Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』第二十二章
もうそろそろ全部掲載し切ってしまいたいので、これからは掲載のペースを上げてジャンジャンいっちゃいたいと思います、『バルG』の第二十二章です。
では、いつも通り「READ MORE」にて本文へ。









バルドフォース エグゼ
バルドフォース エグゼ
PlayStation2
アルケミスト









HG 1/144 ジャスティスガンダム
HG 1/144 ジャスティスガンダム

バンダイ


 


バルG第二十二章 『代償』



六年前。
 ある日、ネット世界を揺るがす大事件が起こった。
 広大なネット空間を構築する無数のAIの、その中の一つの担当区域が、丸ごと、凶悪極まりないデータ荒らしに遭ったのだ。
 その区域は全てのデータがメチャクチャにされ、全ての構造体は一切のシミュレートが不可能になる有様だった。そして、その時刻、その区域の構造体を利用していた何万人もの人々の命も、彼らの電子体のシミュレートが不可能になることによって、一瞬にして喪われた。
 それは、例えるならば、一個の惑星が巨大な質量を持ったブラックホールに押しつぶされるが如きの有様だったと言う。
 だが、果たして、スーパーコンピューターの何万倍もの超高速演算能力を持ったAIを、押しつぶせるほどのプログラムを創れる者がこの世にいるのだろうか?このネット世界至上最悪にしてあまりにも非現実的極まりない事件は、迷宮入りとなることが誰の目にも確実に思われた。
 しかし、事件発生からわずか数ヵ月後、軍当局は秘密裏にその犯人を特定し、当時設立されたばかりながら驚異的な勢いで急成長していたV・S・Sと提携して、その犯人を追い詰めた。
 犯人は、当時世間を騒がせていた、神業的なスキルを持った超凄腕のハッカーで、本名は不明だが、ネット世界では『バチェラ』と呼ばれていた・・・・。



 飛刀のI・V・S襲撃作戦から、数日が経過した・・・。
 リャンを失ったレベル7は、沈痛な空気に包まれていた。
 今回の作戦は、客観的に見れば概ね『成功』と言っても良かった。I・V・Sインダストリー社は、今回の襲撃で(事実は、玲佳が大半の社員を『切り捨てた』せいだが)壊滅的な打撃を受け、新型脳内チップは生産が無期延期。悪魔の洗脳計画が実行に移されるのは、例え一時的とは言え、阻止されたのだ。
 だが、この作戦の成功を祝う声は、レベル7のどこからも聞こえてこなかった。それは、作戦の成功と引き換えに失った代償が、レベル7のどの住人にとっても、あまりにも大き過ぎるものであったことを示していた。


アシュラン:「俺の・・・せいだ・・・・」
 作戦が終わり、作戦室で作戦終了後のミーティングが始まった時、アシュランの口からは真っ先に、この言葉が自然と零れ出た。
クーウォン:「いや、これは、私の認識の甘さが招いたものだ。君はその尻拭いをしてくれただけだ。君に責任など、一切無いよ」
 クーウォンはそう言ってくれたが、それでアシュランの気が楽になるなどということは、少しもなかった。
ゲンハ:「・・・・・・?
 ゲンハは、作戦時のように直接怒りをぶつけてくることこそなかったが、アシュランを、『殺気』と呼ぶのすら生温いような凄まじい感情の篭った視線で睨みつけた。ゲンハからすれば、『原子炉の爆破は予め作戦の内で、土壇場になって気が引けた連中こそ問題外だ』ということらしい。
あきら:「リャンだって、飛刀の戦士だ。『飛刀の戦士』は自分の意思で決め、自分の意思で戦う。アシュランもリャンも、自分の正しいと信じたことをしただけだ。誰かのせい、という話じゃないさ」
 最後にあきらがそう言って、その場を収めてくれた。


 しかし無論、それで全てが収まるはずは無い。
ゲンハとその手下は、アシュランに直接手を下してこそこないまでも、日々のいたるところで、鉢合わせした時に、あるいは物陰からこっそりと、殺気の篭った視線を送るようになった。そして、クーウォンたちもすぐにそのことを察し、アシュランの周囲には、誰かしらクーウォンの信奉者たちが付くようになった。
 圧倒的な権威とカリスマを持ち、非戦闘員にも絶大な人気を誇るクーウォン。対して、飛刀に欠かせない戦力であり、その圧倒的な力のせいか一部の腕自慢の男たちの心酔の的であるゲンハ。両方が両方を快く思わないことがあったとしても、お互いを排斥するわけにはいかないのだ。これが、『派閥』というものなのだろうか。
 そして、現在両派閥はアシュランを挟んで、きな臭い匂いさえ漂う抗争突入一歩手前の状態まで来ていた。
アシュラン:「つまり俺も、もう立派に『飛刀の一員』ということなのかもな・・・・」
 バラックの中でアシュランはそう自分に言い聞かせてみるが、その考えはどうしても、アシュランの胸にストンと落ちていかなかった。
アシュラン:「俺は、今まで軍に属し、飛刀と戦ってきた。今度は飛刀に属し、軍と戦うのか・・・?」
 アシュランの脳裏に、イザークやニコル、そして死んでいったディアッカやミゲルの顔が浮かぶ。アシュランには、彼らを裏切るようなことはできなかったし、また、したくもなかった。しかし、彼らと同じくらい、アシュランはこのレベル7の住人を、そしてリャンを守りたかったのだ。
アシュラン:「・・・くそっ!!」
 考えが煮詰まり、どうしても先へ進んでいってくれなかった。まるで、回転ゲージに入れられたハツカネズミのように。
 その時、簾が上がり、あきらが姿を現した。
あきら:「よ、『同志アシュラン』!なんつってな」
 あきらは開口一番で意地の悪いことを言ったが、その目は純粋に笑っている。今の発言に悪意は全く無いのだ。
アシュラン:「あきら・・・」
あきら:「どうしたよ。な~んか、また頭抱えちゃって。そんなに悩んでばっかりいると、便秘になっちゃうぜ」
 そう言って人懐っこく笑うあきらを見ていると、今抱えている悩みを、何だか全て打ち明けたくなってしまうから不思議だ。気が付くとアシュランは、考えている事を素直に吐露していた。
アシュラン:「俺はさ、確かに『真実』を知って、クーウォンの考え方、新型脳内チップを使った洗脳政策は断固として反対、というのには、賛成したよ。だけど、どうしても、『飛刀の一員』となってテロリズムに走りたくはないんだ・・・・」
 徹頭徹尾『飛刀の一員』であるあきらは、意外にもただそれを聞いて、二回ほど頷いただけだった。
アシュラン:「・・・こんな虫のいい話は無いよな。クーウォンの同志にはなりたいのに、軍とは戦いたくないってのも。わかっているんだ、こんなの、俺個人の感傷でしかない、って・・・・・」
あきら:「いんや、そんなことねーんじゃねーの?」
アシュラン:「え・・・?」
 あきらの口からでた言葉に、アシュランは一瞬、我が耳を疑った。更にあきらは続ける。
あきら:「お前、元軍人なんだろ?そりゃ、仲の良かった奴だっているだろ?」
アシュラン:「ああ、掛け替えの無い、仲間がいる・・・・」
あきら:「・・・わかるぜ。俺ももし、軍に透や月菜がいたら、きっとそいつらとは戦えねぇ・・・・」
アシュラン:「・・・・・」
あきら:「でもさ、クーウォンさん、言ったんだ。『飛刀の戦士は、戦いを自分で決める。ファシズムと戦う戦士だ。それは当たり前のことだ。己の自我に従い、自我の可能性を信じて、それを拘束せんとする者と命を賭けて戦うのなら、例え進む道は違っても、その者は紛う事無き、我らの同志だ!』ってさ」
アシュラン:「クーウォンらしいな・・・」
あきら:「だから、難しくあれこれ考えなさんなって。あんただって、別にその仲間たちを殺したいわけじゃないんだろ?軍を壊滅させたいわけでもない。だったら、難しいことはあれこれ考えず、あんたの敵とだけ戦えばいいんじゃねぇの?それが、あんたの仲間を救うことにもなるんだし」
 あきらは、単純だ。そして、それは『愚か』ということではない。彼の明晰さの、成せる業だ。
アシュラン:「そうだな・・・。俺が軍に入ったのだって、元々、自分の大切な人を、救いたかっただけなんだ」
 あきらは、我が意を得たり、という表情でにやりと笑った。
あきら:「はは。それにしても、俺はあんたと会うまでは、『軍人』ってーとお固いだけの石頭、ってイメージあったんだけどね。お前さん見てると、そうでもないんだなって思うよ」
アシュラン:「まあ、ステレオタイプな『軍人』も結構いるけどな・・。でも、大半は皆と変わらない、いい奴らさ。ここにいる人たちと、同じだ」
あきら:「・・そうだな。最初の頃、あんたのこと、『軍人』てぇだけで毛嫌いしちまったけど、あれは悪かったな」
アシュラン:「いや、気にしてないよ。いつの時代も、『軍人』は、ただそれだけで嫌われる商売さ」
あきら:「違いねぇ。ついでに、『テロリスト』もな」
アシュラン:「はは、違いない」
 そう言って、二人は、心から笑い合った。
あきら:「ははは・・・。それにしてもさ、あんたのそのノリの良さとか、つまんねぇこと一人でウジウジ悩む所とか、本当、透にそっくりだぜ」
 あきらが独り言のように言った言葉に、アシュランはつい合わせた。
アシュラン:「そうかな?俺はあいつ程、向こう見ずじゃないと思うけど・・・」
 すると、あきらが一瞬、探るような表情でアシュランを見た。
アシュラン:「?何だ?」
あきら:「いや。ずっと前から思ってたんだが、あんた、透を知ってるのか?」
 そう言えば、きちんとこのことを話したことは無かった。
アシュラン:「そう言えば、言い忘れていた。・・・ああ、俺は、透の知り合いだ。少なくとも俺は、あいつのことを友達だと思ってる・・・・」
あきら:「そうか、やっぱりな・・・。なんだ、そうなら、もっと早く言ってくれよ!あいつの友達なら、最初にあんな失礼なこと、言わなかったのによ」
 そういうあきらの表情は、今まで見た事も無いほど満面の笑顔だった。その笑顔の眩しさが、彼と透の絆の深さを物語っていた。
あきら:「へへ。そういや、あんた、どことなく優哉にも似てるな。透にもそう言われなかったか?」
アシュラン:「いや・・・」
 『優哉』の言葉に、忘れかけていたアシュランの古傷が、一瞬ズキリと痛んだ。しかし、あきらはアシュランのそんな様子に気付く事もなく、快活に続けた。
あきら:「にしても、こりゃあ奇遇だったな。これからも、仲良くやろうぜ」
 あきらはそう言って、アシュランに手を差し伸べた。アシュランは、一瞬躊躇ったが、あきらの透き通るような笑顔に押され、その手を握った。
あきら:「それから、リャンのことは気にすんな。むしろ、これからが大事だ。俺らで力を合わせて、絶対に助け出してやろうぜ!!」
アシュラン:「ああ、そうだな!」
 あきらが去った後、アシュランはあきらの言葉を反芻した。
『難しいことはあれこれ考えず、あんたの敵とだけ戦えばいいんじゃねぇの?それが、あんたの仲間を救うことにもなるんだし』
アシュラン:「・・・ああ、そうだな」
 気がかりなことは、沢山ある。リャンのこともそうだし、あきらには話せなかったが、V・S・Sの魔手に捕らわれてしまった透と月菜のことも、早急に何とかすべきだろう。
 しかし、まずはリャンだ。彼女は『テロリスト』である以上、『処刑される』という可能性もある。両者に優先順位を付けることはできないが、それでも敢えて、というのなら、やはりリャンを優先すべきだ。
 アシュランは、早速自らの携帯端末を起動させた。既に思いついていた案だが、今までは「仲間を裏切ることになる」と思い、決行に踏み切れなかった作戦。だが、今のアシュランには、いささかの迷いも無かった。
アシュラン:「俺は、俺の大切な人を救いたい。軍の仲間達も、ここの仲間達も、みんな!」


