Endless world -咬龍の庭-
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創作小説『バルドフォースG』 第二十五章
原作のOVAがもうすぐ発売ですね。『バルG』第二十五章です。
実は今回で、このなっがい物語も後半戦の折り返しです。なので、残りは四分の一。第一章のときからこの物語にお付き合いくださっている方、いらっしゃいましたら、何卒もう少し、この『バルG』をよろしくお願いいたします。

では、いつも通り『READ MORE』にて本文へ。
大丈夫ですよ。今回は死体画像とかは一切無いですから(^-^。ああいうのは、事前にきちんと理由を話し、警告文をきちんと書くなどしない限り、絶対にやりませんのでご安心を。








バルドフォース エグゼ
バルドフォース エグゼ
PlayStation2
アルケミスト








HG 1/144 フリーダムガンダム
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バンダイ

 


バルG第二十五章 『Face of Fact』


 


 α-Ⅶは夢の中にいた。長い、長い夢の中に。
 まどろみの中で見たそれらは、全く身に覚えの無い事柄の連続ながら、どこか懐かしく、余り胸を掻き毟りたくなるような衝動を、α―Ⅶに呼び起こさせるのだ。


少女:『ねえ、トオル。』
 一人の少女が、α-Ⅶに呼びかける。彼女はとてもα-Ⅵとよく似ていたが、α-Ⅵとは似ても似つかないほど快活で、表情豊かで、そして美しかった。
少女:『あたし、頑張るから。頑張って、早くトオルに追いついて、そして、一緒に生きていけるようになるから』
 少女は、決意に満ちた表情でα-Ⅶに言った。それは、とても真剣で勇ましいと同時に、この上なく綺麗で、そしてとても暖かかった。
 α-Ⅶは、その表情を見ていると、今までにないくらいに、胸の中が満たされていくような気がした。
 どうしてだろう?
社長の『賛辞のお言葉』を聞けば、何ものよりも遥かに、心が満たされるというのに・・・。


青年:『なあ、トオル』
 黄色い坊主頭の青年が、α-Ⅶに話しかけた。その時、α-Ⅶはとても悩んでいて、そしてどういうわけか、この見た事も無い青年に相談したのだ。
 青年は、黙ってα-Ⅶの話を聞き、そしてα-Ⅶの話が終わった後に、とても優しい笑顔でこう言うのだった。
青年:『気楽に行こうぜ、相棒』
 その一言で、その笑顔で、α-Ⅶの胸の中にあった悩みが、すうっと溶けていくような気がした。
 どうしてだろう?
 社長の言うことに従っていれば、迷う必要なんて何も無いはずなのに・・・。


碧の瞳の青年:『トオル』
 仮想空間のどこかの孤島で、小さな焚き火を囲みながら、碧α-Ⅶは色の瞳をした整った顔の青年の青年と一緒に、携帯端末の画面を見ていた。
 青年は画面を食い入るように見た後、心底感心した様子で言った。
青年:『君のシュミクラム、本当によくカスタマイズされているな。いい機体じゃないか。はは、これじゃあ俺が意見を言う所なんて、見当たらないよ』
 そして青年は、穏やかに笑った。
 確かにα-Ⅶは、シュミクラムのカスタマイズには自信があった。これ以上は誰にもいじれないほど徹底的にやっているという自負もあった。
 それでも、α-Ⅶはこの青年と一緒に、自分のシュミクラムをいじりたかった。いや、それ以上に、この青年ともっと一緒の時間を共有したかったのだ。
 どうしてだろう?
社長がいれば、他にこの世には誰もいらないのに・・・。


 皆が、α-Ⅶのことを『トオル』と呼んだ。皆が『トオル』にとても暖かい声で、とても優しい笑顔で話しかけた。
そして、そんな皆に囲まれて、『トオル』はとても幸せだった。


小さな少女:『お兄ちゃん』
 小さな、可愛らしい少女が話しかける。何故だろう。この少女は、α-Ⅶのことを『兄』と呼ぶ。α-Ⅶには、親も兄弟もいない。ただ、社長だけが、唯一にして絶対の母、家族なのに・・・。
少女:『憐ね、お兄ちゃんと、ずっといっしょにいたいなぁ』
 少女は、とても懐かしい笑顔で、α-Ⅶに微笑みかける。こちらも自然と微笑んでしまうような、そんな愛らしい笑みで。
 『憐』とは、誰だったろう。思い出さなければいけない。とても、大切なことを。絶対に忘れてはならない。とても、大切な・・・・・。



 そのとき、唐突に目覚めの薬が注入され、α-Ⅶは目を覚ました。
もう、自分が今までどんな夢を見ていたのか、思い出すことはできない。
玲佳:「α-Ⅶ。第二没入スペースに、至急いらっしゃい」
 社長の命令が聞こえ、α-Ⅶの心は至福に包まれる。
 社長の命令に従い、社長の役に立つのが、α-Ⅶの唯一にして最高の生甲斐だった。他の生き方など、考えも付かない。何故なら、そうやってα-Ⅶは、ずっと生きてきたはずなのだ。
 ふと、α-Ⅶは、自分を見つめていた視線に気付く。そこには、同僚のα-Ⅵと、そして二人の中年の白衣を着た男女が立っていた。きっと、α-Ⅵは、α-Ⅶと一緒に来るように社長から言われていたのだろう。
α-Ⅶ:「行くぞ、α-Ⅵ」
 すると、何故かα―Ⅵが、名前を呼ばれた辺りで少し顔を悲しそうに歪めた。
α-Ⅶ:「・・・どうした、α―Ⅵ?」
α-Ⅵ:「・・・なんでもありません、α―Ⅶ」
 そう言ってα-Ⅵは、α-Ⅶを先導するかのように、医療質から出て行った。
 すると、その様子を見て、白衣の中年男性が、悲しそうな目をしながら言った。
白衣の男性:「透君・・・済まない。君を不幸にして、その上ただ見ていることしかできない私を、許してくれ・・・」
 この男性は、確か『水坂(みずさか) 信一(しんいち)博士』。栄光ある我らがV・S・Sの、電子兵器開発部の部長だ。α-Ⅶの愛機『フリーダム』も、彼とその妻の夏江(なつえ)博士の開発だと、聞いたことがあった。
α-Ⅶ:「不幸?何を言っているんですか?私は、今とても幸せですよ。我らが愛すべき、橘玲佳社長が、私を必要としてくださっているのですから」
 α-Ⅶがありのままの心境を言うと、水坂博士夫妻は、益々悲しそうな表情になった。α-Ⅶには、彼らが何故そんな顔をするのか、全くわからなかった。
 しかし、理解不可能な人間の相手にこれ以上の時間を費やしている暇は無い。
 α-Ⅶは、今日も玲佳社長の役に立つために、玲佳社長の指示した第二没入スペースへと急ぐのだった。



