それじゃあ・・・・・・」
 今まで、アシュランが単に『敵』として認識し、躊躇うことなく撃ち抜いてきた者たち。その正体は、あのような、まだ年端もゆかぬ子供たちだったとでもいうのか・・・。考えるだけでも、ゾッとすることだった。
 すると、そのとき背後から、よく通る声が響いた。
?:「どうかね、アシュラン君。テロリストの体験入団の感想は」
 クーウォンだった。
クーウォン:「昨日は私の留守中に、部下の不始末があったようだね。君には、礼を言わねばと思っていた」
アシュラン:「いえ・・・。それで、あなたはまだ、俺がテロリストの仲間になるとでも思っているのですか」
 アシュランがクーウォンを睨む横で、リャンが再び険しい顔になった。しかし、昨日とは違い、すぐに飛び掛ってはこなかった。そして、クーウォンは、昨日と同じように、アシュランの不審の視線を、ただ穏やかな瞳で受けとめていた。
クーウォン:「思うさ。君が真実を知ればね」
アシュラン:「真実、ですか・・・。確かに、ここに来て、今まで思ってもみなかったことを色々知りました。例えば、俺が今まで討ってきたパイロットの正体とかをね!」
 アシュランは目の前の、狂った目的のためにあの子供たちを戦場に送り出してきた男を、思い切り睨みつけた。すると、今までただ穏やかに笑っていたクーウォンが、一瞬だが、沈痛な面持ちになった。
クーウォン:「それを言われると、私も辛い・・・。彼らの多くは、親も、兄弟も、友人もシュミクラムで喪っていてね。それでも我々を守ろうと志願してくれる子供たちを、私には断わることもできず、その余裕さえ無い・・・」
 確かに、今思い返してみれば、ここにいる大人の男の数は、軍やV・S・Sに真正面から戦いを挑むには、あまりに少な過ぎた。しかし。
アシュラン:「そういうことを言っているんじゃない!あなたは、あの子供たちにまで、あんな狂的な思想を・・・・」
クーウォン:「いや、私は一切強制していない。思想教育などという、時代遅れの代物をあの子達に施してきたわけでもない。私がしたことは、ただ、私が知る限りの真実を、一切の疑いも挟まれぬほど克明、簡潔、かつ詳細に、彼らに語って聞かせただけだ」
 その瞳は、誠意に満ちていて、一切の嘘ややましさ、そして非合理的な事柄を信じている者特有の妙な純粋ささえも、見出せなかった。
クーウォン:「君がすぐには信じられぬのも無理は無い。この世界には、最頂点か最底辺の層に位置していない限り、知ることができぬことも多いからな」
 確かに、昨夜あきらから聞いた話も、あきらのような(いささか失礼だが)下町出身の不良少年でなければわからぬことだった。
アシュラン:「それならば、俺に『真実』とやらを、教えてくれませんか」
クーウォン:「うむ・・・」
 そして、クーウォンが何かを言いかけた時だった。
 ホール内に、けたたましい警報音(アラート)が鳴り響いた。
クーウォン:「むっ、まさか・・・・」
リャン:「ぼさっとしてんじゃない!クーウォン、行くよ!!」
 二人は弾かれたように、ビル群の中でも一際高い建物に向かって走り出した。
アシュラン:「お、おい、何だって言うんだよ!!」
 アシュランは、慌てて二人の後を追った。


 クーウォンとリャンを追ってアシュランが入った建物は、どうやら『飛刀』の本部らしかった。無数の小部屋に通じる廊下を駆け抜け、10階以上はあろうかという建物の最上層に辿り着くと、そこは旧世紀のブラウン管型画面とキーボードが無数に立ち並ぶ、作戦本部であった。クーウォンはそこで、一際大きな画面を見つめながら、端正な顔を焦燥と憤怒で歪ませていた。大きな手は固く握られ、爪がその岩みたいな肌に強く食い込んで、今にも皮膚が破れて血が滲みそうだ。
アシュラン:「クーウォン、一体何があったんだ!?」
 アシュランがクーウォンの見つめている画面を除くと、そこには、無数のウィルスやアストレイに次々と破壊されてゆく、飛刀の量産型シュミクラム、ダガーの姿が映っていた。
アシュラン:「こ、これは・・・・」
リャン:「あたしたちの使ってる中継基地(プロキシ)の一つが、V・S・Sのヤツラに発見されたんだ」
アシュラン:「!!」
 アシュランは、それで全てを理解した。
 中継基地(プロキシ)とは、ハッカーなどがログアウトする際、ログイン地点が判明するのを防ぐために経由する場所のことだが、その場所がばれるということは、つまりログイン地点がばれるということに他ならない。そして、V・S・Sは何らかの偶然でそれを見つけ、データを調べるために部隊を派遣、それを阻止したい飛刀のシュミクラム部隊と戦闘になったのだろう。
 そして現在、飛刀の旗色は非常に悪い。それもそのはずだ。相手は『ネット界最強のV・S・S』だ。対して飛刀側のシュミクラムのパイロットは・・・・。
 アシュランは、弾かれたようにリャンの声のする方向に目を走らせ、そしてその目に飛び込んできたものを見て、絶句した。
 リャンが泣きそうな顔で画面を見ているその横では、数人の少年少女が、ゴザを敷いた上に寝そべり首に端末から伸びたニューロジャックをつけている(最も粗雑な没入方法であり、様々な面で余裕の無い飛刀はこういう方法をとらざるを得ないのだろう)が、彼らは次々に、ビクンビクンと痙攣し、そしてそのまま永久に動かなくなる。
 周囲を見ると、ガラスの無い窓から見える近くの建物にも、また同様に少年少女たちが粗雑極まりない方法で没入していたが、彼らの大半もまた、既にその魂はこの世にも、ネット界にも存在しないものと成り果てていた。
アシュラン:「くそっ!!」
 アシュランは、唇を噛んだ。強く噛まれた跡からは血が流れるが、それでもアシュランは動けなかった。
ここで彼らに助太刀するということは、つまりテロリストを助けるということだからだ。それは、彼らの仲間を、所属する軍を、死んだ恋人を、軍の最高責任者である親を裏切る行為である。
しかし、だからといって、今朝自分に憧れの眼差しと曇りない笑顔を見せてくれた、年端も行かぬ子供たちを、これ以上見殺しにできるのだろうか・・・。
クーウォン:「あきら!!そっちはどうなっているんだ!!」
 クーウォンがマイクを掴んで画面に向けて怒鳴ると、あきらのシュミクラムが大映しになる。どうやら、あきらは構造体内を駆け回り、データの消去作業を懸命に進めているようだったが・・・・。
あきら:「ダメだ、クーウォンさん!!今最後の手順を実行中なんだが、どう頑張ってもあと五分はかかる。だが、生憎『その五分』が持ちそうにねぇ!!」
 まるであきらの言葉を体現するかのように、あきらを守っていた数機のシュミクラムが、一機、また一機と、ビームに貫かれてその姿を消してゆく。つまり、また一人、幼い子供の命がこの世から消え去ったということだ。
クーウォン:「くそっ!!ならば、私が出る!!!」
 クーウォンは、手近にあったニューロジャックを掴み、躊躇いも無く首に差し込もうとした。そこには、アシュランの手前、飛刀のイメージを上げるパフォーマンスをしよう、などという素振りは、微塵も感じられなかった。ただ、仲間の犠牲を悲しみ、憤り、そしてそれを何とかしたいと願う顔だった。
リャン:「ダメだ、クーウォン!!何考えてんだ!!!大将自らが、こんな不利な状況で最前線に出てきてどうするんだよ!!」
 リャンの目の下には、流した涙で赤い跡がくっきりとできていた。
 そして、リャンはゆっくりと、アシュランの方に向き直った。
リャン:「話は聞いてただろ?今、この状況を何とかできるのは、あんたしかいない・・・」
アシュラン:「お、俺は・・・・」
 アシュランは何かを言おうとして、そして言葉に詰まる。以前大好きだった人の、最も見たくない表情がそこにあったから。
リャン:「わかってるさ。あんたはまだうちらの同志じゃない。でも、でも、今はあんたしかいないんだ。お願い、あたしを、あたしたちを助けて・・・・・」
 リャンの表情には、さっきまでの気丈な面影は微塵も無かった。ただ散っていった仲間たちを思い、そして今にも散ってゆかんとする仲間たちを前にしながらどうにも出来ない無力感に苛まれ、ただ無防備に泣いていた。
アシュラン:「俺は・・・・・」
 確かに、今彼らに救いの手を差し伸べれば、アシュランは今まで築き上げたものを全て敵に回すかもしれない、しかし、しかし・・・・。
 アシュランが今まで様々なものを築き上げてきた理由。それは、二度とこういう目に遭う人たちを、見たくなかったからなのではないか?死んでゆく子供たち。泣いている少女。そんな光景は、任務中にも何度か見た。そして、もうこのような光景を繰り返さないように、アシュランたちは任務に励んでいたのではなかったのか?そして、そんなアシュランの背後にあったのは、もう喪ってしまった少女を、もしもう一度あんな状況になったとしたら、絶対に喪わないという自信を身に付けたいということではなかったのか?
 そうだ。アシュランの戦いの目的は、何も復讐のためだけではなかったのだ。最初は復讐のために始めた戦いだが、それでも今は、それ以上に大切な目的が出来ていた。そして、その目的を果たすのは、ちょっと変わった形にはなってしまうが、今しかないのではないか?
アシュラン:「俺は・・・・・」
 アシュランは、近くにあるニューロジャックに恐る恐る指を伸ばし、そしてそれをしっかりと掴んだ。ニューロジャックを掴んだ瞬間、不思議と迷いは消えていた。
アシュラン:「アシュラン・ザラ、出るぞ!!」
 アシュランはそう言って、ニューロジャックを首筋につき立てた。