 そして翌日、アシュランの携帯端末に、メールの返信が入る。
アシュラン:「来たか・・・・。」
 アシュランは、周囲に誰もいないことを確かめると、ニューロジャックを差し込んだ。


『ログイン』


イザーク:「・・・それで、こんな所に呼び出して、キサマは俺に何の用だ?」
 アシュランが愛用していた馴染のチャットルームには、呼び出した相手が既に来ていた。
アシュラン:「その前に、この事は・・・・」
イザーク:「ああ、メールに書いてあった通り、誰にも話してない。一応、ニコルにもだ。もっとも、ニコルにはこの後話そうと思うがな。あいつも、『真実』を知りたがっていた。キサマの様子から、元々大まかには想像がついていたし、ニコルも「それでも知りたい」と言ってきているからな」
アシュラン:「そうか・・・・」
イザーク:「・・・それで、あのメールに添付されていたファイルの内容は、本当なんだろうな」
アシュラン:「・・ああ」
 アシュランは、あの日I・V・Sのデータベースで得た情報を、イザークへメールで送っていた。これは、とても危険な賭けだった。何故ならこれは、軍に対し忠誠心の厚いイザークに、アシュランが軍に対しある意味裏切りと取られかねない行為をすることを、事前に告白するようなものだったからだ。そして、イザークがこのメールを軍の他の誰かにでも見せれば、アシュランはたちどころに反逆者となり、そしてこのメールから居場所も割れ、捕らえられてしまっただろう。
 だが、アシュランはイザークを信頼していた。彼は絶対に、自分を売ったりはしないということを、心の底から確信していたのだ。
アシュラン:「俺だって、信じられない。だが、それ以前に見たこと、そしてその後に見たことを総合して考えると、どうしてもこれが、単なる妄想の産物であるとは思えないんだ」
イザーク:「確かに・・・な。キサマがこんな事で嘘を言うとも思えん。だが・・・・クソッ、これが本当なら、マリアを苦しめた奴らを、俺は絶対に許さん!!!」
 イザークは、彼らしい素直な憤りを見せ、そして真っ直ぐな瞳でアシュランを見た。
イザーク:「アシュラン。キサマがこれから言おうとしていることは、大体わかるつもりだ・。それで、俺は何を教えればいい?」
アシュラン:「・・・有難う」
イザーク:「フン!別に、キサマに感謝される覚えはない!!俺だって、真実を知りたいだけなんだからな!!それから、念のため確認しておくが、キサマは軍から飛刀に寝返った、というわけではないだろうな!!」
アシュラン:「表面上は、そうとられても仕方が無いことになるかもしれないが・・・・、俺は、俺の仲間を、誰も裏切ったりはしてないつもりだよ・・・」
イザーク:「相変わらずまどろっこしい物言いだな!いいか、俺たちを完全に裏切ったことがわかったら、俺は即座にキサマを撃つからな!それだけは、覚えておけよ!!」
 この言葉は、イザークのアシュランに対する、揺ぎ無い信頼の遠回しな表現だ。アシュランの胸の中が、カッと熱くなる。
アシュラン:「わかった、忘れないよ!・・・それでイザーク、今回の作戦終了時、捕らえられたテロリストの中に、年若い、俺と同い年くらいの女の子がいなかったか?」
 すると、イザークは意外にもあっさりと、アシュランの求めていた情報をもたらしてくれた。
イザーク:「ああ、あの、チャイナドレスを着ていたとかいうフザけた女か。よく知っているぞ。何でもかなりの美人とかで、基地内のバカ共が盛り上がっていたからな」
アシュラン:「・・・まあ、そうか」
 確かに、チャイナドレスで敵陣に潜入するテロリスト、なんて、嫌でも目立つだろう。そのことを、いつかリャン本人に指摘した時、リャンは、
『ああ、これか。アタシ国籍不明だけど、クーウォンの話によると大陸出身みたいだからさ、ちょっとした『あいでんてぃてぃー』ってやつだよ。それに、これ着てると、敵も一瞬面食らうんだ。まさか、チャイナドレスを着たテロリストがいるなんて、向こうも夢にも思わないだろ』
などと言っていたが、これはそれ以外にも、思わぬ効果をもたらしたらしい。
イザーク:「そいつならな、妙な話なんだが、軍刑務所ではなく、軍基地の地下尋問質に拘禁されてるらしい、とニコルが言っていたな。俺は、あまりそういう話、興味無いんだがな」
 情報屋だったディアッカには一歩譲るものの、温和で物腰も柔らかなニコルは、皆に慕われているせいか、自然と多くの情報が集まる。そして、聡明なニコルは、情報の真贋を見分ける目も確かだ。ニコルの情報なら、まず間違いは無いと考えてもいい。
アシュラン:「まだ軍基地に、か・・。確かに、妙だな。だが、これは好都合だ」
イザーク:「・・そうか、情報は役に立ったみたいだな」
 そう言うと、イザークは踵を返した。どうやら、ログアウトするつもりらしい。
 そして、ログアウトのアイコンを呼び出すと、最後にイザークは振り返って、言った。
イザーク:「アシュラン、全く、キサマはいつもいつも、厄介なことを運んできやがる。そして、毎度毎度、キサマはそれを一人で抱え込むんだからな、こっちはたまったもんじゃない!!いいか、俺はキサマの味方、というわけじゃないが、キサマのその馬鹿正直さだけは、嫌いじゃないんだ。だから、お前が馬鹿正直なお前である限り、俺もニコルも、お前の仲間だ、アシュラン!!」
 そして、イザークはネット空間からログアウトした。
アシュラン:「イザーク、済まない。そして、ありがとう・・」
 そしてアシュランも、イザークがいた場所をしばらく眺めた後、チャットルームを立ち去った。



 翌日、アシュランは、憲兵に変装したテロリストたちに10人に囲まれながら、ZAFT日本中央本部へ向かう、軍用車に巧みに偽装されたシープの中にいた。
テロリスト1:「なあ、同志。本当に、この作戦で大丈夫なんですか?」
 一人の男が、心細げにアシュランに尋ねる。アシュランは、できるだけ内心の不安を曝け出さないように、努めて自信あり気に答えた。
アシュラン:「ええ、任せてください。これでも俺は、元軍人、それも基地内トップのエースパイロットだったんですから!」
 そう言うと、男たちは皆一様に安心したような表情になった。
もっとも、パイロットの腕と、軍という組織を知り尽くしているかどうかは、正直あまり関係無いのだが・・・。
アシュラン:(それにしても、例えハッタリでも、我ながらよくこんな台詞が出たよな。というか、今の台詞、もしイザークに聞かれていたら、二・三発は殴られていそうだな・・)
 そんなくだらないことを考えていると、自然とアシュランの緊張も和らいだ。


 昨日
 イザークから情報を得たアシュランは、早速皆を集めて、リャン救出の作戦会議を開いた。
 そして、アシュランの作戦を皆に話した時、誰からも異議は出なかった。
ゲンハ:「おいおい、小僧、そんなヌルい作戦で本当に上手くいくのかぁ?何なら俺サマたちで、軍人皆殺しにすりゃあ速えぇと思うがなぁ」
 ゲンハは、明らかに、アシュランが『元軍人』であることを意識して言っているのだろう。相変わらず、人を苦しめることに関しては熱心な奴だ。
クーウォン:「それはならん、ゲンハ!前回の作戦で、ただでさえ我々も消耗が大きいのだ。今軍に真正面からぶつかることなど、自殺行為以外の何物でも無いことを、お前もよく知っているだろう!」
 クーウォンの反論も、おそらく、アシュランを気遣った側面もあるのだろう。その証拠に、兵隊を一人も殺さないというこの作戦を、クーウォンはあっさりと了承したのだ。
ゲンハ:「ケッ!まあ、いいさ。それなら、こっちはこっちで、好きにやらせてもらうからよぉ!」
 そう言って、ゲンハは取り巻き数人を連れて、乱暴に扉を蹴って会議室から退場した。
クーウォン:「・・・アシュラン、リャンを頼んだぞ」
 最後に、クーウォンがすがるような目でアシュランを見たのが、忘れられない。おそらくクーウォンのあのような表情を見たこのとのある人など、他には何人もいないだろう。あれは、飛刀の指導者として公私混同が許されぬクーウォンの、心の底からの願いだったのだろう。


テロリスト2:「同志。そろそろ、軍の敷地内に入りやすぜ!」
アシュラン:「・・・わかった。あきら、そっちはどうだ?」
 アシュランは、携帯端末に向かって話しかけた。すると、今は仮想空間の中にいる仲間から、陽気な声が返ってくる。
あきら:「へへ、バッチリだぜ!これなら、囚われのお姫様がいるところに、迷わず騎士様をご招待できそうだ!」
 あきらは現在、軍構造体の中に仕掛けている。アシュランは事前に構造体内のデータをあきらに渡していたが、それだけで軍のセキュリティを部分的とはいえ破ってしまうとは、流石はあきら。今まで軍が散々苦戦させられた透のハッカー仲間だっただけのことはある。
アシュラン:「ならば、こちらもそろそろだな・・・」
 そうこうしているうちに、ジープは軍基地の入り口、検問所の所までやってきた。
兵士に偽装したテロリスト:「行方不明になっていたアシュラン・ザラ小隊長殿を保護した。至急、本部に連絡してくれ」
検問所の兵士:「ご苦労。連絡は受けています。すぐ本部に連絡しますから、確認コードを言ってください」
 テロリストの男がアシュランに教わった確認コードを言うと、すぐに検問所が空き、ジープは軍基地内に通された。
アシュラン:「よし、君たちは手筈通り散ってくれ。そして、いつリャンと俺が出てきてもいいように、脱出の準備を!」
男:「本当に大丈夫なんですか、同志?」
アシュラン:「任せてくれ!」
 アシュランは自信満々にそう言ったが、その実、心臓はバクバク音を立てていた。
 しかし、リャンが軍本部で、おそらく特殊な取調べを受けているということは、救出に一刻の猶予も無いということなのだ。じっくり作戦を練っている暇も無いだろう。だからこそ、アシュランは、最低限の成功可能性が現実的にあり、例え失敗しても犠牲が最小限で済むこの作戦を提案したのだ。
 そして、この作戦の参加者は皆志願者だ。実際に志願した人間は、このざっと数倍に上る。それほどまでに、彼らにとってリャンという少女はかけがえの無い存在なのだ。そう考えると、アシュランの心も自然と奮い立った。
 アシュランは、できるだけ堂々と、懐かしい軍基地内へと入っていった。