アシュラン:「ぐう・・あぁぁぁぁ!!!!」
 電子体に直接付けられた仮想電極から、体内に無数の人食い蟲が入ってくるかのような、そんな凄まじい感覚だった。
アシュラン:「がぁぁ、や、やめろぉぉぉ!!!!」
 アシュランは叫んだ。叫ばなければ、気が狂ってしまいそうだった。
 蟲たちは、アシュランの体内に到達し、そして『アシュラン・ザラ』を次々と食い始めた。
アシュラン:「くそぉ、俺は、俺は、食われてたまるかぁ!!!」
 アシュランは、必死に抵抗を試みるが、ベッドに縛り付けられている現状では仮想物理的な抵抗もできないし、精神的に蟲たちに抗おうにも、極限の苦痛、究極の快楽といった形をとった蟲たちは、圧倒的な暴力で、アシュランを蹂躙していく。
アシュラン:「く、くそ・・・俺は、ここまでなのか・・・?」
 アシュランの心に、蟲たちの醜悪な牙が伸びようとした、そのときだった。
バチェラ:「アシュ・・ラン・・・・助けて・・・・・」
 隣で、同じように縛られ、同じように蟲たちの蹂躙を受けているバチェラが、今にも消えそうな声で、アシュランを呼んだ。
アシュラン:「バチェラ・・・・」
 すぐ横で助けを求める小さな少女。可愛らしい友達。頼もしい大切な仲間。
 アシュランは思い出す。自分の戦う意味、自分の信じる『正義』を。
 狂人の理不尽な暴力により、無残に踏みにじられた最愛の人。テロリストとの戦いにより、次々と散っていった同僚たちと大切な戦友。自分の招いたことのとばっちりを食らって死んでしまった旧友。敵としてしま見ていなかった組織の中で出会った、友を撃つまいと己に銃口を向けた友人。
『お前が馬鹿正直なお前である限り、俺もニコルも、お前の味方だ、アシュラン!!』
 彼の信じる軍を抜けたアシュランを、何よりも信じてくれた友たち。
『アシュランはこれからも、アタシたちの同志、仲間だ!』
 組織を抜けると言った時も、何よりも眩しい笑顔でこう言ってくれた、大切な人によく似た、同志の少女。
『俺は、こいつを殺したくはない!!死なせたくはない!!こいつは・・・・、もう俺にはこんなこと、言う資格は無いのかもしれないけれど、それでも、こいつを、俺は今でも、ダチだと、仲間だとそう思ってるんだ!!!』
 大切な親友を殺されたというのに、その悲しみを乗り越え、アシュランのことを仲間と、『友達』だと言ってくれた、大切な親友。
 そして、隣で助けてくれると信じている、小さなか弱い存在。
 彼らを守るためにも、彼らの意思を無駄にしないためにも、こんな所で、あんな奴らに好きなようにされるわけにはいかない!
アシュラン:「俺は・・・負けない!!