『没入(ダイブ)』


 急に目の前に、中継基地構造体の地面が広がった。
 アシュランは、MS体となった自らの高感度センサーと化した目を素早く周囲に走らせた。あきらのMS・ザクが必死に作業をしている横で、少年たちのものと思しきダガーが、ウィルスたちに狙われていた。
アシュラン:「チッ!!」
 アシュランは手に持ったビームライフルで、迷わず少年たちを攻撃していたウィルスたちを撃ち抜いた。
少年たち:「アシュランさん!!」
 今まで絶望的な戦いを強いられてきた少年たちのモニタ越しの表情に、ぱあっと明るいものが灯った。
リャン:「アシュラン!!」
あきら:「アシュラン、お前・・・・・」
 アシュランは彼らの表情に、何か体の中が暖かいもので満ちてゆくのを感じたが、不意にこれは犯罪者に加担する行為なのだと理性が警告し、思わず顔を曇らせた。
 アシュランはその警告を振り払い、叫んだ。
アシュラン:「・・・お前たちは今すぐ逃げろ!ここは俺が、一人で何とかする!!」
少年たち:「は、はい!!」
 これ以上ここにいても足手まといになることを悟ったのだろう、少年たちは次々とログアウトしていった。
 その光景を見届けると、アシュランはモニタの外でこの光景を見つめているだろうクーウォンに向かって叫んだ。
アシュラン:「クーウォン!ここは、俺が何とかする!!ただ、俺はテロリストの一味になったわけじゃない。だから、あんたの命令には従わない、俺の自由にやる!」
 しかし、アシュランの反発的な言葉にも、クーウォンは怒りを見せるでもなく、むしろ穏やかな、心底我が意を得たり、といった表情で頷いた。
クーウォン:「わかった、アシュラン君。ありがとう」
アシュラン:「・・・・・・」
 すると、近くで何か、おそらく敵のウィルスやシュミクラムが動く気配がした。アシュランは反射的に、そちらに注意を向けなおした。
 同時に、ウィルスが、アストレイが、ビームを放った。アシュランはそれをシールドで防ぐと、ライフルでウィルスを、アストレイの四肢を、素早く撃ち抜いた。
アシュラン:「クソッ、流石にV・S・Sのシュミクラムのコックピットは撃てないか!!」
あきら:「アシュラン、大丈夫か!?」
アシュラン:「・・大丈夫だ、自慢じゃないが、俺の腕はV・S・Sでも通用すると、密かに自負していた」
あきら:「へへ、やっぱお前、透とどっか似てるな、頼もしいぜ。・・・三分だ、何とかあと三分持ってくれよ」
アシュラン:「安心しろ。それくらい、楽勝だ!」
 アシュランはビームライフルで、近くにいた雑多なウィルスを素早く駆逐すると、アストレイたちに向き合った。アストレイたちは、アシュランの腕前が並じゃないことを見抜き、集中攻撃で真っ先に潰すつもりでビームを放ちながら突撃をかけてきた。
アシュラン:「よし、望むところだ!!」
 アシュランはビームを撃ちながら突撃をかわし、あきらが狙われてもすぐに対応できるよう気を配りながらも、アストレイたちの腕を、足を、ビームライフルを次々と撃ち抜き、彼らを無力化していった。途中、ビームライフルを射抜かれたが、アシュランはライフルを消滅する前に捨て、更にシールドも捨てると、腕部ガトリングを展開、シュミクラムたちに踊りかかっていった。
 しかしそのとき、アシュランの目に、逃げ遅れたダガーが、アストレイにライフルで狙われているのがとび込んだ。そしてそれに注意を逸らされた瞬間、右腕が敵のライフルに射抜かれ、消滅する。
アシュラン:「クッ!だが!!」
 アシュランはビームサーベルを引き抜き、ダガーを執拗に狙うアストレイにとびかかった。その斬撃はシールドで防がれたが、その密着した状態を利用して、アシュランはまだ展開したままだった腕部ガトリングを起動、零距離からの強力な弾丸の斉射により、シールドごと敵の左腕を吹き飛ばした。
飛刀の少年:「あ、ありがとうございます!!」
 アシュランは怯んだ敵の右腕も斬り飛ばしながら、少年が無事離脱するのを見て心底胸を撫で下ろした。しかし同時に、今まで自分がダガーを撃破してきた光景を思い出し、さっと腹の中が冷えるのを感じた。
 その時、アシュランは、あきらと離れ過ぎたことに気が付いた。しかも悪いことに、敵も数拍早くそれに気付き、あきらに向けて銃を構える。
アシュラン:「しまった!!あきら、逃げろ!!!」
 しかし、あきらは悠々と立ち上がると、この場にそぐわぬ快活な声で叫んだ。
あきら:「へへ、アシュラン、よくやったぜ!!作業は終了。さっさとずらかろうぜ!!」
 あきらは、ザクのスパイク付きショルダーアーマーで、囲んだアストレイのうち一機に強烈なタックルを食らわせて撃破すると、揚々とログアウトした。
 構造体内が、急速に色褪せてゆく。データが消え、意味を失った構造体が、ゆっくりと滅んでゆくのだ。
 アシュランは役目が終わったことを悟り、敵が再び自分を狙う前に、その場を去った。