 この日は休日。作戦の最短決行可能日が休日だったのは、ハッキリ言って幸運以外の何者でもなかった。おかげで、基地内には兵士の姿も少なく、今まで『テロリストに捕らえられて行方不明だった』アシュランでも、上手く人目をやり過ごせば、そう目立たずに歩くことができる。
 その時だった。後ろから、突然声をかけられたのは。
?:「アシュラン!そうか、帰って来たのか・・・」
 アシュランは、ビクッと後ろを振り向いた。
 そこにいたのは、父だった。
アシュラン:「父上・・・」
パトリック:「そうか・・。テロリストに捕まったと聞いたから、心配していた」
 父は、息子の肩に手をかけ、いつになく嬉しそうな顔でアシュランの無事を祝った。だが、そんな様子が、アシュランには、何故か違和感のあるものに感じられてしまう。
 そして、アシュランは思い出す。悪魔の洗脳計画『プロジェクト・リバイアサン』に軍の上層部が関与している可能性があることを。だとすれば、ZAFT日本支部の頂点に立つこの男が、何も知らない筈が無い。
 パトリックは、そんな息子の心中に気付く様子も無く、話を続ける。
パトリック:「そうだ、アシュラン。お前に与える新型機、先日完成した。もう既に、インストール作業もほとんど終わっている。あとは最後のロック、個人コードの記入を終えれば、お前の良き剣となってくれるだろう。それで、我が栄光あるザラ家の一員として、立派に軍務に励むのだ」
 その言葉に、アシュランの胸が強く痛む。アシュランは、意を決して、ずっと父に言いたかったことの中から一つ、言葉を選び、質問をぶつけてみた。
アシュラン:「・・・父上」
パトリック:「何だ?」
アシュラン:「その・・『栄光あるザラ家の一員』とは、何ですか?」
 一瞬、パトリックが呆けた表情になった。
一体この馬鹿は何を言っているのだろう?そう言っているような、表情だった。
パトリック:「・・・・先祖代々築いてきた我らが栄光ある一族の名誉を、より誉れ高いものにするための、そういう人間だが、今更お前は、何を言っている」
アシュラン:「・・・・」
 何が、『一族の名誉』だろうか?そんなものに縛られ、そんなもののために戦うことに、一体、何の意味があると言うのだろうか?
アシュラン:「わかりました」
 そう言いながらも、アシュランの心は、どこか冷えていくような感じがした。
パトリック:「それでは、私は会議があるからな。その後、一応出頭してもらう。では、自室にて待機しなさい」
 パトリックはそう言うと、踵を返し、去っていった。
 アシュランは、パトリックが完全に視界から消えるのを確認すると、再び携帯端末に口を当てる。
アシュラン:「・・・あきら、リャンの居場所、掴めたか?」
あきら:「ああ。お前さんががかなり場所を特定してくれたおかげで、すぐに絞り込めたぜ。いいか、東棟の地下取調室の三番だ」
アシュラン:「わかった。それじゃあ、今から向かうから、監視カメラ対策はしっかりしておいてくれよ」
あきら:「了解!」
 アシュランはあきらに指定された場所へ向かおうとして、ふと、その場所が、今さっきパトリックが向かった場所と一致することが、気になった。
アシュラン:「そう言えば、あそこには会議室なんて無かったはずだが・・・。いや、今はとにかく、リャンを救うことが先決だ!」