『反転(フリップ・フロップ)』


 突然、あの奇妙な電子音声が脳内に響き渡り、それと同時に、身体を蝕んでいた蟲たちが全て、一瞬にして消滅した。
アシュラン:「!!?今のは、一体・・・」
 しかし、今はそんなことを考えている場合ではなかった
バチェラ:「うがぁ・・あああ!!助けて、助けてよ、アシュラン!!!」
 隣では、バチェラが大粒の涙をボロボロ流しながら、今にも壊れてしまいそうな悲鳴を上げていた。
アシュラン:「くそっ!なんとか、自由にならなければ・・・」
 この拘束具をどうにかしないことには、アシュランはバチェラを救い出すことができない。幸い、二人を拘束しているベルト状のものはそれほど硬くはなさそうで、ナイフみたいなものさえあればどうにかなりそうだが・・・・。
アシュラン:「だが、ナイフなんて、そんなもの・・・、ん!!!」
 その時、アシュランは、着っ放しにしていた軍服の上着に放り込んだまま忘れていた、ある物の存在を思い出した。
そうだ。確か、透が拘束されたとき、没収されてアシュランの手に渡った特殊なペンダント。そう言えば、これはネット空間ならばナイフに・・・・。
アシュラン:「よし!!」
 幸い、アシュランたちが拘束されている今の姿勢なら、上着のポケットまで手を伸ばすことは容易かった。
玲佳がこれを見つけなかったことが幸運だが、玲佳はアシュランたちを捕らえると、それ以上アシュランたちに興味は無い様子で、適当に『措置』の装置に放り込んだ後、何か別の作業に完全にかかりっきりになっていた。そして、V・S・S内の人員も、全て今玲佳がしている作業に集中させていた。
何が始まるのかはわからないが、今のアシュランたちには、好都合この上ない。
アシュラン:「あと少し・・・よし!!」
 アシュランは上着からペンダントを取り出し、それを電子アイテムのナイフに変える。おそらく透がハック用の小道具として使っていたのだろうナイフの切れ味はとても鋭く、あっさりと拘束具を切断する。
アシュラン:「バチェラ!!!」
 自由になったアシュランは、すぐさまバチェラに駆け寄ると、バチェラに付いていた電極を、拘束具を全てナイフで切断する。
バチェラ:「あ・・、アシュラン・・・。また助けてもらっちゃったね」
 可哀想に、バチェラは完全に憔悴しきった顔で、それでも何とか弱々しい笑みを浮かべた。
アシュラン:「バチェラ・・・、消耗しているところすまないが、立てるか?脱出するぞ!」
バチェラ:「・・・うん、大丈夫。さあ、今度こそ、透を助けに行こう!!」
 バチェラは、精一杯笑顔を作ると、すぐにシュミクラム体に移行した。拘束されるときに使われた特殊な網は、洗脳措置を受けるときに外されている。
 アシュランも、続いてシュミクラム体に移行する。
アシュラン:「それにしても、やつら相当別の用事が忙しいらしい。まさかシュミクラムまで取られてないなんてな」
バチェラ:「現在使用中のシュミクラムまでアンインストールする時間は無かったんだね。あれ、結構手間かかるし。まあ、キュベレイは盗られたみたいだけどね。それに、洗脳した後はボクらを兵士として使うつもりだったんだろうから、シュミクラムを盗らないのは当たり前だし、・・・もし盗ったとしても、ジャスティスやプロヴィデンスはボクら以外には使えないよ」
アシュラン:「え?この機体が俺たち以外に使えないって、それはどういうことだ?」
バチェラ:「あれ?この機体、インストールする時に気が付かなかった??ボクの機体もキミの機体も、それぞれボクら以外が使えないように、特殊なロックがかけてあるんだよ。ボクはこの機体、ちょっと前にV・S・Sから盗んできたんだけど、それにしても、このこと知った時には驚いたな」
アシュラン:「それは・・・初耳だな」
 だとすれば、色々と不可思議なことが出てくる。
アシュラン:「確かに、おかしな話だな・・・。だが、今はそれを考えることより、透たちを助けることの方が先決だ!」
バチェラ:「うん、そうだね。ベオウフルによると、奴ら、何か一箇所に集まってるらしい。透も月菜もそこにいるみたいだ」
アシュラン:「そうか・・・」
 その時、通信画面内のバチェラが、不意に神妙な顔になった。
バチェラ:「でもさ・・・今こんな事を聞くべきじゃないのかもしれないけれど・・・」
アシュラン:「何だ?」
バチェラ:「・・キミは何で、そこまでして透を助けようとするんだい?」
アシュラン:「へ?」
バチェラ:「だってそうだろ!ボクにとって透は大切な仲間だけど・・・キミにとっては、透は、仲のいい友達を殺した仇じゃないか?」
アシュラン:「・・・」
 確かにそうだ。透は、ミゲルを殺した。それも、世間的には透の逆恨みともいえるような動機で。ならば確かに、アシュランには透を助ける理由は、存在しないのかもしれない。
 しかし、アシュランはすぐに、ハッキリと答えた。
アシュラン:「それは、俺があいつを好きだからだよ。あいつと居る時、俺は“素の自分”に戻れる気がするんだ。だから、ミゲルには悪いけれど・・・俺は、あいつの事を恨んではいない。それに、もう『仇討ち』とかそういうのは、ホント御免だしな。・・・ところでバチェラ、なんでそんな事を聞くんだ?」
バチェラ:「あ、いや、ボクもその言葉が聞きたかっただけだよ。ごめんね、変なこと聞いて」
アシュラン:「いや、いいさ。それより、バチェラ、急ぐぞ!!」
バチェラ:「うん!!」
 二人が歩き出した、その時だった。突然、構造体内に警報が鳴り響いた。
※:「只今、構造体内と現実のわが社のアーコロジーに、同時に侵入者発生。侵入者は、飛刀と思われます。繰り返します・・・」
バチェラ:「飛刀が侵入だって!!?」
アシュラン:「俺の通信が届いたのか・・・?とにかく、急ごう!!」