『離脱(ログアウト)』



 翌日。
 ここ、レベル7は、朝から沈痛な空気に包まれていた。粗末な、しかし精一杯飾り立てられた布が、何個もの遺体を包んでいた。そして、それらは地下都市中の人が見守る中、厳粛な表情をした神父と思しき者たちの手によって、高温の溶鉱炉に投げ込まれ、真っ赤な炎の中で浄化されていった。一人投げ込まれるごとに、周囲からは嗚咽と啜り泣きが洩れ、近くに設置された鎮魂の鐘が、リンゴーン、リンゴーンと二回鳴って、若すぎる命の散華を惜しんでいた。
 そして、設けられた壇の上では、悲しみに暮れる人たちに向かって、クーウォンが力強い、しかし悲壮な声で、声を張り上げて演説していた。
クーウォン:「諸君、我々は今日、多くの若い命を喪った!しかし、我々はその犠牲を無駄にしてはならない!いつの日か、諸君らを虐げてきた憎むべき巨悪が白日の元に曝され、社会の下で然るべき裁きを受けるまで、我々は戦い続けねばならない!!」
 アシュランはそんな光景を、人の集団から少しは離れた場所で、どこか虚ろな瞳で眺めていた。
 目を閉じれば、昨日の悪夢のような光景が、今でも鮮明に思い出せる。まだ年端も行かぬ、幼ささえ残った子供たちが、次々と醜く痙攣し、そのまま死んでゆく。そして、自分はその光景を、ただ眺めているしか出来なかった・・・。
 いや、本当にそうだったのだろうか?自分は、あの時、彼らに対して出来ることがあったのではなかったのか?
アシュラン:「俺は・・・・」
 その時、目の前に、さっと巨大な影が立ちはだかった。そして、その人物が誰かわかるや否や、アシュランの感情が、瞬く間に怒り一色に塗り潰されていく。
 ここ以外であったなら、即彼を殺しにいっていたかも知れない。そう、影の正体は、ゲンハだった。
アシュラン:「キサマ、何の用だ!!」
ゲンハ:「へん、てめえがあんまりにも湿気たツラしてやがるからよぉ、ちょっとからかいにきてやっただけだよ。そんなに睨むんじゃねぇよ」
 そう言うゲンハの表情は、言葉通り、単純に楽しそうだった。仲間を喪った悲しみとか、怒りとか、そう言うものは微塵も感じられない。
アシュラン:「・・・お前は」
ゲンハ:「あん?」
アシュラン:「お前は、何とも思わないのか!!仲間が、沢山死んだんだぞ!!それも、あんな幼い子供たちがだ!!!」
 アシュランは、何故自分がこの野獣に対してこんなに憤っているのか、わからなかった。この蛮族には、仲間の死など、路傍の石ころを蹴っ飛ばしたようなものだということは、もうハッキリとわかっていたはずなのに。
 アシュランが自分の感情に疑問を持ち、それについて考えを巡らせようとしたその時、ゲンハはニヤつきながら、しかし彼らしくないイヤにハッキリとした声で言った。
ゲンハ:「へへ、要するにお前、自分を責めて欲しいんだな。何でもっと早く出られなかったのか~とかよ、テメェがもっと早く出てりゃああのうちの半分は死なずにすんだのに~とかよぉ。そういうことをよぉ、最も憎んでる俺サマに責めてもらうことでよぉ、単純な怒りに換えようとかよぉ、そういう糞みてぇなこと考えてんだろ」
アシュラン:「な・・・・」
 図星だった。そして、良く見れば、今まで知性の欠片も無いと思っていたこの狂人は、まるでクーウォンのような深く澄んだ瞳で、アシュランの瞳の奥をしっかり覗き込んでいた。
ゲンハ:「バッカみてぇ、そんなの決まってんだろうがよぉ!!テメェには大切なもんがあって、それを簡単に捨てられなかったからだとか、そんなこともわかんねぇのか!!へ、まったく、テメェを見てるとイライラすらぁ!テメェはよぉ、俺サマのよくしってる、“アイツ”にそっくりだぜ。実力はあんのによぉ、モラルとか正義感とかよ、くだらねぇことに囚われてよぉ、グジグジ悩んでたアイツによぉ!!まったく、愛するオンナを犯られて殺られたんならよぉ、問答無用で俺サマを殺しにくりゃいいだろうが!!」
アシュラン:「!!?キサマ、知ってたのか!!!」
 アシュランの脳内が、瞬時に怒りで沸騰した。そして、ゲンハはそんなアシュランを、楽しそうに見下していた。
ゲンハ:「俺サマはよぉ、人の気持ちが誰よりもわかる。だからよぉ、その『気持ち』ってやつを踏みにじるのがよぉ、誰よりも楽しめるんだぜ!!」
アシュラン:「この、ゲスがぁ!!」
 アシュランはゲンハに殴りかかろうとしたが、ゲンハの強烈な拳が、アシュランが拳を振り上げる前に、腹に強くめり込んでいた。
アシュラン:「ぐぅっ!!」
ゲンハ:「まあよぉ、今日は悲しい悲しいお葬式なんだからよぉ、静かにしとこうぜ」
 そう言ってゲンハは、悶絶して体をくの字に折り曲げて倒れこんだアシュランの頭を一回軽く蹴ると、悠々とその場から去った。
ゲンハ:「あとよぉ、昨日は食料の調達に行っててよぉ、その場にいられなくて悪かったな。俺サマとしても、惜しいことしたぜぇ。昨日の任務は、イヤにチョロかったからよぉ。ここに残ってりゃあ、もっと歯ごたえのあるヤツを、沢山ぶっ殺せたかも知れねぇからなぁ!!」
 ギャハハ、とけたたましい声で笑いながら、ゲンハの姿は消えていった。そして、ゲンハとまるで入れ替わるように、リャンが姿を見せた。
リャン:「アシュラン、大丈夫か。クソッ、ゲンハのやつ、相変わらず酷いことしやがる!!」
アシュラン:「いや、リャン、いいんだよ。俺が色々自棄になって、仕掛けた喧嘩さ」
リャン:「アイツに喧嘩を仕掛けるなんて・・・・。アシュラン、あれはあんたのせいなんかじゃないんだよ。だから、そんなに責任を感じることはない」
アシュラン:「それは、わかってるよ。そして、君のせいでもない。だから君も、自分を責めることは止めるんだ・・・」
 リャンの顔は、傍目でもわかるくらいに憔悴しきっていた。きっと、夜通しで泣き明かしたのだろう。
 しかし、これがアシュランのせいでなく、そしてリャンのせいでもないとしたら、一体誰のせいだというのだろう?
リャン:「・・・・ヤツラのせいだ!!」
 リャンが、その綺麗な顔を怒りに歪めて言った。
リャン:「何もかも、ヤツラのせいだ!!ヤツラが、あたしたちをこんな目に遭わせ、その上みんなを殺したんだ!!!」
アシュラン:「・・・リャン?」
 すると、リャンはアシュランの方に向き直った。
リャン:「アシュラン、クーウォンはどうやら近日中に、みんなの弔い合戦をやるみたいなんだ。それに・・・あんたも付いてきてくれないか?」
アシュラン:「な・・・・」
 アシュランは、一瞬絶句した。最初は、リャンが何を言っているのかわからなかったが、一拍置いてその意味するところを正確に飲み込み、そしてその重大さに唖然とする。
アシュラン:「俺は、まだテロリストになると、決めたわけじゃない。だから、それがどんなに重要な作戦であれ・・・こちらから攻めるのであれば、君たちに協力することはできない。君たちを止めることはしこそすれ、な!」
 リャンは、切ないため息を漏らし、そして再びアシュランの瞳を直視した。
リャン:「・・・・わかったよ。でも、あたしは信じてる。あんたがきっと、あたしたちの同志になってくれることをさ」
 そう言って、リャンは心なしかフラフラとした足取りで、その場を去った。
 見れば、葬儀の集会も、ほとんど解散していた。
アシュラン:「・・・くそっ、あの顔で、信じてるとか言うなよな・・・・・・」
 アシュランは、肩にどっしりとした疲労感を感じ、そのまま寝床に戻っていった。