 アシュランはあきらの指示通り、巧みに監視カメラの死角を潜り抜け、リャンの捕らえられている場所へと進んでいった。
あきら:「おっと、そこの角を曲がった所にもカメラがある。・・・ちょっと待て。あと三秒、三、二、一、よし行け!」
 セキュリティをハックし、監視カメラの映像を覗いているあきらの指示で、アシュランは監視カメラがあさっての方向を向いているうちに、素早く通り抜ける。
あきら:「アシュラン、そこに警備兵が二名いるぞ。今はそっちは向いていない」
アシュラン:「了解」
 そう答えるや否や、アシュランは大胆に素早く警備兵たちの前に姿を現すと、一人の鳩尾を、もう一人の首の後ろを一瞬のうちに素早く殴りつけ、二人を声一つ立てさせずに昏倒させる。
警備兵:「がっ!?・・・・・・」
あきら:「ひえ~、お前さん、見かけによらず、リアルでも結構やるんだな~」
アシュラン:「『ヤツ』を倒すために、リアルの格闘訓練にもかなり力を入れてたからな。もっとも、実際に見る限りじゃ、ヤツにはとても通用しそうにないが・・・」
あきら:「『ヤツ』って?」
アシュラン:「・・いや。済まないが、今は言えない。だが、この作戦が終わったら話すよ」
あきら:「そうか・・。と、アシュラン、次の扉、電子ロックだぜ。無闇に近づくと警報もなるから、ちょっと待っててくれ」
 厳重な電子ロックの扉は、約十秒程しか、アシュランの侵入を拒むことはできなかった。
あきら:「ほい、一丁上がりだ!そこからは、リャンの囚われている場所まで一直線のはずだ」
アシュラン:「凄いな。流石は『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』だ」
 扉をくぐると、そこは取り調べ室風の部屋だった。一つの部屋に、扉が二つ見える。閉じ込める罪人の質から考えても、一つが罪人を取り調べるためのスペースに繋がる扉。もう一方は、尋問官の一人が、罪人の部屋からはわからないようになっているマジックミラーで罪人の様子を客観的に観察するためのスペースに繋がっているに違いなかった。
アシュラン:「あきら、多分向こうは二つの部屋に分かれている。監視カメラには、どっちの画像が映ってる?」
あきら:「あ、そうか・・・、お、どっちも映ってるぜ。でも、ちょっと待て。リャンがいる部屋には、誰か来てる!」
アシュラン:「マジックミラーの向こう側には誰もいないんだな! よし・・・」
 アシュランは、素早くマジックミラーの部屋のドアを、音を立てずに開け、室内に忍び込んだ。
 そして、マジックミラーの向こう側を覗いて、アシュランは危うく声を出しそうになった。
 そこにいたのは、鎖で両手を縛られて天井から吊るされたリャンと、前時代の拷問道具である皮製の鞭を持ったV・S・Sの社長、橘玲佳。それに、それを冷淡そうな表情で見つめるギル・ラザードと、同じく冷めた表情で見下ろしている、父の、パトリック・ザラの姿だった。
アシュラン:「ち、父上・・・。そんな・・・・」
 父は、いくらテロリスト相手とはいえ余りにも非人道的過ぎるその光景に何ら異を唱える事もなく、むしろそれが当たり前であるかのような様子だった。
 玲佳が皮製の鞭を、ヒュン、と振り下ろした。リャンの衣服が破け、その白い素肌にミミズの様な腫れ跡ができあがる。
リャン:「ぐあぁぁ!!」
 しかし、リャンは苦悶に悲鳴を上げながらも、気丈な眼差しで、玲佳たちをキッと睨んだ。
リャン:「くっ・・・けど、いくら痛めつけたって無駄だからな!!例えどんなことをされたって、アタシは喋らな・・・あぁっ!!」
 玲佳は満面の笑みを浮かべながら、再び鞭を振り上げた。そして、苦痛に身体を捻って悶え苦しむリャンを、ギルと父はさも愉快な見世物であるかのように見ていた。その表情は、どこか、非常に似通ったものを感じる。一方のギルが仮面で顔を隠しているので、おそらくそれは、外見的なものではない、雰囲気の共通項なのだろう。
玲佳:「ふふ、いいわよ、喋らなくても。別に、あなたから聞き出すことなんて無いもの」
リャン:「え・・・?」
ギル:「今の時代、尋問は自白剤とニューロジャックが基本だよ。少なくとも、テロリスト以外では、かな?」
リャン:「だ、だったら、なんでこんな事、やってるんだよ!!」
玲佳:「そうね。まあ、あなたの特別な才能が欲しいから、っていうのもあるのだけれど・・・」
アシュラン:「特別な才能、だって・・・?」
 玲佳の言葉を聞いて、アシュランは違和感を覚えた。確かに、リャンの武術の腕前は並のレベルでは無いが、わざわざV・S・Sが欲するほどのものだろうか?
 すると、その様子を聞いていたらしいあきらが、小声で言った。
あきら:「やつら、リャンの真価に気付いてやがったのか・・・」
アシュラン:「『リャンの真価』って、ムードメーカーのことか?」
 確かに、どの集団でも、明るく可愛らしいリャンのような少女は、戦士たちの士気を上げる、欠かせぬムードメーカーだろう(実際、飛刀が正にその恩恵にあやかっている)。
あきら:「違うよ。そんなの、洗脳しちまったら意味ねぇだろ」
 そう言われれば、そうだ。
あきら:「・・・奴らが欲しているのは、リャンの異常な記憶力さ」
 あきらの口から出たのは、実にけったいな言葉だった。
アシュラン:「は?確かに、あいつの記憶力は『異常』だけどな・・。だが、その日の朝聞いた俺の名前を完全に忘れるような記憶力なんて、どこの誰が欲しがるんだ?」
あきら:「・・・そうだな。あいつ、しょっちゅう物を忘れるからな。・・でもな、信じ難い話だろうが、あいつの短期的な記憶力は、正反対の意味で『異常』だぞ」
アシュラン:「え?」
あきら:「以前、クーウォンさんが、作戦に必要だと言って、あるAIのプログラムをリャンに覚えさせたことがある。すると、どうなったと思う?意味のわからねぇ記号の羅列、四万八千ページ、あいつは三日間で、一語一句過たず全て覚えちまったんだ」
アシュラン:「そ、そんなバカな!!」
あきら:「バカはお前だ、声がデケェ!・・・とにかく、似たようなことが何度かあった。リャンは、瞬間的な記憶力だけは、ずば抜けて凄ぇんだよ」
アシュラン:「でも、あいつ・・・」
あきら:「そうだ。一週間経ってそのことを本人に聞いてみたら、すっかり忘れてたよ。それどころか、AIを暗記したことすら、完全に忘れてた」
アシュラン:「・・・・・・・。」
 そう言えば、確かクーウォンは、リャンの記憶障害が、後天的なもの、補助チップのせいであると言った。
 異様な瞬間記憶力に、頻発する健忘症。そして、薬を服用せねば、何年もの記憶を一気に失ってしまうという、謎の発作・・・。
 リャンには、アシュランがまだ知らない『何か』があるのではないか?そして、クーウォンが知る『真実』とは、I・V・Sで見たデータのみのことを指すのではないのではないか?アシュランの中を、正体不明の不気味な不安が、渦を巻きながら通り過ぎていった。
 その時、三度鞭が空気を切り裂く音がして、アシュランの意識は隣の尋問室に戻された。
リャン:「こんなことをしても・・・アタシはあんたに洗脳なんかされないからな!いくら時間をかけても、無駄だ!!」
 すると、三人は三者三様の、しかしどれも非常に嫌な笑みを浮かべた。
玲佳:「ふふふ、可愛い子。粘れば、私たちが飽きて自分は助かる、なんて思っちゃうなんて、純粋ね。・・だけどね、残念」
リャン:「な・・・?」
玲佳:「あなたの能力云々は、私にとってはあくまで二の次。この拷問の一番の目的はね、『私が楽しいから』なのよ。あなたのようなじゃじゃ馬ちゃんが、可愛らしく泣き叫ぶのを見るのが、私は大好きなの。だからね、どれくらい時間がかかってもいい。むしろ、かかってくれた方が、私は楽しめるわ・・・」
リャン:「っっ!!!」
 リャンの表情が、見る見るうちに恐怖に歪む。唯一の『勝機』を眼前で握りつぶされれば、いかにリャンと言えど、その心は折れてもおかしくないのだ。
 そして、ギルが酷薄な笑みを浮かべながら、更なる追い討ちをかけた。
ギル:「どちらかというと、時間が無いのは君の方だと思うがね。ふふ、いつか起こるのだろう。あの『発作』が」
 途端に、リャンの顔が、一気に青ざめた。
リャン:「・・・い、い、いやだ!いやだぁ!!
玲佳:「あらあら、ふふふ」
 心が折れて泣きじゃくるリャンは、最早戦士でも何でもない、ただの一人のか弱い少女だった。
リャン:「いやだ、そんなのはいやだぁぁ!!助けて、助けて、アシュラン!!!
アシュラン:「くっ!!!」
 アシュランは思わず飛び出しかけるが、すんでの所で理性を総動員し、必死に踏みとどまった。今、激情にかられて飛び出してしまっては、逆にリャンを助ける機会は永遠に喪われかねないのだ。
 すると、リャンの叫んだ名前に、パトリックが僅かに反応し、そして、彼の口から信じられない言葉が漏れる。
パトリック:「ふん、不詳の息子だとは思っていたがな、まさか、テロリストの小汚い小娘に篭絡されるとは。こんなことがあっては、と、あのクラインの娘を『あてがった』のだがな・・・。誇り高きザラ家を継ぐ者には、相応しくなかったか・・・」
アシュラン:「な・・・・・」
 アシュランの地面が、今度こそ音を立てて崩れていく音がした。父は、自分を『ザラ家を継がせるための道具』としか見ていなかったのだ。そして、そこに愛情など、一切無いのだろう。
昔からわかっていたことだが、それでも、父の口から直にそれを聞くのは、やはり大きなショックだった。
 そして、パトリックの言葉を耳聡く聞き、リャンは、少し落ち着きを取り戻した。
リャン:「・・・へん、何が『誇り高きザラ家』だ!卑怯で陰湿な洗脳政策なんかに関わってやがるくせに、『誇り』なんてあるもんか!!」
 すると、パトリックは、ハッキリとした口調で言ったのだ。
パトリック:「歴史上、未だ且つてどの指導者も成し得なかった偉業に大きく貢献するのは、これ以上無い『誇り』だ。まあ、君のような、無教養な小娘にはわからんことだろうがね」
アシュラン:「!!!!」
 今、父は何と言った!?
 ああ、何ということだ!!父は今、ハッキリとこう言ったのだ。『あの悪魔の計画に、自分は積極的に関与している』と!!
リャン:「わかりたくないね、そんなこと!!!あんた、アシュランの親父のくせに、中身は全然逆の、正真正銘の腐れ野郎だな!!」
アシュラン:「・・・・・」
 そして、アシュランの中で、今、ある決意が固まった。
アシュラン:「ならば、俺は、俺は・・・・」
その時だった。突然、館内放送が基地内全域に流れる。
※:「橘玲佳社長、及びザラ委員長、ギル・ラザード隊長には、お客様がお見えになっております。至急、会議室までお戻りください。繰り返します・・・・」
玲佳:「ちっ、仕方ないわね。行くわよ。でも、可愛い可愛いじゃじゃ馬ちゃん。これで終わったと思わないでね。帰ってきたら、もっともっと、可愛い声を聞かせてもらうから」
 そう言って、玲佳とパトリックは、ギルを伴って、尋問室を後にした。尋問室には、リャンが一人、無用心に残される。
 あの放送は、あきらの仕業だろう。
あきら:「よし、よく辛抱した!!さあ、行って思い切りお姫様を抱きしめてやれ!!」
アシュラン:「・・・サンキュ!」
 その時だった。隣の部屋のリャンの様子が、急変した。
リャン:「うう、もうこんなのいやだぁ、助けて・・。・・・・あれ?アタシ、今誰に助けを求めようとしたんだ?クーウォン?違う。クーウォンじゃない。けど、それじゃ誰?誰なの!?いやぁ、思い出せない・・。いやぁ、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!
あきら:「しまった、発作だ!!」
アシュラン:「わかってる!!」
 アシュランはリャンの捕らえられている尋問室に全速力で駆け寄ると、扉を蹴り開け、全てを喪う恐怖でパニックになっているリャンを、思い切り抱きしめた。
リャン:「いやぁ、いやぁぁぁ!!助けて!!助けて!!!!
アシュラン:「リャン、大丈夫だ!!俺だ、アシュランだ!!助けに来た、もう安心だ!!」
 アシュランの声を聞き、この世の終わりのように暴れていたリャンが、ピタリと泣き止む。
リャン:「アシュラン・・・・?」
アシュラン:「そうだ、アシュランだ。な、大丈夫だろ」
リャン:「あ・・・うん」
 リャンはそう言うと、まるで子猫のように、アシュランの胸に顔を埋める。
 アシュランは、ちょっと照れくさく思いながらも、持ってきた切断具で、リャンの戒めを断ち切った。
アシュラン:「よし、これで大丈夫だな。あとは・・・・」
 リャンの衣服は、玲佳の激しい責めによって、いたるところが破け、肌が露出していた。アシュランは、軍服の上着を脱ぐと、リャンにそっと着せてやった。
リャン:「あ、ありがとう」
 リャンの顔はほんのりと赤く、目は潤んでいた。
リャン:「でも・・まさか、本当に助けに来てくれるなんて思わなかった。アタシ、ずっとあんたの事考えてたんだ。じゃないと、気が狂いそうで・・・・」
アシュラン:「そんなことはいい。とにかく、今は早くここを脱出しよう。玲佳たちが・・・父さんが、戻ってこないとも限らない。・・・そうだ」
 アシュランは、自分の携帯端末を取り出し、素早くシュミクラムの画面を呼び出す。そこには、パトリックの言っていた、最新型のシュミクラムのデータがあった。
アシュラン:「あきら、これを俺専用に、すぐにロックかけてくれ。父が俺の離反に気付いた。アンインストールされないとも限らない」
あきら:「了解!けどな、アシュラン・・・。『そんなこと』ってな・・・」
 あきらは盛大にため息をついた。
アシュラン:「へ・・・?」
 気が付くと、リャンが何か物を言いたげな視線を、こちらに送っていた。
リャン:「あんた、『女心がわからない』って言われたこと、無いかい?」
アシュラン:「・・・何度もあるよ。」
 何故そう言われるかは、毎度の事ながらサッパリわからないのだが。