 α-Ⅶは、大きく開かれた異様に頑丈な扉が何重にも並んでいる通路に、シュミクラム体で待機していた。
 周囲には、何機ものアストレイ、α-Ⅵのゼータ、そして先程捕らえた侵入者から奪ったキュベレイと、V・S・Sが以前からこれとは別に創っていた、暗い青色のカラーリングの“キュベレイMk―Ⅱ”が周囲を囲んで、玲佳の命令を今か今かと待っていた。二機のキュベレイは、シグーに代わってα-Ⅳとα-Ⅴに与えられた新たな機体であるらしかったが、それはα-Ⅶには全く興味の無い事柄だった。
玲佳:「さあて、準備も整ったようね。それでは、『セラフィム捕獲作戦』、始めましょうか!」
 待ち望んだ玲佳からの通信が入る。
 それにしても、『捕獲作戦』というからには、これから何らかの対象を捕獲し、あの扉たちの中に閉じ込めるのだろうが、しかし、扉は一枚が何十仮想mもの厚さをほこっており、さらにそれが十以上も、異様に長い通路に一列になって続いていた。こんな物々しい場所に閉じ込めておくものとは、捕獲対象は一体何なのだろう。
 そこまで考えて、α-Ⅶは思考を打ち切った。自分が考えても仕方が無い。無駄なことだ。全ては、全知全能の玲佳社長に任せるのが一番なのだ。
 そして、玲佳は唐突に、構造体全体に呼びかけるように声を張り上げて言った。
玲佳:「さあ、憐ちゃん!決断はできたでしょう。出てきなさい!」
 しかし、誰も姿を見せない。
玲佳:「ふふふ、いいわ。α-Ⅵ。α-Ⅶに銃を向けなさい!」
 すると、α-Ⅵが命令通り、α-Ⅶのコックピットに銃口を向けた。α-Ⅶは、一瞬、これで死ぬかもしれないな、と思ったが、全く恐怖を感じなかった。社長のために死ぬのなら、それはどんな形であれ、本望だったからだ。
 その時だった。
憐:「やめて!!お兄ちゃんを撃たないで!!!」
 突然、少女の電子体が姿を現した。
玲佳:「ふふ。ようやく姿を見せたわね、憐ちゃん」
 回線から聞こえる社長の声に、少女は心底怯えているようだった。
憐:「お兄ちゃんに・・・なにをしたの?」
玲佳:「大したことはしてないわ。ただ、あなたに『協力』してもらうために、ちょっと言うことをきいてもらっただけよ。あなたが協力すれば、元に戻して、そしてまたあなたと一緒に暮させてあげるわ」
憐:「・・・ほんとう?」
 少女の顔からは、警戒が消えない。
玲佳:「本当よ」
憐:「・・・『あの子』で、人をころさないで」
玲佳:「それはあなたの態度次第よ。素直に言うことを聞いてくれるなら、あなたの悪いようにはしないわ」
 そして、既にどうしようも無いことを悟ったのか、少女は覚悟を決めたようだった。
憐:「・・・わかりました。憐は、あなたたちにきょうりょくします・・・・」
 その一言を聞き、フェイスウィンドウ内の玲佳の顔が、邪悪な微笑みに歪んだ。
玲佳:「そう、いい子ね。α-Ⅵ、この子を捕らえなさい!」
 玲佳の命令と同時に、α-Ⅵが、先程侵入者たちを捕らえたのと同じ特殊な網で、少女の動きを封じる。
憐:「!?」
玲佳:「ふふ、逃げようとしても無駄よ。この網は、あなたと完全に同化している。いくら厳粛なネットロジックさえ捻じ曲げるあなたの『力』でも、こればかりはどうしようもない」
 少女はしばらくもがいていたが、自分の力ではどうしようもないことを悟ると、項垂れて、そのままおとなしくなった。
 そして、α-Ⅵは機体で少女を抱えると、二機のアストレイを伴って、扉の列の向こうに消えていった。
 α-Ⅶは、α-Ⅵに連れられて行く少女が、何故か自分を悲しそうな表情で見ていることに気が付いた。
憐:「・・・・・」
α-Ⅶ:「くっ!?」
 少女の瞳と目が合った瞬間、α-Ⅶは何故か胸に鋭い痛みを覚えた。しかし、少女の姿が扉の奥に見えなくなると、次の瞬間には、α-Ⅶの痛みはすぐに収まった。
玲佳:「ふふふ、はははあーはっはっは!!!遂に、遂に!! ようやく望んだものが手に入ったわ!!さあ、扉のロックを閉めなさい!」
 その時、突如警告音声(アラート)がけたたましく構造体全域に鳴り響き、同時に爆音と銃声が、そこかしこから鳴り響く。
 ビー ビー
 タタタタタ!!ドォーン!!!

※:「只今、構造体内と現実のわが社のアーコロジーに、同時に侵入者発生!侵入者は、飛刀と思われます。繰り返します・・・」
玲佳:「クーウォン!!?おのれぇ、この時になって!!!!」
 玲佳の顔が歓喜から一転、この上ない憎悪と怒りに歪む。
玲佳:「各自、侵入者を迎撃なさい!!α-Ⅶは扉の向こうに・・・・」
 玲佳が何か言おうとした、その時。突然、通信回線がジャックされ、見覚えのある人物が、回線の向こうで声高らかに叫んだ。
クーウォン:「聞け、相馬透君!君は洗脳されることは無いのだ!!」
玲佳:「くそっ、クーウォンめ!!AI、通信回線を切りなさい!!」
AI:「試みてはいますが、侵入者の回線切断まで、あと最低でも20分を要します」
 回線の向こうの人物は、聞き覚えのある声で、さらに続ける。
クーウォン:「透君、人の『自我』の強さを信じるのだ!!人というものは、洗脳になど負けはしない!!誰にも、君を狂わせることはできないのだ!!」
α-Ⅶ:「うっ!?」
 突然、α-Ⅶを激しい頭痛が襲う。
それは、まるで内側から、何かが頭蓋を破って溢れ出てくるような、そんな感覚だった。そして、それはいくらか、外に漏れる。


『うぅ・・・ひっく・・・』
 幼い頃のα-Ⅶは、どこかで泣いていた。
『リー先生・・・思い出せないんだ。何か、大切なことのはずなのに、全然思い出せないんだ!』
 恐怖に打ち震えるα-Ⅶの頭を、大きく暖かい手が、そっと撫でる。
『いいか、透君。この先、何度も君を、そんな状態が襲うかもしれない。だが、覚えておくといい。君が自分を信じる限り、忘れたくない大切なものを持ち続ける限り、君を操ることも、狂わすことも、誰にもできないのだということを』
『う・・むつかしすぎて、わかんないよぉ・・・・』
『まあ、そうだろうな。だが、いつか、わかるときがくるかもしれない。そんな時が来ないことを、私は祈っているがね・・・・』
 そして、リー先生はもう一度、優しい手つきでトオルの頭を撫でた。それは、記憶の底でかすかに覚えている、父親にとてもよく似た感触だった・・・。


α-Ⅶ:「くぅ・・あたま、が・・・・・」
玲佳:「α-Ⅶ!!そんな男の戯言に耳を傾けるのは止めなさい!!!」
クーウォン:「誰にも操られないと、戻ってこれると、そう信じるのだ!!容易いはずだ!!君には守りたいものが、大切なものが、沢山あるのだから!!!」
α-Ⅶ:「まもりたいもの・・!!?あたまが、あたまがぁ!!!!」
玲佳:「α-Ⅶ!!!」
クーウォン:「思い出せ、透君!!いや、『相馬 透』!!!
α-Ⅶ:「そうま・・・とおる・・・?う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!
 