 結局、この日アシュランは何もする気が起きず、ただシュミクラムをいじって一日を過ごしてしまった。そしてその最中も、様々な事柄が、彼の頭の中で渦を巻いていた。
『君に、我々を理解し、同志となってもらうためだ』『クーウォンを狂信者とか呼ぶな!!』『最新型補助チップ、名付けて『囚人更正チップ』ってところかな』『僕たちもシュミクラムパイロットなんです。次の作戦では、一緒に戦えるといいですね』『でも、あたしは信じている。あんたがきっと、あたしたちの同志となってくれることをさ』
 喪った恋人によく似た少女。テロリストの親玉を崇拝する透の友。突如目の前に現れた、仇の狂人。想像とはまるで違った、非戦闘員たちを多く抱えた『虐げられた者達の最後の楽園』。今まで自分たちが奪ってきただろう、あまりにも若いダガーのパイロットたち。そして、あまりにも理知的な、まるで父親のような、狂信者の親玉・・・。
アシュラン:「・・・くそっ!!!」
 いくら考えても、頭が余計にこんがらがるだけだった。そもそも、考えるためには大事なピースを、今のアシュランは持っていない。
アシュラン:「『真実』か・・・・・」
 クーウォンの言う『真実』が何なのか?それが果たしてクーウォンを信じるべき者たらしめるほどのものなのか?それがわからぬ限りは、いくら考えても、答えなど出せようもないのだ。
 だが、もし『真実』がクーウォンの言う通りのものだったとしても、自分はクーウォンの同志になれるのだろうか?アシュランにはわからなかった。つまり、それは即ち、軍を、仲間を、そして父や、軍の高官として代々軍に仕えてきた『ザラ家』を裏切ることに、他ならないからだ。
アシュラン:「『ザラ家の名に恥じぬ男になれ』か・・・・。俺は今まで、何だかんだ言って、結局それを目指して生きてきたのかもしれないな・・・・・」
 その時、バラックの入り口に、人影が見えた。
アシュラン:「誰だ!!」
 自分は飛刀では概ね好意的に受け入れられているとは言え、元軍人だ、快く思わない者がいても不思議ではないし、ゲンハの手下等が闇討ちに来てもおかしくは無い。アシュラン周囲の気配を探って全身を殺気立たせたが、どうやらそれは杞憂だったと、すぐにわかる。
アシュラン:「・・・リャン、こんなところで、何をやってるんだ」
リャン:「いや、えっと、あの・・・・」
 どうやら、来たはいいが、自分でも何をしにきたのかわかってないようだ。リャンは顔を真っ赤にしながら、オロオロとうろたえる。そんな仕草にも、恋人の面影が感じられてしまい、アシュランはどうにも居心地の悪い気分になる。
アシュラン:「・・・まあ、大体はわかるけどな。でも、生憎だが、君が説得に来たところで、俺の意思は変わらないよ」
 本当言うと、リャンの姿を見た時点で、アシュランの意思は揺らぎかけていたのだが、それは秘密だ。
何を引き換えにしても守りたいと思った少女レミー・クラインと瓜二つだというのもあるが、それ以上に、このリャンという少女は、アシュランの胸の奥深くにある、暖かく柔らかいものを刺激する。
アシュラン:「俺は・・・・、俺は、今更テロリストの仲間にはなれないよ」
 拒絶の言葉を発しつつも、アシュランは、自分の口調が弱くなっていることを感じていた。
リャン:「・・・・」
アシュラン:「やめろよ、そんな表情するな。何か、俺が悪いことしたみたいじゃないか」
リャン:「・・・そうだね、あんたは悪くないよ、あんたは、あんた・・・あれ?」
 一向に名前を呼ばないところをみると、どうやらまた忘れたのか。
アシュラン:「あのなあ、リャン、俺の名前、言ってみろ」
リャン:「え、そ、それくらい覚えてるさ! あ、アシュ・・・・。」
アシュラン:「なんだ、覚えてるじゃないか」
リャン:「ア、アシュノ助!!」
アシュラン:「・・・・・・・・」
 誰だよ、それは。
アシュラン:「物覚えが悪いにも、程があるぞ。俺の名は、ア・シュ・ラ・ン!」
リャン:「・・・ちっ、かんべんしてくれよ、あたしはあんたと違って、頭が悪いんだからさ」
アシュラン:「そうかもしれないけど、人の名前くらいはきちんと覚えろよ・・・って、痛てっ!」
 思い切り、向こう脛を蹴られた。
リャン:「少しは否定しろよな!ったく!!」
アシュラン:「・・・一瞬、骨折れたかと思ったぞ。手加減しろよな・・・。まあ、人の名前を覚えるのが下手な人はどこにでもいるけどな。俺だってあまり得意な方じゃないし。でも、つい昨日の朝も同じこと聞かれたし、今朝だって俺の名前呼んでただろ」
リャン:「・・・そうだっけ?」
アシュラン:「そうだったけ、ってなぁ・・・?おい、リャン?」
 一瞬、アシュランはリャンの様子に、不吉な違和感を感じた。そして、それは次第に、実感を伴って大きくなってゆく。
リャン:「昨日の朝?今朝?アシュランの名前呼んだ?あれ?あたし、その時何をやってたんだっけ?あれ?あれ・・・・??」
 リャンの瞳から、急に一切の情景が消えた。そして、リャンの表情を、急速に暗い怯えが満たしてゆく。
リャン:「思い出せない、何も思い出せない・・・。嘘、あたし、こんな、こんなの・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
 リャンが、急にパニックを起こした!頭をぶんぶんと振り、その場に蹲って、涙や鼻水を撒き散らしながら、リャンはこの世の全てに怯えていた。
リャン:「もういや、こんなの、こんなのもういやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 アシュランは、一瞬、あまりのことにあっけにとられていた。しかし、軍での訓練の賜物か、すぐにしっかりと気を落ち着けることができた。そうして目の前を見る。心を侵されたように怯え、苦しんでいる少女。まるでレミーの生まれ変わりのような、そうでなくとも少なからず好ましいと思った、愛すべき少女。
アシュラン:「リャン!!!」
 アシュランは、咄嗟にリャンを抱きしめた。深い考えがあってのことではなかった。ただ、何とか彼女を襲う恐怖を、少しでも軽くさせてあげようと思ってのことだった。
リャン:「いやぁぁ、いやぁぁぁ、いやだぁぁぁぁぁ!!!」
 錯乱したリャンは、アシュランを蹴飛ばし、叩き、爪で思い切り引っかいた。しかし、アシュランはそれでも、より強く、リャンをしっかりと抱きしめる。
アシュラン:「大丈夫、大丈夫だ、リャン!!ここには俺がいる!!俺がいるから、俺が守るから!!だから何も、怖いことは無いんだ!!!!」
リャン:「え・・・・」
 リャンの抵抗が、弱まっていった。
リャン:「アシュ・・・ラン?」
アシュラン:「そうだ、アシュランだ。はは、大丈夫だろ、リャン。俺の名前、ちゃんと覚えてるじゃないか」
リャン:「あ・・・・」
 リャンが心底安心したように呟き、リャンの身体から、全ての力が抜けた。
アシュラン:「・・よかった、落ち着いたようだな、リャン」
リャン:「・・・ありがとう。『発作』が薬も無しに鎮まるなんて、初めてだよ・・・・。でも、アシュラン、痛く、なかった・・・・?」
 見れば、アシュランの腕には、無数の引っかき傷ができていた。痛みからすれば、おそらく顔にもいくつかできているだろうし、全身には痣になったような重い痛みも残っていた。
アシュラン:「まあ、そりゃ、ちょっとはな・・・・」
リャン:「ごめん。あたし、本当に馬鹿で、乱暴で、ガサツな女だよな。その上、変な病気まで持っちゃってさ・・・・」
 リャンが、鼻を啜り出した。混乱と罪悪感で、きっとわけがわからなくなってしまっているのだろう。アシュランは、そんなリャンを安心させるために、その柔らかい髪を優しく撫でてあげる。
アシュラン:「大丈夫だ。リャンは、素敵な女の子だよ・・・」
 アシュランは、改めて、リャンの小さな身体の感触を感じていた。レミーよりもちょっと硬いのは、彼女の身体が、武術で鍛えられているからだろう。でも、その硬さも、彼女の魅力を損なうものでは決してなく、逆に彼女の存在を、しっかりと感じさせてくれるものだった。
リャン:「アシュラン・・・・」
 そのとき。
??:「ありがとう、アシュラン君」
アシュラン:「うわぁ!!?」
 突然、背後で野太い男の声がして、アシュランは内心飛び上がった。特にやましいところは無かったが、それでも、流石に女の子と抱き合っている今の姿を見たら、言い訳はできない。
 しかも、背後の人物を確認して、アシュランの心臓は縮み上がった。その人物は、クーウォンだったからだ。
アシュラン:「い、いや、クーウォン、あ、あの、これは・・・・」
 しかし、クーウォンはただニッコリと微笑んでいた。まるで、全てをわかったような、ゆるぎない父性と、そしてどこか母性さえも感じるような微笑だった。
クーウォン:「ふふ、心配することはないよ。私はただ、君に感謝しているだけなのだから」
 すると、リャンがクーウォンに気付き、そしてアシュランからそっと離れる。
リャン:「アシュラン、ありがとう。あたし、今日はもう寝るね」
 リャンの穏やかな笑顔に、アシュランは心底安心した。先ほどのパニックによる不安はどうやら完全に癒えたようだ。
アシュラン:「ああ、おやすみ・・・・。そうだ、リャン」
リャン:「ん?」
アシュラン:「君は、クーウォンの言うことを、本当に信じているのか?」
 今はクーウォンの目の前だが、これだけはどうしても聞いておかねばならなかった。幸い、クーウォンは何を言うでもなく、ただ目を閉じてじっと黙っていた。
リャン:「当たり前だろ、クーウォンの言うことは、本当のことなんだから。それに・・・」
 リャンは顔をほのかに赤らめ、クーウォンをチラチラ見ながら言った。
リャン:「クーウォンはあたしのとう・・・兄さんみたいなものだからな。家族を信じるのは、当たり前だ!」
 そう言うと、リャンはそのまま振り返らず、早足で去っていった。
クーウォン:「やれやれ、いつもあのくらい素直なら、可愛いのだがな・・・」
 そう言って柔らかく微笑むクーウォンの表情は、リャンを妹というより、手のかかる娘のように思っているようだった。
アシュラン:「家族、ですか・・・」
クーウォン:「まあ、な」
アシュラン:「では、その妹さんのように思っているあの子を使ってでも、俺を引き入れたいのですか!?」
 一瞬、クーウォンの表情が険しく、殺気さえ帯びたものとなった。アシュランは、心底骨まで冷えた錯覚を感じたが、それも一瞬のことだった。クーウォンは、穏やかな、しかしさっきまでとは違ってどこか悲しそうな表情で言った。
クーウォン:「あれは自分の意思だよ。私は誰にも、何も強制はしたくない。それに、まだ同志になっていない者のもとに、あの子を一人で向かわせるわけが無いだろう」
 今のアシュランには、クーウォンの言葉の含むところが、よくわかった。確かに、あんな持病を持つ少女を、未だ仲間になっていないと公言する奴の所に夜一人で向かわせるわけはないだろう。
アシュラン:「リャンのあれは・・・、一体何なのですが?」
クーウォン:「一種の健忘症だ・・・」
アシュラン:「そんなわけないじゃないですか!!健忘症で、あんな発作は・・・」
クーウォン:「と、本人は思っている」
アシュラン:「・・・・・」
クーウォン:「私がそう言って聞かせたのだがな。本当はもっと深刻だ。一種の記憶障害、しかも後天的なものが原因だ」
アシュラン:「後天的・・・?」
クーウォン:「さっきのあれは、まだ軽い方だ。だが、あれでさえ、君が上手く抑えてくれなかったら、数日間の記憶を丸ごと失っていた・・・・」
アシュラン:「な・・・・・・!!?」
 数日間の記憶を失う!?しかも、それがまだ軽い方、ということは・・・。
アシュラン:「本当の発作が起こったら、彼女は一体・・・・」
クーウォン:「今までで一番重い発作では、一年間の記憶を丸ごと失ったことがある。私が留守にしていた時でな。それでも、ゲンハが気付いて投薬してくれたから、まだ軽減できた方だ。私の憶測では、本当ならば、数年間の記憶を跡形も無く失っていただろうと考えられる・・・」
 クーウォンの声には、何の悲しみも感じられなかった。しかし、アシュランは、それが幾多もの悲しみと苦悩を重ねた末の、一種の諦めにも似た感情のせいだ、と気付いた。
アシュラン:「それじゃあ・・・リャンは普通に生活していくには、あまりに・・・・」
クーウォン:「そうだ。リャンは、とても一人で生きてゆくことはできない身体なのだよ・・・・」
アシュラン:「だったら!!彼女は余計、ここにいるべきではない!!そんな、日常生活も送れないような女の子を、テロリストの一員にしておくなんて・・・!!!!」
 そこで、クーウォンは大きなため息をついた。とても大きな、深いため息だった。
クーウォン:「確かに、その通りだ。しかし、リャンが生きてゆける場所は、ここしかないのだよ・・・・」
アシュラン:「どういう、ことですか・・・?」
クーウォン:「言っただろう。リャンの発作は、“後天的”なものが原因だと。それは、私が戦っている『真実』に、深く関係しているのだよ・・・・」
アシュラン:「『真実』・・・!!それじゃあ、彼女のあの酷い発作も、脳内チップのせいだというんですか!!」
クーウォン:「君は理解が早くて助かる。そうだ。リャンを、おそらく生涯に渡って苦しめるだろうあの症状は、全て彼女に埋められた補助チップが原因だ。そして、それには『ヤツラ』の非人道的な計画が関わっているのだ」
アシュラン:「またその話ですか。いい加減にして下さい!!家族同然の存在がいくら酷い目にあっているからといって、都合よく妄想に摩り替えないでください!!」
 しかし、クーウォンはアシュランを、しっかりとした目で見つめていた。
クーウォン:「・・・そうだな。そろそろ君にも、『真実』を教えよう。以前言ったように君にも無関係な話ではないし、それ以上に、リャンたちが君にとって大切な存在になり始めているのなら、尚更だ」
アシュラン:「そうですね・・・。では、早く教えてください」
クーウォン:「焦るな。もし今、君がただ私の口からそれを聞いたとしても、にわかには信じられないだろう。だから、実際に見て貰うのが、一番早く、一番効果的な方法だ」
アシュラン:「?」
クーウォン:「君も知っての通り、私は近いうちに、『敵』のある重要な施設に大攻勢をかける。これ以上、消耗戦を続けて若い命を無駄に散らすわけにはいかないと、そう判断したが・・。丁度いい機会かもしれん。そのついでに、君にも『真実』を、見せたいと思う」
アシュラン:「つまり、『次の作戦に参加しろ』ということですか。しかし、それは・・・・」
クーウォン:「わかっているさ。君は、かつての仲間と戦う羽目になるかもしれない。だが、そのリスクを承知した上で、私は言っているのだ。『真実』を知ることが、君のためになると、そう信じている」
アシュラン:「・・・・・・」
 アシュランは、クーウォンの目を睨みつけるようにして見た。そこには、アシュランを陥れようなどという邪な感情は、一切読み取れなかった。
 そして、アシュランの脳裏に、リャンの姿がよみがえる。彼女にあんな辛い思いをさせている原因。それがわかるなら、確かにかなりのリスクを負ってでも、やるべきことがあるのかも知れない。
アシュラン:「・・・・わかりました、考えておきましょう」
 アシュランは、強く頷いた。そんなアシュランを、クーウォンは労わる視線で見つめた。
クーウォン:「ありがとう。しかし、作戦の実行には、どう急いでも、あと十数日はかかる。その間、もう一度しっかりと考えてみなさい。真実を知る、ということは、とても辛いことなのだ。誰しもその瞬間、足元をすくわれたような気になる。もしそうなったとしても、そこから立ち上がれるだけの覚悟を決めたなら、その時は、君に『真実』の全てを見せよう」
 そう言って、クーウォンはアシュランに背を向け、闇の中に消えていった。
アシュラン:「真実、か・・・・・」
 アシュランはクーウォンの背中を、いつまでも目で追っていた・・・。