 予め脱出の準備をさせておいた同志たちの手助けによって、アシュランたちは拍子抜けするほどすんなりと、ZAFT基地を脱出することができた。
 そして、一時間後、アシュランたちは仲間たちが用意してくれた車にのり、一路スラムへの道のりを走っていた。
リャン:「それにしても、みんな、ありがとう!生きて脱出できるなんて、思わなかったよ」
 基地から遠く離れても、一向に追っ手の気配も無く、リャンもようやく明るさを取り戻し始めていた。
リャン:「それにしても、まさか軍の『赤服』まで着れるとは思わなかったな」
 アシュランがリャンに羽織ったコートは、ZAFTのトップエリートの証、赤服のものだ。リャンは、それを物珍しげに眺め、ついでにちょっと、鼻を当てて匂いをかいだりしている。
アシュラン:「おい、リャン。俺はこう見えても、割と不摂生だからさ、あまりいい匂いしないと思うぞ」
 すると、リャンは自分が今していることに気付いて、顔が一気に火を噴いたように真っ赤になる。
リャン:「あ、あのだな、え、えーと、これは・・・・」
 そんな様子を、周囲の男たちが、ニヤニヤしながら見ていた。
アシュラン:「?」
 とりあえず、何はともあれ、一段落ついたところであきらに連絡を入れよう。そう思って、アシュランは携帯端末を起動させた。
アシュラン:「あきら、もうすぐ中央都市を抜ける。追っ手もいないようだから、とりあえず、このまま行けば大丈夫だろう」
あきら:「そうか・・・そりゃよかった。不幸中の幸いだな・・・・」
アシュラン:「あきら・・・?」
 あきらの様子がおかしい。そして、あきらは言った。
あきら:「スマン、最後の最後でドジっちまった。どうやら生きて戻れそうにねぇ。軍のウィルスに囲まれてやがる・・・」
アシュラン:「何だって!!?」
 慌てて画面を開いて見ると、確かにあきらのシュミクラムは、無数のウィルスに襲われていた。あきらは必死に応戦しているが、このままでは持たないのは明らかだ。
あきら:「へへ、クーウォンさんとリャンによろしく言っといてくれや・・・」
 そしてそのまま、あきらからの通信が途絶えた。
アシュラン:「あきら!!」
リャン:「アシュラン、一体・・・・」
 様子を察したリャンが、青ざめた顔で聞いてくる。
アシュラン:「今すぐに車を止めてくれ!!そして、近くの公衆端末を探すんだ!!!」
 アシュランは、叫んだ。あきらを見殺しにする気なんて、これっぽっちも無かった。
仲間を死なせない、大切な人を守る! これが、アシュランが胸に刻んで戦うと決めた、アシュランの自我、『正義』だった!
テロリスト:「ありましたぜ!これなら、携帯端末を繋げれば、ネットに接続できます!」
 車を止めてすぐ、テロリストの一人が、公衆端末を見つけて報告してくる。携帯端末だけでは、ネット空間の様子を見たり自らのステータスをいじったりはできても、接続することはできない。接続するためには、自室の端末や公衆端末など、固定端末と繋げる必要があるのだ。
テロリスト:「ですが、この端末を使うには、IDが必要です!同志は持っているでしょうが・・・」
アシュラン:「使うとログイン地点がバレる、か・・。なら・・・・」
 アシュランは、公衆端末の配線を引き抜き、無理やり携帯端末に接続する。
アシュラン:「よし、警報が付いてないタイプで助かった!」
リャン:「・・・あんたって、意外と粗雑(クルード)なんだな。もっとお上品なお坊ちゃんだと、ずっと思ってたよ」
アシュラン:「これでも、一時期ハッカーに憧れてね。色々悪い遊びもやったもんさ」
リャン:「あんたがあきらと妙に仲良い理由が、ようやくわかったよ」
 リャンは呆れ顔で言ったが、その目は笑っていた。
 公道の真ん中で、座ったままダイブする。正にクルードの極地だったが、方法を選んでいる場合ではない。
アシュラン:「リャン、俺の実体(リアルボディ)のお守を頼んだ。それと、他のみんなも、周囲をよく見張っていてくれ!」
リャン:「了解!!いいか、早く戻ってくるんだよ。モタモタしてると、騒ぎになって警察が駆けつけるからね!」
アシュラン:「わかっている!」
 そう言って、アシュランはニューロジャックを首筋に付き立てる。
 同時に、目の前に、シュミクラムのインストール画面が広がった。画面には、シュミクラムの名称と外観、装備や駆動系などの各種データが表示されている。
 新しいシュミクラムは、真紅の装甲を持った、“イージス”によく似た形状のガンダムタイプだった。イージスのような変形機構は有してないが、代わりに、全てのパーツが、アシュランも聞いたことのないような最新式のもので構成されていた。
 頭部に四連装イーゲルシュテルン。胸部にも近接防御機関砲。アンチビームシールドとビームライフル、二本のビームサーベル、そして両肩のアーマーにはビームブーメランを装備している。背後に背負った巨大なリフターには、前方に高出力の“フォルティスビーム砲”、その付近に左右二問ずつの四門の機関砲と左右一門ずつの二門の旋回砲塔機関砲を装備した追加砲台もあり、肩部に装着することによる本体の機動力の強化、離脱させて独自航行させ支援用自動砲台として使用も可能らしい。
 機体の名称は、“ジャスティス”といった。
アシュラン:「ジャスティス・・正義、か・・・・」
 父は、自分に『誇りあるザラ家の正義』の執行者になって欲しい、との想いを込めて、この機体を託したのだろうか。しかし。
アシュラン:(父上、俺の決めた『正義』は、あなたの『正義』とは違うようです。だから、俺は俺の正義のために、仲間を、大切な人を死なせないために、守るために、この剣を使います!!)
 インストールプログラムが、最後の手順を要求する。
※:「声紋をインプットしてください」
 アシュランは、叫んだ。
アシュラン:「アシュラン・ザラ、ジャスティス、出る!!」


『没入(ダイブ)』


 アシュランは、新しいMSを駆って、軍構造体内を駆け抜けた。ジャスティスは背負ったリフターのおかげか、信じられないような機動性を見せ、猛スピードでアシュランを、あきらのシュミクラム反応がある地点へと運んでゆく。
アシュラン:「あそこか!!あきら!!!」
 目の前には、大量のウィルスに囲まれ、苦戦するあきらの姿が見える。
 アシュランは素早くビームライフルを構えると、目の前のウィルスを片っ端から、次々と撃ち抜いていった。
ビームライフルの威力一つとっても、この新型機は、今までの機体とは比べ物にならないほどの高性能だった。
あきら:「アシュラン!?何で来やがった!!」
 あきらも、近くのウィルスを強烈なタックルで撃破しながら、叫んだ。
アシュラン:「お前をリャンと引き換えになんてできるか!!」
 アシュランの言葉に、あきらの顔がふっと緩む。
あきら:「へへ、泣けるじゃねぇか・・・。だがよ、引き換えになるのがもう一人増えただけかもしれないぞ・・・」
 その時、あきらの言葉に合わせるかのように、ZAFTの一般兵用シュミクラム“ジン”が複数機出現する。
あきら:「お前、あいつらを殺せないだろ」
アシュラン:「確かにそうだが・・・」
 アシュランは、不思議な感覚を味わっていた。
この機体が、妙にアシュランに馴染むのだ。まるでこの機体は、もともとアシュランの身体の一部であったかのような、そんな気さえ起こってくる。
アシュラン:「この“ジャスティス”なら、大丈夫だ!!」
 言うが早いか、アシュランはビームライフルを撃ちながら突撃、二機のジンの装備のみを一瞬にして撃ち抜くと、腰部にマウントされたビームサーベルを引き抜いてそれぞれ一振りでジンのスラスターを切断、あっという間に攻撃力と機動力を奪い去ってしまった。
 その間に、一機のジンがあきらの背後に迫り、ビームガンを構えた。
アシュラン:「させるか!!」
 アシュランは素早く肩部のビームブーメランを引き抜くと、あきらを襲うジン目掛けて投擲した。特殊な仮想粒子によって誘導コントロールされた、刃の部分が固定されたビームであるブーメランは、ビームの切れ味とその圧倒的な回転力により、ジンの銃を持った腕を易々ともぎ取った。
 ジンはもう片方の手で重斬刀を持って斬りかかるが、あきらのザクも素早くヒートホークを抜いてそれを受け止めると、逆にジンの腕を断ち斬り、ザク特有の太い足でジンに強烈な蹴りを入れる。その威力に吹っ飛ばされたジンに、仮想粒子コントロールによって戻ってきたビームブーメランが再び飛来し、後ろから頭部を切り飛ばした。ビームブーメランはアシュランの手前でビーム刃を自動で切ると、アシュランの手元に、過たず戻ってきた。
あきら:「すげぇな、その機体!!」
アシュラン:「俺も、これ程とは思わなかったよ。さあ、行くぞ!!絶対に二人で脱出するんだ!!」
あきら:「おう!!」
 二人は、追いすがるジンたちを、波を掻き分けるようにして撃退しながら、構造体内部を進んでいった。
圧倒的な性能を誇るアシュランのジャスティスはともかく、あきらもザクで、更には敵のシュミクラムを撃破しないように気を付けながら、それでも損傷らしい損傷も負わず、遂に離脱可能エリア目前まで到達する。
あきら:「へへ、すげぇな俺たち、っていうよりお前!これなら、マジで行けそうじゃねぇか!!」
アシュラン:「いや、俺だけの力じゃないよ。あきらだってかなりのものだ。それに、君もわざわざ、相手を殺さないでくれている。助かるよ」
あきら:「まあな。あんたにとって、あいつらは『敵』じゃないんだろ。だったら、俺がわざわざ殺すことも無いさ」
 あきらは、ただアシュランのために、自分が危機的状況にいるにも関わらず、わざわざ圧倒的に不利な戦い方を選んでくれているのだ。
アシュラン:「・・・有難う。やはり、君とリャンとの二択なんて選べない。絶対みんな、無事に連れて帰る!!」
 その時だった。
あきら:「おい、アシュラン。どうやら敵さん、易々と帰してくれるつもりは無いみたいだぜ・・・」
 アシュランのレーダーにも、敵のシュミクラム反応があった。
アシュラン:「これは、軍のものじゃないな・・。これは、“シグー”!!V・S・Sか!!」
 まるでその言葉を裏付けるように、二機のシグーが、高速でアシュランたちの目の前に飛来してくる。
あきら:「最悪だ・・・。ネット界最強のαユニットが、しかも二機同時かよ!!」
 その時だった。突然回線から、聞き覚えのある女性の声が聞こえる。
玲佳:「ちょっと止まりなさい、そこの二人!」
アシュラン:「この声は・・・橘玲佳!」
あきら:「ファシストの女狐ヤロウか!!」
 それを聞いた玲佳は、回線の向こうで、やれやれと肩をすくめる。
玲佳:「まったく・・『ファシスト』なんて、クーウォンも時代遅れなことを言うのね。それより、お二人さんに聞きたいことがあるの」
あきら:「なんだよ!!」
玲佳:「あなたたちは、折角の『実験体』を勝手に持ち出してくれたみたいだけど、クーウォンから『実験体』を集めるようにでも命令されているの?あなたたち、残り一人の行方を掴んでいたりはする?」
 突然の耳慣れない言葉に、アシュランたちは一瞬戸惑う。
アシュラン:「何の話だ!?いや、例え知っていたとしても、お前になんて言う筈はないがな!!」
玲佳:「そう・・何も知らないの」
 すぐに、玲佳は興味を失ったように言った。
玲佳:「α―Ⅳ、α―Ⅴ、思う存分、暴れなさい!!」
 そう言い残すと、玲佳は回線を切った。
アシュラン:「待て、橘玲佳!!お前、透と月菜に一体何をした!!!」
あきら:「何!!?」
 しかし、玲佳が応えることは無く、代わりにシグーのパイロットの少女たちが、感情の篭らない声で呟くように言った。
進藤むつき:「・・・敵確認」
進藤さつき:「これより排除に移ります・・」
あきら:「・・・こいつらも、洗脳された犠牲者みたいだな」
アシュラン:「そうだな・・。あきら、君は下がってるんだ。こいつらは俺一人でやる!」
あきら:「そんな無茶な・・・と言いたいところだが、あんたとその機体なら、俺がいる方がかえって足手まといだな。任せたぜ」
 あきらが下がると同時に、高機動MS・シグーが、猛スピードで襲い掛かってきた。
アシュラン:「流石に、二機同時に相手にするのはキツイか」
 アシュランはジャスティスのリフター“ファトゥム-00”を、一機のシグーを攻撃目標に設定して分離させると、もう一機のシグーに向き直った。
さつき:「!?」
 分離時には独自航行し、設定された攻撃目標を自動(オート)で攻撃する機能を持ったファトゥム-00は、内蔵されたビーム砲や機関砲を続けざまに放ち、さつきのシグーを激しく攻撃する。さつきも反撃にビームライフルと、シールドに内蔵されたガトリング砲を撃つが、自動回避機能も持ったファトゥム-00はそれらを巧みにかわしながら、なおもシグーに執拗な攻撃を加える。こらなら、足止めには十分すぎる程だ。
 アシュランも、むつきのシグーにビームを撃ちながら接近、反撃のビームやガトリング砲をかわしながらシグーに近接すると、すぐさま武装をビームサーベルに持ち替え、シグーのビームライフルを斬り飛ばした。
 しかし、シグーもすかさず武装を重斬刀に持ち替え、アシュランの追撃を受け止める。アシュランとむつきのシグーは激しい斬り合いを続けるが、アシュランのジャスティスを持ってしても、中々決定打を入れることができない。むつきの動きは操り人形じみてどこかぎこちないものの、それ故に洗練されて無駄が少なく、正しく『戦闘人形』という言葉がピッタリと当てはまるものだった。
アシュラン:「くそっ、このままでは!!」
 このまま戦いが長引けば、いつかはさつきのシグーがファトゥム-00を撃破し、むつきのシグーに加勢に入るか、あきらに襲い掛かるか、どちらにしても、圧倒的に不利になる。
アシュラン:「くそっ、どうすれば・・・・」
 その時、アシュランの脳裏に、いつか聞いたクーウォンの言葉が甦る。
『人の動きの速度を決めるのは、脳内の電気信号の伝達の効率の良さ、即ち『意思の速さ』だ。それはネットでも、シュミクラム体でも変わらん。普段から、動きのパターンを鍛錬によって脳に刻み込めば、どんなに重い装甲を背負っていようとも、最高の速度で連撃を繰り出すことができるものだ』
アシュラン:「・・・ここは、試してみるしかない!!」
 そう決意した、その瞬間!