 α―Ⅶの中を、記憶に無いはずの思い出たちが駆け巡った。


 いつも穏やかな笑顔で微笑んでいた青年。全てを包み込むような笑顔が、トオルは大好きだった。
「気にすんなよ。楽にいこうぜ、相棒」
 たまにトオルが怒らせるようなことをやっても、そうやって全てを笑って許してくれた、最高の親友。
 彼の名は、野々村 優哉
 
 優哉とトオルが結成した、自慢のハッカーチーム。
あのメンバーで過ごした時の全てが、本当に楽しかった。
 いつも、あの草原のチャットルームで、トオルと、優哉と、いつも軽薄ぶってるけど本当は誰よりも誠実で仲間思いな二階堂 あきらと、そしていつも傍にいてくれたあいつと。五人で集まって騒いだあの時間は、今までの人生の中で最高の思い出だ。
 そのチームの名は、『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』。


 いつも傍にいてくれた、幼馴染の彼女。少々お節介焼きで、だからたまに鬱陶しくもなったりするが、でも次の瞬間、その存在にとても救われた。
 トオルのことが誰よりも好きだと、言ってくれた彼女。トオルも、彼女無しでは生きられなかった。
 ずっと一緒に生きていくことを誓った、最愛の人。
彼女の名は、笹桐 月菜


 優哉を喪った失意の中、街で偶然出会った、碧色の瞳をした青年。
 彼は、優哉の仇だった。でも、彼は誰よりも優しく、そして少し寂しそうに微笑んでいた。
 そんな彼の笑顔を、優哉と重ねた。そして、彼はとてもいい奴で、彼といる時間がとても居心地がよくて、これからの時間を彼と共に重ねていきたいと、心から思った。
 そんな青年の名は、アシュラン・ザラ


α-Ⅶ:「うぐ・・・俺は、俺は一体・・・・・」
 その時、二機のシュミクラムが、アストレイたちをかき分けながら殺到してきた。銀色のシュミクラムと、赤いシュミクラム。
そして、赤いシュミクラムのパイロットが、叫んだ!
アシュラン:「透!!!!」
α-Ⅶ:「そうだ・・俺は、俺は!!!!


 そして、トオルの記憶の中に、一人の少女が甦る。
 両親に言われて、初めて赤ん坊だった彼女を抱きしめた時から、絶対に守り抜こうと誓った存在。
 この世の全ての残酷さ、醜さ、恐ろしさから、この身に代えても守り抜かねばと、幼心に固く誓った。
 この世で最も大切な存在。草原のベッドに眠る、愛しい眠り姫。そんな彼女の名は・・・・。


透:「憐!!!!!」
 その瞬間、『α-Ⅶ』という人格は消え、彼は『相馬 透』に戻っていた!!