 物語の主人公は、再び透に戻る。
 透がαユニットの一員に任命されてから数日・・・。
 今日も透は、月菜とコンビを組み、V・S・Sに依頼してきた企業の構造体にて、警備の任に就いていた。
 αユニットになってからは、任務の頻度も、危険度も段違いに高いものになっていた。しかし、それはそのまま、透の腕が玲佳社長に、そして社会に高く評価されているということだ。相変わらず、人を殺傷することを必要とされる汚い仕事であることには間違いなかったが、以前月菜に言われたこともある。透は概ね、この仕事に満足していた。
 唯一つのことを除いては。
透:「月菜、大丈夫か?」
月菜:「う・・・うん・・・」
 ウィンドウに映る恋人の顔は、青ざめている。頬には嫌な感じの汗が薄っすらとにじんでいて、今にも吐くか倒れるかしてしまいそうだ。ネット世界で今隣に存在している月菜のシュミクラムも、どこと無く動きが心許ない。
透:「月菜、無理するな。ただでさえ、訓練がきついんだろ」
月菜:「大丈夫・・・だよ!透に追いつくって決めたんだもん、これくらい・・・」
 そう言って透をやんわりと、しかしハッキリと拒絶する月菜の背後には、何か異様な凄みがあった。透は、何となく、それ以上の言葉をかけることが躊躇われた。
 そう。あの日、透と共に月菜がαユニットに任命されてから、月菜は定時の訓練以外にも、なにか特別な『訓練』ということで玲佳に呼び出され、そのまま何時間も帰ってこない、ということが続いていた。そして、夜遅く帰って来た月菜は、フラフラに疲れており、そのままシャワーも浴びずにベットに倒れこんで、泥のように眠るのが毎日だった。なので、あれ以来、透は訓練の時間以外月菜とほとんど共にいることができず、月菜と唇を交わした時以来、恋人らしいことは何一つできずにいた。
 それどころか、月菜は日に日にやつれていった。しかも、何故か瞳のギラギラとした異様な輝きだけは、日に日に増していく有様だった。
透:「月菜、俺の力になりたいっていう気持ちはありがたいが、無理だけはするな。お前の身体のことももちろんだが、そんなんじゃ任務にも障る。お前の脳死体なんて、俺は絶対見たくないんだからな!」
 しかし、そんな透の言葉にも、月菜は薄く笑うだけだった。
月菜:「・・わかってる。ふふ、大丈夫、戦いが始まったら、すっきりするから・・・・」
 透は、その虚ろな笑顔に、思わずドキリとした。その笑顔は、月菜が浮かべるにはあまりにも残虐で、そして艶っぽくさえあるものだったからだ。
 そして、その月菜の言葉は、本当だった。最近の月菜の戦い方は、まるで鬼人の如し。どんな訓練をしたらこんなに上達するのだというほどの強さだった。
 そんな透たちに、今日も玲佳の指示が行った。
玲佳:「α―Ⅵ、α―Ⅶ、そっちに賊が複数行ったわ!奴らは他の警備会社員や軍人さんを何人も殺傷しているから、全員見つけ次第射殺しても構わないわ!!」
月菜:「了解(ヤー)・・・」
透:「お、おい、月菜!?」
 玲佳の命令に躊躇うことなく頷いた月菜に透は戸惑いながらも、やがてやってくる賊を迎え撃つために、心を戦闘モードに切り替えた。


透:「うをぉぉぉーーー!!」
 透はビームサーベルを引き抜いて敵陣に踊りかかると、背中の翼型ラスターを吹かせて超加速、瞬く間に複数の敵機の武装を斬り落とした。
透:「よし!・・・月菜は!!?」
 見れば、月菜は手にしたプラズマバズーカで、手当たり次第の敵機を破壊していた。破壊力で勝るかわりに命中率がライフルよりも大きく劣るバズーカで百発百中の腕前も凄かったが、何より驚くべきは、あの優しい月菜が、敵機のコックピットを躊躇わずに狙うようになったことだった。
透:「つき・・な・・・・」
 一瞬、苦々しい想いに囚われかけた透に、賊のビームライフルが容赦なく襲いかかった。
透:「くっ!!」
 透は素早く意識を切り替え、なおもビームを撃ちかける賊に向かって腰部の二門のレールガンを放つ。一発の弾丸は一機の足を砕き、そしてもう一発は、不運にももう一機の賊のシュミクラムのコックピットを直撃、そのシュミクラムを完全に撃破した。
 そうだ。こういう仕事に就いた以上、甘いことを言ってはいられない。そもそも、相手もこちらに銃を向けているのだ。その相手を例え殺してしまったとしても、こちらに非があるわけでは全く無い。そう頭では理解していても、透の心にまた一つ、重い塊が乗っかってゆく。
 一方、月菜はバズーカを捨て、更にシールドも捨てると、二本のビームサーベルを引き抜き、残り少なくなった敵に踊りかかっていった。
 そんな月菜をライフルで狙う賊に、透は収縮プラズマ砲を放ち、万が一のことが起こる前に、敵を撃破する。
 そして、その頃には、残りの敵は全て月菜に斬り伏せられていた。
玲佳:「お疲れさま、二人とも。任務は終わりよ。戻って頂戴」
透:「・・・わかりました。戻ろう、月菜」
月菜:「うん!」
 嫌に活き活きした月菜の瞳に気圧されながらも、透は現実世界へと、ログアウトした。



「二人とも、ご苦労様。月菜さんは、この後訓練よね。でも、今回は私も事後処理があるから、それが終わるまでしばらく部屋で待機していなさい」
 玲佳社長にそう言われて、透と月菜は、二人の部屋に戻ってきた。
 月菜は消耗しきっており、顔は終始青ざめ、透の肩につかまらなければ歩くことも出来ぬほどであった。そして月菜は、部屋に入るなり、ベットにそのまま倒れこんでしまった。
透:「おい、月菜!!・・・・やっぱ、無理し過ぎじゃないのか?」
 透が指摘するまでもなく最近の月菜は明らかにオーバーワーク、いや、戦闘時の様子を思い返すに、その様は異常ですらあった。
月菜:「だい・・じょうぶ。透や他のみんなに追いつくんだもん、これくらい、へっちゃらだよ・・・・」
透:「ほかのみんな、か・・・。そういや、αユニットの同僚たちって、薄情な奴ばっかりだよな!月菜があんな有様なのに、誰一人、肩も貸そうとしないんだからな!!」
月菜:「あはは、しょうがないよ・・。だって、あたし、明らかに足引っ張ってるし・・・・」
月菜はそう言うが、αユニットの同僚たちの有様は、今の月菜以上に、明らかに異様だった。以前同僚だった一般社員以上に無表情で、まるで能面。人形みたいに、無駄な動きは何一つせず、その動作は、どこか人工物のそれに似ていた。中でも、とびきり気味が悪いのが、以前透たちが交戦したシグーのパイロットである双子の姉妹・進藤むつきと進藤さつきで、全く同じ“ヒトガタ”が必要以上には何一つ言葉を発さず揃って同じように動く有様は、恐怖さえ喚起するものだった。
しかし、そういう部分を真っ先に指摘するはずの月菜は、それさえも気にする余裕が無い状態だった。
透:「月菜、お前、一体どういう訓練受けてんだよ。俺、社長に言って、もう一段階くらいは訓練のレベル下げてもらおうか?」
月菜:「余計なこと、しないで・・・。あたし、最近、自分でも強くなってきた、って思うんだ。だから、あともう少しだから・・・、少しでも早く、透と肩を並べて、透のお荷物にならないようにしないと・・・、一緒に生きていくって、そう決めたんだから・・・・」
透:「その気持ちは、正直メチャメチャ嬉しい。だけど、月菜が身体壊したりなんかしたら、元も子もないだろ!俺は、何よりも、月菜と一緒にいられることが、元気な月菜がそばにいてくれることが、一番嬉しいんだからな・・・」
 透はそう言って、月菜の唇に自分の唇を重ねようとした。一緒に生きていくと決めた、あの時以来の口付けは、しかし透の唇が月菜の少し紫色がかった唇に触れる直前・・・・。
月菜:「い・・イヤぁっっ!!」
 透は、月菜によって、突然思い切り突き飛ばされた。透は、転んだ拍子に自分のベッドに頭を打つまで、自分が一体何をされたのか把握できなかった。
透:「いて!・・・・月菜??」
月菜:「あ、あれ、あたし、どうして・・・???」
 月菜自身、自分のとった行動に、明らかな戸惑いを感じていた。そのとき。
玲佳:「月菜さん。事後処理が終わったわ。いつもの『訓練』を始めるから、地下のメディカルルームにいらっしゃい」
 玲佳からの無線が入り、月菜は弾かれたように立ち上がる。
月菜:「・・・はい」
 透は、その月菜の顔を見て、一瞬心底ひやりとした。その顔は、表情の消えた能面で、あのαユニットの同僚たちと全く同じだったからだ。
月菜:「それじゃあ、透、行ってくるね。大丈夫。今日はちょっと軽めにしてって、ちゃんと社長に言うからさ」
 そう言って微笑みかける月菜の笑顔は暖かく、透は、先ほどの感覚が錯覚に過ぎないと、そう思いなおした。