『反転(フリップ・フロップ)』


 ジャスティスの全身を、人の身体と同じ位に、いや、それ以上に縦横無尽に神経が駆け巡るような、そんな感覚がアシュランに浸透してゆく。
 アシュランはシールドを投げ捨てると、シグーに突進。ゲンハを倒すために必死にマスターした軍隊格闘術の中から、得意だった連続技(コンボ)を一つ選び、頭でそれを正確にシミュレートしながら、それに合わせて体を動かそうと試みた。
 すると、どうだろう!アシュランの身体、ジャスティスの機械の身体は、信じられないほど素早く、アシュランの意思のスピードをも超えた速さで動き、裏拳が、ハイキックが、肘打ちが、正拳突きが、後ろ回し蹴りが、面白いように鮮やかに決まる!
 吹っ飛ぶシグーを、アシュランは四連装イーゲルシュテルンと胸部バルカンで更に突き放すと、左手でもビームサーベルを引き抜いて、二本のビームサーベルのグリップの末端を連結、双刃の長剣(アンビデクストラス・ハルバート)モードにしてシグーに急接近、双刃をそれぞれ振い、シグーの両腕を瞬時に切断した。
 そして、アシュランは間を置かずに右手の武器をビームブーメランに持ち替えてそれを投擲。さつきのシグーがそれをシールドで防ぎ硬直した一瞬のうちに、アシュランはジャスティスをファトゥム-00と再び合体させ、更にそれを肩部に装着して本体の突進力を強化。そして右手でも再びビームサーベルを引き抜くと、今度は二刀流で突進し、両手のサーベルをほぼ同時に一閃させ、さつきのシグーの両腕も、瞬時に斬り落とした。
アシュランは例の不思議な感覚が収まってゆくのを感じながら、そう言えばこのシュミクラムは、搭乗者の意思をそのままMSに伝えてMSに本来の身体となんら変わらないような動作感を与える「MSの神経」、『ニューロ・リフレクター』が、従来のシュミクラムとは比較にならないほど鋭敏にできている、と、マニュアルに書かれてあったことを思い出した。
玲佳:「ば、バカな・・・。α―Ⅳとα―Ⅴは、私のかなりの『自信作』だったのに・・・」
 玲佳の驚愕に見開かれた目が、ウィンドウ一杯に映る。同時に、AIから指示を受けたのか、進藤姉妹のシグーがネット空間から離脱した。
あきら:「へん、どうだ!!洗脳されたパイロットなんざ、メじゃねぇ、ってことさ!!」
 その時だった、V・S・SのAIが、無機質な声で告げた
AI:「シュミクラム“ザク”のパイロットに、補助チップ『サド・アイランド』を確認。簡易レベルなら、コントロール奪取可能です」
あきら:「っっ!!!」
 途端に、玲佳の顔に妖しい笑みが浮かび、反対にあきらの顔が真っ青になる。アシュランを、突然嫌な予感が襲った。
アシュラン:(そうだ、確か、あきらは一度、ハッカー時代に刑務所に入れられて・・・・)
 そこまで考えた、その時だった。
あきらのシュミクラムが、突然ビームライフルを構え、更にその銃口をアシュランの、しかもコックピットに向けたのだ!
あきら:「あ、ああ・・・・」
アシュラン:「あきら!?くそっ、『囚人構成補助チップ』か!!」
玲佳:「さあ、坊や。その立派な銃で、お友達を撃ちなさい」
 玲佳の、まるで母が子をあやすかのような優しい声に導かれるように、あきらの指がトリガーにかかる。
アシュラン:「あきら!!」
あきら:「い、嫌だ、俺はダチを、撃ちたくねぇ!!」
 あきらは必死に抵抗するが、補助チップの強制力は絶大で、あきらの意思さえも完全に圧に無視して、彼の肉体を突き動かす。
アシュラン:「橘玲佳ぁ!!何て酷い事をしやがるんだぁぁ!!!
玲佳:「あら、元はと言えば、折角脱走したモルモットが、こんな所でウロチョロしているのが悪いのよ」
 そのとき、あきらが渾身の力を込めて、叫んだ。
あきら:「・・・ふざけんな、俺は、モルモットなんかじゃねぇ!!!!
 あきらは、トリガーを引く指が止められないと悟り、死力を尽くして銃口を逆、つまり自分のコックピットに向けた!!
 トリガーが引き絞られ、砲口から目も眩むような閃光が発された。
 次の瞬間、あきらの胸部の装甲のど真ん中、コックピット部分に大きな風穴が空いた。破壊された装甲や機械の破片がバラバラと機体の後方に降り注ぎ、それには、大量の血が混じっていた。
アシュラン:「あきら、あきら、あきらぁぁ!!!」
玲佳:「ちっ・・・。これだから、薄汚いドブネズミは嫌いなのよ!!」
 玲佳が悪態をついて回線を切るが、今のアシュランには、気にしている余裕は無い。
アシュラン:「あきら、あきら、しっかりしろ!!!」
 アシュランが駆け寄ると同時に、あきらのシュミクラム体が消失し、電子体へと強制移行する。
アシュラン:「うっ!!!」
 あきらの電子体は、身体の下半分がほとんど完全に吹っ飛んでいた。まだ消滅こそしていないが、どう見ても、完全に致命傷だった。
アシュラン:「あきら、あきら、今すぐに、離脱可能エリアまで連れて行ってやるからな!!!」
 アシュランはリフターを肩に装着すると、あきらの電子体を抱え、全速力で奔った!
あきら:「やめろ、アシュラン、俺はもう・・・助からねぇよ・・・・・」
 ジャスティスの手のひらの中で、身体が半分になってしまったあきらが、薄目を開けた。
アシュラン:「縁起でもない事を言うな!!」
あきら:「ホント、くだらねぇ人生だったぜ・・・。だがまあ、ダチを庇って死ねるんだ、上出来か・・・・」
アシュラン:「何言ってるんだ!!」
あきら:「へ、透ともう一度会えなかったのが心残りだが・・・いや、アイツの親友(マブダチ)に看取ってもらえるなら、それもいいか・・・・」
アシュラン:「あともう少しだ、頑張れ!!」
あきら:「なあ、アシュラン。透に伝えてやってくれ。お前らとのチーム、『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』は最高だった、って・・・」
アシュラン:「ああ、伝える、伝えるよ!!だから・・・!!!」
あきら:「はは、本当に、色んなことがあったな・・・。菱友財閥の入社式に、ポルノムービー流したのは傑作だった・・・。D&Sの看板にゃあ、まだうちのチームのロゴが入ってやがんだぜ。あいつら、消し方知らねえでやんの・・・」
 あきらは、今はもう過ぎ去ってしまった時間を惜しむように、遠い目をして愉快そうに笑うと、アシュランを真っ直ぐに見つめ、言った。
あきら:「リャンを幸せにしてやれ、ありゃいい女だ。俺じゃ手が届かなかったが、お前なら・・・・」
 あきらの体が、すうっと透き通り始める。
あきら:「それから・・・透を・・・頼んだ・・・・ぞ・・・・・・」
 そして、あきらの体が、完全に消滅した。
 ネットロジックは、あきらの死を、『消滅』という形で再現したのだ。
アシュラン:「あきらぁぁぁぁぁ!!!!!
 アシュランは、声の限り叫んだ。しかし、それに応える者は、誰もいなかった。
 その時。
?:「フリーズ!!強奪機、そこで止まれ!!」
 前方から、大量のジンと、更には何とデュエル、ブリッツまでもがなだれ込む。
アシュラン:「くそっ、ここまで来て!!!」
 通信回線が開き、ニコルの悲痛な顔が、大きく映し出された。
ニコル:「アシュラン、あなたの意思は、わかっているつもりです。ですが・・・・」
イザーク:「・・・・バカヤロウ!」
 イザークは、いつもと違い、こちらに目を合わせようとしない。
アシュラン:「・・・わかっている。二人とも、済まない」
 いくら彼ら二人がアシュランの味方をしようと思ってはいても、この状況、このタイミングでは、それは不可能だろう。二人は『軍属』であり、そしてアシュランは『新型機を奪ってテロリストに寝返った裏切り者』なのだから。
アシュラン:「あきら、済まない。俺は、ここまでかもしれない・・・」
 いくらジャスティスと言えども、この人数、さらにはイザークとニコルを相手に、誰一人殺さずに切り抜けるのは、おそらく不可能だろう。だからと言って、『敵』でもない相手、それも同じ釜の飯を食った仲間たちを殺すことなんて、論外だ。
 アシュランが覚悟を決めた、その時だった。
?:「ひゃっほぅ!!!!パーティーの主賓の登場だぜぇ!!!」
 奇声を発しながら、ゲンハのフォビドゥンがダガーの部隊を引き連れ、殺到してきたのだ!
アシュラン:「ゲンハ!!!?」
ゲンハ:「言っただろう!俺サマは俺サマで、好きに殺らせてもらう、ってなぁ!!!」
 瞬時に、辺りは大混乱になった。突如の敵襲で浮き足立ったジン達を、ダガーやゲンハが、一方的に蹂躙していったのだ。
軍パイロット1:「うわぁ、な、何だ、ひぃぃぃーー!!!」
軍パイロット2:「くそ、こいつら!!援軍を、えんぐ・・・うわぁぁぁ!!」
軍パイロット3:「し、死神!!うぎゃぁぁぁぁ!!!」
 それは、『戦い』ではなく、最早『虐殺』と呼ぶ方が相応しい有様だった。ゲンハたちは、明らかに戦意を失って逃げようとする者すらも執拗に追い、容赦無く、それどころか楽しむようにその手にかけていった。
イザーク:「くそぉぉぉ!!」
ニコル:「させない!!」
 イザークとニコルは、何とか体勢を立て直してテロリスト達に向き直るが、その頃には既に、部隊の大半は壊滅していた。このままでは多勢に無勢。いくらイザークたちでも、ひとたまりもないだろう。
ゲンハ:「いよぉ、アシュラン!リャンを助けてくれて、アリガトな!お礼に、俺サマがこいつら、み~んなブッ殺してやるから、感謝しろよぉ!!!」
 ゲンハは、明らかにこちらの気持ちを知った上で、さも楽しそうに、アシュランの仲間達を次々と斬り裂いていった。
 確かに、今のアシュランから見れば、この状況は『助けが来た』と言えるかもしれない。この場をゲンハたちに任せ、自分は離脱するのが、確かに一番得策であるかもしれない。逆に、今ゲンハたちを敵に回せば、アシュランは飛刀からも『裏切り者』と看做されるだろう。しかし・・・。
 アシュランは、自らの新しい機体を見回す。“ジャスティス”。『正義』という名の、新しい剣。