『反転(フリップ・フロップ)』


 アシュランは見た。
透が叫んだ瞬間、フリーダムの背中の翼が展開するのを。
フリーダムは、左右六枚、十二枚羽の姿となり、その翼を堂々と広げた!その姿は、さながら天から舞い降りた大天使(アークエンジェル)のように神々しく、そしてこの上なく力強かった!
アシュラン:「透!!!」
 回線から、心底動揺した玲佳の声が響く。
玲佳:「フリーダムがブラックボックスを解放したの!?まさか、『反転(フリップ・フロップ)』!!!?私の洗脳を破ったとでもいうの!!!!?」
 そして、玲佳は命じた。
玲佳:「ええい!!α-Ⅳ、α-Ⅴ、相馬透を仕留めなさい!!!」
 同時に、二機のキュベレイが全てのファンネルをフリーダムに向けて放出、更にありったけの火器で透を狙う。
 しかし、四方八方から放たれるビームを、ミサイルを、透は信じられないような反射神経と、シュミクラムの限界を超えているとしか思えない機動力で易々とかわす。
そして、透はフリーダムの収縮プラズマ砲とレールガンを全て展開、ビームライフルも加えた計五門の火砲をそれぞれ別の方向に向けると、五門全ての砲を一斉に放った!!そして、全ての火線は、驚くべき精密さで、ランダムに飛び回るファンネルたちを正確に捉え、貫いていった。その様は、複数の標的を同時にロックオンしているとしか思えなかった!!
アシュラン:「マルチ・ロックオンシステム!!!?まさか、あれを搭載した機体と、使いこなせるパイロットが存在したなんて・・・」
 そして、計二十基のファンネルは、瞬く間に全てが撃ち落された。
α-Ⅳ・Ⅴ:「くっ!!?」
 全てのファンネルを失ったと悟った二機のキュベレイは、新たに装備された二本のビームサーベルを引き抜くと、二方向から猛スピードで透に襲い掛かってきた。
 しかし、透も両手で素早くビームサーベルを引き抜くと、自ら突進、十二枚の翼型スラスターを全力で吹かし、まるで光のような速さでキュベレイ達に接近、一瞬のうちに二機の両腕を斬り裂いた。
 そして、透はアシュランたちに向き直り、叫んだ。
透:「アシュラン!!バチェラ!!憐を追うぞ!!!」
アシュラン:「ああ!!!」
バチェラ:「オーケー!!!」
 そこに、複数のアストレイが殺到する。
透:「この!!邪魔だ!!!」
 透は再び五門の火砲を全門開放、マルチ・ロックオンで複数のアストレイ達を、武装を瞬時に破壊し、退ける。
アシュラン:「このぉ!!」
 アシュランもビームブーメランを投擲し、近づくアストレイ達の腕を切り裂く。
バチェラ:「いけいけいけいけ、いっけぇぇぇ!!!」
 バチェラもドラグーンの一斉射撃で、複数のアストレイを撃退する。
 三機はそのまま、憐が連れ去られた扉の向こうに、全速力で突入した。
 今更な玲佳の指令か、扉は次々に閉まり、その上アストレイ部隊が執拗に透たちの行く手を阻むが、そんなもの、彼ら三人の前には全く障害にはならなかった。透たちは、目の前の扉が閉まるよりも早く、ネット界最強の部隊をまるで蟻の軍隊に対するように蹴散らしながら、奥へ奥へと進んでいった。
 その時、突如、ビームが透に向かって数条、放たれた。
透:「!!?」
同時に、ウェブライダー形態の機体が、ビームを放ちながら透に向かって突進する。
玲佳:「α-Ⅵ!?どうして!!?あなたには憐の移送を命じたのに!!?」
 しかし、月菜は玲佳の言葉に反応する様子も無く、透に向かって執拗な攻撃を加える。月菜の周囲に、憐がいる様子は無い。
透:「月菜、どけ!!俺は憐を助けるんだ!!!」
 だが、月菜の透への攻撃は、やむ気配が無い。
透:「く・・・!!」
 目の前の扉は、程無くして閉まるだろう。
 透は回線を開き、覚悟を決めた表情で言った。
透:「アシュラン、バチェラ、済まないが、お前たちは憐を追ってくれ!俺はここで、月菜と戦う!!」
バチェラ:「なんだって!?」
 バチェラは信じられないという声をあげたが、アシュランにはわかるような気がした。透は、絶対であるはずの玲佳の命令に逆らってまで透に何かを訴えようとしている月菜を、放っておくことができないのだ。
 おそらく、今の透にとって月菜は、あの憐とかいう、おそらくは透の妹である少女と同じ位、大切な存在となっているのだろう。どちらか一方を選ぶことなど、できないに違いない。
アシュラン:「わかった!!必ず、あの憐という子は取り戻す!!」
透:「ありがとう、アシュラン!!」
 透が、一瞬顔をほころばせた。それは即ち、アシュランの選択が間違っていないという証拠だ。
アシュラン:「行くぞ、バチェラ!!」
バチェラ:「う・・うん!!」
 アシュランとバチェラは、透と月菜を残し、扉の更に奥へと突入して行った。
 そして、アシュランとバチェラが扉を抜けると同時に、その扉は重厚な音を立てて閉ざされた。


透:「くそっ、月菜!!」
 透は、高速移動する月菜のビームをかわしながら、必死に月菜に呼びかける。しかし月菜は、まるで応じる素振りを見せない。
月菜:「標的確認。排除します」
 更に、横からアストレイが複数、透に向かって殺到する。
透:「畜生、どけぇぇ!!!」
 透は、覚醒すると同時に呼吸をするのと同じ位当然のように使いこなせるようになっていたマルチ・ロックオンシステムで、複数のアストレイを同時にロック、一斉射撃で全てのアストレイの武装を破壊し、戦闘能力を瞬時に奪う。
 しかし、その時月菜は既に、透の死角に回っていた。
月菜:「・・・ロック、完了」
 月菜はハイメガランチャーを、ビームの射出時間が長いという特徴を利用し、ビームサーベルのように振り上げると、透目掛けて一直線に振り下ろした。しかし、ビーム刃が透に届く寸前、透はそれを紙一重でかわすと、ビームサーベルを引き抜いて月菜に突進、一瞬のうちにハイメガランチャーを斬り裂いた。
透:「月菜、俺たちが戦う理由なんて無いだろ!!お前は俺と、ずっと一緒に生きていくんだろ!!!」
月菜:「う・・・・」
 月菜の表情が一瞬歪むが、次の瞬間にはすぐにまたもとの能面に戻る。
透:「くそ!あともう少しだと思うんだけどな!!」
 実際、月菜の洗脳は解けかかっているはずだ。月菜は、絶対服従の橘玲佳の命令を無視し、透に戦いを挑んできているのだ。それは即ち、今は意識の奥底に封じ込められている『笹桐月菜』としての心の叫びのはずだった。
そして透には、それを受け止めてやらねばならない義務があるのだ。笹桐月菜を愛した男として、笹桐月菜と共に生きると決めた者としての。
 月菜は、再び機体をウェブライダーへと変形させ、ウェブライダーに搭載したビームライフルからビームを放ちながら、超高速で透に突撃した。
 しかし、翼を展開し更なる機動力を得た今のフリーダムには、それ以上の機動力があった。透は月菜の突進をかわし、振り向きざまにビームライフルからビームを発射、月菜のビームライフルと、動力機関部を的確に打ち抜いた。ウェブライダーの動きが、途端にフラフラと無軌道になる。
透:「さあ、もう戦えないだろ、月菜!!お願いだ、正気に戻ってくれ!!!」
月菜:「うぅ、く、あ、あぁぁぁ!!!!!
 月菜は全力で機体を立て直すと、そのまま、必死の咆哮と共に、透目掛けて何と捨て身の体当たりを敢行した!!
確かに、ほとんどの武装を失った今、月菜ができる攻撃といえばそれくらいしかないが、それでも、ここまでして、何故?
透:「月菜!!?・・・そうか、月菜・・・・・」
 透はその時、理解した。
そもそも、月菜がV・S・Sの異常な特訓を受け入れたのは、『透に追いつくため』ではなかったのか。透に置いていかれることを恐れた彼女は、透に追いつき、透と肩を並べて戦うことで、透と共に生きる権利を得ようとしたのではないか。
 月菜は、あれほどの激しい洗脳の中でも、常に透と共に生きようと、必死になっていたのだ。透に『戦いを挑んできた』のも、朦朧とした意識の中で、それでも透と共にいたいと、『透と対等の存在でありたい』という、彼女の必死の叫びだったのだ。
透:「俺は、ただ月菜と一緒にいられれば満足なのに・・。でも、そうだな、月菜。俺は、自分の気持ちにも、お前の気持ちにも気付かず、ずっとお前を苦しめてきたんだよな・・・。だったら・・・・」
 月菜をあそこまで無謀な特訓に駆り立てたのは、他でもない、透自身なのだ。
あの日のキスが、誓いが真実だとしても、それまで何年も、ずっと月菜を置き去りにしようとしたのは透なのだ。彼女は、さぞ不安だったに違いない。自分が強くならなければ、もしかしたら、透はいつか、やっぱり自分を置き去りにして遠くへ行ってしまうのかもしれない、と。
 ウェブライダーが、月菜が物凄いスピードで透に突進してくる。かわすタイミングは、今しか無い。
 しかし、透は覚悟を決めた。
透:「俺は、お前と共に生きるって決めたんだ。だから、お前の全てを、受け止める!!
月菜:「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 次の瞬間、月菜のウェブライダーが、透に激突した。
透:「ぐぅ、く、くぅ・・・・」
 透はバーニアスラスターを吹かして懸命に堪えるが、月菜の圧力は、想いの強さは、フリーダムの胸部の装甲を、激しく砕いてゆく。破損率限界突破の警告音が、すぐに視界を埋め尽くしていった。
しかし、透は逃げない。当たり前だ。月菜のためにも、ここで逃げるわけにはいかない!月菜のために死ぬことは、全く怖くない!!
透:「月菜・・月菜・・・月菜ぁぁ!!
 透は叫んだ!月菜へのありったけの想いを込めて。
 その瞬間、月菜の様子が、明らかに変わった!!
月菜:「!!?と、透!!?とおる、逃げてぇぇ!!!