 それからしばらく、透は玲佳に言われた今回の任務の報告書を書いていたが、それもすぐに終わってしまい、月菜も一向に帰ってくる様子も無く、すっかり手持ち無沙汰になってしまった。
 暇を持て余す透の脳裏に、ふとあの美しい草原の風景と、可愛らしい少女の笑顔が蘇った。
透:「・・・そうだ、あのチャットルームと、それから・・憐は、どうしているだろうな・・・」
 今まで、色々忙しかったり慌しかったりで、すっかり忘れていた。あの日、二度と戻らぬ覚悟でチャットルームを後にして以来、透は憐に、一度も会っていなかった。もっとも、今更になって憐に会いに行くのは、月菜にかまってもらえないことから来る寂しさを紛らわせたいだけなのかもしれないが・・・・。
透:「でも、憐も心配しているかもしれないしな。よし、行ってみるか」
 透は早速、ニューロジャックを首に刺し当て、ネット世界へと没入した。


 チャットルームの草原は、透が最期に後にした、あの時のままだった。そして、やはりあの時のまま、一人の少女が草のベットで、すやすや寝息を立てていた。
透:「憐・・・・」
 月菜と思うように一緒の時間を取れない寂しさを紛らわすために会いに来たのだが、実際に憐を見ていると、それ以上の、何か心の根本的な部分が満たされていくような充足感を感じるから、不思議だ。
透:「まったく・・、寝るときくらい、現実に帰らないと身体に悪いぞ・・・」
 透は、無防備に眠る憐の髪を、優しく撫でた。すると、透の脳に、透自身忘れていた記憶が蘇る。


 そこは、どこかの病院らしき施設の小部屋だった。
 透は、少女の寝顔を見ていた。幼く、無防備な少女の寝顔。そして、そんな少女を守れるのは自分しかいないことを、透は知っていた。
 この施設の大人たちは、自分たちに対して冷たかった。いや、『冷たい』なんてレベルではない。あれは、自分たちを見るあの表情は、まるで自分たちを人間ではなく、実験動物か何かだと思っているようだった。特に、女のお医者さん先生が一番怖かった。女の先生は、顔は少し美人だが、スタッフの中では一番、透たちに無茶な『実験』を強要した。女先生の目は、何か恐ろしいものに取り憑かれているようで、彼女こそとても人間とは思えなかった。そんな透たちを、背の高い男のお医者さん先生が中心になって、数人で庇ってくれていたが、それでも透たちを庇ってくれる先生たちは少数で、とても庇いきれない場面も多かった。
少女:「・・・お兄ちゃん・・・・」
 少女が、寝言で透を呼んだ。純粋な信頼に満ちた声で。
 そう、透は少女の『お兄ちゃん』で、少女を守れる唯一の存在だった。
??:「おい、お前ら、やめろ!!!リャンに酷いことするなよ!!!」
 隣の部屋から、何か言い争う声が聞こえる。きっと、またあの、背の高い男の子が、お団子頭の女の子を庇っているのだろう。彼らは実の兄妹ではないようだったが、背の高い男の子は、まるでお団子頭の女の子の実のお兄さんのように、女の子を守っている。時に男の子は、女の子を守るために、頭一つ以上も背の違う大人たちに殴りかかることもあった。そのせいか、男の子は大人たちの間では『狂犬のような奴だ』と呼ばれてもいたし、実際彼は乱暴で、透もよく取っ組み合いの喧嘩でボコボコにされたが、それでも透は、彼が実はとても優しい子なのを、誰よりも人の痛みがわかる子なのを、だからこそ女の子を必死に守ろうとしているのを知っていた。
 だからこそ、透も、あの男の子のように、妹を、例え透自身が激しく傷付いたとしても、絶対守らなければならないと、固く心に誓った。
 部屋の窓、透たちの様子を逐次研究員たちが観察できるようにと設置されている窓の向こうから、父親らしき男の人に連れられて、透と同い年らしい一人の男の子が、透を見ていた。視線を合わせると、男の子は、悲しみを湛えた瞳で、それでも透に笑いかけてくれた。その瞳が、透には堪らなく懐かしくて・・・・。