アシュラン:「俺は、俺の正義を貫くと決めて、この剣をとったんだ!その代償に、例えいかに不利な状況に追い込まれようとも、俺は、自分の正義を・・・」
 アシュランは、ビームサーベルを引き抜き、構える。
アシュラン:「『俺の仲間達を死なせない』という、俺の正義を貫く!!」
 アシュランはビームサーベルを構え、ゲンハに突撃しようとした。
 その時。
 誰も全く予期しないような方向から、数条のビームが放たれ、ゲンハと、ゲンハに突撃しかけていたアシュランの中間地点を薙ぎ払う。
アシュラン:「何だ!!?」
 更に、どのシュミクラムも存在しないような空間から次々とビームが放たれ、ダガーの武器を次々と射抜いていった。
ゲンハ:「うぉぉっと、アブねえぇ!!」
 ゲンハだけは、見えない敵のビームを、直感にのみ頼ってるとしか思えない反射力で全て回避する。
ニコル:「これは、ミラージュコロイド!?いや、違う!!」
イザーク:「ビットだ!しかも、信じられないほど精密に動いている!!そんな代物を使いこなせる奴は・・・・」
 その時、何も無い空間から、突如一機のシュミクラムが姿を現した。
白とピンクのケバケバしい色をした特徴的なフォルム。“キュベレイ”という名のその機体を操る人物と言えば、軍内ではあまりにも有名だ。
アシュラン:「あれは・・・・バチェラ!!!
 アシュランの心臓の鼓動が、にわかに早まった。
 『バチェラ』。ハッカーの中では、「スキルは超一流の天才だが、性格はガキっぽくて変わり者」というくらいの、ただの凄腕で通っているらしいが、軍の中では、その名はまた別の意味を持っていた。特に、アシュランにおいては・・・。
 六年前の、ネット至上最悪の大惨事となったデータ荒らし事件。後に『DOS(Disconnection of Silver cord)事件』と呼ばれた事件。アシュランの母、レノア・ザラの命も奪ったこの事件の犯人と目される人物こそが、この・・・・。
 その時、回線が突如開き、フェイスウィンドウには匿名モードの画像が現われ、続いて機会音声でバチェラが話しかけてきた。
バチェラ:「やあ。キミが、アシュラン・ザラだね?始めまして、かな?ボクの名はバチェラ、ってことは知ってるよね?」
アシュラン:「あ、ああ・・。それで、君は、俺に何の用だ?」
 アシュランは、努めて冷静に、この謎の闖入者に対応する。しかし、次にバチェラが言ったのは、予想だにしなかった言葉だった。
バチェラ:「キミに、ちょっと話があるんだ。大事な話さ。だから、ボクと一緒に来て欲しいんだ」
アシュラン:「何!!?」
バチェラ:「大丈夫。キミに危害を加えようとか、そういうことじゃないんだ。ただ、本当に大事な話だ。今すぐに、しなきゃならないことさ」
 その口調には、有無を言わせないものがあった。
 しかし、いくら『大切な話』とは言っても、突然、何の前触れも無く、しかも個人的には面識さえ無い者に突然そんなことを言われても、どう対応していいのか、分かるはずも無い。
 その時、ファンネルのビームを全てかわしながら、ゲンハがバチェラに向かって突進してきた。
ゲンハ:「うりゃぁぁぁぁ!!」
バチェラ:「ちっ、まったく、邪魔なヤツだなぁ!!」
 バチェラはくるりとゲンハの方に向き直ると、ファンネルを数機放出しながら、自らも手首のビームガンを放って突進した。
ゲンハ:「へへ、テメェがバチェラか!いつか戦り合いてぇとは思ってたぜ!」
バチェラ:「ボクはキミと戦ってる暇なんてないんだけどね!」
ゲンハ:「上等だぁぁ!!!」
 二機は、お互い激しく交差しながら、全く互角の死闘を繰り広げる。
あのゲンハとここまで互角に戦えるとは、あのバチェラ、シュミクラムにおいても、聞きしに勝る超凄腕だ。
ニコル:「これは、一体どうなって・・・」
イザーク:「ニコル、危ない!!」
 状況がわからず呆然とするイザークとニコルに、混乱した数機のダガーが襲い掛かる。しかし、その時だった。
 目も眩むような閃光がダガー達の足元から立ち上り、その機体を包み込んだ。そして光が収まった時、ダガー達は跡形も無く消し飛んでいた。ネットの地雷、攻性防壁だ。
イザーク:「だが、こんな所に攻性防壁など、無かったはずだ!!」
ニコル:「バチェラの仕業でしょう。構造体内からハックして、攻性防壁のデータを書き換えたんだ」
イザーク:「何だって!!?そんなことが・・・」
ニコル:「ええ、AIレベルのサポートがいたとしても、常人なら数日丸々はかかる作業です。しかし、ここ数日のパトロールでは、そんな報告は一切無い。バチェラ・・・予想以上の、凄腕のようですね・・・・」
 一方、バチェラはゲンハと、いつ終わるとも知れない激闘を繰り広げていた。
ゲンハ:「ちっ!!こいつ、こっちが嫌だと思うような方向ばかり攻撃を仕掛けたり回避したり!!本当に、鬱陶しいヤロウだぜぇ!!」
バチェラ:「こいつ、このボクでも動きが正確には読めない!?一体、何者!!?」
 二人は、お互いの相手をすることに精一杯で、周囲に気を配る余裕は、一切無いようだ。
ニコル:「イザーク、これは・・・ひょっとして、チャンスかもしれませんよ」
イザーク:「お前、実はものすごくセコイ奴か!?」
ニコル:「抜け目無い、と言ってください」
 状況を飲み込んだイザークが、強化装甲の多弾頭ミサイルポットからミサイルを、レールガンから弾丸をゲンハに向けて同時に放つ。ゲンハは、それをビーム偏向板の盾の一方で受け止めるが、そのタイミングに合わせてニコルがランサーダートを三発同時に発射、ゲンハのビーム偏向板は全ての衝撃に耐え切ることができず、砕け散った。
ゲンハ:「クソ、このヤロウ!!」
 ゲンハが気を逸らされた瞬間、バチェラの放ったリサーチミサイルがゲンハに被弾、動きを止められたゲンハに、ファンネルからの集中砲火が襲い掛かり、ビーム偏向板の防御を失ったフォビドゥンは、左脚と二門のレールガンを貫かれた。
イザーク:「うおぉぉぉぉ!!!」
 更に、イザークがビームサーベルを抜いて突進、ゲンハは咄嗟に反応してニーズヘグで受け止めようとするが、イザークの速く鋭い斬撃はそれより一瞬早く、ニーズヘグの柄を両断した。
 更にバチェラのファンネルが、トドメとばかりにゲンハに一斉射撃を開始する。互角の均衡を打ち破られ、一気に劣勢となったゲンハに、体勢を立て直す暇は無かった。
ゲンハ:「チックショー、バチェラめ!!いい所で余計なチャチャ入れやがってよぉ!!・・・この恨みは忘れねぇ!テメェにはそのうち、テメェに相応しい地獄を見せてやるぜぇ!!!」
 そして、ビームが届く寸前、ゲンハは忽然とネット空間から離脱(ログアウト)した。
 他のテロリスト達も、ファンネルに武装を貫かれて離脱したか、攻性防壁によって撃破されたかしており、既にこの構造体内には、アシュランとイザーク、ニコル、そしてバチェラの姿しか無くなっていた。
バチェラ:「ふう、邪魔はあらかたいなくなったね。さあ、アシュラン、話をしようか」
 アシュランに近づこうとしたバチェラを、イザークとニコルが遮り、それぞれの銃口をバチェラに向ける。
ニコル:「話があるのは、何も君だけじゃないんですよね」
イザーク:「『DOS事件』の最有力容疑者、バチェラ!まずは軍に出頭して、話を聞かせてもらおうおか!!」
 バチェラは、回線の向こうで、やれやれとため息をついた。
バチェラ:「まったく、本当、軍人さんはいつの時代もバカだよなぁ。ボクがあんなこと、するわけないのにさ」
イザーク:「なにぃ!!」
バチェラ:「それに、キミらなんかがボクを、捕まえられるわけないだろ」
イザーク:「こ、こいつ、調子に乗りやがって!!!」
 掴みかかろうとするイザークをバチェラはひらりとかわすと、イザークに向けて数機のウィルスを放ってきた。
イザーク:「うおぉぉ!!?」
アシュラン:「イザーク!!」
 アシュランはビームライフルで、イザークに襲い掛かるウィルスを次々と撃ち落す。
イザーク:「こ、この野郎!!」
 怒りに燃えたイザークは、ビームサーベルでバチェラに斬り掛かる。
バチェラ:「うわ、危ないなー、も~。・・・ん!?」
 斬撃を容易にかわしたバチェラだが、その時、いつの間にかミラージュコロイドで姿を消していたニコルが思いもよらぬ方向に出現、鉤爪を展開させたグレイブニールを放った。
バチェラ:「うわぁ!?」
バチェラは間一髪それに気付き、かなりの反射神経でそれを回避するが、完全には回避しきれず、鉤爪の先端が機体の一部をかすめた。
バチェラ:「ちっ・・・。これじゃあ、お話なんてしようがないな。仕方無い、今日のところは、引き揚げるか」
 そして、置き土産とばかりに大量のウィルスを放ち、バチェラはログアウトした。
 ばら撒かれたウィルスは、そのままイザークとニコルに、ワラワラと襲い掛かった。
アシュラン:「イザーク、ニコル!!」
 アシュランが助けに入ろうとすると、突然ニコルが、不自然な大声で叫び出した。
ニコル:「うわぁぁぁ、何て数だ!!これじゃあ、こいつらで手一杯だぁ!!とても強奪犯を追いかけられない!!!」
イザーク:「ん?・・・そうか。ちくしょぉぉ、しつこいやつらめ!!折角新型機を、ここまで追い詰めたというのにぃぃ!!!」
 イザークまでもが不自然に叫びながら、明らかにわざとウィルスたちに苦戦している。
 そして、アシュランもすぐさまニコルたちの意図を悟った。
アシュラン:「・・・!!そういうことか、流石はニコルだ。ありがとう」
 アシュランは、軍の通信記録に残らないように外線を切ると、機転を利かせて自分を逃がしてくれようとしているニコルとイザークにそっと感謝の言葉を述べて、ウィルスたちに(演技の)苦戦を強いられているイザークとニコルを横目に、軍構造体を駆け抜けた。
 それからは、どの部隊にも鉢合わせすることは無く、アシュランは程無くして、離脱妨害エリアの外へと、脱出することができたのだった。