『反転(フリップ・フロップ)』


 月菜が思わず叫んだ瞬間、月菜の脳内に奇妙な電子音声が響き渡り、一瞬にして月菜を『笹桐 月菜』へと引き戻す。
 眼前には、装甲を激しく破損させたフリーダムの、透のコックピットがあった。
月菜:「透!!?う、あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
 月菜は無我夢中で、急ブレーキをかけながら機体を無理やり人型に変形させる。そのせいで、機体にメチャクチャな仮想Gと圧倒的な衝撃がかかった。
月菜:「ぐっ!!!」
 その圧倒的な仮想Gの衝撃で、月菜は気を失った。
 そして二人の機体は、折り重なって、まるで抱き合うような体勢で地面に激突した。


 一方。
 アシュランとバチェラは、アストレイ部隊を退け、遂に憐を移送しているアストレイ三機をその眼前に捉えていた。
バチェラ:「アシュラン、あれ!!」
アシュラン:「わかっている!!行くぞ!!」
 三機のうち、中心のアストレイが持っている光る物体こそが、発光する特殊な網で捕らえられた憐に違いなかった。
 アシュランは、スラスターの出力を更に上げ、憐を持った機体に追いすがる。眼前には、最後の扉、しかも、既に閉じ始めている。もう一刻の猶予も無い。
憐:「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
 その時、ジャスティスのバーニアのうち一基を、一機のアストレイがビームで貫いた。瞬間、アシュランの機体が僅かにバランスを崩す。
アシュラン:「しまった!!」
 その機体はバチェラによって瞬く間に戦闘不能にされるが、バチェラのプロヴィデンスはジャスティス程の機動力は無く、今憐に追いつけるのはアシュランしかいない!
アシュラン:「く、くそぉ!!」
 アシュランはビームを放ち、憐を捕らえていたアストレイの腕を切り離した。しかし、慣性の勢いそのままに、本体から切り離された腕は、扉の向こうに投げ出される。
憐:「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!!!!」
アシュラン:「くそぉ、間に合えぇぇ!!!」
 アシュランは必死に手を伸ばすが、その手が届く寸前で、無情にも扉は閉まり・・・。
憐:「・・・いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
 その寸前、憐が叫んだ瞬間、構造体が揺れた!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ
アシュラン:「な、何だ、これは・・・?」
 その時、蒼白な顔をしたバチェラが叫んだ。
バチェラ:「アシュラン、逃げてぇぇぇぇ!!!」
 次の瞬間、何と周囲の風景が明らかに歪み、同時に謎の発光体、巨大な発行球体が、突然虚空に出現した!!
アシュラン:「何なんだ、何なんだ、あれはぁ!!!?」
 アシュランを、瞬時に本能的な恐怖が襲う。
 その時、発光球体が、獣のような咆哮を上げた。