憐:「あれ、お兄ちゃん・・・?」
 憐の声で、透は我に返った。どうやら憐は、今しがた丁度起きたところらしい。
 目を覚ました憐は、一瞬透を不思議なもののように眺め、そして次の瞬間、その表情はぱあっと明るくなった。
憐:「お兄ちゃん、帰ってきてくれたんだね!!」
 透にまるで己の身を投げ出すようにして跳び付く憐を受け止めながら、透は心底、今日ここに来て良かったと思えた。
透:「憐、心配かけて済まなかったな。本当に、本当にごめんな・・・」
憐:「ううん、よかったよ、お兄ちゃんがぶじで。お帰りなさい、お兄ちゃん」
 憐は滲んだ涙を拭おうとはせず、それでも飛びっきりの笑顔で、透を迎えてくれた。一瞬、透は、あのV・S・Sの宿舎よりも、ここが本当の透の帰るべき場所なのではないか、と錯覚する。
透:「あ、ああ。ただいま、憐」
 それから、透は憐に、自分と月菜の現状を話して聞かせた。無論、憐を安心させるためなので、会社から感じる言い知れぬ不気味さとか、最近月菜の様子がおかしいとか、そういったことは伏せた。あと、月菜と恋人同士になったことも、何となく照れくさいので伏せた。そうなると、話は自然と、αユニットでの活躍の自慢話になる。
憐:「へー、お兄ちゃん、すごいすごい!やっぱり、お兄ちゃんってすごかったんだね。うん、憐はお兄ちゃんがだれよりも強いってこと、ずっと前からしんじてたよ」
 その憐のニュアンスに、透はちょっとした違和感を覚えたが、憐が素直に自分の活躍を喜んでくれていることを感じ取り、それ以上そのことについては考えなかった。
憐:「でも、お兄ちゃん、あぶないことだけはやめてね。憐、いっつもお兄ちゃんがむりなことしないかって、はらはらしながら見てたんだよ」
透:「そういや、今までは危ないことばかりやってたからなぁ・・・。大丈夫、もう憐に心配かけるようなことにはならない。約束するよ」
憐:「そういうことじゃないんだけど・・・ううん、なんでもない。ありがとう、お兄ちゃん」
 そう言って微笑む憐を見ていると、何故か透は、憐との心の距離が、出会ったころに比べて遥かに縮まったように思えてきた。
透:「そういや、憐って、いったいどこからアクセスしてるんだ。一度でいいから、俺、リアルで憐に会ってみたいな」
 何気なく発した言葉だったが、憐の表情が、みるみる曇る。
憐:「あの・・えっと、それは・・・・」
 何か失言したようだった。透は慌てて言い足す。
透:「いや、憐の気が向いた時でいいんだ。ただ、いつも憐と会う時は、ネットの中でだろ。だから、一度くらいは、憐と外で遊びたいんだ。月菜と一緒に、可愛い洋服がある商店街に出かけてもいいし、三人でピクニックもいいかもな。なんなら、遊園地でもいいぞ。給料出たらだけどな」
憐:「・・・うん、ありがとう。今は、まだ、ちょっと・・・むりだけど、でも、うれしいよ!」
 そう言う憐の表情は、満面の笑みを浮かべているはずなのに、どこかひどく、悲しげに見えた。だから、透は憐に、こう付け加えた。
透:「憐、俺はさ、憐の兄貴が見つかるまで、本当に憐のこと、守ってあげたいんだ。できれば憐の傍にいて、いつか憐が寂しくなくなるまで、憐をしっかり守ってあげたい。そういうの、迷惑かな」
 すると、満面の笑みで頷くと思われていた憐は、とても困ったような、それでもどこか満たされたような赤らめた顔で、モジモジと呟いた。
憐:「でも、でも、うれしいんだけど、えっと、あの・・・・」
??:「ダメだね!今のキミには、その子はとても任せられないよ」
 突然、無機質なマシンボイスが割り込んでくる。そして、こんなことをする奴と言えば、透の知る限りではたった一人・・・。
透:「バチェラ!!」
 まるでその声に応えるかのように、突如空間からバチェラのシュミクラム、キュベレイが出現した。
透:「お、お前、一体どこから入ってきた!!」
 このチャットルームは、一流のハッカーでも容易には破れないほどのセキュリティが施されているはずである。しかし、そんな透を、バチェラは鼻で笑った。
バチェラ:「あはは、馬鹿だね、透。こんなセキュリティなんてボクにとっては、全開の扉をくぐるのと同じようなものさ!」
透:「くっ!!」
バチェラ:「そういや、馬鹿ついでにだけど、透、君ってホント、馬鹿だよね。よりにもよって、V・S・Sなんかに入っちゃうなんてさ」
透:「なに!?」
 バチェラの声は、今までのふざけ半分のものとは違う、やけに真剣味を帯びたものになった。
バチェラ:「悪いことは言わない。そこからは早く抜けた方がいい。キミのためなのはもちろんだけど、月菜と憐のためにも、ね。そうじゃないと、近いうちに、取り返しのつかないことになるよ」
透:「な・・・何言ってやがんだ!!俺があそこを抜けられないことくらい、どうせお前のことだ、俺のこと色々調べて、知ってんだろ!!それに、これは俺の問題だ!お前には一切関係無い!!」
バチェラ:「・・・・・」
 一瞬、バチェラは完全に沈黙した。それは、何故か悲壮感さえ感じるものだった。しかし、バチェラはすぐに気を取り直すと、透たちに向かって、ゆっくりと、威圧するように歩き出した。
バチェラ:「・・・そう。ボクもあそこには、容易に手出しはできない。だから、キミがもし助けを求めても、君を助けられるとは限らないよ」
透:「はぁ?何言ってんだ!お前になんて助けてもらう必要は無い!!」
バチェラ:「まったく、キミを一時でも見失ってしまった、ボクの迂闊さを呪うよ。だったら、仕方ない。せめて、その子はボクと一緒に来てもらうよ。憐ちゃん・・だったね。キミは、今の透の傍にいてはいけない」
 そう言って、バチェラはシュミクラムの腕を憐に向かって伸ばした。いきなり話の矛先を向けられた憐は、わけもわからず、ただ怯える。
憐:「―――っっ!!?」
透:「止めろ!!憐に手を出すんじゃねぇ!!!」
 透は、咄嗟にバチェラの前に立ちふさがった。
 そうだ。憐を守れるのは、今は自分しかいない。あの、いつとも知らぬ記憶の中の、お団子頭の女の子を傷付いてでも守った男の子のように、透は憐を、例え目の前のこいつと戦うことになっても、絶対に守らなければいけないと、そう心に誓った。
透:「憐に手を出そうというなら・・・俺が、俺が相手だ!!」
 そして、透もシュミクラム体へと移行した。
透:「引け、バチェラ!お前では俺に、フリーダムには敵わない!!」
バチェラ:「なるほど。“フリーダム”、V・S・Sの最新鋭機か・・・。確かに、この“キュベレイ”じゃ、ちょっと荷が重いね。」
 そう言うと、バチェラの周囲を、白い光が包み込む。
透:「!!?」
バチェラ:「・・本当は、ただ憐をヤツラから守りたいだけなんだけど・・・こうなったら仕方ない、ボクのホントの本気で、相手をさせてもらうよ!!」
 そして、光が霧散し、そこにはキュベレイとは全く別の、ガンダムタイプのシュミクラムが立っていた。
機体は四肢と腰部が白銀、胴体はメインカラーが紺色。右手に巨大なビームライフル、左手には二門の小口径ビーム砲も備えた複合兵装の盾を装備している。そして、顔には仮面らしき装飾をあしらえていたが、それよりも特徴的なのは、背後のバックパックからまるで後光のような形に突き出た、計五基の砲らしき突起部だった。よく見れば、腰部周辺にも似たようなものが、計六門見える。どこか異様なたたずまいを見せるシュミクラムであり、そしてどこか、フリーダムと似た雰囲気を醸し出していた。おそらく、最新鋭のシュミクラムであることには間違い無い。
バチェラ:「これは“プロヴィデンス”!ボクとっておきの、最高のシュミクラムさ!!じゃあ、行くよ!!」
 憐が避難するのを見届けると、バチェラは透に向けて、ライフルとシールドのビーム砲からビームを放つ。透はそれをかわすと、間をおかずにビームライフルを撃った。バチェラもそれをかわし、両者の間合いが開いた、その時だった。
バチェラ:「いけぇ!!」
 プロヴィデンスのバックパックの突起部が、本体から放たれた。そう透が認識したときには、もう透の死角から、ビームが放たれていた。
透:「ちっ!やっぱりな!!」
 謎の装備の正体を半ば予測していた透は、ビームをかわすと同時に、射出されたものの正体であるレーザービットに向けてビームを放った。しかし、キュベレイのファンネルならば確実に捉えていただろうビームは、あっさりとビットにかわされる。
透:「なに!?このビット、速い!!?」
 ビットは、更に透目掛けて執拗な射撃を繰り返す。しかも、ビットから放たれるビームは、ファンネルのものとは段違いに高出力で、まともにくらえば一撃で重度の、あるいは致命的な損傷は免れない。透の額に、心なしか汗が滲んだ気がした。
 プロヴィデンスの特殊武装、強化型特殊レーザービット“ドラグーン”は、ファンネルの数倍の威力のビームが放てるよう、強力なジェネレーターを積んだビットだ。その代償として、ファンネルよりも大型化を強いられることになるのだが、そのジェネレーターはファンネルなどとは比べ物にならないスピードを与えもするため、ファンネルの小型化の目的である視認の高難易度化は結果的にファンネル以上に果たされている。つまり、あらゆる面でファンネル以上に強力なオールレンジ攻撃を、この武装は可能にするのだ。
バチェラ:「ふふ、まだまだ!いけいけいけいけ、いっけぇぇーー!!」
 バチェラは残りのドラグーンを、全て射出した。余りにも強力なビームが、四方八方から透に襲い掛かった。
 しかし、透には、何故か絶対に認知は不可能なドラグーンの射撃が、ほとんど本能的なレベルで直感できた。透は最小にして最適な動きでそれらを全てかわすと、武装をビームライフルからビームサーベルに持ち替え、バチェラに斬りかかった。
バチェラ:「なんだって!!」
 常軌を逸した透の動きに一瞬気圧されたバチェラだったが、素早く立て直し、複合兵装の盾の先端からビーム刃を放出、透の斬撃を受け止める。
バチェラ:「くっ、やっぱり君は、本当にやるね!でも、今回はボクも、負けるわけにはいかないんだ!!!」
 バチェラは透を払いのけると、何らかの物体をいくつも透目掛けて放った。これはドラグーンではない、これは・・・・。
透:「ウィルスか!!」
 バチェラ自作のウィルスが、透へ向けて一斉に砲撃を開始した。透はそれらをかわし、ウィルス目掛けてビームライフルを撃つが、その隙に、今度はドラグーンが激しく攻撃を再開する。
透:「くそおっ!!!」
 透はそれさえも巧にかわしながら、ウィルスへ、ドラグーンへ、そしてバチェラ本体へ果敢にビームを放つが、苦し紛れの射撃ではバチェラ本体には容易にかわされ、ドラグーンやウィルスに当てても、次から次へと更なるウィルスが押し寄せて、新しいビットのように、四方八方からビームを放つのだ。
透:「卑怯だぞ、バチェラ!!!」
バチェラ:「ボクも卑怯で悪いとは思うけど、でも、ボクもこの場だけは、譲れないんだ!!!」
 透はビームライフルだけでなく、レールガンや収縮プラズマ砲も総動員してウィルスを撃破するが、一機倒すと三機出てくる有様だ。
透:「どうしてバチェラが、そんなに憐を・・・ぐあっ!?」
 遂にウィルスのビームが、遂に透の右腕に被弾する。続いて、左足が、右翼が、左のレールガンが、次々と貫かれ、もぎ取られてゆく。
透:「うわぁぁ!!」
 透は地に堕とされた。そんな透に、バチェラは銃口を向ける。
バチェラ:「チェックメイトだ!!さあ、憐ちゃん、手荒な手段で悪いけど、これ以上透を傷つけたくなかったら大人しく・・・・」
 不意に、バチェラの台詞が途中で途切れた。
憐:「あ・・ああ・・い、いやぁ・・・・・」
 そして、憐は叫んだ。
憐:「お兄ちゃんを、これ以上いじめないで!!!!!」
 その時、空間が揺れた。一瞬錯覚だと思った透だったが、次の瞬間、更に激しく、今度ははっきりと、仮想空間が揺れた!
 続いて、低周波と高周波がどこからとも無く鳴り響き、それらは次第にまとまって、ある一つの不協和音になっていった。
バチェラ:「れ、憐、待って!!ボクは本当は透を傷付ける気は無い!!ボクは本当に、キミを守りたいだけなんだ!!!」
 バチェラが、死に物狂いに叫ぶ。
透:「れ、憐?」
 憐を見てみると、憐は完全に怯えていた。しかし、それはさっきまでの、透が傷つけられることに対する怯えではなかった。もっと別の、もっと重大なことに対する、激しい怯えだった。
憐:「い、いやぁ、うそぉ。だって、憐、お兄ちゃんと会えて・・・だから、だから、もう出てこないって、思ったのに・・・・・・」
 その時、憐の呟きを掻き消すかのように、低周波と高周波が一つになり、まるで獣の咆哮のような不協和音を、辺り一体に響かせた!


グウォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 透は、本能的に悟った。アレはヤバイものだ! ここがネット世界である以上、超科学的な存在が現われるはずは無いが、これはそんな理屈も通用しない。本格的に危険で、恐ろしいものだ!!!
 その時、空間が、虚空が激しく撓み(少なくとも透には、そうとしか見えなかった)やがてその歪みから、何か激しく光る、大だった。
真っ白の球状の物質が姿を表した。それは、余りにも異様で、余りにも巨大だった!

グォォォォォォン!!!

謎の発光球体は、再びうなり声をあげると、バチェラにゆっくりと向かっていった。
バチェラ:「くっっ!!!!」
 バチェラは素早く巨大発光球体に向き直ると、残ったドラグーンとウィルスのありったけで、発光球体を砲撃した。
 しかし、その激しい攻撃を一身に受けても、発光球体は小揺るぎもしない。
 そして、発光球体から、無数の光の残滓のようなものが放たれた。それらは数秒間、ゆっくりと空間を漂うと、姿をそれぞれまるで羽毛のようなものに変え・・・。
 次の瞬間、それらは猛スピードで飛来し、ウィルスを、ドラグーンを、瞬く間に壊滅させた!!
 バチェラは、初弾を超絶的な反射神経で回避したが、出鱈目な破壊力を持ち、その上雨霰の如く降り注ぐ光弾を回避しきることはできず、ついに被弾。プロヴィデンスは一瞬にして、完膚なきまでに破壊し尽くされた。
透:「バチェラ!!!」
 被弾による圧倒的な閃光が薄れると、そこには一人の、小さな子供の電子体が横たわっていた。緑の服に、ショートジーンズをはいた、ショートカットの金髪の子供だ。遠目からでは性別は判別できないような中性的な容姿だが、間違いなく彼(あるいは彼女?)は、バチェラの電子体だった。おそらく、奇跡的にコックピットの損傷は免れたのだろう。電子体が存在しているということは、つまりバチェラは、まだ無事だということだった。
透:「バチェラ、あいつ、本当にガキだったのか・・・?」
 その時、再び発光球体が動き出した。しかも、バチェラは気絶したのか、無防備な姿勢のままピクリとも動かない。
透:「ヤバイ!!あいつ、バチェラを押しつぶすつもりだ!!!」
 その時、憐が叫んだ!!
憐:「やめてぇぇぇぇ!!!!!」
 その瞬間、発光球体はピタリと動きを止め、
ウォォォォォォン!!!
 身体の芯まで響くような唸り声をあげると、その姿は唐突に薄らぎ、そしてそのまま、空間に溶け込むように、消えていった。
透:「れ・・・憐!!」
 透は電子体に移行すると、素早く憐に駆け寄ろうとする。しかし・・。
憐:「う・・・あ・・・・」
 憐の目は、焦点が合っていなかった。やがて、憐の目が透を捉えると、
憐:「あ・・うう・・ご・・ごめんなさぃ・・・・・」
 憐は、目に涙を浮かべながら、透が近づいた歩数分だけ後ずさり、
憐:「ご、ごめんなさい!!!」
 そのまま一目散に走って行き、チャットルームから逃げるようにログアウトしてしまった。
透:「憐・・・・・」
 その時、背後で呻き声が聞こえた。
バチェラ:「う、うう・・・」
透:「そうだ!バチェラ!!」
 ようやく気が付いたのだろうか。どうやら命に別状は無さそうだが、それでも、あれだけの攻撃を受けたのだ。すぐに手当てをしなければならない。
透:「バチェラ、今すぐ実体の場所を教えるんだ!俺が行って、すぐに手当てをするから!!」
 しかし、バチェラは立ち上がると、こちらも透から逃げるように後ずさった。
バチェラ:「冗談じゃない。今のキミに居場所を教えるなんて、それこそ自殺行為だ!・・・心配はいらないさ。幸い、大したケガじゃないし、こういうのを自分で処置することも慣れてる」
 バチェラは、少女の、あるいは声変わり前の少年のような高い声で言うと、透に素顔を見せていることに今気付いたのか、慌てて両手で顔を隠し、足早にチャットルームから逃げ去っていった。
バチェラ:「最後にもう一度、忠告しておく!今すぐV・S・Sを辞めた方がいい!でないと、キミや、キミの大切な人が、恐ろしい目に遭うことになる!!」
 そう言い残して、バチェラもログアウトした。
透:「何なんだ、一体・・。ワケがわからない」
 そして、それ以上することも無くなったので、透もまた、仮想の草原を立ち去った。


『離脱(ログアウト)』


透:「憐もバチェラも、ログイン地点はやっぱり不明か。憐はもちろんだが、最低でもバチェラだけはつかんでおきたかったんだがな・・・」
 あの様では、彼(あるいは彼女?)の言う通り自分で処置できたのかどうかは、不安が残る。でも、バチェラの居場所がわからない以上、結局はバチェラの言うことを信じるしかなかった。
透:「しかし、アレは一体、何だったんだ・・・・」
 今思い出しても、震えが来る。あの、『恐怖』をそのまま具現化したような、謎の巨大発光球体。そして、明らかにそれとは無関係ではない、憐。更に、しきりに透にV・S・Sを辞めさせようとしていたバチェラ。ついでに、垣間見えたバチェラの正体。
透:「・・・・ダメだ、今日はこのまま眠れそうにはないな・・・・・」
 透はベットから起き上がると、ネットでの出来事のため乾いた喉を潤そうと、冷蔵庫を開けた。しかし、中には何も入っていなかった。
透:「仕方ない、下の自販機に、買いに行くか」
 そう言って、透は部屋を出た。
 月菜はまだ、帰ってきてはいなかった。


 一階にある自販機は、地下に通じる階段の近くにあった。なので、飲み物を買った透に意識は、イヤでもそちらに向いてしまう。
透:「そう言えば、月菜が訓練をしているのは、地下の医務室だっけな・・・・」
 透は、なんとなしに、地下への階段を下っていった。
 地下は、薄気味悪い程静まり返っていた。それを言うなら、V・S・Sの施設はどこも異様に静かで、まるで『人の生活の営み』が感じられないのだが、地下は更に格別で、禍々しささえ孕んでいた。
透:「医務室・・・は、どこだ?」
 透は医務室を探しながら、以前月菜に、『訓練』のことを尋ねたのを思い出す。その時、月菜はこう言ったのだ。
月菜:『えっと・・・ゴメン、あたしも覚えてないの。変な機械が付いたコンソールがあって、それで没入するところまでは覚えてるんだけど・・・それ以降は、なんか記憶が飛んじゃうらしくて・・・・・』
透:「月菜、あいつ、社長に変なイタズラされてるんじゃないだろうな・・・・」
 あんな変なことがあった後だからだろうか。透の思考も、自然と被害妄想気味になる。
 しかし、月菜は確かに、通常の訓練では考えられないほどの実力を、急速につけてきていた。それは月菜の才能のおかげというだけでは、明らかになかった。
透:「一体、どんな『訓練』なのやら・・・」
 その時、かすかに人の気配を感じた。見れば、数メートル離れた場所から、明かりが灯っている。間違い無い。ここが、医務室だった。
 透は、気配を殺して、医務室に近づいていった。医務室からは機械の駆動音に混じって、なにやら、人の声が聞こえる。
??:「うぅ・・あ・・・ぐぅ・・た、助けて・・・・」
透:「月菜!!」
 間違い無い、あれは月菜の声だ!
月菜:「あぅ・・苦しい・・・・とおる・・とおる、助けて・・・・」
 透は、すぐに医務室に駆け寄ろうとした。しかし、不意に肩を、冷たい手が掴んだ。
玲佳:「だめよ、透君。彼女はあんなに、『頑張っている』んだもの」
 玲佳だった。
透:「橘社長!!でも、あいつあんなに苦しんで、それに、普段だってあんなにやつれ・・・・」
 透の口を、玲佳の細い指が軽くふさいだ。
玲佳:「だからこそ、邪魔しちゃダメ。あの訓練は、非常に特殊で、効果も高いんだけど、その代わり物凄く過酷。だけど、あの子が何のためにその訓練を志願したか、あなたにもわかるでしょ?」
透:「で、でも・・・・」
玲佳:「大丈夫よ。月菜さんに万一のことが無いよう、我がV・S・Sの有能な医療スタッフが複数名、常に横で待機しているのだから」
透:「・・・・・・」
玲佳:「さあ、あなたはもう戻りなさい。明日も早いわ。それに、ここ最近、飛刀に不穏な動きがあるというのを、『ある情報筋』から掴んだの。きっと、近いうちに何かある。あなたも月菜さんも、その時は、重大な任務を任されることになるわ」
透:「飛刀が・・・?」
玲佳:「そう。だから、今はゆっくりと、休息を取りなさい。月菜さんの訓練も、その時までにはきっと、『終わる』から・・・」
 そう言って、最後に玲佳は、含みありげに妖しく微笑んだ。
 透は、それ以上何も言えず、そのまま自分の部屋へと、戻っていった。
透:「でも、月菜の訓練も、もうすぐ終わるのか・・・。だったら、それまで、俺がきちんと月菜を、守ってやらないとな・・・・」



 しかし、その日から、月菜は透の前から姿を消したのだった。


 


 


第二十章『遭遇』完

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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
話すのが大好きだが、上手なわけではい。



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