『離脱(ログアウト)』


リャン:「アシュラン・・・・」
 現実(リアル)に戻ったアシュランを出迎えたのは、リャンの、泣き笑いのような、何とも言えない表情だった。おそらく、あきらを喪った悲しみを堪え、何とかアシュランの無事を喜ぼうとしているのだろうが、それが余計に痛々しい。
 もちろん、アシュランにも、リャンのそんな心情が痛いほどわかる。あきらの存在は、それほどまでに、彼らにとって大きなものだったのだから・・・。
アシュラン:「リャン・・・ごめん」
 その時だった。周囲で見張りをしていた男たちの一人が、切羽詰った声で言った。
テロリスト:「同志、軍人です!!しかも、赤服が二人!!!」
 一瞬、にわかに緊張したアシュランだったが、やがてあることに気が付く。
アシュラン:「赤服?二人?それって・・・・。なあ、彼らの特徴を、教えてくれないか」
テロリスト:「えっと、一人は銀髪のオカッパ頭で、なんか顔に物凄い傷がありました。もう一人は・・・女、でしょうかね?緑色のパーマみたいな髪をした、やけに小柄で細い奴です」
アシュラン:「二人とも男だよ」
 間違い無い。イザークとニコルだ。しかし、どうしてここに?
アシュラン:「俺は彼らと少し話す。ちょっと、俺と彼らだけにしてくれ。みんなは、すぐにでも撤収できる準備を。俺に何かあったら、すぐに逃げるんだ」
テロリスト:「な、何を・・・?」
リャン:「お、おい、アシュラン!!?」
 テロリストたちに反論の暇を与えず、アシュランは仲間たちのいる方向へ走り出した。


アシュラン:「・・・俺を追ってきたのか?」
 テロリストたちを半ば強制的に撤収させた後、路地裏の人目につかない場所で、アシュランはイザークとニコルと向き合っていた。
 アシュランは一応警戒して辺りを見回すが、何か仕掛けがある様子も無い。何より、イザークもニコルも、一応『裏切り者』の目の前に立っているというのに、その様子はリラックスしており、無防備この上ない。
イザーク:「おい、キサマ、何をキョロキョロしてるんだ!俺たちが今更、キサマを売り渡すとでも思ったか!!」
ニコル:「追ってきたって・・・あのタイミングで、それは不可能ですよ」
アシュラン:「・・・そう言えば」
 自分の考えていたことをアッサリと指摘され、アシュランは一気に自分を恥じる気持ちで一杯になった。以前、自分からは『信じてくれ』と言ったくせに、自分は今一歩、このかけがえの無い仲間達を、信じ切れなかったみたいだ。
アシュラン:「・・・そうだな、二人とも、済まなかった」
ニコル:「いえ、いいんですよ。軍から離反する決意、なんてした日には、誰だってそうなると思いますから」
 ニコルの優しい笑みに、アシュランは救われる思いがした。
アシュラン:「でも、それじゃあどうして、お前たちがここにこんなタイミングでいるんだ?」
イザーク:「それはな、ニコルにあのメールの一件を話したら、こいつが突然、『今日はここで張ってよう』と言い出してな!おかげで、折角の休日がパーだ!!」
アシュラン:「??」
ニコル:「でも、そのおかげでアシュランに会えたでしょう。・・・ああ、アシュランのメールの発信先が、スラムからでしたから。アシュランが行動を起こすとしたら、移動するならスラムから中央都市区域までは、ここの道路を車で通らなければいけませんからね。だから、アシュランを捕まえるなら、ここがベストかな、と思いまして」
 基地にいたら作戦の巻き添えになるかもしれませんしね、とニコルは悪戯っぽく微笑んだ。
アシュラン:「でも、なんでわざわざそんなことまでして・・・・」
ニコル:「別に深い意味はありません。ただ、アシュランと話したかっただけです。アシュランが、何か決意をして軍を離れるのなら、僕らも何かの助けになるために、一度しっかり話さなきゃ、って思っただけで・・・」
イザーク:「まさか、俺たちに黙って行くつもりじゃなかっただろうな!」
アシュラン:「・・・そうだな。その通りだった」
 アシュランは、改めて二人の友を見た。アシュランが、軍で始めて得た仲間、『ザラ隊』。
最初は、ぎこちない部隊だった。それぞれのアクが強く、アシュラン一人ではまとめきれず、ずっと「バラバラな隊だ」と思っていた。
だけど、いくつもの作戦を乗り越え、長い月日を共に過ごし、お互いの間には、少しずつ、強く固い、何者にも断つことはできないほど強い絆が形成されていったのだ。
 そして、立場を違えた今でも、その絆はいささかも揺るがず、こうして彼らは共にいる。
 だからこそアシュランは、改めて自分の決意を言葉にして、かけがえの無い友たちに伝えた。
アシュラン:「俺は、軍を抜ける」
イザーク:「・・・・」
ニコル:「・・・・」
アシュラン:「お前たちに送ったデータ、あれは、俺がこの目で見た、確かな真実だ。そして、俺の父も、軍の上層部も、あの計画に加担していることがわかった。あの計画は、何としてでも止めなくてはならない。そうしなければ、俺の大切な人たちに、取り返しのつかないことが起こってしまう。だから、俺は・・・・自分の信じる処に従って、軍を抜ける!!」
ニコル:「・・・わかりました。ならば、僕らもお手伝いします」
イザーク:「そうだな。そんなこと、キサマ如きには危なっかしくて一人で任せてはおけんしな。・・・・俺たちは軍を抜けず、軍の内部から、それとなく探りを入れてみようと思う」
 友は、アシュランの決意をしっかりと受け止め、晴れやかな笑顔でそれに応えた。
アシュラン:「しかし、イザークは、軍の英雄になりたいんじゃなかったのか!?それに、ニコルだって、もしバレたら、ピアニストとして表の世界で生きていくことができなくなるかもしれないんだぞ!!」
 軍に反旗を翻すということは、つまりは犯罪者になるということだ。そんなことは、今更言うまでもなくこの二人は熟知しているだろう。そして二人は、その上で、ハッキリと答えた。
イザーク:「今更何を言っている!!こんな大変な陰謀を見過ごして、英雄もクソもあるか!!」
ニコル:「全ての人が誰かの思うがままに操られた世界でピアノを弾いても、虚しいだけでしょうね」
 二人の顔にも、動かしがたい決意が宿っていた。
アシュラン:「 ・・・わかった」
 アシュランは黙って手を差し出し、イザークとニコルも、言葉も無くその手を、しかしがっちりと固く握った。
アシュラン:「二人とも、ありがとう。これから、俺はスラムに戻る。二人も、気を付けるんだ」
イザーク:「言われなくとも!」
ニコル:「はい!・・・そうだ、アシュラン!」
 ニコルは、軍服の上着ポケットから、何かの機械を取り出した。
アシュラン:「これは・・・追尾装置(トレーサー)?」
ニコル:「ええ、先程の戦闘で、グレイブニールがかすった際に、バチェラに発信機を付けておきました。軍用のAAA(トリプルエー)クラスのものですので、まず発見されません。彼がどこにいても、そのトレーサーさえあれば追えるでしょう」
アシュラン:「ト、トリプルエー!?それ、軍事機密レベルの代物じゃなか!?許可は!!?」
ニコル:「当然、無許可です」
 ニコルはなんでもないことのように、あっけらかんと言う。
あの混戦の最中にバチェラに発信機を付けた手際といい、ニコルは案外、とんでもない大物なのかもしれない。
ニコル:「実はこれ、ずっと前の任務で僕が使ったの覚えてますよね。ミラージュコロイドが使えるブリッツが、取り付けに適任という事で。実はあれ、一発残ってましてね。なにかあった時のために、と思いまして、報告書をちょっと誤魔化して、密かに持っていたんですよ。役に立って、良かったです」
イザーク:「お、お前、実はとんでもない奴なんじゃないか!?」
 どうやら、イザークも知らなかったことらしい。アシュランは、心の中で、ニコルについての認識を、少し改めた。
ニコル:「とにかく、バチェラの『話』というやつは、聞いてみた方がいいかも知れませんね」
イザーク:「あいつは、凶悪な犯罪者だろ!そんな奴の話なんて・・・」
ニコル:「イザーク、彼があんな大それたこと、するような人に見えましたか?」
イザーク:「う・・それは・・・」
 確かにそうだ。軍にいた時も、何度かバチェラのやったと思われる事件に関わったことがあったが、それらは手が込んではいたものの、あくまで『悪戯』程度のレベルだった。何万人もの人を殺すような大犯罪を、彼(あるいは彼女?)がしでかすとは、母をその事件で喪ったアシュランでさえも、どうしても思えなかったのだ。
アシュラン:「そうだな。わかった。機会を見て、会ってみるよ。じゃあ、また会おう!」
イザーク:「もちろんだ!!絶対に、また会える!!」
ニコル:「ええ、また、必ず!」
 そして、アシュランと、その仲間達は、別々の方向へと、帰っていったのだった。


リャン:「あいつらは、行ったのかい」
アシュラン:「ああ・・・。俺たちも、帰ろう」
 スラムへ向かう車の中で、もう誰も、一言も喋らなかった。
 アシュランは今日、リャンを助け、自分の信念を確認し、新しい力を手に入れ、そして仲間達との変わらぬ絆を確かめることができた。しかし、自分の所属した場所を、そして、掛け替えの無い友を一人、喪った。
 それは、果たして今日手に入れたものに見合う喪失なのだろうか?その喪失は、果たして何かを手に入れたことの『代償』なのだろうか?
 己の問いに、アシュランは、答えることが出来なかった。


 



第二十二章『代償』完

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現在社会人として東京都心の企業に勤めている。出身地は北海道。
一人っ子。故に(?)わがままでせっかちなところがある。趣味はドライブと創作作品鑑賞。ただし基本的に超インドア。
話すのが大好きだが、上手なわけではい。



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