球体:「グオォォォォォォォォォォォォン!!!!」

 同時に、球体から無数の羽のようなものが舞い上げられ、それらが光弾となって凄まじいスピードで辺りに飛来する!次の瞬間、激しい爆音と共に、周囲のアストレイたちが木っ端微塵になって吹き飛び、滅多なことでは傷付かないはずの構造体の床に無数の穴が穿たれる!!
アシュラン:「畜生!!何だって言うんだ!!?」
 アシュランはリフターからフォルティスビーム砲を、そして続けざまにビームライフルのサブグリップを倒してチャージショットを発光球体に浴びせた。更に、生き残ったアストレイたちも、各々の手にした火器を発光球体に向かって一斉に放った。しかし!
 バシュッッ!!
 発光球体の周囲に突如光る壁みたいなものが出現、全ての攻撃はその壁に当たると、まるで始から何も無かったかのように、アッサリと掻き消えてしまった!
アシュラン:「バリアだって!!?奴は一体・・・」
バチェラ:「話は後だ!撤収だ、アシュラン!!!」
アシュラン:「それしか、ないみたいだな!!!」
 しかし、撤収しようにも、後方は巨大な扉に阻まれている。
 そして前方からは、底知れぬ力を持った謎の発光球体が迫る!!
アシュラン:「くそ!!どうすれば・・・・。」
 その時だった。アシュランの回線に、連絡が入る。
リャン:「アシュラン、無事かい!!?今からそこの扉を開けるよ!!!」
アシュラン:「リャン!!!」
 同時に、背後の扉が次々と開く。
アシュラン:「この状況じゃ、扉は開いても憐を助けることは無理だな・・・。仕方ない、行くぞ!!」
バチェラ:「・・・うん!!」
 二人は、全速力で発光球体から撤退した。
リャン:「あと三秒で離脱妨害エリアが解除できる!三、二、一、よし、アシュラン、離脱だ!!」
アシュラン:「ダメだ!!透たちを置いて離脱できない!!!」
リャン:「わかった!早くしろ、謎の物体、物凄いスピードで接近中、アシュ・・・ラン・・気を・・付け・・・・あれ・・?」
 リャンの声が、奇妙に波打ち始めた。
アシュラン:「な、なんなんだ、一体!!?」
バチェラ:「ヤツのせいで、付近のデータの負荷が増大しているんだ!!AIが悲鳴をあげてるんだよ!!」
 バチェラの言葉を説明するように、付近の風景が再び奇妙に歪み始め、あの発光球体がどんどん近づいてくる。
 そして、アシュランの眼前に、AIの『情報処理能力限界突破』のアイコンが示される。AIの情報処理速度が飛躍的に発達した現在では、見ることなど無くなって久しいアイコンだ。
アシュラン:「『処理落ち』だなんて、そんな、一体いつの時代の話なんだ!!?それとも、ヤツの情報量は、何千テラバイトもあるって言うのか!!?」
バチェラ:「その通りさ!!ヤツは正しく、ネット界の特異点、情報のブラックホールなんだ!!!」
 そんなものに巻き込まれたら、たまったものではない。増大した処理落ちによる現実との時差によって、シルバーコードを切断されてしまう!!
アシュラン:「まてよ・・この話、どこかで・・・・?」
バチェラ:「アシュラン、透と月菜だ!!」
 バチェラの叫びを聞き、アシュランは意識を目の前のことに集中させた。
 透と月菜は、折り重なるようにして倒れていた。
アシュラン:「透、済まない!憐の救出は失敗した!!」
透:「みたいだな・・。まあ、仕方ない。それより、アシュラン、お前は月菜を連れてここから逃げろ!俺のシュミクラムは、動力回路がイカれたみたいで立ち上がれない!!それに、俺はこれについて少し知ってる。これはマジでヤバイ!!!」
アシュラン:「それは見ればわかる!!透、ログアウトしろ!!もう離脱妨害エリアは解除されてる!!!」
透:「それもわかっているが、月菜が気絶している!!洗脳からは立ち直ったみたいだが、激しいGをもろに受けて、意識が戻らないんだ!!」
アシュラン:「くそぉ!!」
 発光球体は、既に視認できる距離まで近づいていた。
 その時、バチェラが月菜に歩み寄った。
バチェラ:「大丈夫!すぐに月菜のデータを解析して、リャンさんに送るよ。・・・・よし、解析完了!!リャンさん、お願い!!」
リャン:「は、早いな!・・・よし、オッケー!確かに受け取ったよ。これなら、こっちからその子を強制離脱できる」
バチェラ:「だとさ。さあ、早く脱出するんだ!!」
透:「わかった!!!」
 発光球体は、既に目の前に来ていた。

球体:「グオォォォォォン!!!」

透:「憐・・・・」
 発光球体が、再び無数の羽を舞い上げる。
 それが光弾となって襲い掛かる前に、四人は、構造体内から離脱した。


『離脱(ログアウト)』



 数分後。
 下町のステッペン・ウルフのアジトで、迎えに来たリャンたちと落ち合っていたアシュランたちに、クーウォンから連絡が入った。
 それによると、飛刀の実働部隊はV・S・S本部を制圧、相馬透、笹桐月菜の両名の実体を確保した、とのことだった。
 両名には外傷は全く無く、洗脳の後遺症も一切見られないということで、飛刀のアジトに連れて行って治療はするものの、本来ならその必要も無いほど元気だということだ。
 しかし、飛刀の部隊が踏み入ったとき、V・S・S本社は、社長の橘玲佳からシュミクラムパイロット、その他の人員まで、何故か透と月菜以外の全ての人間が脱出した後の、完全なもぬけの空状態だったらしい。そして、洗脳政策に必要な機材もデータも全てが持ち去られており、玲佳の非常事態に対する周到な準備が伺えた。
 玲佳が何故透と月菜を残して行ったかについては完全に不明。そして、橘玲佳や他のV・S・Sの者たちのその後の消息についても、一切が不明であった・・・・。


 


 


第二十五章『Face of Fact』完

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